【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「ガド──」
とっさに一郎は、ガドニエルにしがみついて、ガドニエルを爆風から守ろうとした。
なにしろ、ガドニエルの目の前で突如として、大爆発が起こったのだ。
一郎はガドニエルごと爆風で吹き飛ばされた。
背中に激痛が走る。
そのまま、ガドニエルごと地面に叩きつけられる
「ロウ──」
「ロウ様──」
シャングリアとエリカの絶叫が聞こえた。
倒れたまま、顔をあげる。
全身が焼けるように熱い。
見ると、自分の腕と抱きしめているガドニエルが血だらけだ。ガドニエルに意識はない。
ガドニエルは顔と上半身が爆風で焼けて血だらけだ。服もぼろぼろだ。
一郎の傷は腕と背中だろう。
しかし、みるみるうちに腕の傷は塞がってきている。
「ユグドラの癒やし」だ。
かつて、この世界に召喚されたばかりの頃に、ルルドの森で出会ったユグドラという女精から授かった特殊能力だ。どんなに瀕死の負傷をしても、大地に触れている限り、すぐに傷を癒やしてくれるというものだ。
これまで、そんなに使うことはなかったが、いまは役に立ってくれた。
「俺は大丈夫だ──。みんな──」
状況を確認する──。
どうやら爆発に巻き込まれたのは、一郎とガドニエルのほかには、コゼとスクルドのようだ。ふたりもまた横に転がっている。だが、このふたりは飛ばされただけで目立った外傷はない。すでに、起きあがろうとしている。
エリカとシャングリアは無事だ。
「ロウ殿と陛下を救え──。全員、盾になれ──」
ブルイネンが離れた場所で絶叫したのが聞こえた。
そして、前からレオナルドを先頭にしている隊が喚声をあげて殺到してきている。
「まずい──」
一郎はとっさに粘性体を地面に這わせて、前からの隊を足止めしようとした。
次の瞬間、大音響が起きて、一郎は気がつくと宙に浮いていた。
訳がわからなかったが、再び足もとで爆発が起きたのは確かだ。
目の前が暗くなり、地面に頭を叩きつけられたのがわかった。
「ロウ様、しっかり──」
抱き起こされた。
エリカの声──。
はっとした。
凄まじい怒声と剣戟の響きが耳に入る。
周囲のあちこちで戦いが起きている。
四方八方を辺境候軍に囲まれていて、それを親衛隊の女兵たちが阻止しているのだ。
親衛隊たちは、小さな全周の防御陣を作り、その中央に一郎とエリカとコゼがいる。また、まだ倒れたままのガドニエルがいて、それをスクルドが介抱をしているという状況だ。
一郎は身体を起こした。
「あっ、まだ、立ちあがっては……」
エリカが驚いて一郎を支える。
しかし、一郎はそれを振りほどいた。
「傷は塞がっている。ユグドラの癒やしだ──。それよりも、俺はどのくらい気を失っていたんだ、エリカ?」
「ほんのちょっとです」
「ご主人様、本当に大丈夫ですか──? 血だらけですよ──」
コゼだ。
短剣を二本抜いていて、両方に持っている。すでに、その両方に血がついており、コゼも返り血らしきものを浴びている。
「コゼ、ロウ様から離れないでよ──」
エリカが外側の辺境候軍の兵と親衛隊たちが戦っている囲みに向かって駆けた。
跳躍して、そのまま囲みの騒乱の外側に飛び込む。
ばたばたと囲みの外側で兵たちが倒れ出すが、エリカの姿が辺境候軍の兵たちの海の中に消えてしまう。
「エリカ──」
一郎は驚いて絶叫した。
とっさに、亜空間から短銃を取り出して手に持つ。一郎の亜空間には、いつでも取り出せる短銃が火がついたまま、百丁は収納してある。
しかし、その直後、しまったと思った。
さっき、一郎が粘性体を出そうとして、目の前で爆発が起こった。また、ガドニエルが最初に魔道を発しようとしたときにも、爆破が起こった。
おそらく、この付近に充満しているのは、魔道を起こそうとすると、それに反応して爆破するなにかの粒子なのだろう。
あの“魔素火粒剤”というのがそうなのだと思う。
レオナルドは、だから、先にこっちが魔道を発して爆風に巻き込まれて、混乱するのを待ち構えていたのだ。
だが、いま一郎は亜空間から、短銃を出してしまった。
「あれっ?」
だが、一郎の手の中には、火のついた短銃が握られている。
同じように淫気を代償とする術なのだが、粘性体は火粒剤に反応して、収用術は反応しない?
