【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「ね、ねえ、鎖を解いてよ、シモン殿」
クリスチナは両手を天井から吊り上げている鎖を引っ張ってみた。
だが、腕の付け根と革枷が装着されている手首に痛みが走るだけでびくともしない。
夕べから泊まっているモーリア男爵の屋敷の敷地内にある別宅だった。そこであてがわれた客室だ。
寝室とリビングが扉を挟んで繋がっている場所であり、クリスチナはリビング側の部屋の真ん中にあるテーブルの前の椅子に座らされ、目の前の朝食と向き合っていた。
だが、両手については天井の金具に繋がっている鎖から伸びている革枷の手錠を手首に嵌められていて、両手を束ねて頭側に大きく伸ばした状態で固定されてしまっている。
服は着ておらず下着だ。
下着といっても、乳房については、邪魔にならないように胸を締めつける冒険者用の胸巻きではなく、へそまでの丈もない薄物を一枚肩からかけているだけであり、下については両脇を紐で結んで留める隠す部分が乏しい小さな下着だ。
ほかに着るものは与えられなかった。
クリスチナのものではなく、この別宅に一緒に泊まっているロウの女たちが身につけるものを借りてきたようだ。
一応は新品だった。
エルフ女王家に伝わる特別な素材らしく、信じられないくらいに肌触りが気持ちいいのだが、とにかく布が薄い。
布地を通して乳房も桃色の乳首もはっきりと見えているし、陰毛だって透けている。
横にいるシモンがすでに正装を終わらせているだけに、自分だけがこんな扇情的な格好でいるのは恥ずかしかった。
「どうしたんだい、クリスチナ? まだ、皿に食事が残っているよ。せめて、スープは飲み干した方がいい。ほら」
すでに自分の朝食を終わらせているシモンが甘い声でスプーンにすくった温かいスープを口元に運んでくる。
さっきから続いている朝食だ。
しかし、自分の腕が使えないクリスチナは、こうやって、シモンからテーブルの上の食事を口元に運んでもらいながら食べるしかなく、シモンの介護による食事を続けているのである。
これもまた、恥ずかしい。
それに食事よりも切羽詰まったものが、クリスチナを追い詰めてもいた。
「だ、だから、食事はもいいわ。それよりも、そろそろ鎖を解いてよ」
クリスチナは言った。
そのあいだも知らず、露出している太腿は椅子の上で擦り合わせるように動いている。
切羽詰まっているのは尿意だった。
朝起きたときから、まだ厠に行っていない。
こういう状態になるまで頭が回っていなかったということもあり、用足しをするのを忘れていた。
また、その機会も与えられなかった。
起き抜けからずっとクリスチナは拘束状態にあり、自分で勝手に動くことをまだ許されていないのだ。
厠に行くためには、シモンに頼まなければならない状況だったが、さすがにそれを口にするのははばかられた。
だから、我慢をしていたが、シモンがクリスチナの拘束をいつまでも解く気配もないので、いよいよ状況が切迫してしまったというわけだ。
意識してしまうと、どうにもならなかった。
おしっこがしたいのだ──。
「問題ないよ、俺のクリスチナ……。着替えも食事も必要なことは全部俺がやってあげよう。君は貴族女性なのに、侍女を使って身支度をすることもないから、こうやって他人の世話をされるのも新鮮だろう」
シモンが柔和な笑みを浮かべながら言った。
そして、口元にスープを持ってくる。
仕方なく、それを呑み込む。
確かに貴族女よりは、女冒険者としての生活が長いクリスチナには、侍女などに世話をされて身支度をするという習慣がない。
なんでも自分でするのだ。
身につけるものだって、ひとりで着れないものはなにひとつない。
化粧だって、自分でする。
冒険者として野宿することも珍しくないので、鏡のようなものがなくても簡単な化粧ならお手の物だ。
だが、年に数回は実家の屋敷に戻ったりするので、そのときにはちゃんと侍女たちの世話にもなる。
しかし、どうでもいいけど、こうやって男に世話をしてもらうなど論外だろう。
ところが、シモンは存外に器用なたちらしく、クリスチナを拘束したまま、クリスチナの洗面も、髪の手入れも、軽い化粧支度だって上手にしてくれた。
そして、いまの朝食ということだ。
「そ、そりゃあ、新鮮だけど……。で、でも、もういいのよ。それよりも、わたしの服はどこに隠したのよ」
与えられた恥ずかしいこの下着を大人しく身につけたのは、なによりもほかに着るものがなかったからだ。
クリスチナは、着替えの一式を鞄に入れて、寝台の下に置いていた。普通の貴族令嬢なら、鞄から出して皺を伸ばすために衣装棚にでもかけるのだろうが、冒険者のクリスチナにはそんな習慣はない。
しかし、その着替えを詰めている鞄はなくなっていて、仕方なく与えられた下着だけをとりあえず身につけたのである。
「服はあとで着せてあげるよ。俺がね。着るものも持ってくる。でも、いまは食事だ」
