※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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672 醜き暗殺者

「ああっ、あっあああ、あっ、はあああっ」

 

 すでに意識朦朧(もうろう)となっているジーンは、またもや全身を痙攣させて絶頂した。

 レオナルドは、おそらく三度目になる精をジーンの子宮に放つ。

 ぎゅうぎゅうとレオナルドの怒張を締めつけていたジーンだったが、やがて、全身が完全に脱力した。

 完全に満足したレオナルドがジーンから男根を抜いたときには、ジーンは完全に失神をしていた。

 ジーンの失神はすでに四度目になるので、さすがに、もう朝まで起きることはないと思う。

 

 とりあえず、彼女の身体を拘束をしていた腕輪と足輪の留め具を外してやる。

 これは拘束するときには自分でもできるが、外すのは他人でなければできない特殊な仕掛けになっているのである。

 最初は単純な後手拘束だけだったが、ジーンが最初に失神したときに、右足首と右手首、左足首と左手首という組み合わせで拘束をし直していた。

 だから、ジーンは大きく開いた脚を閉じることもできずに、ずっとレオナルドから与えられる交合を受けとめなければならなかったというわけだ。

 そのとき、レオナルドは部屋の中に違和感を覚えた。

 

「テータスか?」

 

 ジーンの身体を真っ直ぐにして、掛布で裸体を覆ったところで、レオナルドは、部屋の中に気配を感じて声をかけた。

 おそらく、ずっと控えていたのだろう。

 だが、情事が終わったことで、レオナルドにもわかるように気配を示したということだと思う。

 相変わらず、気に入らない男だ……。

 わざわざ閨房に現れるのは、この男なりの嫌がらせに違いない。

 

「そうです……」

 

 部屋の隅に小躯の男が跪いていた。

 気配を消すのをやめたことで、寝台の横の薄い照明に照らされている顔がはっきりと見える。

 テータスの顔は、おぞましいほどに醜い。

 生まれつきらしく、顔の半分がただれたような赤黒いできもので覆われており、鼻は欠けていて呼吸をする穴しかない。髪はやはり半分が薄毛で、残りの半分で顔を隠しているが全部は隠されていない。

 

 このような神にも見放されたような先天性の醜男だが、れっきとした貴族家の出身らしい。

 もっとも、このような生まれつきの外観のために、成人になる前に放逐されて貴族籍は抜かれている。生まれついてほとんどの時間を最低限の世話のみを与えられて、地下に隠されていたというが、これほどに醜い子供を殺しもせずに生き続けられるものを与えたというのは、親の慈悲というものだろう。

 それとも、魔道遣いとしての能力もあったので、生き延びたというのもあるかもしれない。

 本人は、親にはほとんど見捨てられて生きていたとは言っていた。

 テータスというのも親から与えられた名ではなく、レオナルドがこの男を飼うようになって与えた呼び名だ。“テータス”、つまり、「骸骨」という意味の古語であり、見た目の姿からそう名付けた。

 

 しかし、諜者としても暗殺者としても超一流だ。

 そうでなければ、このように醜すぎる男を部下としては選ばなかった。

 だが、この見た目の醜さのために、こいつは他人の視線に触れるのを極端に嫌がるので、影の者として使うのに都合がよかったのだ。

 だから、辺境侯家としてではなく、レオナルド個人として雇っている。

 とにかく、レオナルドは、このテータスの顔を視界に入れてしまい苛つきで鼻を鳴らした。

 

「俺の前に出るときには顔を隠せと言ったはずだろう」

 

 レオナルドは舌打ちともに言った。

 テータスが無言で顔の半分を覆う仮面をつける。柔らかい材質ものであり、テータスはそれを上衣の内隠しに入れられるようになっているのだ。

 いつも思うのだが、レオナルドがいつも顔を隠せと言うのに、気配の察知の邪魔になるのだという理由で、顔覆いをつけたがらない。

 もしかしたら、レオナルドに対するひそかな嫌がらせではないのかとまで思う。

 それくらい、テータスの醜い外観は、レオナルドにとって不快なのだ。

 

「申し訳ありませんね、若様。仮面をすると周りの気配を読めなくなるのですよ」

 

