【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
シズとゼノビアを覚えていますでしょうか?
『329 王都の不穏と特別依頼クエスト』以来の再登場です。
639 廃墟に来たふたり
「本当に、ひどくやられているわね、お姉様」
シズは、腰に剣をさげ、荷物を背負った格好で城郭を出ていく方向に歩きながら言った。
いや、城郭だった場所だったというべきかもしれない。
カロリックの公都に近いシャロンという城郭だ。
だが、建物の多くは焼け落ちており、あちらこちらには、建物のあった場所に瓦礫を利用して作った小屋のようなものが点在しているという情景だ。
完全な廃墟の様相である。
ゼノビアによれば、カロリック公国を征服したタリオ軍の指示によるものらしく、城郭への攻撃と略奪から三日ほどがすぎているという。
しかし、十日ほど前に、公都に立ち寄る前に通り過ぎたときには立派な街だったのに、数日ぶりに戻ってきたいまでは、焼けた瓦礫だらけの街に変わっていた。
人の死骸もたくさんあった。
二十、三十とあちらこちらにまとまって転がっている。
この城郭を守備していたなんとかという侯爵軍の兵の死体も多いが、女子供の屍体も多い。
その中には明らかに陵辱してから殺したと思う女の死体も少なくなく、性器に棒を突っ込んでから身体を焼いたような若い女の死骸も幾つかあった。
下半身だけが裸の幼い男の子も屍体も見た。
そっちは焼けていなかったものの、そのために殺されたときに尻を犯されたとわかる痕跡を逆に見つけることになってしまった。
とにかく、あちらこちらに酷い惨状が点在している。
「カロリックを暫定統治しているランスロットという若い将軍の命令らしいわね。ここの侯爵は、征服軍のタリオ軍に対して叛乱を企てたのよ。叛乱は未然に防がれたけど、報復はされたわ。これがそうね。まあ見せしめよ……。死体の埋葬も禁止されているらしいわ。この城郭の人たちは叛乱者が支配していた街の住民だから……」
横を一緒に歩いているゼノビアも不快そうに顔をしかめている。
ゼノビアはもともと傭兵あがりの冒険者であり、こういう戦場跡は見慣れていると思う。しかし、そのゼノビアが気味悪そうにしていた。
また、シズも元来は冒険者ではあるが、何回か傭兵に加わって小さな戦闘に参加をしたことがある。
だから、戦場跡を見るのが初めてというわけではないのだが、目の前のシャロンの街は、これまでに接したどの戦場よりも残酷な惨状だった。
徹底的な破壊と殺戮が行われたのは明白であり、間違いなく抵抗力を奪った後に、街全体に対して略奪と凌辱をしたのだろう。
死んでいる市民はほとんどが武器らしきものは持っていなかった。
兵も同じだ。
だから、シズは降伏した兵の武装解除をしてから、処刑したのではないかと思っている。兵たちの死骸もそんな感じだったのだ。
「つまり、領主が逆らったから、関係のない民衆を残酷に殺したということ? だけど、こんなことってある? 面白がって殺したのが丸わかりじゃないの。きっと、こんな蛮行をしたタリオ軍への憎しみが起きると思うわ」
シズは憤慨して言った。
すると、ゼノビアが歩きながら首を横に振った。
「ああ、違うのよ。略奪をしたのは、タリオ軍じゃないわ。タリオ軍に一番最初に投降したビンセット伯爵というカロリックの将軍よ。いえ、いまは侯爵だったかしら……」
「えっ? どういうことなの、お姉様?」
「だから、カロリック公国を暫定統治しているランスロットという若い将軍の命令らしいけど、これをしたのは、カロリックのビンセット将軍なのよ。だから同胞ね。実のところ、ランスロット将軍の名は表には出てないわ。この街の人たちはタリオ軍に襲撃されたと思ってないわ」
「えっ、そうなの?」
「タリオ軍が裏にあると教えたのは、あたしの握った情報によるものよ。民衆に耳を傾けたらわかるけど、彼らの怨嗟の対象は、タリオ軍ではなく、そのビンセント卿よ。それと獣人ね」