シモンが今度はパンを千切って、クリスチナな口に寄せた。とにかく、シモンは上機嫌だ。
クリスチナは首を横に振った。
「ねえ、こういうのが好きなら、また相手をするから……。だけど、ちょっと外してよ。もういいでしょう」
「だめだよ、俺のクリスチナ。拘束されて雌犬になった君は、とても愛らしくて可愛かった。だから、しばらくのあいだ、君を雌犬として扱うことに決めたんだ。雌犬といっても、俺のやり方はひたすら可愛がることだけどね……。君はなにもしなくていい」
「なにもしなくても、いいっていっても……」
クリスチナにいま襲っている困惑は尿意だ。
それは代わりにしてもらうということにはならない。
クリスチナは腿をしっかりと締めつけた。
一方で、シモンは機嫌よく、口を開き続ける。
「……ロウ殿たちの出立は明日だから、もう一日ここに泊まる。そのあいだの世話は全部俺がするよ。例えば、鼻が痒くて掻きたいと思ったら、そう言えばいい。俺が君の手に代わりに鼻を掻いてあげるさ」
シモンがパンの欠片を皿に戻して、クリスチナの鼻を掻く仕草をした。
「や、やめてっ、いまは鼻はいいのよ──」
クリスチナは顔を横に避けて思わず言った。
大きく身じろぎしたので、手首の手錠に繋がっている鎖がじゃりんと音を立てる。
シモンが笑い声をあげた。
「だったら、せめてスープだ。君は朝が苦手だから、朝食はあまりとらないかもしれないけど、このスープは絶品だよ。栄養もあるらしい。エルフ族の女兵が作ったらしいけど、なかなかにおいしかったよ」
「お、おいしいのは認めるけど……」
クリスチナは困ってしまった。
夕べは、拘束をされて雌犬ごっこをして、このシモンを相手にとんでもない痴態をさらしてしまった。
どうして、あそこまで興奮したのかわからないほどだ。
自分のやったことを思い出すと、いまでも身悶えするような羞恥が込みあがる。
とにかく、ロウの相手をして、被虐的な性愛などをして、その後でロウの女たちの前で、ロウの女を相手に躾けられるという遊戯をやったことで、頭も身体もおかしくなってしまっていたのだろう。
あの後、シモンに首輪を装着されて、この客室に連れて来られ、拘束をされて淫具や媚薬なども受け入れ、文字通り気絶するまで愛された。
醜態には間違いないが、その代わりに、クリスチナとしても、異常なほどに燃えあがった。
おそらく、解放されたのは夜中をすぎていただろう。
久しぶりに冷静さを失うほどに愛し合い、シモンもクリスチナもかつてないほどに、お互いをむさぼり合った。
クリスチナは死んだように眠った。
それはいいのだが、目が覚めたときには、右の足首に足枷が嵌まり、それが鎖で寝台に繋がっていて、寝台から離れられないようになっていたのだ。
また、身につけているものはなく、完全な全裸だった。
シモンはすでに起きていて、身につけるものとして寝台の横に、この下着だけが畳んで置いてあったのだ。
シモンの仕業なのは間違いなかった。
夕べはあんなことをしたのだから、シモンはまだ続きのつもりなのだろう。
まあ、なんだかんだとクリスチナも愉しんだし、いつになくクリスチナが甘えたのが、シモンも嬉しかったみたいだ。
だから、まだ続きをしたいのだと思うが、クリスチナも困ってしまった。
とりあえず、シモンを呼んだが、どうやら寝室側にも隣室にもいないらしく人の気配はなかった。この別宅には召し使いのような者はいないことはわかっているので、シモンがいなければ、呼んでも誰も来ることはない。
足首の枷も外れそうになく、クリスチナは寝台から降りられなかった。
仕方なく、いま身につけている下着だけを身につけ、シモンが戻ってくるのを待ったのだ。
すると、台車に洗面道具を乗せて運んできたシモンが上機嫌でやってきて、クリスチナの身支度を始めたのだ。
シモンはクリスチナよりもずっと早起きをしたらしく、完全に身支度を終わっていて、朝食も食べたと言っていた。
そのときに、両手首に革枷の手錠を嵌められたのだ。足首の拘束を外してもらったのは、両手を拘束してからだ。
いやも、応もない。
気がついたときにはがちゃりと嵌められていたという感じであり、抵抗の余裕もなかった。
次いで、いまのように、天井から伸びている鎖に両手首を吊られて、シモンの世話を受け始めたということだ。
身支度が終わったら、ここに移動しての朝食だ。
手首の手錠から鎖は外されたが、それは、こっちの部屋に移動して、こちら側にある鎖に繋げ直されるあいだだけのことだ。
クリスチナは、ずっと朝から拘束状態である。
厠に向かう暇も与えられていない。
「と、とにかく食事はいいわ、シモン殿。だから、一度鎖を外してくれない。やっぱり先に服を着たいわ。確か、ロウ殿のところに行くんでしょう。辺境候様のところに到着してからのことを話すために……」
「いや、急がなくてもいいさ。さっき確かめたけど、みんなで大浴場にいるらしい。面談は昼前になると思う。昼食を一緒にと誘われているよ」
「お風呂……?」
朝からみんなで入浴?
