【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「ねえ、ちょっと待ってよ」
すると、クリスチナが口を挟んだ。
シモンは、横を見た。
すると、隣に座っている婚約者が、ロウを見つつ、まるで獲物を見つけて舌なめずりをする肉食獣のような表情をしていた。
シモンは、内心で舌打ちした。
クリスチナのことは、シモンはなんでもわかると思っている。
おそらく、この尊大で、凶暴で、好色な
このロウは、魅力的な人物だ。
先入観で、女に守られているだけの男だと理由なく蔑む気持ちのあったシモンも、こうやって面と向かってみると、ロウの器量に惹かれ始めている気がする。
一瞬で、シモンの護衛の隠していた武器を見破った能力といい、これだけの女たちを牛耳っている支配の力といい、驚くほどである。
なるほど、女たらしには違いないのだろうが、これだけ突き抜けていれば、超一流だ。
目の前にいる女傑たちは、ロウのためなら、命など平気で盾にしそうだ。
そんな目をしている。
人を見る目だけは、シモンは間違ったことはないつもりだ。
エルフ族の女王から、英雄認定をされるだけの器量のようだ。
だが、それはともかく、確かに女たらしであるのは、間違いなさそうだ……。
どうやら、クロスチナもまた、ロウに大きな興味を抱いた感じだし…。
そのくらいのことは、顔をみればわかる。
だが、欲しいと思えば、物狂いしたかと思うほどに、しつこくなるのがクリスチナの悪い癖だ。
シモンとしては、すでにロウと争う気持ちがなくなっていたので、少し困ってしまった。
「いや、クリスチナ、待て」
とりあえず、シモンは口を挟んだ。
しかし、クリスチナは、シモンの制止を邪魔そうに、軽く片手を振った。
「ねえ、あなた、このシモンの部下になりなさいよ」
そして、クリスチナが言った。
確かに、直前までそんな話はしていたが……。
シモンは溜息をついた。
「ご主人様を部下に? へえ……」
唸るようにささやいたのは、ロウの後ろのコゼだ。
ほかの女の表情も一瞬にして険しくなる。
そして、さっきのガドニエルだけでなく、スクルドの魔力も一気に部屋の中に拡がった。
女たちが怒っている──。
シモンは、背に冷たいものを感じてしまった。
「な、なによ──。ロウだって、庇護が必要でしょう。王宮から処刑命令が出ているんでしょう。だけど、シモン殿だったら、彼がいる限り、手は出させないようにしてくれるわ。辺境候のところだって、確かに辺境候様もシモン殿も、ロウには手を出すつもりはないけど、列州同盟だって一枚岩じゃないのよ」
クリスチナがたじろいだ感じで言った。
傍若無人の彼女だが、さすがにこれだけの殺気を一度にぶつけられて、少しびびった口調になっている。
「ご主人様、敵ですね──。敵ですよね。よいですか? いいですよね──?」
ガドニエルが興奮したように言った。
シモンはいまにも魔道を放ちそうな彼女の態度に仰天してしまったが、一方でちょっと訝しんでしまった。
ご主人様──?
「女王、女王モードが切れているぞ」
笑ったような口調で声をかけたのは、シャングリアだ。
どうでもいいが、シモンが集めたロウの女たちの情報の中で、このシャングリアの印象も事前に認識していたものとは少し異なる。
事前の調査のシャングリアは、以下のようなものだ。
このシャングリアは生来の男嫌いであり、しかも、性格も尖りまくっていて、誰彼となく敵対し、平地に
それが能力のわりには、王軍騎士団の中における出世を妨げているのだと……。
だが、目の前のシャングリアは、落ち着いていて、どことなく風格のようなものもあり、なによりも毅然とした頼もしさを感じる。
凛としていて格好はいいし、いまも物言いに優しさがある。
シモンは、事前調査のシャングリアと、目の前のシャングリアとの差に戸惑っていた。
人を見る目の勘だけはいいのだ。
それはともかく、目の前の女たちだ。
本気で攻撃をしてくる?
