【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
二階の小窓から通りを覗いていると、馬車がこの建物の前にとまり、馬車の中から転がるように若い娘が降りてくるのが見えた。
すでに、街には灯がともっていて、それがこの男爵領の豊かさを示している。
そもそも、街の幹線通りとはいえ、夜になれば道路に明かりがともるなど、街そのものにかなりの豊かさがないとあり得ない。
しかも、ここはただの男爵領だ。
本来であれば、男爵領など農村に毛が生えた程度どころか、農村そのもののはずだ。
だが、さすがは、一大の英傑の誉れの高いいまのモーリア男爵が治める領都だろう。街の中心部は、まさに王国内の地方都市並に規模も大きく賑やかだ。
これほどの力を持つ貴族を、いまだに男爵という下級貴族扱いしているというのが、この国の弊害なのだろう。
シモンは思った。
モーリア男爵家は、もともとは傭兵長の家柄である。それが戦で手柄をたて、報償としてこの辺境の領土をもらったのだ。
もう百年近くも前のことであるのだが、この国の多くの貴族は、モーリア家のような下級貴族を平民に近いといって蔑む傾向にある。
だが、実際には、この領都の豊かさが示すように、ずっと彼らの方が豊かで、爵位と実際の力が逆転していることも珍しくない。
それに、おてんば嬢として王都でも有名な女騎士のシャングリア=モーリアの両親の死に伴って、遠縁の縁者として代を継いだユンケル=モーリアは、地方軍人あがりとは思えないほどに、流通に明るく商売の才能がある。
それがこの夜の明るい男爵領の街並みに表れていた。
シモンは手元の紅茶を飲みながら、カーテンの隙間から下の通りに視線をやる。
小さな馬車から出てきたのは、クリスチナだ。
シモンの婚約者であり、相変わらず宝石のように、外見はきらびやかで美しい。
もちろん、顔や身体の美貌だけではなく、美しいドレスや身にまとっている装飾具は、彼女の魅力をさらに引き出している。
しかも、あれはシモンが与えたものではなく、自分自身の財で飾りたてたものなのだ。
なにしろ、クリスチナは
男に貢がれる女ではなく、自分の足で立つ女なのだ。
そして、クリスチナは西部域でも有数の伯爵家の令嬢でもある。
しっかりとした嫡男もいる伯爵家の、すでに婚姻をしているふたりの姉がいる三番目の娘だ。
だが、まったく貴族令嬢らしくなく、お転婆がすぎて、家出同然に冒険者になったという珍しい経歴の女だ。
シモンがクリスチナと出逢ったのは、その冒険者としてだったが、あるときに実は貴族令嬢であり、しかも、伯爵家令嬢と知って、手を回して婚約者にした。
シモンは、立場上、どうしても結婚をする必要があったが、決まった相手と生涯をともにするつもりはまったくなく、できれば生涯を独身ですごすことを望んでいた。
そういう意味では、クリスチナもまた、男と結婚を望むような女でもないし、シモン同様に、ひとりの男と生涯をすごすタイプではない。
だから、シモンは、クリスチナの実家に婚約を申し込むとともに、クリスチナに契約を持ちかけた。
お互いの性生活に深く関与せず、相手に愛情も求めない──。
婚姻をしたら、子供を作ってもらう必要はあるが、最低、男ひとりを産めば、好きにしていい。
また、婚約時代と結婚時代を通じて、冒険者としての所定の雇い賃を支払うし、これは、婚姻という名のクエストであると……。
ただし、シモン以外の子種を宿したら、その場合は伯爵家には多額の賠償金を支払ってもらう……。
そういう細かい取り決めを記載した契約書案をクリスチナに渡して、婚約を申し込んだ。
それに接したクリスチナは、一瞬、きょとんとしたが、次いで大笑いして、お互いの生活を縛らないことと、クリスチナが冒険者を続けることを条件に、シモンの提案に応じた。
それが半年前であり、結婚は一年後と決めた。
だから、シモンとクリスチナは、いまは婚約者同士ということだ。
最初に出てきた若い娘が地面に屈む。
すると、その背中を台にして、クリスチナが馬車から降りてきた。
若い娘が跪いたまま顔をあげた。
その表情には、クリスチナに対する恍惚とした感情が浮かんでいた。
シモンは思わず笑ってしまった。
どこで拾ってきた娘なのか知らないが、なかなかに娘は美形だった。だが、服装や動作に粗野さがあり、おそらく平民なのだろう。
ただ、身なりは清潔そうであり、髪型もきちんとしている。上は女物だが、下は男物風のズボンで、旅をしているような服装だ。
このモーリア男爵領には、かなりの商人が入って、活発な商取引をしているのは知っている。もしかしたら、この男爵領に取り引きのためには入ってきた交易商なのだろうかと思った。
男爵が税や処遇などの面で、商人への優遇措置をしているので多くの商人が集まるのだ。
ナタル森林のエルフ族との交易も盛んらしく、この男爵領はナタル森林に続く良好な道路もある。
だから、あのロウ=ボルグも、この男爵領からナタル森林を往復したのだ。
いや、よく見れば、娘は腰に短剣をぶらさげていた。
もしかして、クリスチナと同じ女冒険者か?
