【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
【作者より】
セックスシーンから始まりますが、一応は状況整理回のつもりです。
*
624 男爵邸にて
「ほら、遠慮せずに、もっとぴったりとくっつきなよ、イライジャ」
全裸の一郎は、寝台の上に胡座に座ったまま、やはり全裸のイライジャの官能味のある双臀に片手をかけ、もう一方の手でイライジャの背中の中程で軽く縛り合わせている手首を掴んで、ぐいと自分に向かって引き込むように寄せた。
一郎の怒張は、イライジャの股間に深々と挿入したままである。
イライジャは、一郎の腰を大きく跨ぐかたちで、対面座位の体位で一郎を受けていたが、身体を動かされたことで、膣の中を一郎の性器で大きく揺すられる感じになった。
「くあっ、あんっ」
イライジャが両手を緊縛された裸体を大きく弓なりにして喘ぐ。
一郎は、顔をイライジャの片側の乳房に移動させて、彼女の乳首を口に含んで舌で跳ねた。
同時に、腰を上下に動かしてイライジャの腰を一郎の腰の上で激しく上下させる。
しかし、無造作に動かしているようでも、舌先は確実にイライジャの乳首の性感帯を最大限に感じるように刺激しているし、イライジャの膣に埋まっている男根の先は、一郎だけに感じる赤いもやを押し揉むように圧迫している。
イライジャのステータスの中の「快感度」が一気に数字を削った。
「ああ、いいいいっ、いいわああ、ロウ──」
イライジャが悦の声を遠慮なく張りあげた。
そして、激しく身体を痙攣させて、背骨が折れるのかと思うほどに全身をのけ反らせる。
その動きのために、口に含んでいた乳房が離れてしまった。
「いつでもいっていいよ、イライジャ」
一郎は腰を揺すりながら言った。
すでに、イライジャはこの体勢のまま二度達している。
イライジャの狂態からすれば、ステータスを観察するまでもなく、三度目の絶頂に向かって、あっという間に駆けのぼるのは明白だ。
ハロンドール王国の南西部の一角であるモーリア男爵領にある屋敷の敷地内の別宅である。
ナタルの森を出て半日かからずに、このモーリア家の屋敷に到達した一郎たちは、モーリア男爵の配慮で、この別宅を丸々一棟占拠することになった。
最初は、モーリア男爵は、本宅を一郎たちに解放し、自分たちが別宅に移動することを考えていたようだが、それは事前に一郎が断った。
召使いなども不要であり、ただ寝泊まりのできる家屋だけで提供してもらえればよく、特別な接待も必要でなく、むしろ困ると言いきったのだ。
対外的には、エルフ女王のガドニエルは、いまでもエルフ族の王宮である水晶宮にいることになっている。いまは、完全なお忍びであるので、一切の世話は不要だし、もてなしのようなものも困るし、断固として辞退すると固辞した。
また、食事の支度、部屋の掃除、入浴などの準備など、なにからなにまで自分たちですると説明した。むしろ、女王の安全を確保するためなので、了解して欲しいと納得させた。
もっとも、それは言い訳であり、一郎はこんな風に、のべつ幕なしに女たちを抱くことを必要とする。
それが一郎が淫魔師として、淫魔術を駆使する代償であり、他人がいては、それが難しくなるのだ。
男爵も、一郎が断固として拒絶し、ガドニエルも同様のことを言い添えたので、最終的には、この二階建ての別宅を一郎たち用として引き渡すということになった。
いずれにしても、モーリア男爵の屋敷は大きい。
祖先が傭兵あがりということで、爵位は低いままのようだが、武力でも財力でも、王国内の並の伯爵家よりも格段に上であり、領地の広さと豊かさ、屋敷の大きさも、常識的な男爵のような下級貴族のそれではないらしい。
一郎も、事前にそう知らされていたが、この男爵邸に到着して、改めてそれを認識した。
すでに、この男爵邸の敷地内に着いて数ノスが経っており、ほかの女たちは、ここに宿営をする準備を分担して行っていると思う。
ただ、清掃は行き届いていたし、必要な物はほとんど揃っていた。