「獣人?」
意外な言葉を聞いたと思った。
一般に獣人族の地位は、どの土地でも、ほかの種族に比して低いのだが、このカロリックは、特に獣人差別が支配的な土地柄だ。
だから、獣人が虐げられているという印象はあるが、恨みの対象だというのはぴんとこない。
「ビンセント卿は、こういう襲撃の先鋒に獣人隊をとりこんでいるのよ。獣人たちはずっと差別されてきて、あちこちで虐待されていたからね。こういう機会を与えれば、人間族には容赦ないわ」
「じゃあ、これは獣人隊がしたことなの?」
シズは驚いた。
「全部ではないと思うけど、先頭には彼らがいるので、獣人隊の印象は強いようね。あたしが聞き込んだだけでも、人々の恨みはビンセント卿と獣人族に集まっていたわ。一時期は征服者のランスロット将軍への怨嗟の声が強かったけど、いまは専ら獣人隊ね。虐げられていた獣人を支配層に取り込んだのはランスロット将軍みたいだけど、計算してやっているなら、随分とうまいことを考えたと思うわね」
「そんなあ……。うまいことって、こんな残酷なことが? しかも、ランスロットという若いタリオの将軍は、自分の手を汚さずに、降伏をしたカロリック公国の者や獣人をうまく使って、タリオの統治に反対する者を容赦なく取り締まっているということなんでしょう?」
電撃のように始まったタリオ公国によるカロリック侵攻だったが、すでに十日ほど前についに、カロリックの公都が落城して、カロリック公国はすでにタリオ公国に降伏をしてしまっていた。
しかし、それでもまだタリオの支配に抵抗している勢力もいて、彼らに対する討伐はまだ南側の地域を中心に続いているという状況だった。
そもそも、十日前に行われたカロリック公都侵攻の際には、女大公のロクサーヌが逃亡していて、彼女の身柄がまだタリオ軍に渡っていないのである。
だから、大公府としては降伏に合意したものの、肝心の女大公が逃亡したままなので、侵略が完了したのかどうか、微妙な感じらしい。
だから、公国全体がまだまだ、戦争の真っ最中という感じのままなのだ。
もっとも、実のところ、ほとんどのことについては、シズには興味はない。
ただ、こんな酷い
「そういうことね」
ゼノビアは頷いた。
「なんて卑怯な男なのよ、そのランスロット将軍って……」
シズは憤慨して言った。
すると、横を歩いているゼノビアが苦笑のような表情を浮かべたのがわかった。
「だってタリオ公国は征服者よ。支配を確かにするためには、どうやったって、最初は容赦のない処置がいるのよ。それを自分たちでするわけじゃなく、この国の貴族を取り込んでやらせて、さらにその実行部隊に、この国で差別されていた獣人族を使うなんてうまいやり方よ」
ゼノビアは言った。
しかし、シズはゼノビアがこの惨状に理解をしたような物言いをしたことが信じられなかった。
「こんなことをした者の味方をするの?」
シズはびっくりした。
すると、ゼノビアが横からがばりとシズの肩を抱き寄せて、身体を密着させてきた。
「可愛いシズ、あたしだって、この惨い状況に納得しているわけじゃないのよ。ただ、ランスロットという将軍は、真面目な優等生的な性質だと聞いていたけど、征服者の立場に回ったら、本当に容赦ないのだなあと思っただけよ……」
ゼノビアが肩に回した手をシズの乳房に動かして、服の上からぎゅっと胸を揉んできた。
「あん、お姉様――」
思わず甘い声を出してしまい、シズは恥ずかしくて身体が熱くなるのを感じた。
ゼノビアが笑いながら、シズを解放した。
「もう、お姉様ったら」
シズは自分の胸を抱くようにしながら、ゼノビアに向かって頬を膨らませた。
「ふふふ、それよりも、クエストのことよ。シズも知ってるとおり、ここ廃墟の聞き込みでは有力な情報には当たらなかったわ。別の街に移動するわよ」