シモンはぞっとした。
「やめないか、お前ら──。ガド、打つなよ。魔力も引っ込めろ」
ロウが笑って言った。
女たちの殺気が消滅する。
シモンはほっとした。
「クリスチナ、その話はもうなしだ」
シモンは言った。
しかし、クリスチナはむっとした顔になる。
「なんでよ──。わたしが手を出していいって、言ったじゃないのよ。それもなしなの──」
そして、不機嫌そうに言った。
シモンは焦った。
「手を出す?」
「ロウ様に?」
「ああ?」
シャングリア、エリカ、コゼが一斉に反応した。
だが、今度は怒っているという感じではない。むしろ、驚いているという表情だ。これは意外な反応だった。
「な、なによ──。文句あるの? わたしは、ロウに言ってんのよ。黙っていなさい──。まあいいわ。シモン殿が条件に関する話はなしだというなら、それでもいいけど、わたしについては、そうはいかないわね……」
「おい、クリスチナ……」
やっと、シモンはクリスチナがなにを言い出そうとしているのかを理解した。
そういえば、ロウを追い詰める幾つかの案のうち、そういう打ち合わせもあった。
つまりは、ロウに安全を保証する代わりに、ロウがシモンの部下となることを求め、クリスチナは、ロウがクリスチナとのセックスの相手をすることを持ち出すという話だ。
ほかにも、幾つかの案があったが、シモンがいきなり、ロウとの駆け引きをやめて、辺境候の要求をそのまま伝えたので、当然にクリスチナの要求も持ち出しができなくなった。
それを不満にしたみたいだ。
「辺境候領を訪れるときの安全の保証をする代わりに、わたしと寝なさい。一対一でね。ほかの女の邪魔はなし。それをしたら、わたしたちは辺境候領でのあんたらの安全を提供するわ」
クリスチナが毅然として言った。
すると、いきなりロウが笑いだしてしまった。
「ああ? なにを笑ってるの……」
クリスチナの顔が怒りで真っ赤になる。
すると、ロウがすぐに笑いを引っ込めた。
「これは、すみません……。ちょっと意外だったんで……」
ロウが言った。
「へえ、あんた、ご主人様に抱かれたいの?」
すると、コゼが言った。
クリスチナがぐっと背筋を伸ばしたみたいに、前側に身を乗り出すのがわかった。
「抱かれたいんじゃないわ。抱いてあげようというのよ……。まあ、ひと晩だけでいいわ。わたしのやり方は激しいけどね……。だけど、最後には満足させるのは約束してあげるわ。まあ、ちょっとばかり、痛いことととか、恥ずかしいこともさせられかもしれないけど、そういう抱き方もあるのよ。色々と教えてあげるわ。いいいでしょう。最後には入れさせてあげるし」
クリスチナが言った。
唖然として横を見ると、すでに目の前のロウをしつこく「調教」するのを想像して、興奮しているみたいだ。
ぺろりと口の周りを舌で舐めたりしている。
「つまりは、俺を調教してくれるってことですか?」
ロウが面白いことを聞いたという顔をしている。
だが、興味は抱いたみたいだ。
しかし、シモンは、その余裕のありそうなロウの態度に内心でちょっと笑った。
おそらく、これだけの女を集めるのだから、性には自信はあるのだろうが、このクリスチナの相手をすれば、それは木っ端みじんに砕けると思う。
シモンを相手にするときには、クリスチナはそういう抱き方はしないが、この女の嗜虐が火をついたときには、かなり手に負えなくなる。
夕べだって、クリスチナが連れてきたソフィアという女冒険者は、クリスチナに半死半生の目に遭わされて、午後のいまになっても、まだ寝台に突っ伏している。
もっとも、クリスチナのさっきの言葉のとおりに、大いに性的な満足はしていたが……。
