※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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653 顔を隠す女(その1)

 シズはくたくただった。

 体力も気力もだ。

 

 やっと荒縄の「縄渡り」から解放されたのは、すでに八回もの浣腸を受けてからであり、縄瘤を進みながら何度も気をやってしまっていた。

 浣腸で膨れあがった腹から、汚物をまき散らさなかったのが奇跡なくらいだ。

 排便は許されたが、それはあの三人が見ている前だった。部屋の真ん中で木桶にさせられたのである。

 そして、ディルドでお尻を代わる代わる犯された。

 これで満足したのか、ネットという貴族女たちは、コンシェルを呼び出して、部屋を立ち去ってくれた。

 コンシェルというのは、闇娼館のこの層の支配人であり、客とのやり取りや娼婦の管理、さらに働いている男衆の取りまとめをしている男である。いわば、この層全部の責任者だ。

 

 いまは、コンシェルも、彼が連れてきた男衆もおらず、シズと、客が帰ったと連絡を受けて迎えに来たシズの世話女のローヌだけだ。

 そのローヌは、いま客たちの去った部屋の片付けをしており、シズはそれを待っているところというわけだ。

 縄の拘束も解かれているし、身体を包む袖のないローブで裸身を覆っている。シズはそのローブで身体を包んで部屋の隅にうずくまっている。

 いつもであれば、ローヌはシズを個室に戻してから、ひとり戻って客室の片付けをするらしいが、今日については、先に始末してくれとシズが頼み込んだのだ。

 

「終わりました、シズ様……。やっぱり、あとの掃除は、シズ様にお休みになっていただいてから……」

 

 ローヌが戻ってきた。

 彼女がやっていたのは、シズが糞便をさせられた木桶の中身の片付けだ。それだけは、すぐに始末してくれとシズが頼んだのだ。

 シズは頷いて、立ちあがる。

 いつもそうだが、客の相手をさせられた直後は、身体がだるい。

 媚薬の影響も残りまくっているし、なによりも、体力と気力が根こそぎ削られてしまったような気怠さに襲われる。

 

 いつまでこれを続ければいいのか……。

 しかし、この生活にも次第に慣れ始めている。そういう自分の心の変化にも、シズは気がついており、そのことに不安と小さな恐怖を感じだしていた。

 

「ありがとう、行くわ」

 

 シズは立ちあがった。

 今日は、昨日の午前中まで相手をしたマクリーヌ兄弟のときのような死ぬような疲労感はなく、なんとか自分で歩き戻ることができそうだ。

 それでも、ローヌはシズに肩を貸すように、シズを抱え持った。

 シズは、ローヌに半身を支えてもらいながら、廊下に出る。

 

 そのときだった。

 大きな喧噪が聞こえたのだ。

 シズは声の方向に意識を向けた。

 

 獣人の娼婦……。

 折檻娼婦……。

 客……。

 追加料金……?

 

 そんな言葉が聞こえる。

 はっとした。

 さっきのネット夫人たちだ。

 どうやら、あの三人が廊下で騒ぎを起こしているみたいだ。

 なにかあっただろうか……?

 

「えっ、ルカリナ?」

 

 すると、横でローヌが声をあげた。

 そうか……。

 獣人の娼婦といえば、ローヌとともに、この闇娼館の奴隷狩りで捕らえられたという獣人戦士だ。シズ同様に、折檻奴隷と言っていたっけ……。

 ローヌとそのルカリナは、もともと二人連れの旅をしていて、それで戦火からから逃れようと移動をしているうちに、運悪く、ここの連中に捕らわれたという話だった……。

 

「行くわよ」

 

 シズは喧噪の方向に足を向けた。

 

「あっ、でも……」

 

 しかし、ローヌはちょっとだけ、戸惑った態度を示した。

 シズを個室に戻すのが最優先だとも思ったのかもしれない。

 だが、シズは迷わなかった。

 怠い自分の身体に心の中で叱咤し、騒ぎの現場に向かった。

 今度はローヌも逆らわなかった。

 そのままふたりで向かう。

 