ゼノビアがさらに笑い声をあげた。
シズは頷いた。
シズとゼノビアがカロリック公国にやってきたのは、ハロンドール王国の冒険者ギルドによる指名クエスト、つまりは、あのミランダから命令された特別指令のためである。
すなわち、ハロンドールの南部地域に自領を持つ女伯爵のテレーズ=ラポルタとそのひとり娘の令嬢を探すというクエストであり、その行方を追っているうちに、このカロリック公国にやってくることになったのである。
女伯爵のテレーズ=ラポルタといえば、ハロンドールの王都にるルードルフ王付きの女官長としてやってきてから、短い期間で国王をそそのかして悪政に導いた悪女だ。
いまや大混乱になっているらしいハロンドールの騒乱の元凶のような女である。
ところが、そのテレーズは実は偽者であり、本物の女伯爵と令嬢は実は行方不明になっているというのがミランダの話だった。
半信半疑だったが、ラポルタ領に向かって調べたところ、確かに、本物の女伯爵らしき人物が領地から密かに連れ出されて、どこかに向かった形跡があったのだ。
つまり、ミランダの言葉のとおり、誘拐されて奴隷として売られたらしいその人物が存在しており、しかも、彼女たちは本当に女伯爵と令嬢のようだったのだ。確かだと考えるに値する証拠も見つけた。
それから、ゼノビアとともに彼女たちの行方を追って進むうちに、カロリック公国にやってきて、運悪くこうやって、タリオ軍によるカロリック侵攻に巻き込まれてしまったということだ。
それはともかく、このカロリックに入ってから、ゼノビアは本物の女伯爵を追いかけるための情報集めだけではなく、タリオ公国とカロリック公国の戦いについての情報を積極的に集めるということをしていた。
だから、街の噂だけでないタリオ軍やカロリック政府の内情のようなことにかなり精通しているようなのだ。
どういう伝手があるのか知らないが、大公府内の情報を集める手段があるらしく、カロリックに入ってからは、冒険者ギルドをはじめとして、酒場などでも情報屋らしき人物と幾度も接触をしているのに接した。
それは、本物のテレーズ探しに役に立つというよりは、ゼノビア自身の好奇心によるもののように感じてはいるが……。
「まあ、ここで手掛かりがなかったわけじゃないけどね。後で教えるわ。いずれにしても、この街には女伯爵と令嬢はいないわ。それだけは確かよ」
「えっ、情報が?」
シズは街の外に向かって歩きながら、ゼノビアを見た。
聞き込みは二手に分かれてやったが、有力な情報にゼノビアが触れていたのは知らなかったのだ。
「ええ、とにかく、後でね……。どっちにしたって、女伯爵が売られた娼館がここにあるというのは偽情報だったわ。やっぱり、ほかの情報に向かうことになるわね」
ここにやってきたのは、女公爵が秘密裏に売り飛ばされた場末の娼館がこの街にあるという情報を掴んだからだ。
テレーズ親娘が売られた先というのは幾つかの候補があり、このシャロンはそのひとつだった。
しかし、こうやってやってくると、売られたどころか、街そのものが残っていなかった。娼館のあった場所に向かい生き残っている者に食料と交換で話を聞いたが、どうやら、ハロンドールから連れてこられた人物はいないみたいだった。
ただ、いまの話によれば、ゼノビアはゼノビアで、なにかの有力な情報を掴んだらしいが……。
「わかった、お姉様……。だったら、早くこの嫌な場所から抜けましょうよ……。だけど、このクエストって、報奨金もらえるのよねえ……? ハロンドールの王都って、かなり混乱しているみたいだけど……」
シズは嘆息した。
ハロンドールから離れているシズたちだったが、ハロンドール王都の混乱は耳に入ってくる。
情報も錯綜しており、どこまで本当かもわからないのだが、あの美人で無邪気そうだった神殿長のスクルズがルードルフ王によって処刑され、それをきっかけに王都では大規模な暴動が起きかけたという。