準備するといっても、部屋割りをして、最小限の荷を運び入れるだけだ。
部屋割りは、一階部分は、警備を兼ねて、ブルイネン以下の親衛隊が分宿し、二階部分を一郎たちが使うこととした。
そして、ここは、一郎がもらい受けることにした部屋で、大勢が集まって話し合いなどができるような大きな執務室のような場所の一部であり、この部屋そのものは、大部屋に連接している仮眠室のような場所だ。
当初、女たちに別宅の準備を任せる一方で、一郎はこのイライジャとともに、男爵邸の本宅で、モーリア男爵がこれまでに集めた王国情勢についての情報提供を受けた。
……とはいっても、ずっとジャスランに操られてナタル森林の外縁部にいた男爵も、そんなには情報は握ってない。
一郎が求めたので、家人を先に帰して、可能な限りの王国情勢の情報を集めてくれたのだ。
しかし、せいぜい一日か二日のことであるので、集めた内容にも限りがある。隠されている内容などなく、世間で知られている噂程度を集めた程度に過ぎないそうだ。
ただ、それても、ほとんど情報のなかった一郎にとっては、かなり有益な情報ではあった。
その情報提供を本宅で受けたのが、一郎とここにいるイライジャだ。
一郎は、そのあと、別宅に戻ってきて、そのままイライジャをここに連れ込んだ。
そして、洗面台と着替えの場所と一個の寝台があるだけのここで、一郎は、イライジャだけをまずは抱き始めた。
まあ、抱くのが目的ではなく、この男爵から受けた情報について話し合いをするためにひとりだけ呼んだのだが、とりあえず抱いてしまったのは、まあ、一郎の癖のようなものだ。
しかし、イライジャも嫌がらなかったし、服も自分で脱いだ。
一郎が亜空間から縄を出すと、苦笑するような表情ながらも、やはり、自分で両手を背中に組んで一郎を背を向けた。
そして、愛を交わしているということだ。
「あああ、も、もう勘弁してよおお。許してえええ」
一度目の絶頂でも、二度目の絶頂でも、一郎は攻撃をとめずに、イライジャを責め続けた。
そして、三度目の絶頂に向かっているイライジャは、黒い肌を汗みどろにして、ついに悲鳴をあげた。
「わかったよ。今度は合わせる。そろそろ、ほかの女たちも、部屋の外に集まっているだろうしね」
一郎は腰の動きを激しくしながら言った。
部屋割りはしてあるのだが、いつものことだが、狭くても、広くても、女たちは一郎の部屋に集まってくる傾向にある。
寝台さえも使わないし、夜は一郎に抱き潰されて、そのまま毛布を被って寝るだけということも珍しくない。
各人があてがわれた部屋の準備もそこそこに、この仮眠室の外側の大部屋に、そろそろ集結していることは間違いない。
ガドニエル用の部屋だって、二階の奥側に貴賓室があったので、そこを割り当てているがおそらく使用しないと思う。
あの女王様は、水晶宮を出てからの三日間で、天幕の中で一郎の女たちの中に混じって、一緒に食事をしたり、夜にもなれば、一郎に気紛れに愛されつつ、寝るときには雑魚寝のようにほかの女たちと休むという生活が心の底から気に入っているようであり、断言してもいいが、一郎が強要しない限り、あてがわれたひとり部屋には入らないだろう。
侍女も召使いもいない生活など、生まれて初めてのはずだが、思いのほか、ガドニエルはそれが愉しくて仕方がないみたいだ。
「ああ、いくううっ」
イライジャの身体がさらに大きく痙攣して、三度目の絶頂をした。
一郎はイライジャを抱きしめながら、イライジャの子宮に向かって精を放つ。
イライジャががくりと脱力した。
「はあ、はあ、はあ……、も、もう終わりよね……。こ、これ以上されると、立てなくなる……。立てないだけならいいけど、起きてられなくなるのよ……。こ、困るわ……。あ、あなたが一回だけじゃ、満足できないのは知っているけど……」
イライジャは、胡座に座っている一郎に、顔と身体を預けるようなかたちで息も絶え絶えに言った。
確かに、一度の射精じゃあ、一郎も満足にはほど遠い。