だが、まだ若いだろう。
娘の年齢は、二十歳にもなっていないと思う。
クリスチナも、まだ二十四歳なので、大して歳は変わらないはずだが、クリスチナと娘とでは、まるで貫禄が違い、大人と子供という感じがする。
そして、見ていると、クリスチナが娘に鎖のついた首輪を放り投げた。
すると、可愛らしい娘がためらいなく首輪を拾い上げて、自分の首に填めていく。
シモンは吹き出した。
クリスチナが娘の首輪に繋がっている鎖を持って、この建物内に入っていくのがわかった。その娘は四つん這いでクリスチナについて行く。
シモンが窓から見えたのは、そこまでだ。
座っていた椅子を窓の方向から、部屋の扉の方向に変える。
しばらくすると、扉の鍵が外から開いて、クリスチナが入ってきた。例の娘も一緒である。
四つん這いであるが……。
「あら、戻ってたの? シモン殿?」
クリスチナが興味なさそうに呟いた。
この女は、自分の足で立つ女だけあり、シモンが付き合ったほかの女と違って、男に媚びを売るような振る舞いをしない。
それは、相手は、このシモン=マルエダであってもだ。
シモンはそれが気に入っていた。
一方で、それまで陶酔しきった表情で四つん這いでつきてきた娘は、さすがに表情を強張らせて、クリスチナの陰に隠れようとした。
「勝手に動くんじゃないわよ、ソフィア」
「ひぎゃん」
娘がその場に崩れ落ちた。
おそらく、クリスチナが手に持っている鎖を通じて、娘の首輪に電撃を流したのだ。
剣の腕でも、魔道の腕でも超一流なのだ。
女ひとりのソロ冒険者で
「その娘は?」
「この街のギルドで偶然に見つけた昔馴染みよ。雌犬になれば、一晩付き合ってやるって言ったらついてきたの。今日は、お愉しみのつもりだったんだけど、あなたもここに泊まるの? 通っていた高級娼婦はどうしたのよ」
クリスチナは悪びれる様子もなく答えた。
シモンは苦笑した。
一応は婚約者のクリスチナだが、性には自由奔放であり、およそ、ひとりの相手にとらわれることはない。
シモンに遠慮してか、シモンと一緒にいるときには、女しか相手はしないが、シモンがいないところでは別に男とも寝るし、それを隠しもしない。まあ、避妊薬はしっかりと服用しているようだが……。
シモンも気にしないし、クリスチナも気にしない。
そういう関係だ。
「それよりも仕事だ。男爵からやっと連絡が入った。明日、例の冒険者と会う。男爵家で午後だ」
「あら、やっと仕事? 活気があって、なかなかに面白い街だったけど、じゃあ、これで終わりね……。ねえ、お前、今度どこかの街で会ったら、まだ抱いてあげるわ。これを持って行きなさい」
クリスチナは、娘の首輪についている鎖を外して、腰に吊っている魔道の収納袋から皮袋を取り出して娘に投げた。
中身はまとまった金貨かなにかだろう。
手切れ金ということに違いない。
「……ソフィア、これでお別れよ。今夜はもう帰りなさい」
「そ、そんなあ、お姉様──」
娘はすがりつくような表情でクリスチナを見あげた。
顔を蒼くして、涙目になっている。
「なによ、それじゃあ不足なの?」
「お、お金なら、あたしが貢ぎます。今夜はあたしと付き合ってくれるって言ってくださって、本当に愉しみだったんです。お願いです。どうか、このまま連れて行ってください。お姉様と一緒に、どこまでも行きますから」
「だけど、これでも、わたしも仕事なのよ。この辺境候の次男坊様の婚約者を演じるのがね」
「辺境候の次男坊様?」
ソフィアという名らしい冒険者の娘が驚いた声をあげた。
「マルエダ辺境候の次男で、この国の王妃の弟よ。シモン=マルエダ……。あら、教えちゃ、まずかったかしら?」
クリスチナがはっとした表情になる。
「構わないけどね……。俺の正体を教えるのも、彼女が君と一緒に連れて行くのもね。ただし、一緒に連れて行くなら、俺とも寝てもらうよ。俺とクリスチナがセックスをするときだけどね。まあ、いい気分転換になるし」
「そう言ってるけど、どうする、ソフィア? あんたが構わないなら、一緒にいてもいいわ。わたしの婚約者とのセックスを受け入れるのが条件よ。あと、仕事の邪魔をしないこと」