 テータスはいつもと同じように言い訳をした。

 口調には感情が入っておらず、また、顔同様に喉も生まれつきおかしいらしく雑音が混ざったように聞き苦しい。

 レオナルドは不快感に耐えた。

 ただ、腕は確かなのだ。

 金を払えば、絶対に裏切ることもない。

 それは確信している。

 これまでに五人ほどの将軍や領主を事故に見せかけて殺させていた。ただの一度も失敗ことはない。

 暗殺業については、レオナルドと知り合う前からやっているらしく、殺した人間の数は両手両足ではとても足りないと言っていた。

 

「まあいい……。それで? わざわざ、(ねや)までやってきたんだ。なにがある。報告しろ」

 

 この男に命じていたのは、ロウ=ボルグという男に関する情報を集めることだ。それで、しばらく辺境候領から離れて、ロウが現れたというモーリア領の近くまで赴いており、いま戻ったというところなのだろう。

 あんな化け物のような外見でも、魔道の腕は高く、『縮地』という特殊な技を使う。

 だから、異常な速度で移動もできるのだ。

 父親のクレオンも、弟のシモンもそれなりに情報収集しているが、レオナルドはあまり父親も弟も信頼していない。

 レオナルドとして信頼のできる情報が欲しかった。

 

「多分、ご興味がおありと思いましてね。まあ、面白い話を得ました……」

 

 テータスが自嘲気味に笑った。

 この男を使い出して五年になるが、いまでも、この笑いに慣れることはない。

 

「あなたの弟君は、ロウの弟子になったそうですよ」

 

「弟子?」

 

「師匠と呼んでいるそうです。随分と気に入ったんでしょう。あのひねくれ坊やには珍しい」

 

「師匠だと? なんの?」

 

 血のつながっている弟のシモンだが、あの男が分不相応にも、辺境候の後継を狙っているのは知っている。

 ひねくれ坊やというのは、言い得て妙な物言いだ。型破りな性質であることを気取っていて、おかしな女冒険者と婚約し、お互いに自由恋愛などといって愛人を作り合うという関係を続けている。

 性格は高慢。自分が頭がいいと思っているので、基本的に他人を見下す傾向がある。

 外面はいいが、内面は胡散臭いというのが弟のシモンだ。

 だが、そのシモンが会ったばかりの男を師匠と呼んで慕っているというのは意外だ。相手は冒険者あがりの成り上がりだろうに……。

 

「そこまでは……。ただ、随分と心服しているという話ですね。モーリア男爵邸であてがわれている別宅では、ロウと女たちがつくろぐ部屋に入り浸って、まるで臣下のように行動をしているという話です」

 

「シモンがか? そもそも、シモンとロウの対面のことがどうしてわかる。お前がいくら特殊な技で移動できるといっても、シモンがロウと会ったのは昨日のことのはずだ。お前がいまここにいるということは、少なくとも三日前にはモーリア領を出たはずだ。それなのに、なぜ、昨日や今日のことがわかる?」

 

「ちゃんと手下を残してますよ。それに、ロウはエルフ族の女王であるガドニエルの力を使って、移動術で一隊を率いて、明後日にはここに到着します。それまでに情報が欲しいと思って、わざわざ戻ったんですがね」

 

 テータスは小馬鹿にするように笑った。

 やはり、この男はいちいち腹がたつ。

 この男が何人の手下を使っているのかは知らない。ただ、それなりの人間を揃えているということだけは確かだ。

 

「わかった。とにかく、俺が欲しいのは、ロウという男の情報だ。どんな男なのか。まあ、そういうものだ」

 

 レオナルドは言った。

 すると、テータスはかすかに浮かんでいた笑みを口元から消した。

 ロウ=ボルグ……。

 何の気紛れで、父であるクレオンが反国王の旗頭としてロウを候補にしているのかわからないが、これまでなんの関係もなかった冒険者をここに集まっている叛乱軍の頭領にするなどあり得るわけがない……。

 

「ロウという男を気に入らないという顔をしてますね、若様。だけど、俺は辺境候様は慧眼だと思いますよ。お館様は結構いいところに目をつけなさった。誰も思いつかなかったが、確かに、この叛乱軍の旗頭にロウを担ぐというのは“あり”ですね」

 

 テータスがレオナルドの考えていることを見透かすように言った。

 レオナルドはかっとなった。

 