そういえば、ロウという男は、大の入浴好きで、ここのモーリア男爵がロウの歓心を買うために、金にものをいわせて、この別宅に大浴場を三日で設置したという話だったか……。
それはともかく、シモンとクリスチナの役割は、ロウという男を見極めて、シモンの父親であるマルエダ辺境候のもとに連れてくるべき人材かどうかを判断することになっている。
ロウという男が役に立つと思えば、辺境候軍のところに向かうように促すということになっていたのだ。
そのための餌が辺境侯軍で捕らえているサキュバスのふたりである。
ロウの女たちらしい彼女たちふたりを辺境候軍で監禁しているのだ。おかしな操り術で辺境候軍を乗っ取ろうとした罪であるそうだ。
問答無用で処刑されなかったのは、彼女たちがサキュバスであると密告したのが、ほかならぬ王宮からだとわかったからと耳にしている。
半ば公然と叛旗を掲げている辺境侯軍は王都の敵であるはずなのに、その敵の辺境侯軍を利する情報を王宮が与えるわけがなく、マルエダ辺境候側で彼女たちの処刑をむしろためらったということらしい。
さらに、彼女たちが口に出したのが、自分たちの「主人」だというロウ=ボルグの名だったのだ。
それで、処刑は一時的に保留になっている状況という。
シモンの父親の辺境侯は、かねてからロウのことを気にしていたようであり、この機会に、自分たちの陣営に引き込むことを考えたみたいだ。
それもあり、彼女たちを利用できるとも思ったみたいだ。
もっとも、実はロウを相手にすることには反対も多かったようだ。
そもそも、ロウという男など、辺境侯側で名前が売れていたわけでもない。
むしろ、まったくの無名だ。
最初に、サキュバスたちがロウの名を出したとき、それは誰なのだという状況だったみたいだ。
ただひとり、辺境侯自身のみが、ロウの名に注目しただけだと聞いている。
ロウというどこの馬の骨かわからぬ人材を引き込むことに対する反対派の筆頭が辺境侯の嫡男のレオだ。レオは魔族の女など火焙りにする気満々だった。なにしろ、操られていた辺境侯軍の男の中に、レオも入っていたのだ。
しかし、あのエルフ族女王によるロウの英雄宣言がすぐにあり、話が変わった。
ロウの後ろに、エルフ族女王家があるということがわかり、陣営としてロウに急に注目を向けることになったようだ。
それ以前の急遽の調査による評価は、冒険者あがりの女扱いが上手いという噂の王都にいる成り上がりの小貴族という情報しか入っていなかったらしい。
シモンの父親のクレオン=マルエダ候だけが、シモンの姉のアネルザ王妃を通じて、少し以前からロウに意識を向けていたというだけだったのである。
一方で、あまり全体のことに関与していないクリスチナにしても、話を聞いたときには、ロウという人物について、なにもりもサキュバスと関係しているとに対して、驚きしかなった。
そもそも魔族の存在がいまの世界では禁忌であり、魔族を見つければ問答無用で殺さなければいけないことになっている。
だが、とにかく、あの魔族の女たちの言葉を信じれば、ロウは以前から魔族の女とも交流があり、相手がサキュバスであろうと女は大切にする性質みたいだ。
だから、辺境候軍のところにやってくれば、彼女たちを引き渡すと告げれば、ロウは王都に戻るよりも先に、辺境候軍に来るはずだと辺境侯クレオンが言い出したという。
なによりも、ロウを試したいという辺境侯自身からの強い意見があり、結局のところ、とりあえず、人となりを観察してみるかという結論になったそうだ。
そして、ここに来てわかったが、実際にそうだった。
ロウはサキュバスたちが自分の女であることも、あっさりと認めた。
そういった紆余曲折があって、ロウへの対応を決めるためにも、先にシモンがロウと会って人物を見極め、辺境侯の陣営に情報を送るということになったというわけである。
ともかく、いまや王都にある王家に対して、マルエダ辺境候の陣営は、それに叛乱を起こす立場だ。
ロウの持っている人材がそれなりのものであるならば、王都に戻す前に、辺境候軍の側に組み入れるべきというのは一利あるのかもしれない。
まあ、昨日の昨日まで、クリスチナは、ロウのことにも、王都と辺境侯軍の対立にも興味はなかった。
クリスチナがこれに関与しているのは、ただただ、シモンが関係しているからだ。
