【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
人が少ない──。
駆けながらシズが思ったのは、それだ。
ターナーと呼ばれていた仮面の女が、男衆が口にするものに細工をしたのは事実なのだろう。
それで、誰も彼も蒼白い顔をしているのだと思った。
階段を駆けあがり、一番上の地下層まで辿り着くのに、それほどの時間はかからなかった。
ターナーに教えられたブレイドの居場所を探す。
ふたりの男が扉の前にいる。
シズは物陰に隠れながらそれを観察した。
あそこだ。
間違いない──。
シズは確信した。
そのとき、かすかだが女の悲鳴が聞こえた。
はっとした。
ゼノビアの声――。
シズはあたしのものよ──。
聞こえた。
ゼノビアがそう泣き叫んでいるのだ。
胸が熱くなった。
気がついたら、飛び出していた。
身体にまとっていた袖のないローブは脱ぎ捨てる。
邪魔だ──。
シズは素っ裸で跳躍した。
やはり、男たちの顔色が悪い。そのせいか注意力も散漫のようだ。
シズが近づくまで、ふたりとも気がつかなかった。
間近になってやっと、突然に襲いかかった裸体の女に驚いたのか、仰天した顔になる。
シズは、ひとりのこめかみを肘で打ち、もうひとりの眉間に拳をたたきつけた。
ほとんど同時だ。
やはり、身体が動く。
シズは、以前ロウに犯されてから、異常なくらいに自分の身体の調子がいいことにずっと気がついている。
いまもそうだ。
こんな体術、以前にはできなかった。
だが、いまはやろうと思うとできる。
ふたりが崩れ落ちた。
殺すつもりで急所に打擲を叩き込んだが、死んだのかどうかはわからない。
扉を勢いよく開く。
中を確かめようとも思わなかった。
躊躇わない。
だって、ゼノビアの泣き声が聞こえたのだ。
果たして、ゼノビアがいた。
床に四肢を拡げて拘束され、局部を糸で吊られて裸体を弓なりにされている。だが、身体中が傷だらけだ。
火傷のような痕もあちこちにあり、それらが治療もされることなく、そのままになっている。
そして、泣き叫んでいた。
頭に血が昇る。
部屋に男は三人──。
ふたりはゼノビアの局部に手を伸ばしていて、残りのひとりはこちらに背を向けるように、小さな木椅子に座っている。
あれが、ブレイドだ。
そのブレイドがゆっくりと振り向く。
身体が動いていた。
ブレイドの首を両手で抱え込む。
力の限りねじ切った。
ごんと音がして、首の骨が折れる感触が伝わる。
ブレイドが脱力した。
「うわっ」
「なんだ──」
男ふたりが立ちあがる。
だが、そのときにはシズは手近な男の腰から短剣を引き抜いていた。
手前の男の腹に短剣を刺す。
「うごっ」
男が倒れる。
短剣はそのままで、もうひとりに飛びかかる。
力の限りに睾丸を蹴りあげた。
「んぐおおおおおお」
足先にぐしゃりという感触が伝わった。
そいつは、絶叫とともに白目を剥いて倒れていった。
「お姉様──」
シズはひとりの男の腹に刺さっている短剣を引き抜いた。
血が噴き出したので、男の身体を蹴り飛ばして遠くにやる。
ゼノビアの局部を吊っている糸に剣を一閃した。
「くっ」
ゼノビアが絶息するような音を口から吐くとともに、身体を床に脱力させた。
「ああ、お姉様、大丈夫──?」
シズは泣きながら、ゼノビアの四肢を縛っている縄を次々に切断していく。
自由になったゼノビアを抱きしめる。
「こんなになって、お姉様──。死なないで、お姉様──。しっかりして」
ゼノビアを抱きしめ呼びかけるが反応がない。
しかし、ゆっくりと眼が開かれだした。
「シ、シズ?」
ゼノビアが信じられないものを見たという顔をした。
「シズなの……? 本当?」
小さな声だがゼノビアがシズの名前を呼んだ。
それだけで、シズは感極まった。
そのゼノビアの眼が大きく見開かれた。
次の瞬間、シズは強い力でゼノビアに突き飛ばされていた。
「あぎゃああああ」
ゼノビアが絶叫した。
ブレイドだ。
よろめきながらも、棒のようなものをゼノビアの胸に突きつけている。
電撃棒──?