「も、もしも、それに応じたら、お姉様はあたしを愛してくれますか?」
娘が四つん這いの姿勢のまま言った。
すると、クリスチナが爆笑した。
「わたしが誰かを愛することはないわね。この辺境候とこの御曹司さえ愛さないのよ。わたしには、生まれたときから、そういう感情がないのね。でも、あんたを抱くかって意味なら、お前がどこかに行くまでは、専属の子猫にしてもいいわ……。この人はねえ、これでも、わたしと結婚したら、辺境候から伯爵籍をもらう予定なのよ。だから、わたしは伯爵夫人……。伯爵夫人の愛人の猫よ。どうする?」
「なります──。よろしくお願いします。お仕事の邪魔はしません。辺境候の息子様との性交も受け入れます」
ソフィアは涙まで浮かべて、嬉しそうに言った。
シモンは笑った。
「まるで、俺に抱かれるのが、なにかの罰みたいだなあ。まあいいや。明日は、例のロウ=ボルグに会う……。親父殿からは、しっかりと見定めて来いとは言われている。その話をしたい」
「わかったわ……。そのロウは、冒険者としては、久しぶりに認定された
「そうなのか?」
シモンは言った。
ロウ=ボルグについては、一応のことは調べたが、わかったのは実に周囲に女が多いということだ。
しかも、一流の女傑がロウの周りに集まる傾向がある。
姉のアネルザもそうだ。
王都と辺境候領とでは距離があるので、噂話の伝わり方にも限りがあるが、辺境候家の長子である姉のアネルザを愛人にして、さらに、王太女のイザベラもまた、あのロウの恋人だという。
本当だろうか……。
そもそも、三十歳のシモンよりも、十六歳も上のアネルザは、王妃でありながら、男娼や奴隷を集めて、奴隷宮と称されていた性奴隷施設を王宮に持っていたくらいの女だ。
王太女は知らないが、あの姉のアネルザが、一介の冒険者あがりの平民を愛人としてのめり込むというのが想像できない。
自分の奴隷宮に収めるならともかく……。
しかし、実際には、姉のアネルザの後押しもあり、冒険者のロウは、ルードルフ王から子爵の爵位をもらっている。
移民したばかりの平民がもらう爵位としては最高位だろう。
確かに、シモンの父親ならずとも、何者なのだろうと思う。
「ロウそのものには、Sランクの能力はないと思うわ。少なくとも、ギルドの記録に接する限りにおいては、そう判断せざるを得ないわね。彼は女に貢がせるタイプだと思う。わたしが思うに偽者ね……。ところで、ソフィア、服を脱ぎなさい。一タルノス以内よ。話のあいだ、椅子として使ってあげるわ」
クリスチナが言った。
すると、ソフィアが身体を起こして、必死に身につけているものを剥ぎ始める。
一タルノスというと、ややこしい作りの多い女の服を脱ぐには、かなりぎりぎりだろう。
ソフィアは、ほとんど剥ぎ取るように、服を脱いでいく。
やがて、素っ裸になった。
元の四つん這いになったソフィアの背中に、クリスチナが尻をどんと落とす。
「うっ」
ソフィアは少し呻き声を出して、苦しそうな表情をしたが、可愛い顔をしていても、さすがは冒険者なのだろう。
クリスチナの身体をしっかりと支えている。
「だが、女に支えられるのも才能だろうさ。なにせ、ハロンドールの王太女の恋人だと噂が聞こえたと思えば、次は、エルフ族の女王の愛人になったという話だ。男爵からの話だと、その女王をお忍びの旅で連れてきているということだ。まあ、さすがに嘘だろうけどね」
シモンは笑った。
ロウがナタルの森で起こったローム皇帝家の陰謀を打ち破り、英雄認定を受けたということはもちろん知っている。
エルフ女王家のあれだけの世界的魔道通信があったのだ。
いまや、知らない者も少ないだろ。
まあ、うらやましいことだ。
運がいいだけだとは思うけど……。
「女の手柄を盗むような男はくずよ。あなたのいいところは、ちゃんと自分の野心を自分の力でかなえようとしているところね。だから、わたしはあなたとの契約に応じたのよ」
クリスチナが言った。
シモンの野心というのは、シモンよりも二歳上で、マルエダ辺境候の地位を継ぐことになっている兄のレオにとって代わり、いずれは、シモンが辺境候になることだ。
あるいは、この王国から離脱した西域の列州同盟の「国王」になることか?