「調教? あら、そんな言葉も知っているのねえ。そうね。もしかしたら、そういうこともするかもしれないわね。まあ、今夜ひと晩だけよ。わたしの相手をひとりでしなさい。そうすれば、シモン殿は安全を……」
「わかりました。夜とはいいませんよ。いまからでもいいですよ」
ロウがクリスチナの言葉に被せるように自信たっぷりに言った。
シモンはくすりと笑った。
だが、とりあえず、ひと言は告げておこうと思った。
明日の朝に面倒なことになったら困る。
しかし、まあ問題はないだろう。
なんだかんだで、このクリスチナとひと晩寝れば、ロウの男としての矜恃もプライドもずたずたになっていると思うが、まあ、それでも、クリスチナに怒って、交渉の決裂ということにはならないのは確信している。
クリスチナの言葉のとおりに、ロウがこれまでに味わったことのないような性的満足を味わうのは間違いないからだ。
クリスチナはそれだけの女だ。
「ロウ殿、一応は言っておくが、クリスチナは剣技だけでなく、格闘術も達人だ。あんたも、有名な冒険者だとは思うが、クリスチナは強い……。もしも、男の力で対抗できると考えているなら……」
「いや、俺は女たちに守られているだけの男ですよ。武術はからきしです……」
「まあ、そんな感じだな」
シモンも、このロウに武術の心得がないことはわかる。それくらいは身のこなしや体つきでわかるのだ。
しかし、まったく戦えないというともないだろう。
それは、単に戦い方が違うだけで、このロウもそれなりの修羅場も潜っている。
これもまた、なんとなくわかる。
「決まりね。あんたたち、邪魔しないのよ。ロウのとりきめよ。悪く思わないでね……。ああ、前もって言っとくけど、わたしは、男を奪うような趣味もないし、ロウが言い寄っても相手にはしないから大丈夫よ。あんたらから奪わないから……。だから嫉妬しないでよね……。もっとも、最初はそれも考えていたけどね」
クリスチナが嬉しそうに言った。
ロウがクリスチナの相手を受け入れたので、はやくも興奮しているみたいだ。
「嫉妬なんてしないわよ……。まあ、頑張ってとしか……」
エリカがぼそりと言った。
「そうね。朝までもつといいわね」
「そうだな。頑張れ」
「そうですね」
ほかの女たちも頷いている。
「ええっと、敵ではなくなったということですか? そうなのですか?」
ガドニエル女王だけが、戸惑っている。
どうでもいいが、だんだんとこの女王が本物であるかどうかの疑念が湧いてきた。
いや、もしも、偽者なら、こんなに偽者っぽくふるまわないか……。
「まあ、それはともかく、シモン殿──」
すると、ロウがシモンを見た。
「ん?」
「三日後に辺境候領に行きます。辺境候殿にお伝えください」
「おお、来てくれるか。父も喜ぶな」
「愉しみにしています。よろしくお願いします」
ロウが座ったまま頭をさげた。
「よかった──。だが、ロウ閣下の安全の保証はお願いしますぞ」
ずっと黙っていた男爵が言った。
シモンも頷いた。
「シモン=マルエダの名において……。天空神に誓ってロウ殿たちの安全は保証しよう」
シモンは言った。
「いえ、それはロウが約束を果たしてからよ──。じゃあ、行きましょうか。朝まであんたの身柄を借りるわ。さあ、覚悟しなさい。その代わりに、最後には天国に連れて行ってあげるわね」
クリスチナがぱんと手を叩いた。
「いや、夕食までで十分でしょう。それ以上だと、気の毒だし」
するとロウが言った。
クリスチナがむっとしたのがわかった。
「へえ、いい度胸じゃないのよ……。わたしはセックスのときには、あんたが何者でも手加減しないからね。あんまり生意気なこと喋ると、もしかして毀しちゃうかもしれないわよ」
「愉しみですね」
ロウが笑い声をあげた。