拷問用の魔道具だ。
先から強い電撃を発生するものであり、シズも懲罰と称して、一度それでいたぶられたことがある。
娼婦の身体に傷つけることはないが、電撃で激痛を与えることができるので、男衆が娼婦に懲罰をするときに使っていた。
シズは、それを局部に何度も当てられて、男衆に服従する言葉とともに、自分が愚かだということを連中が満足するまで繰り返し絶叫させられたのた。
一瞬にして、あの屈辱を思い起こしたが、ゼノビアに当てられている電撃棒は、じゅうという音を出して、ゼノビアの肌を焼いている。
どこまでの高出力にしているのだ──。
だが、なぜ──?
ブレイドの首の骨は確かに折った。
生き返った?
いずれにしても、ブレイドはシズの背中に電撃棒を突きつけようと思ったのだろう。
ゼノビアがシズを跳ね飛ばしたので、ゼノビアがそれを当てられることになったのだ。
「うがあああ」
だが、次の瞬間、ブレイドの腕が燃えあがった。
びっくりしたが、ゼノビアだ。
ゼノビアが魔道を放ったのだ。
どうやって?
ゼノビアは魔道を封じられていなかったのか?
とにかく、考えるよりも先に動いた。
放り出してあった短剣を床から拾い、腕が燃えて床で暴れているブレイドの首に押し込む。
首が胴体と分離して、今度こそ絶命する。
「ああ、お姉様──」
シズは、剣を投げて、ゼノビアを再び抱きしめた。
乳房のひとつが真っ黒焦げになっている。
泣きながら、崩れそうなゼノビアを支えた。
「シ、シズ……お、覚えいておいて……。ゆ、有能な魔道士は……、命を守る魔道具を……隠していることが多い……。完全に息の根をとめるまでは……油断しないのよ……」
ゼノビアの眼が開いて、口元がにんまりと微笑んだ。
よかった──。
生きている──。
シズは安堵した。
「ああ、わかった。わかりました、お姉様、肝に銘じます──。ありがとう──。ああ、お姉様」
シズは泣きじゃくった。
自分に魔道が遣えればいい。
いま、ゼノビアを治療してあげたい。
心から思ったが、シズは治療薬どころか、なにも持っていない素っ裸だ。
ゼノビアを抱きしめることしかできない。
「だけど、どうして魔道が?」
シズは不思議に思って訊ねた。
すると、シズ脳での中のゼノビアが不適に微笑んだ。
「……は、腹に……魔道封じの紋様を打たれたけどね……。連中が繰り返し……肌を焼いたり、鞭で引き裂いたりするので……魔道封じが弱くなってたのよ……。だけど、隠してたの……。ブレイドにも……魔道をそのことから意識をそらせる魔道を掛けたりして……」
ゼノビアが言った。
びっくりして、ゼノビアの示す下腹部の紋様というものに視線をやったが、確かに紋様のあちこちが傷で切断されているように見えた。
魔道のことはわからないが、それために、完全ではないが無効になっていたということか?
そうだとすれば、疑念が走る。
「だ、だったら、どうして逃げなかったの、お姉様?」
不思議に思ったのはそれである。
魔道が復活していたのであれば、逃亡すればよかったのではないだろうか……?
「そ、そこまでの隙はなかったしね……。あのブレイドがほとんどつきっきりで……。それに、あんたが助けに来ると……信じてたわ……。もともと、あんたが汚れるのに……あたしだけ、きれいでいるつもりはなかったのよ……。あたしも一緒に汚れるつもりだった……」
ゼノビアは笑った。
シズはゼノビアをさらに力強く抱きしめた。
そのときだった。
人の気配がして、慌てて振り向いた。
しかし、そこにいたのは、仮面の女のターナーだった。
扉のところから、こっちを見ている。
右手に血の付いた剣を持っているので、どこかで斬り合いでもしたのだろう。
「呆れた冒険者さんだねえ。なにも持たずに飛び出すなんてねえ。まあ、だけど、うまく仲間を助け出したみたいだね。ブレイドは、そこそこの魔道遣いだったんだよ。それを簡単にやっつけるなんて、あんたは思ったよりも、すごい戦士だったんだね」
ターナーが笑った。
そして、剣を持っている手とは反対側に持っていた大きな布をこっちに放った。
ゼノビアを一度離してそれを受け取ると、身体を包むほどの大きな布だった。どこかから手に入れてきてくれたのだろう。
「シズ、逃げるよ。客層で仕掛けていた煙り玉をあちこちで作動させた。こんな地下層で火事でもあれば、全員死ぬしかない。実際には煙だけなんで問題ないんだけど、いまは大騒ぎになっている。いまなら、問題なく逃げられる。大公たちは、ミリアとケイトに誘導させて先に行かせたわ。残りはあんたらだけよ」