「馬鹿げたことを言うな──。ルードルフの兇行を糾弾するために掲げた貴族連合の叛旗だぞ。それを本物の貴族でもない男に担がせるなどあり得ん話だ。父は老いた──。急の病で床についておるしな──。まともな考えができんのだ──」

 

 怒鳴りあげた。

 そのため、横で眠っているジーンが大声に反応して身じろぎをした。

 レオナルドは怒声をこらえて、寝台の横の台からガウンを取ってはおる。内扉を挟んでひとつながりの隣室に移動して、ソファに腰をおろした。

 ついてきたテータスに、向かい側のソファを顎で示す。

 テータスが向かい側に腰掛けた。

 顔を見ると不快なので、視線が合わないように、レオナルドは横を見る。

 

「大切になさってますねえ。羨ましいことだ。もう二年ですか? ちゃんとしたお妾にはなさらないので?」

 

 テータスが軽口のようなことを言った。

 余計なお世話だと思ったし、ほかの者が同じことを口にしたら、間違いなく首を刎ねていた。しかし、なぜか、このテータスに面と向かうと、どうしても話し込んでしまう。これほどに、嫌いなのに関わらずだ。それが不思議だ。

 

「あれが望まんのだ。身分を気にしてな」

 

 レオナルドは吐き捨てた。

 そして、いまもそうだと思った。

 どうして、自分はこのテータスにジーンとのことなど話したのだろう?

 我ながら内心で首を傾げてしまった。

 

「そうですか……。まあ、女など俺には縁のない話ですがね……。それよりも、ロウのことです。噂は本当でしたね。エルフ族の女王のガドニエルはナタル森林の奥の水晶宮にはいませんよ。ロウと一緒にいます。あの美女がまるで奴碑のように嬉々としてロウにべったりなのは、傭兵にやつして、この眼で確かめました」

 

「なにい?」

 

 レオナルドは思わず声をあげた。

 あの大陸中を驚愕させた魔道通信によるロウの英雄認定式典の映像において、エルフ族の女王ガドニエルが一介の人間族のロウと愛人関係にあることは明らかになった。

 それだけでも信じられないことなのだが、次いで流れてきたのは、ロウの王国への帰還にあたり、女王がお忍びで同行しているという噂だった。

 それは諜報の情報として入ってきていた。

 

 ガドニエル女王といえば、長命族の種族の女王として即位期間も長く、この大陸にあるどの王よりも高い権威と格式を持っている。

 それが居城である水晶宮を空にして、のこのこと外国に入るなど常識外れだ。

 シモンからの魔道通信でも、ロウに同行するガドニエル女王の存在のことに触れていたが、レオナルドをはじめとして、重鎮たちのほとんどは半信半疑だった。

 しかし、奴碑のようにだと……?

 

「確かですね。あれは、ロウのためならなんでもする雌犬ですよ。だから、申しあげました。早々からロウに目をつけていたお館様は慧眼ですと……。ロウを旗頭にすれば、全エルフ族が後ろにつきますね。それと、明日は水晶宮から、お館様宛に親書が届きますよ。差出人の署名は副女王のラザニエルと王族ケイラ=ハイエルの連名になるはずです」

 

「水晶宮から親書? なぜ?」

 

 さらに驚いた。

 すると、テータスが鼻で笑う仕草をした。

 かっとなったが、またしても、ぎりぎりで怒りが鎮まる。

 そんなレオナルドの内心の葛藤に気がついていないのか、テータスは平然と口を開く。

 

「それはもちろん女王の訪問を告げるためでしょう。それに英雄殿のことも……。お忍びの移動とはいっても女王が動くんです。こちらに事前に連絡しないわけにはいかないでしょう。明日にはラザニエルとケイラ=ハイエルの連名の親書が間違いなく届くので、ここも大騒ぎになるでしょうね」

 

 テータスが喉の奥で笑った。

 だが、そもそも、副女王のラザニエルと王族ケイラ=ハイエルの連名だと?

 ラザニエルとは、百年ほど前に姿を消したとされていたいまの女王のガドニエルの実姉であり、今回のエルフ女王国の危機に際し国に戻ったという事実上の水晶宮の支配者だ。

 あの国は、ずっと女王そのものではなく、水晶宮の支配者が事実上の権力を握っていた。

 また、ケイラ=ハイエルというのは、エルフ王族の長老的な女であり、多くの王族に対する強力な影響力がある。

 あのふたりは、むしろ、ガドニエル女王そのものよりも、エルフ女王国の権力を握っているといっていい。

 そのふたりの連名の親書が来るということになれば、ロウの保護に関しては、権威はあっても、権力のないガドニエル女王の気紛れではなく、エルフ女王国が一枚岩になっているということにもなるのか?