シモンは、レオに成り代わって、辺境候の後継者に指名されたいという野望も持っていて、それで父親の辺境侯が一目置いているらしいロウに、陣営内の誰よりも先に会うことを望んだということはあるみたいだ。
とにかく、シモンとクリスチナの表向きといえる役目は、ロウを見極めて、辺境候軍に情報を送ることである。
最初は、ロウという冒険者あがりの下級貴族の能力を疑問視していた感じのシモンだが、ひと目で感じるところがあったのだろう。
敵とするとも、味方に引き入れるとも決めていなかったロウのことを、いまでは是非とも自分たちの陣営に加えるべきと考えているみたいだ。
むしろ、自分がロウの陣営に入ってもいいという雰囲気すらある。
それは、ロウが女扱いが上手いという浮ついた理由だけではないのだろう。
ロウの周りにいる女たち……。
あのエルフ族女王が下女のようにかしずいている一点だけでも、確かに、ロウを取り込む理由になる。
また、すでに、モーリア男爵はロウに味方することを決めたようだし、ロウを受け入れれば、このモーリア家も引き入れられることになる。
モーリア男爵は、爵位こそ最下級に近いが、傭兵団を率いており、財力についても並の伯爵家よりもずっとあり、王家と対立しようとしている辺境候の立場としては、是非とも味方にしたい貴族家のひとつだったのだ。
それはともかく、ロウたちが辺境候軍に向かうのは、明日ということになっている。
普通に移動すれば数日どころか、数十日もかかる路程になるが、ロウたちはエルフ族女王家の魔道設備を使用するらしく、ナタル森林を経由して、一日で到着するみたいだ。
すでに、その旨は、特殊な魔道通信でシモンから辺境侯軍には送ったみたいだ。
しかし、本来はそれで、シモンとクリスチナの役目は終わりであり、クリスチナとシモンがロウたちの出立まで行動をともにする必要はない。
辺境候軍への移動には、シモンもクリスチナも同行はしないことになっている。
だから、シモンの仕事は、それで終わりなのであり、本当はもうこの別宅を離れて問題はないはずなのだ。
だが、シモンは明日の出立には、ロウを見送ることを決めたようだ。
そんなことを夕べ喋っていた。
シモンの様子を観察すれば、余程にロウのことが気に入ったのだろうということがわかる。
見送りするだけでなく、シモンが同行しない分、辺境候軍の陣営について、ロウに情報を渡すとも言っていた。
それが今日のはずだ。
辺境候軍には、シモンの兄のレオという男がいる。
このレオがクリスチナの目から見ても、なかなかの曲者であり、事前に彼のことを伝えようと考えているみたいだ。
わざわざ、レオに注意しろと伝えようと思っているという一点からも、シモンがロウのことを気に入ったのだということがわかる。
とにかく、そんなことよりも、いまはこの尿意のことだ。
おしっこがしたい──。
もう漏れそうだ。
「食事はした方がいいよ、俺のクリスチナ。さっきから足をもじもじさせているけど、朝から用を足してないからね。多分、おしっこがしたいんじゃないのかい?」
すると、シモンがくすくすと笑った。
クリスチナはかっと顔が熱くなった。
「あ、あんた、気がついて……」
「もちろん、気がついていたよ。君がさっきから尿意に襲われて、そわそわしていることもね。気の強い君が厠に行きたいということを口にするのを恥ずかしがっているのは、とても新鮮で可愛かった」
シモンが笑った。
クリスチナは、ますます自分の顔が赤くなるのがわかった。
「だ、だったら鎖を外して──。もう、漏れそうなのよ──」
クリスチナは声をあげた。
シモンがけらけらと笑った。
「だから、早くスープを飲み干せと、さっきから言っているじゃないか、俺のクリスチナ……。君のおしっこの便器はこの皿だよ。だけど、まだスープが入っている。おしっこがしたければ、さっさと全部を飲むんだね。そうすれば、この皿におしっこをさせてあげよう」
シモンが言った。
クリスチアは唖然とした。
「ば、ばかを言わないでよ──。こんなものに、おしっこをしろと言ってんの──」
クリスチナはかっとなって怒鳴った。
「だったら、いつまでも我慢しているといいよ、俺のクリスチナ。もっとも、万が一、お漏らしをしたら、ちょっときつい罰を与えるよ。俺はそっちの方が愉しいから、それでもいいけどね」
シモンが声をあげて笑った。
クリスチナは驚いて目を見開いてしまった。