【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
678 辺境候軍の襲撃
エルフ族の親衛隊は、マルエダ辺境候領を堂々と進軍している。
ブルイネン率いる一郎の親衛隊三十名と一郎たち六名は、領都の市街地を抜けて、いまは、叛乱軍として諸侯軍が集結している郊外の演習場に向かって歩いていた。
ちょうど演習場を見下ろす丘にあがったので、眼下に演習場が望めるようになった。
草原のような場所に、ちらほらと幕舎が張っているのが見える。
一見すると漠然と幕舎が並んでいるだけみたいだが、よく見ると全体が陣構えのようになっているように感じた。一郎は軍の指揮は素人だが、しっかりとした軍営だと思える。
また、あちこちには、
ここに集まっているハロンドールの西部域に所属する各諸侯たちの旗だろう。ここから見えるだけでも二十種類以上あるから、大小はあると思うが、少なくともそれだけの貴族家が反王家の檄に接して集まったということなのだろう。
この辺境候域からは遠い王都だが、ルードルフの蛮行は、希代の悪王として王家の評判を落とすだけ落としているみたいだ。
一郎としては、その半分以上は、自分の女たちの謀略に理由があるのだと思うと、少しばかり心苦しい気がする。
「先触れが戻ってきました。辺境候軍の総指揮官のレオナルド殿から、そのまま中央まで進軍してくれという指示とのことです」
ブルイネンが前方から駆けてきて報告してきた。
先触れというのは、一郎たちのいるエルフ隊主力から離れて先に進み、前方の状況を警戒したり、あるいは主力隊が接近していることを先にある施設や関係者などに教える役割のものだ。
人間族の隊の場合は、先触れは騎馬で行うが、エルフ族たちは伝統的に、軍行動で馬はあまり使わないそうだ。もともと、馬を使いにくい森の民だからだろう。
その代わり、彼ら彼女らは「縮地」という特殊な魔道を遣う。
移動術に似ているが、移動術はあらかじめ準備して刻んでいる移動術用の紋様と紋様のあいだを魔道で結んで一瞬で移動するという魔道であるのに対して、縮地は視界にある遠方と現在地を結んで瞬間的に跳躍する魔道だそうだ。
また、移動術は周囲の者も一緒に移動できるが、縮地は術者のみ、あるいは術者にぴったりと密着している者くらいしか移動できないという違いもある。
いずれにしても、移動術も縮地も、高い魔道能力を有する高位魔道遣いにしかできないので、当然に先触れを行える者は、エルフ兵の中でも一騎当千に近い熟練の高級将校クラスが行うことになるそうだ。
これが人間族の軍の場合は、先触れの役は、比較的若い騎士が務めるとシャングリアが言っていたので、そんなところにも、エルフ族と人間族の文化の違いがあるようだ。
ちなみに、一郎の性支配を受け入れることで、能力が爆上がりした親衛隊たちは、全員が「縮地術」を遣えるようになったそうだ。
「わかった。頼む」
一郎はブルイネンに応じた。
本来は、女王であるガドニエルが応じるべきなのかもしれないが、ブルイネンは普通に一郎の顔を見て報告してくるから、自然と一郎が応じることになる。
まあ、そのガドニエルは、一郎のちょっとした悪戯の真っ最中で、少しばかり取り込んでいる状況でもあるし……。
一郎、エリカ、コゼ、シャングリア、ガドニエル、スクルドの六人は三十人のエルフ隊に完全に囲まれるように進んでいた。
全体を指揮するブルイネンは前だ。
シモンから受け取った陣内に入る通行用の割り符と、シモンからの手紙はブルイネンが派遣した先触れに、辺境候軍の軍営まで持って行かせた。
いまのところ、無事に軍営内に入れてもらえるようだ。
三日ほど滞在したモーリア男爵家を出立したのは、今日の早朝である。
出発の際には、モーリア男爵、シモン、クリスチナからは丁寧な見送りを受けるとともに、男爵からは改めて一郎に対する忠節の言葉を受けた。少し心がくすぐったく感じた。
さらにそのときに、王都組にした、イライジャ、ミウ、マーズ、イット、ユイナとも別れた。
その後、モーリア男爵領からナタル森林に一度戻り、エルフ族たちが「女王の道」と称している王族だけに許される