 

「明日だと? なぜ、まだ届いていない親書のことをお前がわかる。俺は知らないぞ」

 

 ここに集まっている叛乱軍の総帥は父のクレオンだが、軍の総指揮はレオナルドがとっている。

 レオナルドにしか集まらない情報があっても、自分に来ない集まらない情報などない。

 

「だから、親書の到着は明日なんですよ。あなたにロウのことを調べろと命じられたんですから、ロウのところだけでなく、ロウがいた水晶宮にも手下は手配して、情報を糸で繋げてあります。まあ、水晶宮も護りが堅いんで、得られる情報には限りがありますけどね。しかし、親書のことは確かですよ」

 

「親書か。まずいな……」

 

 レオナルドは呻いた。

 エルフ族の王宮から正式に、ガドニエル女王と女王から英雄認定を受けたロウの訪問が先触れとして届くのは、レオナルドとしては面白いことではない。

 これで、それなりの対応をしなければならなくなる。

 知らないということで、門前払いというわけにはいかない。

 親書が来れば、その後で現れたガドニエルとロウを軍営内に迎え入れるしかない。

 英雄認定を受けたロウとエルフ族の女王──。

 確かに、これを担ぐことができれば、この辺境候領に集まっている貴族連合は、ただの叛乱軍ではなくなる。

 テータスがさっき言ったことには、一理ある。

 

 ロウなどどうでもいいが、ロウを受け入れることでエルフ族女王がついてくるなら、この叛乱軍とエルフ族が同盟というかたちにもできるのか……。

 確かに、“あり”か……。

 少なくとも、父親はそう考えるだろう。もしかしたら、集まっているほかの領主たちの幾らかも……。

 レオナルドは、苦虫を噛んだような気持ちになった。

 

 そういう話であるなら、名目だけとはいえ、ロウを旗頭にするというのは、合理的な利点がある。

 しかし、レオナルドは、たとえ名目であろうとも、冒険者上がりの男を軍の長として推戴するつもりはない。

 これは感情の問題だ。

 

 そもそも、いまだに王国や王都の行く末のことを気にしている父親とは異なり、レオナルドが考えているのは、辺境候領を中心とした王国西側の「分離独立」だ。

 新しい国名も決めていて、「ハロンドール列州同盟」だ。

 これを後押ししてくれるのは、国境の向こう側のタリオ公国のアーサー大公だ。ハロンドール王国の西側領域の独立宣言とともに、タリオ国が新国家を承認する手筈にもなっている。

 新国家の態勢作りに必要な流通や資金支援も、タリオがしてくれる約束までをレオナルドは取り付けていた。

 

 ここに集まっている軍をどういう方向に持っていくのか……。

 王都で起こっているルードルフ王の兇行を鎮めるために軍を王都に向かわせるのか……。

 あるいは、王国そのものを見限り、この機会を利用して、この西部域を新国家として独立させ、ハロンドール王国と袂を分かつのか……。

 いまだに、ここに集まっている領主たちでもめているのは、このふたつの行動方針のうち、どちらを目指すのかということだ。

 レオナルド自身は独立派である。

 父親は反対しているが、集まっている領主たちの多くの根回しは終わりつつあり、早晩に意思決定は成立するだろう。

 運のいいことに、父親が病で倒れたために、発言力が低下もしてくれた。

 いまさら、エルフ女王国や英雄などに、引っかき回されたくない。

 ロウもエルフ族女王も迎えたくない……。

 

「エルフ族たちは、列州同盟の独立を認めると思うか?」

 

 レオナルドは訊ねた。

 

「ロウ次第でしょうね」

 

「ロウ次第?」

 

「ロウは完全に水晶宮を牛耳っていますよ。女王ガドニエルだけでなく、さっきのラザニエルや女長老のケイラ=ハイエルも、ロウの言いなりらしいです。女王だけでなく、さっきのふたりまで、ロウが愛人にしたのは、水晶宮の公然の秘密らしいですね」

 

 テータスが笑った。

 相変わらず、レオナルドを不快にさせる笑いだ。

 しかし、ロウがエルフ族の総本山の水晶宮を牛耳ったなど本当か?