 果たして、そこには、獅子を思わせるような筋肉質の背の高い獣人族と、昨日、シズを部屋に運ぶのを手伝ってくれたミリアがいた。

 あの獣人女がローヌの連れだったルカリナだろう。

 シズと同じような袖のないローブを身につけている。その下は裸っぽい。

 ルカリナは、銀色の髪がくせ毛とともに波打っていて、雄獅子を思わせた。だが、女だ。

 ローブの隙間からは、彼女の豊満が乳房がちらちらと垣間見えている。

 

「だ、か、ら、このルカリナはあがりなんです。お客様はとりません。お帰りください──。邪魔です」

 

 ルカリナの前に立ち、三人の客たちに怒鳴っているのはミリアだ。

 小さな童女のミリアが、大きな獣人女のルカリナを庇っているのは、なんとなく滑稽な感じだが、シズたち娼婦は客には絶対服従の命令を受けているので、なにもできないのだから仕方がないのだろう。

 だが、おそらくルカリナだと思う獣人女は、とても怯えたように顔を必死に隠すような仕草をしている。

 逆らえない客から、せめて身を守るようにするのは当然なのだが、シズにはルカリナが顔を見られたくなくて、必死になっているように感じだ。

 あそこまで顔を隠すのは、なにかあるのだろうか?

 少しだけだが、不思議に思った。

 

 いずれにしても、どうやら、あのネット夫人たちは、獣人の折檻娼婦であるルカリナに、相手をしろと詰め寄っているみたいだ。

 そういえば、彼女たちは、もともと獣人のルカリナをあがないにきたが、ルカリナが空いていないので、シズを買ったと言っていた。

 そして、帰り際に、客の相手が終わって個室に戻る途中のルカリナを偶然に見つけて、いまのような騒ぎになっているのだろう。

 それにしても、男衆がいない。

 客とはいえ、案内もなしに、客が自由に娼館をうろつくことを許されていたのは、とても違和感があった。

 男衆はどうしたのだろう?

 

「待って、これはどういう騒ぎなんですか?」

 

 シズは割って入った。

 ネット夫人たちは新たな乱入者にちょっとだけ戸惑った感じになったが、相手がシズだとわかって、すぐに蔑むような表情に戻る。

 

「あらあら、誰かと思えば、さっきのエルフじゃないのよ。あんたはもういいのよ。排便までする姿を見せられたら、もう可愛がる気にはならないの。どっか行きなさい」

 

 ネットが犬でも追い払うように手を振る。

 排便姿を晒すことになったのは、こいつらがシズに浣腸をして厠に行くことを許さなかったからだ。

 その屈辱と怒りが込みあがる。

 

「とにかく、お帰りください。それよりも、ご案内はどうしたのでしょうか? どうして、お客様たちだけなのですか」

 

 シズは言った。

 いまはミリアとともに、ルカリナという獣人女を庇うように立っている。

 一方で、ローヌがルカリナに抱きついている。なにかひと言ふた言、素早く会話をしたみたいだが、ローヌが感極まって泣き出してしまってもいる。

 そういえば、昨日、話に行くとかいっていたけど、ミリアが逃亡してしまったから、それも果たせなかったのだろう。

 久しぶりの再会というわけだろうか。

 

「案内はいないわ。随分と顔色が悪そうで、何回も厠に行っていたけど、戻らないから勝手に帰ろうとしたのよ。だけど、運がいいわあ。獣人の折檻娼婦を見つけられるなんてね。だから、相手をしなさい。料金は払うと言っているでしょう。早く、客室に案内しなさい、お前」

 

 ネットがミリアに言った。

 すると、ミリアが憤慨したように大きく両手を横に拡げた。

 

「ルカリナは、お客様の相手が終わったばかりです。お求めになられるなら、明日以降、改めておいでください。いまはだめです」

 

 ミリアが怒鳴った。

 

「さっきから、うるさいわねえ、ネット夫人に向かって──」

 

 すると、ネット夫人とともにいた取り巻き女がいきなり、ミリアの頬をひっぱたいた。

 