移動のすべては、ガドニエルも含めて徒歩だ。モーリア邸からナタル森林の距離も、三日のあいだにスクルドが作った移動術の新しい結界で一気に跳躍した。
イライジャたちも、王都までは可能な限りは、スクルドが他人の金で密かに作りまくった移動術施設で進むはずである。
また、ガドニエルは、女王なので、本当は徒歩ということはあり得ないのだが、当の本人が気にしてないのと、集団移動術の場合は、馬車のように長さがあるものだと、移動術の結界を通り抜けるのに時間を要し、移動術の結界の通過に使用する時間が長ければ長いほどに、生じる時差が拡大して、さらに数ノスも過ぎた時刻に到着することになるのだ。
だから、馬車は断念してもらった。
ガドニエルの服装も、歩きやすい軽装である。
まあ、ガドニエルが着れば、どんな服装でも女王としての絢爛な衣装にしが見えなくなるが……。
そして、一郎たちは、その後、森の境界を抜け、改めて国境を越えて、ハロンドール王国側の辺境候領に入り、領都の市街地を抜け、ようやく演習場近くまでやってきた。
太陽が中天にあるので、正午に近い時間だろう。
また、領都の市街地を通ってきたときには、珍しいエルフ族の隊列ということで、すぐに人だかりができはじめて、市街地を抜けるときには大勢の見物人の中を通り抜けるかたちになった。
集まっている人の声を拾ったところによれば、「あんな美しい軍は見たことがない」とか、「神々しいくらいに美しい」とか、「格好いい」とか、そういう溜息混じりの感嘆の声ばかりだった。
まあ、ガドニエルを含めて、一郎の周りにいる女たちは、確かに全員が絶世の美女だし、親衛隊の面々もまた、ただでさえ美形で知られるエルフ族が一郎の精を受けて、さらに美しくも可愛くもなっている。
これが赤揃えに金縁の見事な具足で揃えているのだ。
一郎自身も、確かに神々の軍と見物人が溜息をつくのもわかる気がする。
この中心に、自分が混じっているのが恐縮するほどだ。
それはともかく、辺境候軍の総指揮官がレオナルドというのが気になった。
「総指揮官は、辺境候自身じゃないんだなあ?」
ブルイネンが戻った後で、一郎は首を傾げて、独り言のように呟いた。
すると、すぐ前を進んでいたシャングリアが歩きながら振り返ってきた。
「男爵家で集めた情報によれば、辺境候のクレオン閣下は具合が悪いようだ。重篤とは聞かないが、横になっているそうだ。それで、いま一時的に総指揮官を嫡男のレオナルド殿が代行しているという話のようだな」
シャングリアが説明した。
「レオナルド殿か」
ここに来る前のシモンからの情報によれば、辺境候家の嫡男のレオナルドは、一郎の存在を面白く思っていないところがあり、端から一郎の命を狙ってくるということだった。
アネルザの実父であり辺境候のクレオンがいれば問題はないが、レオナルドには気をつけろと忠告を受けていたのだ。
そのレオナルドが軍の指揮権を持っているのか……。
「よし、そろそろ軍営に着く。遊びはやめだ。よく頑張ったな、ガド。そして、ありがとう。かなり、淫気を補充できたよ」
一郎は自分の指に絡ませていた釣り糸を引いてきゅっと絞りあげた。
実は、その糸は、一郎のすぐ後ろを歩くガドニエルの服の下に繋がっていて、彼女の乳首と股間のクリトリスの根元に結ばれているのだ。そして、その釣り糸が首の部分から外に出て、ガドニエルにさせているチョーカーについている丸い金具を通して、一郎の指に結ばれているという仕掛けである。
一郎は、それを時折引っ張ったり、淫魔術で振動させたりして、ずっとここまで悪戯をしながらガドニエルを歩かせてきたのである。
別に一郎がガドニエルを指名したわけではなく、ただ行軍をするのはつまらないので、誰か悪戯の相手をしろと口にしたら、この女王様が勢いよく手を上げて立候補したというわけだ。
「あんっ、あっ」
一郎の後ろでガドニエルが艶めかしい声で悶えるのが聞こえた。
面白いので、切断する前にもう一度ぎゅっと引っ張る。
「ひっ、あくっ」
ガドニエルがよろめいて一郎の背中にどんとぶつかった。