しかも、それこそ眉唾物だが、スクルズが暴徒たちの目の前で天空神に召還されたといい、王都では彼女こそ、天空神の
しかし、あの外面はいい淫乱巫女の内実を知っているだけに、シズも、スクルズ御使い説には眉をひそめたくなる。
まあ、処刑されたのは可哀想だとは思うが……。
さらに、王都内の貴族夫人や令嬢が王宮に集められ、それを王が凌辱していて、その映像が毎日のように王都に流れているとか、王国の南部では大規模な賊徒の叛乱があり、大きな侯爵領が賊徒の支配に陥ったままだとか、信じられないことばかりだ。
とにかく、大混乱だということだけはわかる。
しかし、こっちの冒険者ギルドを通じてミランダと連絡を取りたいと思っても、シズたちが出立するときにはすでに地下に隠れていたミランダには魔道通信を繋げる方法が見つからない。
本当にどうなっているのか……。
「まあ、それについては、ただ働きにならないように祈るばかりね。最悪、女伯爵を救出するんだから、伯爵自身が礼金は出すでしょうし」
「でも、奴隷の首輪をされて、一介の性奴隷として売られてるんでしょう? 見つけたのが本物のだとしても、とって変わられているんだったら、なにもかも失っているかもしれないわ……」
シズは言った。
すると、ゼノビアが考え込む感じになり、しばらくしてから困ったように溜息をついた。
「……最悪は、ロウ殿に礼金を肩代わりしてもらうわ。ミランダはロウ殿の女なんだし、ロウ殿が元気で生きていることもわかったしね。エルフ女王の恋人としてね……」
ゼノビアが言った。
ロウの居場所がナタル森林内のエルフ族の都だとわかり、しかも、エルフ女王のガドニエルを恋人にしたとわかったのは、数日前のことだ。
女王の魔道で大陸中に流れた英雄式典の映像をシズとゼノビアもこっちの冒険者ギルドの中で視聴したのだ。
知らないあいだに、向こうでとんでもない陰謀に巻き込まれていたということにも驚いたが、あのガドニエル女王が世界中の者たちに姿を現し、しかも、人間族のロウに映像の中で堂々と口付けを交わしたのには、自分の頭の方がおかしくなったのかと思った。
しかし、事実なのだ。
いまや、ロウ=ボルグというシズたちを犯したあいつは、大陸で最も有名な人間族かもしれない。
「ロウさんに、早く会いたい気もするね……」
シズはなんとなく言った。
あんなに怖い目に遭わされたロウだったが、しばらく会えないでいると、妙にロウが懐かしい。
会いたい。
身体の奥底がなんとなく落ち着かないのだ。
どうしてこんな気持ちになるのか、自分でも理解できないが、いまはとてつもなくロウがいとおしい気さえする。
身体が疼くのである。
ロウたちがハロンドールの王都を出ていって以来、ずっと身体の奥底にある芯のような場所がぶすぶすと焼けるような、あるいは子宮の奥が痛むような心地の悪い疼きが続いていた。
ずっと、この気持ちの悪さの正体がわからなかったが、あのときロウの映像を見たことで、シズはロウに犯されたあのセックスを求めているのだと悟ってしまった。
その日の夜、ゼノビアに隠れて、ロウのことを考えながら自慰をした。
ゼノビアとの情交と勝るとも劣らない快感に襲われた。
心はともかく、身体については、悔しいけどロウに凌辱されたあのセックスが忘れられないのだとわかってしまったのだ。
すると、突然に、再びぐいとゼノビアからいきなり抱きしめられた。
「きゃっ、お姉様──」
シズは戸惑って声をあげた。
「ひどいわねえ。あたしという恋人がいるのに、あいつのことを想うなんてね。こんな裏切りを受けるなんて寂しいわ」
ゼノビアが、シズを抱き締めながら、拗ねたような口調で言った。
シズははっとした。
「ち、違うの、お姉様――。も、もちろん、お姉様が一番なの。ほ、本当よお」
「うーん、じゃあ、二番はロウ殿なのね。この浮気者めえ――」
ゼノビアの憤慨したみたいな言葉で、シズは自分の失言に気がついた。