「きゃああ」

 

 ミリアがシズの反対側に飛ばされる。

 

「ミリア──」

 

 ルカリナたちに詰め寄ろうとしたネットたちのあいだに、とっさにシズは身体を割り込ませた。

 

「お前も邪魔するのかい──。いいから、どきなさい。汚らわしい娼婦は勝手に自慰でもしてなさいよ。邪魔をするんじゃないの、命令よ──」

 

 ネット夫人が苛ついて金切り声をあげた。

 だが、“命令”という単語に、シズの身体が反応してしまう。

 シズの手がローブのあいだに勝手に入って、股間をいじりだしたのだ。

 

「あっ、やめっ、ああっ」

 

 シズは女の反応をしてしまった。

 一瞬だけネット夫人たちは、呆けたようになった。

 だが、すぐににんまりと微笑む。

 

「へえ、もしかして、まだ“命令”に反応するの? じゃあ、命令してあげるわ。この獣人女を拘束して、客室に鎖で繋げなさい。自慰はやめていいわ。命令よ」

 

 ネット夫人が言った。

 シズの身体は、“命令”に従いルカリナを捕らえるために、向き直ってしまった。

 

「こ、この場から逃げて──」

 

 シズは絶叫した。

 そのとき、横からなにかが当たる。

 ミリアだ。

 シズに体当たりしてきたのだ。

 

「ルカリナ、とにかくここは逃げてお部屋に──。ローヌさん、ルカリナを……」

 

 ミリアがシズを羽交い締めしながら叫んだ。

 ルカリナを捕らえよとは命令されているが、ミリアを排除しろとは命令されていない。

 だから、シズの身体はルカリナを捕まえようと手は伸ばしているが、ミリアを排除しようとしない。だから、ミリアに抱えられたことで、ルカリナを捕まえることは免れてた。

 ローヌがルカリナの手を引っ張って、この場から脱しようとする。

 

「獣人は動くな。わたくしたちは客よ。とまりなさい──」

 

 そのとき、取り巻きが叫んだ。

 すると、ルカリナの身体がぴたりと静止してしまった。

 

「ああ、ルカリナ──」

 

 ローヌが悲鳴をあげた。

 

「ああ、なんでだ……」

 

 一方でルカリナは口惜しそうな顔をしている。

 やはりだ。

 シズ同様に、このルカリナもこの闇娼館の娼婦なので、客には服従するように、あらかじめ“命令”をかけられている。

 ネットの取り巻きが客だと叫んだので、その命令が有効になってしまったのだ。

 

「なんの騒ぎだ──。お前ら、全員じっとしろ。直立不動──。身体は真っ直ぐに手は横──。命令だ──」

 

 そのときだった。

 不意に男の声がした。

 男衆たちだ。

 ふたりいる。

 やっと騒動に気がついてやってきたのだ。

 だが、随分と顔色が悪い。

 蒼白くなっていて、なにか苦しそうだ。

 それはともかく、客の命令よりも、男衆の命令が優先する。これも奴隷の首輪を通じて与えられている刻みだ。

 

 ミリアと取っ組み合う感じになっていたシズの身体が、言われた通りに真っ直ぐになる。

 また、ミリアも同じだ。

 客への服従の暗示はかけられていない世話女だが、男衆には別だ。絶対に逆らわないように奴隷として暗示を掛けられている。

 ミリアもシズと同じように身体を真っ直ぐにした。

 もちろん、ローヌとルカリナもだ。

 四人でその場でぴんと背を伸ばして立つ状態で動けなくなってしまった。

 

「どうしたんですか? ご案内の者は?」

 

 男衆のひとりがネット夫人たちに声を掛ける。

 

「知らないわね。待っているあいだに、厠に行くと言って、それっきりよ。それよりも、この獣人女を買うわ。いまから半日──。料金は倍払う。それと、あんたたちにも、特別に酒代をね……。どうかしら?」

 

 ネット夫人が言って、持っていた鞄からなにかを出した。

 金貨だ。

 それを一枚ずつ渡している。

 男衆が相好を崩した。

 