とにかく、ただ最初に生まれた男子であるというだけで、いまの地位にいる兄よりも、シモンの方が能力があり、後を継ぐのは相応しいに決まっている。
だが、残念ながら、いまのいままでは、それを発揮する機会はなかった。
しかし、やっと乱世がやってきた。
シモンはこの機会をものにするつもりだ。
父親の辺境候の命令で、ロウ=ボルグと接触するというつまらない仕事を負うことになったが、だが、やりようによっては、絶好の機会ではないかと思っている。
少なくとも、名前があがっている女たちの人脈がすごい。
ロウが無能だとしても、女たちの有能さは本物そうだし、ロウをうまく使えば、シオンはその人脈を利用できる。
時間をかけて、女の心を奪っていってもいいし、女たちもシオンのような本物の上級貴族の愛人のひとりになるなら、そっちが幸せに決まっている。
考えるまでもない。
つまりは、クリスチナとは異なり、シモンは女に守られながら功績をあげる男をシモンは無能だとは思っていない。
それはそれで、それなりの能力だろう。
大いに利用価値がある。
もちろん、同じ立場なら、シモンの方がうまく力を使うとは思うが……。
いずれにしても、明日ロウを見極めてからだ。
あの王宮から、発見次第に処刑せよという死刑判決が出そうなことは耳にしていた。
これは、シオンの父親ならずとも、シオンもまた、逆にロウに興味を抱く理由になった。
なにしろ、いまは貝のように沈黙しているハロンドールの王宮が唯一、処刑を発表した男になるからだ。
叛乱を起こしかけているシオンの父のマルエダ辺境候でもなく、南部で農民一揆を起こしたドピィとかいう男でもない。
突然に、王宮がなんでもない下級貴族を見つけ次第に処刑だと発表したのだ。
誰だって、逆に、そのロウは何者で、どれだけの力があるのだろうと勘繰る。
しかも、あのエルフ女王の英雄宣言もあり……。
まあ、なにかの茶番だろうと、シオンは断定しているが……。
「まあいい。とにかく、明日にはそのロウに会う。どんな男か見極めるさ。もしも、才能のある男なら、俺の部下にしてやってもいい」
「わたしが寝とっていい? その代わりに、女側については、あなたが好きにすれば? ああいう女に尽くさせている男が嫌いなのよね。わたしにのめり込ませて、女を捨てさせて、その後に振ってやるの。いいでしょう?」
「好きにしろ。女は弱点らしいぞ。お前にのめり込まないわけないな」
シモンは言った。
ロウがクリスチナに手を出せば、それはそれで愉快かもしれない。
婚約者に手を出したことを問い詰めて、一生飼い殺しをしてもいい。
そして、立ちあがる。
「とにかく、その話は後だ。そろそろ寝台に行くぞ。ちょっと精を抜いてくれ。色々と考えたい」
「わかったわ……。じゃあ、おいで、猫ちゃん」
クリスチナがソフィアの背中からおりた。
そきて、娘の首輪の鎖を引っ張って、寝室に向かって歩き始める。
娘は陰部をシモンに丸出しにしながら、恍惚と酔ったような顔で、四つん這いでクリスチナについていく。
シオンは、にやつきながら、彼女たちの後ろから歩いていった。