「助けに来てくれたの?」
シズは驚いて言った。
すると、ターナーは肩をすくめた。
「もともと、ブレイドは殺すつもりだったんだ。ここの娼婦は誰も彼もが、ブレイドを“主人”とする隷属を結んでいる。だから、こいつさえ殺せば、娼婦の隷属は消滅するんだよ。その点でもいまは大騒ぎだろうさ。いずれにしても、こいつを殺さないと、あたしのミリアとケイト、さらに、あの女伯爵たちも自由にならないしね」
ターナーが再び笑い声をあげた。
何者かは、いまだにわからないが、信用してもいいのかもしれない。
シズは思った。
「だ、誰、こいつ……? しかも、大公って……? それと……女伯爵って、ラポルタ女伯爵のこと?」
ゼノビアは怪しむような口調で言った。
シズはターナーから受け取った布でゼノビアを包みながら、ゼノビアに微笑みかける。
「後で話すわ、お姉様……。もっとも、あたしもよくわからないんだけど……。だけど、敵じゃないわ。とりあえず、いまは。あたしも助けられたの……」
シズは言った。
ゼノビアはまだ不審そうだ。
しかし、いまは逃げることだ。
ゼノビアを抱え立たせて、背中に掴まらせる。
「ついてきなさい。ゼノビアだっけ? あんたもつらいだろうけど、いまは我慢して。隠れ処に治療薬もある。それと、シズ――。もうひと踏ん張りよ」
「わかった」
シズは頷いた。
廊下に出る。
確かに、視界を塞ぐほどじゃないが煙がたちこめている。
あちらこちらから叫び声も聞こえる。
廊下の燭台はところどころが消えていて、走れないほどじゃないが薄暗い。
騒然とした気配が伝わってくる。
「こっちよ」
ターナーの声がする方向に、ゼノビアを負ぶったまま走る。
導かれるまま走る。
しばらくすると、突き当たりになった。
だが、ターナーが壁の一部に触れると、そこに隠し扉が現れた。
通り抜ける。
すると、先に明るい光が漏れる場所が見えた。
その近くには、三人の男たちが床に倒れている。
シズたちがそこに辿り着くと、剣を持ったミリアがいた。
「驚いたわねえ。これはミリアが倒したの?」
ターナーがミリアに話しかけた。
「はい……といいたいところですけど、ふたりはルカリナさんが。でも、ひとりはわたしです」
「あっ、そう。それで、ほかの者は?」
「ルカリナさんが守りながら転送先で待っています。大公様と女伯爵さんたちも一緒です。女伯爵さんたちは、ここを出たくないと随分と騒いでましたが」
「あいつら、まだそんなことを言ってんのかい。もう一度引っぱたいてやる……。まあ、もっとも、その原因を作ったあたしには、怒鳴る権利はないのかもしれないけど……」
ターナーが困った口調で言った。
女伯爵たちというのは、テレーズ=ラポルタ母娘のことだろう。
もともと、ターナーたちは、シズたち同様に、その女伯爵母娘を助け出すために、この闇娼館に潜入していたのだ。
しかし、逃げたくないと言っている?
どういうこと?
いずれにしても、ほかの者は、先にここから転送して逃げたみたいだ。
目を向けると、この場所には移動術も紋様が床に刻まれている床がある。ここから外に出られるということだろう。
「ねえ、ターナー様……。だから、さっき言っていたわたしの懲罰はなしにしてくださいよ。わたしは頑張りましたわ」
ミリアが言った。
そういえば、調教のやり直しだとかなんとかと、ターナーがミリアに言っていたのを思い出した。
「だめええ。まあ、だけど、三日間にしてあげるわ。また、前後のディルドを挿入して貞操帯をしてすごしなさい。可愛がってあげるわね」
ターナーが笑った。
「そんなあ。あれ、つらいんです。また三日間、厠なしですか?」
すると、ミリアが泣きそうな顔になった。
「小さい方は許してあげるわ。あたしが気が向いたときわね。だけど、大きい方は我慢するのね。だって、塞がっているんですもの」
ターナーはけらけらと笑った。
「……なに、これ?」
ゼノビアがシズの背中で呆れたという声を出す。
まあ、シズも同意だ。
「いいのよ。ミリアとケイトは、あたしの大切な性奴隷なのさ。あんたらにとって、それぞれがそうであるようにね。ほら、転送紋の上に行って──。作動させるわよ」
全員で転送紋に載る。
ぶんと音がして、移動術独特の腹が捻れる感覚が襲ってきた。