まあいい……。
考えるのは、後だ──。
そのときだった。
レオナルドの慌てたような大声が耳に入ってきた。
どうやら、戦闘を開始した隊を止めようとしているみたいだ。女王を傷つけるなとも絶叫している。ところが、この混乱の中で隊をまとめることができないようだ。
レオナルドがこの戦闘を引き起こしたというよりは、諸兵たちが勝手に襲撃を開始したということ?
そんな感じだ。
とにかく、いまは親衛隊の女たちが死に物狂いで全周で防御をして、戦闘を続けている。
いまのところ、親衛隊たちが圧倒しているが、なにしろ数が違う。
しかも、背中側からも戦っている味方越しに投石や剣を投げられたりして、それで傷つき始めてもいる。
いまに、どこかが崩れそうだ。
一郎は、後ろ側を見た。
いまの状況で、前も後ろもないが、この調練場に入ってきた方向とは逆の方向だ。
「ブルイネン──。こっちだ──。全員をこっちに向けろ──。全力でここを離脱する──。この調練場から出るんだ──」
一郎は短銃を持ったまま、後方に向かう。
「ご主人様、外側に近づかないで──」
コゼが慌てたように叫ぶ。
「コゼとスクルドは、ガドを頼む。連れてくるんだ──」
ガドニエルは、まだ火傷を負った状態で、スクルドの膝に抱かれて横たわっている状態だ。
それだけを言って、亜空間から毛布を一枚出して、スクルドとガドニエルのいる方向に放った。
やっぱり、大丈夫だ。
収用術だけは、魔素火粒剤とやらは反応しない。
エリカなどの自分の女と異空間に閉じこもる亜空間術までいくとわからないが、ただ物を取り出す、通常の収用術までは問題ないみたいだ。
一郎は、剣戟を斬り結んでいる親衛隊たちの一角に接近すると、彼女たちのあいだを狙って、短銃を撃ち放った。
弾が当たった兵が悲鳴とともに崩れ落ちる。
そのときには、次の短銃が手の中にある。
続いて撃つ──。
また、敵兵が倒れる。
同じことを瞬く間に五回続ける。
さすがに、その方向の敵兵がひるんで数が減る。
「いけええ、突撃いいい──」
ブルイネンが背中側で叫んだのがわかった。
「ロウ様──」
「ロウ──」
そのとき、横方向から二騎の騎馬が敵兵を踏み潰して、一郎たちのいる中央に入ってきた。
エリカとシャングリアだ。
ふたりとも、返り血なのか自分の血なのかわからないが血だらけだ。
しかし、敵から馬を奪ってきたみたいだ。
「ガドを──」
一郎は、スクルドとコゼが抱え起こしたガドニエルの身体をとりあえずシャングリアの乗る馬の背にあげた。
「コゼとロウ様は、馬のあいだに入って──。スクルドも──」
エリカが自分の乗る馬をシャングリアの操る馬に並べ、一郎たちは左右を馬に挟まれて守られる態勢になった。
「行くわよ──。コゼ、ブルイネン──。前に──」
エリカが必死の口調で叫んで馬を進ませはじめる。
シャングリアの馬も並んで進み出す。
一郎たちはそれに併せて走る。
馬上のエリカもシャングリアも剣を必死に振り回して、近寄る敵を蹴散らしている。
ブルイネン以下の親衛隊も必死に切り進んで併走する。
「どきなさい──。どいつもこいつも、喉をかっ斬るわよ──」
コゼが二頭の馬の前に出た。
跳ねあがり、次々に短剣で前の前に出てくる敵兵を斬り、騎馬の脚を断つ。
「ロウ殿──、陛下は──?」
突き進んでいるあいだに、ブルイネンが馬のあいだに飛び込んできた。
いつの間にか親衛隊の全員で二頭の馬を守るように集まって進む態勢になっている。
「意識がないが無事だ──」
一郎は走りながら言った。
ブルイネンのほっとしたような息が伝わってきた。
しばらく戦いながら進む。
すると、不意に勢いが増した。
囲みを突破したようだ。
一郎の視界に入る限り、進む方向に敵がいない。
一瞬だけ振り返る。
かなり距離があるがレオナルドが必死に味方をまとめようとしているのが見えた。
途中でも、攻撃をやめさせるようなことを叫んでいたが、もしかしたら、この状況はレオナルドとしても不本意だった?