そのまま、一郎に抱きつくようにしてくる。
「も、もう、お許しを……。ひ、ひと思いに犯してください、ご主人様ああ」
ガドニエルが一郎に後ろから抱きつきながら、甘えた声で言った。
「ここでか? 夜まで我慢してくれ。その代わりに、ガドを一番に可愛がるから……。それよりも、そろそろ軍営らしい。回復術で身体を戻すんだ」
一郎は淫魔術で糸だけを亜空間で収納してしまう。
これで、ガドニエルを苦悶させていた糸がなくなる。ガドニエルが一郎の真横に移動してがっしりと腕を組んでいた。
「い、いえ、か、回復しませんわ……。ご主人様からもらった疼きはそのままにしておきます。だから、夜はたくさん可愛がってくださいましね」
ガドニエルが赤ら顔のまま、歩きながら一郎にしがみついてくる。
ふと見ると、ガドニエルの膝上のスカートの裾から出ている脚には、一郎の悪戯によって、股から滴った愛液がつっと流れていた。
一郎はにんまりとしてしまった。
「それで、どうですか? 淫気は溜まりましたか?」
すると、反対側の腕にコゼがしがみついてくる。
一郎は左にガドニエル、右にコゼを腕を組んで歩くかたちになった。
また、淫気が溜まるというのは、以前、パリスの対決のときに、一郎の淫気切れが起きて、戦いの真っ最中に倒れかけたことがあったことから、戦いが予想される直前には、むしろ淫気を溜めるために補充したいと一郎が頼んだことを真に受けている言葉だ。
一郎としては、退屈しのぎの悪戯の言い訳でしかなかったが、あのときのことを知っているみんなは、一郎の予想以上に心配して、是非やれと言いつのってきた。
真面目なエリカでさえも反対しなかった。
悪戯の対象は、勢いが群を抜いていたガドニエルになったが……。
「では、次はわたしがご主人様のお調教を受けるというのはどうでしょうか? コゼさん、ちょっと、そこをおどきなってください」
スクルドがにこにこしながら寄ってくる。
王都で処刑されて死んだことになっているスクルドことスクルズは、紺のベールで顔を隠している。服も魔道遣いらしい同じ色の紺のローブだ。
ただ、ローブの丈だけは太腿の半分くらいまでしかなく、しっかりと脚を出していた。
一郎が短いスカートが好きなので、ここにいる全員とも脚を出した服装をしてくれている。
さすがに親衛隊は、戦闘モードでズボンではあるが。
「おどきにならないわよ、スクルド。しっかりと周りに気を配ってなさい。もう敵陣よ」
コゼがぴしゃりと言った。
ベール越しだが、スクルドが不満そうに顔をしかめるのがわかった。
そんなことをしているうちに、軍営の中に入った。門衛のような場所もあったが、そのまま素通りになる。
途中の門衛で二騎の騎馬が前にやってきて、先導のように進んだ。ただし、特に挨拶のようなものはなく、いきなり前にやってきて、ついてこいとばかりに進み出しただけだ。
なんか、おかしな感じであり、ブルイネンも困惑しているのが、ここからでも伝わってきた。
中央に向かって進むにつれ、市街地を抜けてきたときのように、見物人のような兵が多くなっていく。
そのまま、各隊が次々に集まってくる場所を抜け、やがて両側に高い木の壁のある調練場のような場所に到着した。
前面には、整然と整列しているある程度大きな一隊がある。
徒歩兵だけでなく、騎馬も多く混じっている。
全員が武器を持ち、具足を身につけていた。
歓迎の隊にしては、なにか物々しい。
すると、ずっと先導していた二騎の騎馬がいきなり速度を増して、前にいる一軍の中に消えていった。
やはり、おかしな感じだ。
ずっと右腕に抱きついたままだったコゼがさっと離れて、無言で一郎の前に立つ。
さらに、前をエリカ、シャングリアが前方を守るように立ち、スクルドは一郎の後ろに回る。
「あれ?」
一瞬で連携した防備の態勢をとった周りに対して、ガドニエルだけが出遅れた感じになり、一郎の左腕を掴んだまま、彼女が少し狼狽えた小さな声を出す。
「用心しろ、ガド。しかし、気を抜くな。とても変な感じだ」
一郎はガドニエルだけでなく、ほかの者にも聞き取れる声で言った。