だから、まだイライジャに挿入したままの男根をもう一度堅くしてやった。
大きくするのも、萎えさせるのも自由自在なのだ。
それどころか、射精だって意のままにできる。
「ひいっ、許してったらあ──。わ、わたしは、あなたのほかの女性みたいに、限界まで搾り取られるのに慣れてないのよお」
イライジャがまたもや、悲鳴をあげた。
一郎は笑いながら、イライジャの縄を亜空間に収容して拘束を解き、イライジャから男根を抜いて横たえてやる。
イライジャが目に見えてほっとした顔になった。
一郎はイライジャの狼狽える姿に思わず笑ってしまいながら、イライジャの腰に手を触れて、身体の洗浄をしてあげた。
イライジャの黒くて美しい肌にあった汗や体液が消滅して、一瞬にして清潔になる。
「あ、あなた、そんなこともできるの?」
だが、イライジャが目を丸くした。
そういえば、こういう日常魔道のようなことは、あまり淫魔術では使ったことはない。
身の回りには、ミウやスクルドや、この旅では世界最高の魔道遣いの評判があるガドニエルまでついている。エリカも日常魔道は自在に扱うし、世話をやきたがる。
だから、披露する機会がなかったが、支配している女限定ではあるが、性行為のあとに、女の身体を洗浄をしてあげることは、かなり以前からできた。もちろん、自分自身についてもだ。
男女の営みに関することであれば、細かいところまで万能の能力なのである。
ほかにも、支配女の身体を治療したり、美容に類する処置は好きなようにできる。ちょっとした「整形」のようなことも、いまはできるようになった。
だから、一郎が支配している女は、誰も彼も、美人で美少女になる。
若さだって自在だ。
老いというのは、顔の皺や筋肉の衰えによる目鼻の緩みから生じる見た目の現象だ。一郎はそれを「美容」という観点で、衰えを消滅させることができるので、見た目の若さを保持させることも可能なのだ。
イザベラ女官団を束ねる女官長のヴァージニアやタリオ公国のアーサーの妨害で本国のタリオに呼び戻されてしまったマアにやった措置がそれにあたる。
王妃にアネルザにも施した。
一郎の支配を受け入れてくれた女たちに、一郎の能力を駆使した美貌を与えるのは、一郎からの恩返しのようなものである。
その結果、必然的に、一郎の女たちが全員が美女になるのだが、美女を集めているという気持ちはなく、一郎と愛を交わし続けることで、必然的に美女に変わるということなのである。
「できるのさ……。女性に奉仕することに、とことん特化している能力なんだ。洗浄だけじゃないよ。完璧なまでに、身体の健康と美貌を整えてあげることもできる。俺の支配を許容してくれるお礼だね」
すると、イライジャが溜息をついた。
「お礼ねえ……。美貌の付与、能力の向上、そして、尋常じゃない性の快感……。あなたから離れられなくなるみんなの気持ちがよくわかるわ。確かに離れられないわね。わたしもそうなってきているし……」
「離れるつもりがあったとは知らなかったな。そうなの?」
一郎は驚いて言った。
「離れるつもりなんてないわね。むしろ、あなたに抱かれて、別れを許容できる女がいるとも思えないわね……。だけど、わたしは、ユイナを助けてくれることを依頼しているクエストの依頼人で、そのために同行しているんだしね。すべてが終わって、王都に戻ってクエストが完了すれば、一応の関係は切れるじゃないの? それとも、ずっと一緒にいていいの?」
「そんな風に考えているとは思わなかったね。イライジャもすでに俺たちの家族だ。ついでに、ユイナもね」
「やった――。だったら、ずっと一緒にいるわ。これからもよろしくね、ご主人様」
イライジャが横になったまま白い歯を見せた。
一郎はその隣にごろりと横になる。
「ところで、話があるんだ」
一郎はイライジャの横になったまま言った。
「そうでしょうね。ここに、わたしだけ呼び出されたときには、そうだと思ったんだけど、いきなり抱きだすから……」
イライジャが軽く笑う。
