【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
頭が真っ白になった。
目の前のピカロと名乗るサキュバスは、なんの躊躇いを見せる様子もなく、テータスが突き出した顔に首を伸ばすと、唇を重ね合わせてきたのだ。
呆然として動けなかったテータスの口の中に、ピカロの舌がゆっくりと入ってくる。
生まれてはじめて味わう他人の舌の感触は、とても艶めかしくて気持ちがよかった。
衝撃がテータスの身体を硬直させる。
「んあっ、ぼ、ぼくは気にしない……。あんたはいい人さ……。ぼくにはわかる……。んんっ、ああっ、んあ……。だって、さっき、あいつらがぼくたちを殴ろうとしたとき守ってくれた……。やさしかった……。かっこいいし……」
ピカロがテータスの口に舌を出入りさせながらささやく。
全身の血が沸騰した。
恐ろしいほどの欲情──。
それが心の奥底から込みあがるのがわかる。
ピカロがテータスの口の中をしゃぶりまわし、さらに粘っこく責めあげてくる。
なによりも、テータスが生まれてからただの一度ももらったことのない言葉……。
身体が震えた……。
「あ、ああ……」
自分の口から、しゃくりあがるような声が漏れる。
ピカロの舌がしつこいくらいにテータスの口の中を舐め回し続ける。
これほどに気味の悪い姿をしているテータスと口づけを?
ありえない……。
だが、目の前のピカロは、いつまでも飽きることがないように、テータスとの口づけを続けている。
テータスを嘲るような様子は微塵もない。
まるで恋人に接するように夢中の口づけの仕草だ。
しかも、ピカロの眼はしっかりと開かれていて、口づけを交わしながら、テータスの醜悪な顔を目の前で凝視している。
そのピカロの顔にはまったくの嫌悪の感情はない。
まるで、愛おしい恋人のようにテータスを見つめていて……。
テータスは知らず、股間に血が集まるのを感じた。
性欲は強い方じゃない──。
いや、女と情を交わすことなど、とうの昔に諦め切っていたので、性欲というものすら頭から消し去っていた。
どんな大金を積んでも、娼婦ですらテータスと交わることは嫌悪したのだ。
仮面をしなければ、人扱いさえもされなかった。
それなのに、テータスの素顔を見ながら口づけができる女がいるとは……。
実の母親でさえ、恐怖したテータスのこの醜い顔を……。
「も、もっと、愛し……合おうよ……。あ、脚を外して……。腕の鎖も……。どうせ隷属の首輪があるし……。手枷は……外さなくても……いいからさあ……。ねえ、届かないよ……。舌を……、舌を出して……。おしゃぶりしよう……。ねえ……」
ピカロが賢明に首を伸ばしながら熱っぽくささやく。
頭がぼうっとなる。
まるで脳に隠れていた官能の激情を舌だけで目覚めさせられてしまったような、狂おしいまでの欲情で全身が包まれる。
口づけのあいだ、ピカロは目を開けていた。
テータスの醜悪な顔から視線を逸らしていない。
ピカロとテータスの視線が合う。
快感の大きな深みに、ずぶずぶと意識が吸い込まれるような……。
「し、舌出して……」
ピカロが昂ぶった溜息とともに言った。
テータスは我を忘れて、唇を重ね合わせる。
ピカロが柔らかい口をつき合わせ、そのまま傾げるように顔を擦りつけてくる。
このテータスの顔に……。
テータスは信じられなかった。
ピカロの舌がまたもや入ってくる。
テータスの舌に絡みつき、口の中を這い回る。
まるで恋人にむしゃぶりつくような口づけだ。
テータスの頭の中には、これこそ、サキュバスの呪術だと叫ぶ自分の心の声が響いていたが、それよりも与えられる快感がテータスから我を忘れさせてくれる。
ピカロから離れるべきだ──。
テータスに残っている理性がそれを心に告げる。
ピカロは後手の手枷を天井か吊られ、膝枷で爪先立ちになっている。
テータスが顔を離しさえすれば、口づけを続けることはできないのだ。
ピカロと口づけを交わしているのは、テータスの意思だ。
離れればいい……。
だが、できない──。
こんなに情熱的にテータスに口づけをしてくれる女はいなかった。
あり得ないと思っていた。
しかし、いる。
多分、これは嘘だ。
偽物の愛だろう。
だが、テータスは嘘でもよかった。
嘘でいい。
嘘でも信じてみせる──。
「あっ、と、届かないよ……。も、もどかしくって……。ね、ねえ、足枷と腕の鎖を外して……。それだけでいいから……」
ピカロがまたもや一瞬だけ口を離してささやいた。
しかし、すぐに濃厚なテータスとの口づけに戻る。
多分、これは性の魅了だ。
テータスもそれには気がついている。
だが、嘘でもいいのだ──。
もしも、ピカロがテータスに愛をささやいてくれさえすれば……。
「ま、待ってくれ……」
テータスはやっとのこと顔を引いた。
うずくまり、まずはピカロの膝から枷を外す。
次いで、ピカロの背後に回って、後手に拘束している天井からの鎖を留め具をひねって、ピカロから取り外した。
「ああ、ありがとう──。あんたは、なにもしなくていいよ。ぼくが全部する……。こんなに濃いい淫気……。す、すごいっ……。すてきだよ……」
両脚と天井の鎖から自由になったピカロがその場に跪き、口でテータスのズボンの上のところを咥え込んだ。