周りを囲む親衛隊たちも聞こえたのだろう。
彼女たちもまた気を引き締めた感じになるのがわかる。
「女王陛下の御前である──。不敬であろう──。下馬をせよ──」
前側にいるブルイネンの大音響が響いた。
すると、前に並ぶ一隊から五騎ほどの騎馬が進み出てきた。
中心にいるのはひと際大きな体軀の偉丈夫の騎士だ。具足は身につけているが顔は隠していない。
一郎は魔眼で読み取れる距離になったとき、中心の大きな騎士のステータスを読む。
“レオナルド=マルエダ
マルエダ家の嫡男
辺境候軍の指揮官
人間族、男
年齢 32歳
……
……
その他
魔素火粒剤(袋)を所持”
あれが、シモンが“レオ”と呼んでいたレオナルドか……。
なかなかに周囲を威圧しそうな戦士だと思った。
しかし、ステータスで見る限り、騎士としての実力は、シャングリアに遙かに劣る。
シャングリアと戦えば、一瞬で勝負がつくくらいのレベル差だ。
レオナルドが弱そうというよりは、一郎によって能力のあがったシャングリアが強すぎるのだろうが……。
「女王陛下、別にもてなしの天幕を準備しております。ご案内しますのでそちらにどうぞ……。ほかの者はこのままだ」
すると、レオナルドが大きな声でこっちに叫んだ。
どうでもいいが、まだ馬に乗ったままだ。
レオナルドだけでなく、横の騎士たちもである。
そのまま、騎馬でゆっくりと揃って近づいてくる。
「聞こえんのか──。ガドニエル女王陛下の前だ──。お主ら、全員、下馬をせよ──。それとも、ハロンドールの辺境の戦士たちは礼儀も知らぬ野蛮人か──」
再び、ブルイネンが叫んだ。
そして、手をあげる。
親衛隊の全員がさっと剣を抜いて武器を構える。
魔道を放つ態勢を取る者もいる。
寄ってきていたレオナルドたちがやっと停止した。
距離は五十メートルくらいか? こっちの単位では、“半マイス”という単位になるが……。
「どういうことですかな? 武器を構えるとは? それは我々に対する敵対行為ととっても?」
レオナルドが馬上のまま笑った。
そして、手を上げる。
すると、向こうも全将兵が武器を出す。
「エリカ、後ろ……」
コゼが鋭く言った。
「わかっている。全員、ロウ様を守るのよ」
エリカが言った。
そのエリカもシャングリアも、すでに剣を抜いている。
さっきのコゼの言葉で、一郎はいつの間にか、背後を遮られるように、別の隊に並ばれているのがわかった。
一郎たちの全員は、レオナルドたち辺境軍にすっかりと包囲をされた態勢だ。
「歓迎されているとは思えないな……」
シャングリアが剣を抜いたまま笑った。
横でエリカが小さく頷くのがわかった。
「もう一度、言う──。武器を引け──。我らは、友好的に人間族の辺境候に挨拶に来たのだ。シモン殿から受け取った割り符と手紙も到着したはず。繰り返すが、無礼である。ここにおられるのは、エルフ女王国の女王陛下の……」
ブルイネンの
明らかに敵対の態度だ。
だが、随分と挑発的でもある。
敵対するのであれば、なぜ、さっさと寄ってこないのだろう?
これだけの人数差なのだ。しかし、向こうは、まるでこっちが動くのを待っているとしかと思える。
そして、一郎は、さっきレオナルドからステータスを読んだとき、“魔素火粒剤”という見知らぬ言葉があったのを思い出した。
「袋」とあったが、見ると確かに、レオナルドは腰に布の袋をさげている。
いや、レオナルドだけでなく、ほかの四騎も、並んでいる兵たちの多くの者も同じような袋を腰にぶらげている。
さらに見れば、地面のあちこちに、同じような袋がばらまくように捨て置かれている。
一郎は首を傾げた。
「お待ちくださいね。とりあえず、結界で守りますわ」
ガドニエルが元気よく言った。
いつもそうだが、ガドニエルは、とにかく、一郎の役に立つのが嬉しそうだ
それはともかく、一郎は袋が気になって口を開いた。
「ところで、魔素火粒剤ってなんだ?」
「魔素火粒剤? あっ、いかん、ガド、魔道を遣うな──」
すると、シャングリアが突然に絶叫した。
次の瞬間、大音響とともにガドニエルの正面で大爆発が起こった。