 大きな貢献をしたのは確かなのだろうが、部外者で余所者だ。エルフ族ですらない。

 あり得ない……。

 しかし、こいつはいままでに間違った情報を持ってきたことがない……。

 ロウ次第でエルフ女王国の対応が決まるだと?

 

「なら、ロウはどう動く……? あっ、いや、あんな男の考えなどどうでもいいか……」

 

 レオナルドは言い直そうとした。

 しかし、テータスはすぐに口を開いた。

 

「それは反対するでしょう。あのイザベラ王太女もまた、ロウの愛人なんですから。自分の恋人の不利益になることをロウが認めるわけもない」

 

 レオナルドは、テータスの答えが不満で鼻を鳴らした。

 しかし、そういえば、そうだ。

 この王国の王太女のイザベラ姫が妊娠しているというのは不確かな情報として入っていた。

 その種がロウ=ボルグらしいとも……。

 ガドニエルにイザベラ姫……。姉のアネルザさえ、ロウを溺愛しているようだし、まったく、どんな男なのだ?

 

「まあいい。それで、ロウという男につけいる隙はあるのか?」

 

 レオナルドは訊ねた。

 列州同盟の阻害になるということであるなら排除するだけだ。

 この醜男を使い、わざわざ閨まで来ることまでの厚遇を許しているのは、こういうときのためだといっていい。

 

「ロウは多くの女傑たちに守られています。女王ガドニエルがぞっこんでべったりとくっついているだけでなく、ほかにも魔道遣いや女剣士たちの大勢で周囲を固めているんです。女たちのロウに対する思慕は異常なほどで、彼女たちはロウを守るためなら、進んで命を差し出すでしょう。何者かはわからないが、スクルドというガドニエルに匹敵する女魔道士までいます。ロウに手を出すのは不可能でしょう」

 

 テータスは言った。

 レオナルドは再び舌打ちした。

 

「聞きたい答えじゃないな。手を出すのが不可能だというのであれば、お前が無能であるということだ。なんのために、お前を飼っているのか、もう一度思い出すことだな、化け物が」

 

 レオナルドは侮蔑を込めた口調で言った。

 この男が“化け物”と呼ばれると異常に腹を立てることを知っている。

 いまも、レオナルドの一言で顔色が変わり、表情が消滅した。

 

「お、俺を侮辱するんですか……」

 

 しばらく間が開き、テータスが声を震わせた。

 レオナルドは嘲笑った。

 

「化け物を化け物と言って何が悪い。それとも、お前は自分が人とでも思っているのか? それよりも、ロウを事故に見せかけて殺せ。方法は考えろ。お前が無能でないことを証明しろ」

 

 レオナルドは吐き捨てた。

 いずれにしても、ロウもエルフ女王国も不要だ。

 列州同盟としての独立は、タリオ公国の後押しで実現する。王国の正常化にこだわり、独立に反対しているのは、いまや父親くらいのものだ。

 だが、根回しの終わった領主の中にも、いまだにタリオ公国と結びつくことに懸念を抱く者もいる。エルフ族の同盟という新しいカードが出てくれば、また、話が白紙近くまで戻るかもしれない。

 

 ロウは排除する──。

 レオナルドはそう決めた。

 

「だいたい、ロウを殺してどうするんですか? さっきも言いましたが、ロウに手を出せば、エルフ女王国が敵に回るでしょうよ」

 

「そんなことは、お前が考えることじゃない」

 

 レオナルドは言った。

 それについても、ロウの英雄認定の情報が流れたことで、実はタリオ公国のアーサー大公とは意見を交わしている。

 もともと、エルフ女王国はとても閉鎖的な国だ。

 今回、女王がナタル森林の外に出るというのは、実に数百年ぶりのことでもあるくらいだ。

 だから、一時的に関係が悪化するとしても、あの閉鎖国家がハロンドールにまで軍を進めるということもない。

 せいぜい流通の一部に制限をかけるくらいだろう。

 それをすれば、逆にこちらがナタル森林側に軍を送る大義名分を得ることにもなる。

 