「ルカリナは、客相手が終わったばかりなんですが、まあいいでしょう。おい、ミリア、ルカリナを連れていけ。五番の部屋でいい……。残りは解散だ。シズとローヌは行け」

 

 男衆が言った。

 別の指示を与えられたので、金縛りからは解除された。

 一方で、横のミリアが口惜しそうな表情になるのがわかった。

 

「そ、そんな……。ルカリナはお客様の折檻でくたくたで……。コ、コンシェル様を……。コンシェル様に訊いてください。続けてなんて、ルカリナが壊れてしまいます」

 

 それでも、ミリアが声をあげる。

 

「やかましい──」

 

 男衆が苛ついたように、ミリアに向かって蹴りを飛ばす。

 シズは、またもや身体をミリアの前に入れた。

 

「んぐうっ」

 

 刃向かうことはできないが、このくらいのことなら抵抗も可能だ。

 ミリアの代わりに蹴り飛ばされたシズは壁に飛んだ。また、蹴り飛ばされながらも、身体を捻ってミリアにぶつかることは避ける。

 壁にぶつかって頭を打ちつけた。

 まともにぶつかりすぎて、一瞬、頭が白くなりかける。

 

「ああ、シズ様──」

 

 ローヌだ。

 彼女に駆け寄られて抱えられる。

 

「ああ、そんな」

 

 ミリアも来た。

 

「ちっ」

 

 一方でシズを蹴り飛ばすかたちになった男衆が舌打ちをした。

 しかし、改めて見ると、やはり、どこか具合が悪そうだ。もうひとりの男衆も元気がない。

 

「いいから、ルカリナは客室に行け──。命令だ。ほかの三人は懲罰だぞ。特にミリアだ──。もう二年縛りの特権はきかねえぞ。なにしろ懲罰だからな──」

 

 もうひとりの男衆が言った。

 二年縛りというのがなにかは知らないが、そういえば、二年間については、ミリアには客の相手をさせないという魔道契約をしたとか口にしていた。

 そのことだろうか?

 

「ねえ、待って、とまって──。その獣人の顔を見せて──」

 

 そのとき、ネット夫人が叫んだ。

 男衆が“命令”でルカリナを留める。

 どうしたのだろう?

 

「もしかして、大公様付きの護衛戦士じゃないの? いま行方不明になっているロクサーヌ様についていた……。いや、間違いない。なんでここに?」

 

 そして、悲鳴をあげるように叫んだ。

 大公ロクサーヌ付きの護衛戦士?

 シズは呆気にとられた。

 ロクサーヌ大公といえば、タリオ公国がカロリックを征服したときに行方不明になってしまった少女大公であり、その身柄を捕らえようと、タリオ軍だけでなく、タリオの息のかかった新しいカロリック傀儡政権も大きな賞金をかけていた。

 しかし、いまだに捕らえられたという話は耳にしない。

 その大公の護衛戦士がルカリナ?

 そういえば、そんな身体をしているが……。

 だが、ルカリナがそうだとすれば、まさか……。

 

 シズはローヌに振り返った。

 彼女は醜い火傷の傷のために、ずっと顔を隠しているが……。

 

「ち、違う──。そんな者で、ない──」

 

 ルカリナが言った。

 

「いや、間違いないわ。大公の護衛戦士よ……。こいつがここにいるなら、あの女大公もどこかにいるわね。お前が大公のそばから離れるわけないもの……。もしかして……」

 

 ネット夫人が言った。

 そして、彼女もまた、ローヌを見た。

 

「ねえ、お前、ちょっと布をはぐってよ」

 

 ネット夫人が言った。

 すると、明らかにローヌが怯えたようになった。

 また、ルカリナがそのローヌを庇うように、ローヌの前に立つ。

 

「ま、待って。違う──。人違い」

 

「なにが違うのよ──。いいから、おどき──。こいつの布を剥ぐのよ──」

 

 ネット夫人が叫んだ。

 

 そのときだった……。

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