驚いたことに、口と舌だけで器用にズボンの留め具を外して、あっという間にずり下げる。
テータスの下着の中の性器は完全に大きくなっていた。
その布越しに、ピカロが口で咥えてきた。
「うわっ、なにっ」
思わず声をあげてしまった。
なにしろ、こんな風に女から奉仕を受けたことなどない。
テータスにとって、女と交わるというのは、仮面をつけたまま、薬で意識を朦朧とさせている女に潤滑油を塗って、性器を挿入して精を放つという行為でしかない。
それでさえ、テータスの素顔を知っている者は相手をしてくれなかった。
女と言葉を交わしながら、愛を交わすなど、テータスにとっては想像の外だ。
「んぐううううっ、ひぎいいいいっ、だ、だずげでえええ──」
そのとき、ものすごい絶叫が耳に入ってきた。
これまで、あまりのことに脳が停止したようになっていたから、聞こえてなかったが、媚薬を打ち込んで股間を貞操帯で封印をしたまま放置していたもうひとりのサキュバス──チャルタだ。
鎖を揺らし、脚を暴れさせて叫んでいる。
強力な媚薬のために全身は真っ赤で、おびただしい汗をかいていて、顔は涙と鼻水と汗でぐしょぐしょだ。
「うるさいよ、チャルタ──。これは、ぼくのえも……。いや、恋人なんだから──。ねえ、猿ぐつわしちゃって。気が散るよねえ。ごめん」
ピカロが口を離すと、一度チャルタを不満そうに睨みつけたのがわかった。次いで、テータスを振り返って言った。
「えっ、いいのか?」
思わず言った。
一度頭を破壊して、その後で都合のいい「記憶」を植えつけて、いいなりにするという作業のつもりであり、テータスには彼女を解放するつもりはなかったものの、さすがに常軌を逸したような狂乱に、てっきりピカロはチャルタを助けてくれと頼むと思ったのだ。
「いいの、いいの。それよりも早く」
「ピ、ピカロおおおお──」
チャルタが涙を流しながら、汗びっしょりの真っ赤な顔で絶叫した。
「うるさいったら──。テータスさんの気が散るじゃないか……」
ピカロが立ちあがって、いきなりチャルタの乳房を咥え込んだ。
そして、舐めはじめる。
呆気にとられかけたが、テータスは、言われたとおりに木箱から言葉を封じるものを持ってくるために動くことにした。
なぜか、あまりものを考えられない感じがしていたが、気にしないことにする。足首にさがっていたズボンはその場で脱いだ。
木箱からボールギャグを取り出す。
魔道具であり、これを口に咥えさせると、一切の声を封じることができるというものだ。
「んぐうううっ、いぐうううっ」
ピカロに乳首を舐められているチャルタが拘束されている身体を突っ張らせて、千切れんばかりに髪を振り乱した。
絶頂するのか──?
そして、はっとした。
思わず、言われるままにしていたが、快感を発散させるわけにはいなかい。洗脳作業の途中だ。
「はい、終わり──。勝手に絶頂させて、テータスさんを裏切れないからね。チャルタは、ぼくとテータスさんの愛のおこぼれの淫気で我慢してね」
しかし、まさにチャルタが絶頂しようとする寸前でピカロが舌をチャルタの胸から離してしまったのだ。
テータスは唖然とした。
「いやああ、なにすんのよおおっ」
ぎりぎりで絶頂を寸止めされたチャルタが血がのぼったように絶叫した。
だが、ピカロはけらけらと笑うだけだ。
そして、硬直した感じになっていたテータスに、ピカロが振り向く。
「早く猿ぐつわしちゃってくださいよ。それと続きを……」
ピカロがはにかんだような笑顔を向けた。
とりあえず、テータスは持ってきた魔道具のボールギャグを強引にチャルタに咥えさせて、頭の後ろで固定してしまう。
チャルタが涙を流しながら、なにかを訴えたが、魔道具のボールギャグのために、息が漏れる音さえ消音されてしまう。
「ぼくの相棒がごめんね。もう気にしなくていいよ……。ところで、ぼくがテータスさんに口づけができれば、ぼくがテータスさんを愛せること信じるって言ったよね。次はなにをしたら信じる? さっきも言ったけど、ぼくはテータスさんが好きになりそうさ。さっき、あのぼくたちを痛めつけた人間男たちから、助けてくれたものね」
ピカロが心から愉しそうに言った。ずっとそうだが、ピカロの眼は全くテータスの顔を恐怖していないし、ひと欠片の嫌悪もない。
まるで吸い込まれそうな優しいピカロの瞳だなと、テータスは思った。
「ほ、本当に俺を愛してくれるのか?」
馬鹿げた質問だと思ったが、テータスは訊ねていた。
こいつは、サキュバスだ──。
性交は食事と同等であり、人を愛する心とは無縁だ。
さっき、テータスは自分に口づけができれば、サキュバスたちを助けてやると言ったから、こいつはこう言っているだけだ。
テータスの理性の部分は、それを知っている。
サキュバスが人間族に本当に愛をささやくことなどあり得ないし、こいつがテータスに笑顔を向けるのは、自分たちが助かりたいためであり、それ以外の思惑ではない。
だが、信じたい──。
これまでの人生で、テータスに口づけなどしてくれた者はいなかったのだ。
ましてや、愛を交わせるものなど……。
嘘でもいいのだ。
嘘で……。
「もちろんだよ、テータスさん──。ぼくは、あんたが大好きさ」
後手拘束のまま、ピカロが白い歯をテータスに向ける。
テータスは自分の眼から、涙が流れるのがわかった。
とりあえず、できあがり分だけ投稿します。