「なんでかな? 俺としても、話をするつもりだったんだけど、二人きりになったらイライジャを犯したくなった。だめな癖だな」
「だったら、女冥利につきるわね……。それで話って、なに?」
イライジャが言った。
口調から軽口のようなものが消えて、真面目な感じになっている。
「まずは、王都のことかな……」
一郎は身体を起こして、亜空間から自分の服とイライジャの服を出す。
イライジャも身体を起こそうとしたが、力が入らないらしく、すぐに断念した。
一郎は、服を着ながら、イライジャの裸身に毛布をかけてやる。
「ほ、本当にセックスが上手ね……。ちょっとだけ、このままでいい? すぐに起きるから……」
「遠慮なくゆっくりしてもらっていいよ……。ところで、サキのことだ。どう思う?」
「サキねえ……。彼女は、王宮にあなたが国王の寵姫として忍び込ませていた女魔族であり、あなたの女のひとりという認識でいいのね?」
イライジャに対しては、サキについてや、一郎の女たちのかなりのことについて深く説明している。彼女がなかなかに情報処理が巧みで、状況整理力も深いということ知っているからだ。
一郎としては、自分自身の考えを整理するのにも、イライジャのことを便利に考えている。
「俺のことを想って、俺のために騒動を引き起こして、その結果、この国を大混乱に陥らせている女のひとりだね」
一郎は軽口を言った。
王都情勢については、スクルドからも大きなところを聞いていたが、現段階では、モーリア男爵経由の話でも、その情報に齟齬はない。
ただ、対外的には、王都のすべての混乱は、すべて国王のルードルフがやったということになっているということが、一郎たちの認識と異なるくらいだ。
すなわち、南方地域に領土を持つ女伯爵のテレーズという女がルードルフ王に仕える女官長として入ってきた……。
そこから一連の騒動は端を発している。
あるいは、一郎が王都を出立した後に、王太女のイザベラと王女のアンのふたりが妊娠していることが発覚したことか……。
とにかく、それをきっかけに、ルードルフ王が激怒し、王都を出ていた一郎に捕縛命令を出した……。
それに抗議した王妃のアネルザが捕らわれ、逆に激怒したアネルザが、寵姫として王宮に入り込んでいるサキ、さらに、ミランダとスクルドを巻き込んで、ルードルフ王を失脚させる陰謀を企てた……。
まあ、それが始まりということだ。
もっと過激ではないやり方もあっただろうと言いたくなるが、やってしまったことは仕方がない。
一郎としても、自分を想ってくれてのことなのだとは、理解している。一郎が危害を加えられそうになったら、国に叛乱を起こしてでも、一郎を守ろうとするなど、それくらいに愛されているのだと考えるべきなのだろう……。
いずれにしても、あのアネルザだったら、それくらいやりそうな気はする。
アネルザは、ずっと以前から、ルードルフの治世力のなさには、嫌気がさしていたのだ。今度こそ愛想が尽きたという気持ちなのだろう。
しかし、男爵から情報提供を受けた、その後の王都混乱の流れは、改めてそれを教えられると、その混沌の拡がりに唖然とするほどだ。
まずは、王都住民に対する突然の重税の連発と、商業ギルドと自由流通会議の両方の追放による王都の物不足の発生による王都住民の生活困窮──。
そして、王太女イザベラのノールの離宮への追放─
王都内貴族の粛正の開始……。
王族である二大公爵家の突然の処刑と取り潰し──。
スクルドの偽装死の混乱は、ちょっと置いとく……。
これについては、とてもアネルザたちが結託してさせたとは思えない。
もしも、全部が彼女たちの思惑だとすれば、逆さ磔の拷問懲罰ものだが、人死を伴う陰謀など彼女たちの性質には合わない。
アネルザたちがルードルフの失脚のために、どこまで騒動を拡大しようとしたのかはわからないが、なんとなくだが、アネルザたちの行動を利用して、ほかの誰かが、さらに陰謀を上乗せしたのではないかと思う。
そうだとすれば、南部出身の女伯爵とかいうテレーズか……。
あるいは、別の誰かか?