 ナタル森林で独占している魔石の産出は、危険を賭して軍を送って確保するだけの大きな値打ちがある。そもそも、いまや魔石は、大陸中の各地域の文明を支えるためになくてはならないものである。

 それを女王国のみで独占するというのは、あまりにも不当で異状なことなのだ。

 

 様々な魔道具を動かすのに必要な魔石は、なぜかナタル森林のみでしか作ることができない。

 エルフ女王族の高い権威を支えているのは、この魔石の独占が理由にもなっている。

 だが一方で、そのナタル森林をエルフ女王国のみで支配するというのは、この大陸にずっと根付いている不文律である。

 しかし、未来永劫に続く国家がないように、未来永劫に破られない約束事も存在しない。

 タリオ公国のアーサーとは、非公式の場ではあり、連中の間者を通じてではあるが、タリオ公国とともに、ナタル森林に領土拡張の軍を入れるということも視野に含めた話し合いもしている。

 

「とにかく、ここにやってきたロウを殺せと?」

 

 しばらく間を開けた後でテータスが静かな口調で言った。

 

「そうだ」

 

 レオナルドはきっぱりと言った。

 そして、一度席を立ち、部屋の隅から白金貨が十枚ほど入っている革袋を取り出し戻り、テータスの前に置く。

 白金貨というのは一般には流通していないほどの高額硬貨であり、白金貨十枚があれば、王都に大邸宅を一軒建てることもできるだろう。

 テータスがちらりと袋を見た。

 しかし、中身を確かめるような仕草はしない。

 再び、やや間があった。

 

「……ロウの弱点は女に弱いことです……。例の女魔族は、若様が管理しているんですよね?」

 

 やがて、テータスが言った。

 女魔族というのは、この辺境軍に巣くっていたピカロとチャルタと名乗っているふたりのサキュバスのことだろう。

 彼女たちは、辺境候軍に集まってくる領主たちと次々に関係を結んでは「魅了」の術で支配を拡げて、この軍を乗っ取ろうとしていた。

 レオナルドや父親のクレオンにはまだ手は出されてなかったが、王宮からの垂れ込みの情報がなかったら、どうなっていたかわからない。

 

 いまは、タリオ公国の間者を通じて得た「魔族殺し」という薬草で無力化し、隷属の首輪を嵌めて、厳重に監禁拘束している。

 レオナルドとしては、すぐに処刑するべきと考えていたが、あのふたりが自分たちがロウの女であることを仄めかしたために、処刑をやめてまだ生かしている。

 レオナルドとしては、それも気に入らないのだが、父親のクレオンは、あの二人の存在もまた、ロウとのなんらかの取引に使いたいみたいだ。

 しかし、そのサキュバスたちを?

 

「特殊な地下牢を作って監禁させている。それがどうしたんだ?」

 

「確か、隷属をかけていると聞いていますけど、それも確かですか?」

 

「魔族殺しという香を焚き込めた小さな檻に入れている。拘束して、立ち入る者も制限してな。なにしろ、連中は魅了の術を使う。それで男を支配するのだ」

 

「俺は魅了にはかかりません。そのふたりの支配を俺に譲ってください。ロウを殺すとすれば、それしかありません。ロウは女には強いが、逆に弱い。自分の女を全面的に護りもするし、身も委ねる。それこそが、彼の弱点です。そいつらがロウの暗殺に使えるかどうかも、俺で判断してみます」

 

 テータスが言った。

 つまりは、ロウの暗殺に、あのサキュバスを使うということか……。

 レオナルドは頷いた。

 

「いいだろう」

 

 レオナルドは魔道で言玉を出した。

 声を記録し、好きなところで破裂させて声を再現するという魔道だ。よく、連絡通信に使用する。

 その言玉に、あのサキュバスたちの隷属をテータスに移すという言葉を記録して渡す。

 隷属の譲渡は、隷属を支配している者が被隷属者にそれを告げることで成立する。それは直接に伝えなくても、言玉のような手段で声だけを聞かせてもいい。

 

「必ずロウを殺してみせます。しかし、その後のことは知りませんから。念のため」

 

 テータスが言玉を受け取りながら言った。

 嫌な物言いだと思った。

 

 しかし、レオナルドが気がつくと、目の前からテータスの姿が消滅していた。

 いつの間にか、テーブルの上の白金貨の革袋もなくなっていた。

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