とにかく、襲撃の勢いが弱くなり、このまま進めば演習場の外に離脱できるかもしれない。
一郎は決心した。
「エリカ、親衛隊の人間と騎馬を交代しろ。シャングリアとスクルドはそのまま親衛隊と一緒に行け。スクルドは演習場の外に出たら、ガドの傷を回復させてやれ。多分、演習場の外に出れば、魔道が遣える」
一郎は言いながら、亜空間から三個の首輪を出した。
ひとつを自分に嵌めるとともに、コゼとエリカに投げ渡す。
そのあいだも、一郎たちは走り続けている。
しかし、まだ諸侯の兵たちはいるだろう。
ただ、このまままとまっていけば、突破もできると思う。
「どうするのですか?」
横でスクルドが声をあげた。
シャングリアやブルイネンも、一郎に意識を集めてくる。
エリカとコゼも、困惑した様子ながらも、渡された首輪を自分で首に嵌めている。
「この首輪は、前に羞恥責めをしたときに使った認識阻害の首輪だ。そのときの馬鹿な悪戯が役に立ちそうだ。このまま、俺たち三人は離脱する。みんなは、外に逃げてくれ。魔道が遣える場所にまで逃げ込めば、あいつらは追ってこれない。多分、ガドを最初に負傷させてしまったのは、向こうの計算外なのだと思う。向こうが混乱しているうちに、突破してくれ」
一郎は駆けながらにやりと笑った。
「これは、羞恥責めのときのですか? それで、どうするんです?」
エリカがひらりと馬から飛び降りてきた。
すぐさま、親衛隊の女兵が走りながら乗り変わる。
「まだ混乱の状況だ。これに乗じて、ピカロとチャルタを探し出して連れ出す。あいつらさえ取り戻せば、ここに用はない。さよならだ」
一郎は言った。
すると、進む方向にまた別の一隊が現れようとしているのがわかった。
馬止めのようなものを出して、阻止しようとしている。
「ロウたちは残るということか──?」
シャングリアだ。
困惑した表情だ。
しかし、説得する暇はない。
「頼むぞ。魔素火粒剤に注意しろよ。陣を張っているところは、それがまき散らしてあると思っていい」
一郎は集団から飛び出して、その場に伏せた。
慌てたように、エリカとコゼも続く。
そのまま、地面に倒れてブルイネンたちを見送る。
彼女たちの動揺は伝わってきたが、とりあえず、一郎の言葉の通りに動いてくれた。ブルイネンたちは、そのまま離脱を阻止しようとする新しい隊に向かって進んでいく。
一郎たち三人が残るかたちになった。
「ロウ様……?」
「ご主人様?」
エリカとコゼも困惑している。
そのあいだも、ブルイネンたちは遠くなり、やがて、再び剣戟の響きが伝わってきた。
一郎は身体を起こした。
エリカとコゼも上半身を起こす。
「さて、じゃあ、行こう。声や気配を殺して進めば、仲間以外は俺たちの姿が認識できない。いつぞやの羞恥責めで実験済みだ。あのときのように、声を我慢して進めばいい」
周りに兵たちはいない。
視界の遠くでは、ブルイネンたちが現れた陣に飛び込んでいるのが見えていて、そこにはいるが、かなり距離がある。
突破してきた調練場とも離れているので、草原の真ん中に一郎たち三人だけがいる感じだ。
一郎はすっとふたりのお尻の下に手を伸ばして撫でた。
「ひっ」
「あんっ」
エリカとコゼがびくりと腰を跳ねあげた。
「声を出すなと言うのに」
一郎は笑った。