いずれにしても、王都どころか、王国中に拡がっている混乱は、表向きにはすべてルードルフが引き起こしたことになっているということがすごい。
アネルザの名も、寵姫サキの名前も出ていない。
外に出ているのは、ルードルフと新しい寵姫のテレーズであり、諸悪の根源のようになっている。
アネルザの手配なのか、そうでないのかは知らないが、これにより、地方中の貴族たちが一斉に離反して、国王を打倒するために兵が続々とマルエダ辺境候のところに集まっている。
もはや、この騒動がどんなかたちで終わっても、ルードルフ王が治世を続けるということはあり得ないだろう。
そういう意味では、アネルザたちの最初の企ては、成功したといえるが……。
それはともかく、一郎が訝しんでいるのは、サキが一郎の後宮の性奴隷集めだとして、王都の貴族令嬢たちを集めたことを切っ掛けとして、仲違いをした後のサキのことだ。
園遊会事件だかなんだか知らないが、サキのような魔族には、人族の常識が通用しないことは知っている。
おそらく、それ自体はサキが本気で企てたのだろう。
お仕置きものではあるが、まあ、サキなりには、これもまた、一郎のためなのだろう。もっとも、情状酌量の余地はあるとは思うが、思い切り尻でも叩かねばならないことには変わりはない。
ただ、王宮を占拠したあとのサキが、実にサキらしくない気がするのだ。
「あなたがずっと言っていたこと? サキさんという女魔族があなたに接触をしようとしないことを言っている?」
イライジャが言った。
一郎は頷いた。
「話を聞く限りにおいて、アネルザもそうだが、アネルザたちと仲違いしたサキもまた、とにかく、俺という人物に、向こうよりも早く接触したいはずなんだ。だけど、サキは、そのために国境付近に送り込んだはずのジャスランに、ほとんど連絡もしてない。それどころか、ジャスランが王都に連絡をすることも禁止した」
「あなたなんか、どうでもいいという感じよね」
イライジャが言った。
「そうだ。そういう態度が、ジャスランが俺なんか、殺しても問題ないという考えにさせられた。まあ、それについては、ジャスランの暴走気のある性質にもよるんだろうけど、サキがもっとジャスランと連絡を取り合っていたら、ジャスランは違う態度になったと思うんだよね」
「そうかしら?」
イライジャは首をかしげた。
しかし、これについては、淫魔術を使ってジャスランの心に何度も触れている一郎の感覚が正しいと思う。
単細胞で直情的だったけど、あのジャスランは主を裏切るような性格じゃなかった。
ジャスランが一郎たちに対して過激な行動に出たのは、ひとつはスクルドが怒らせたからだが、もうひとつは、送り出したあとのサキの態度だと思う。
少なくとも、送り出した後は、サキはジャスランをまったく放り投げたままだった。
もともとのサキの人選ミスといえばそれまでだが、ジャスランの性格を考えると、もっとしっかりと手綱を握っておくべきだったろう。
「まあ、とにかく、サキはどうして、俺と接触をしようとしないのだろうかと思ってね。ピカロとチャルタのこともそうだ。サキはマルエダ辺境候に集めさせる軍を俺に率いらせて、王国軍に勝たせることにより、それで俺を王にしようとしているんだろう? それ自体は荒唐無稽だと思うけど、ピカロとチャルタが失敗したというのが事実とすれば、サキからすれば計画の前提さえ崩れている。だけど、男爵が把握してくれた限りにおいては、それに対して王都が動いている気配はない。少なくとも表向きは……」
辺境候からの使者については、明日改めて面談することになっている。
モーリア男爵は、これを整えてくれていた。
使者がどこまで、辺境候とのことを把握しているかわからないが、少なくとも、使者の態度に接すれば、向こうがまだピカロたちの操り状態になっているのか、それとも、やはり、本当にふたりが捕らわれていて処刑寸前なのかの判断ができるかもしれない。
「あなたとしては、ある程度の結論が出ているんじゃないの?」
イライジャが微笑んだ。
「……そうだね。多分王都……もっといえば、王宮内では、俺たちがまだ知らない、なにかが起こっていると思う。そして、それはいまだに終わってない」
「サキさんの行動は不自然……。王都でなにか危険なことが起きているかもしれない……。そういうことね」
「直感に近いけどね。だけど、俺の勘は当たる。いまは、それがなにかがわからないのがもどかしいだけどね……」
一郎は肩をすくめた。
すでに服を整え終わっている。
一郎は寝台の上から降りて、そばにある椅子に移動した。
イライジャがやっと身体を起こして、一郎が置いた彼女の衣服を身につけ始める。
「整理すると、わたしたちには、三つの行動の選択肢があるわ。ひとつは、あなたが危険だと感じている王都に向かい、王宮に乗り込むこと……。多分、あなたが乗り込みさえすれば、解決しそうな気はするわね。少なくとも、大きなところは片付きそう……」
「なるほど、じゃあ、残りのふたつは?」
一郎は訊ねた。
「二つ目は、辺境候のところね……。ただし、お勧めはしないわ。サキさんが送り込んだピカロとチャルタという眷属は、あの書簡によれば、あなたが首謀者だと自白しているんでしょう。辺境候の思惑はわからないけど、あなたがそこにいけば、旗頭として祀りあげてくれるどころか、普通に陰謀の張本人として捕縛するわね。まあ、自分から死刑台にあがるようなものかしら。これは避けるべきね。少なくとも、そっちに行くとすれば情報をとるべきよ」
「ただ、時間はない。ピカロとチャルタは処刑される。あと十日を切っている。俺たちが王都に向かえば、確実に、そのふたりは助けられない」
「そうかもね」
イライジャは言った。
「残りのひとつは?」
「なにもしないことよ。あなたは、国王でもなければ、大臣でもない。現段階では王太女の恋人で、王妃の愛人で、王女たちを孕ませた女たらしだけど、王国に責任のある立場じゃないわ。責任を感じる権利すらない」
「ひどい言われようだねえ。事実だけど……」
一郎は苦笑した。
「あなたの子供を妊娠しているふたりがノールの離宮にいるなら、これ幸いじゃないのかしら。彼女たちを保護して、ハロンドール国内の騒動が終わるまで、もう一度水晶宮に戻れば? ガドもラザニエル様も、喜んであなたたちを守ってくれるわ。ハロンドール王国が混乱するならさせればいい。あなたがなにかを欲しいとしても、全てを見極めてから乗り込めばいい。そのときには王太女と次々代の王を握ってるのよ。いくらでもやりようがある。わたしにからすれば、これが最適解ね」
「最適解か……」
一郎は頷いた。
「……それで、あなたの結論は?」
イライジャが一郎に身体を向けた。
彼女もまた、やっと服を整えている。
「うん、それなんだけね……。イライジャとは、ここで別れようと思う……。つまりは……」
一郎は言った。
イライジャが眼を大きく見開いた。
そのとき、扉を外から叩く音がした。
「はい──。いいぞ」
一郎が声をかけると、扉が開いて、エリカが顔を出した。
「どうかしたか?」
「はい、実は、ノルズがここに……」
「ノルズ?」
一郎はびっくりした。
ノルズについては、あのパリスとの決戦のあと、少しのあいだ水晶宮で養生していたのだが、一郎やラザニエルがとめるのも振り切って、タリオがやっているカロリック侵攻の情勢を把握するために、水晶宮を出立していた。
一郎としては、二重諜者をやろうとしているノルズを守るために、あまり危険なことをさせたくなくて、できるだけ危険がないと思った正面の情報をノルズに求めたのだが、どうしてここに?
すると、エリカの後ろからノルズが入ってきた。
「ロ、ロウ様に申しあげたいことがあって、やってきました。アスカ……いえ、ラザに移動門のゲートを解放してもらいました――。お、お時間を少しいただいてよろしいでしょうか──」
ノルズが直立不動になる。
「もっと、普通にしたら、ノルズ。さっきまでみたいに」
ノルズの後ろで、エリカが呆れた感じで嘆息する。
「あ、あたしは、普通だよ、エリカ――」
ノルズがちっとも普通ではない態度で、そう言った。