※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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685 ロウ親衛隊vs辺境侯軍

「レオナルド様、攻撃しましょう。このままでは埒もあきません。ロウは目の前の峡谷の中にいるのです。相手はわずか四十名足らず。しかも、女──。飛び込んでしまえば、もう一度、魔素火粒剤で魔道も封じ込めます。どうにでもなります」

 

 リスターが言った。

 こいつはこの軍営ではじめて、レオナルドの手元に置くことにした部下のひとりである。

 辺境候家の者ではないが、ワーレン子爵家というマルエダ家の昔からの寄子の家の紹介で手元に置くことにした男だ。

 当初は、陣借りをさせてやり、見込みがあれば使ってやって欲しいということだったが、少し語ってみて、軍学に明るいということを知り、すぐにレオナルドの軍師代わりに使ってみることにした。いまは、副官のように近くに侍ることを許可している。

 

 そのリスターがレオナルドに真剣な表情で言い(つの)ってきた。

 峡谷の入口に張り巡らされているエルフ族たちの魔道結界を前にした陣だ。レオナルドたちは、峡谷の前で辺境候家の隊を展開させており、いまは、狭い峡谷の前面で、三重にエルフ族の女兵たちを取り囲んでいた。

 

「馬鹿なことを言うな。エルフ族の女王だぞ。それとまともに剣を構えるなど、一介の辺境候家にとっては、事が重大すぎる。そもそも、女王は、混乱に乗じ捕らえて保護するだけのつもりだったのだ。まさか、女王自身が最初に魔道を発するとは……」

 

 レオナルドは吐き捨てた。

 まったく、どうしてこんなことになったのか……。

 だが、考えてみれば、そういうことも予測して案を練るべきだったのだ。しかし、レオナルドは、女王は一隊の後方に安全に守られた状態でいるものと思い込んでしまっていた。

 最初に魔道をエルフ族が放ち、それで魔素火粒剤の引火に巻き込まれて混乱することで、簡単に全員を捕らえられるはずだったのだ。

 誰が、エルフ族女王がいの一番に魔道を放つなどと思うものか。おかげで、むしろこっちが混乱してしまった。

 

「そうですな。そもそも、ロウを襲撃するなら、まずは、女王とロウを引き離すべきでした。それなのに、エルフ隊や女王ごとロウを襲撃するなど、下策中の下策でしょうね。ロウとその仲間だけであれば、どうにでもなりました。もちろん、エルフ隊ごとロウを襲撃したというのは、エルフたちの国と(いくさ)を起こすつもりでなされたのでしょうが」

 

 リスターの皮肉っぽい言い草に、レオナルドは苦虫を噛みつぶしたような気分になる。

 軍師だと、レオナルドがこいつに口にしたわりには、今日の襲撃に際しては、レオナルドは目の前のリスターになんの相談もしなかった。

 いや、相談など必要と考えなかった。

 ロウを殺すか、捕まえる手段があり、その実行を父親である辺境候が許可した。

 あとは、レオナルドはなにも考えなかった。

 リスターは、他家ということもあり、四六時中、レオナルドのそばにいるわけではない。

 

 もちろん、いれば相談もしただろう。

 だが、昨日から今日にかけては、たまたまリスターは所用で子爵家の陣に戻っていた。

 レオナルドとしても、女王の親衛隊への罠を成功させるために、ぎりぎりまで自隊への指示を待って、行動を秘匿した。

 それだけのことだが、リスターとしては、事前に知らされなかったことが不満なのだろう。

 

「単独で戦などせん。するなら……」

 

 するなら、タリオ公国と共同戦線になる──。

 

 つい、そう口にしかけて、一瞬躊躇した。タリオとの秘密同盟のことについては、くれぐれも他言無用と念を押されているのである。

 父親のクレオンにすら知らせておらず、レオナルドと数名の側近が認識しているにすぎない。

 

「お待ちください、レオナルド様──。その先は──」

 

 しかし、リスターが慌てたように、手でレオナルドの言葉を制する仕草をした。

 まるで、レオナルドが言いかけた言葉を承知している感じであり、少しだけ困惑してしまった。

 

「我らは攻撃できるのです。捕らえて人質にしようとすることもできましょう。なにせ、偽者ですから……」

 

「なにを言っておる? あれは間違いなく本物だ。少し垣間見(かいまみ)えただけだが、噂通りの気が遠くなるほどの美貌と色香であった。しかも、目の前の結界を見よ。あれほどに重厚な結界など、女王でなければ刻めまい。そもそも、水晶宮とやらからは正式の親書も届いており……」

 

「いいえ、偽者です。だが、もしも、本物と断定しておられるなら、エルフ国の女王に大けがをさせるなど、大変な失態です。エルフ族の王宮はこの辺境候家に報復するでしょう。ただし、もしも、偽者を捕らえた後で、本物とわかったら、少なくとも、本物の女王がこの軍営に留まっておるあいだは、なにもできません。とにかく、我々は、こうなってしまっては、遮二無二、女王の偽者を捕らえなければならないのです」

 

 リスターがレオナルドの言葉を途中で遮って、きっぱりと言った。

 

「リスター?」

 

 レオナルドは困惑した。

 だが、リスターが首を小さく横に振る。

 

「偽者なのです……。偽者でなければならんのです──」

 

 リスターがもう一度言った。

 そして、レオナルドは、こいつが言いたいことがやっとわかってきた。

 つまりは、なんとしても、女王の身柄を抑えるべきと主張しているのだ。

 本物であろうと、偽者と断じて、強引に身柄を確保してしまえということか……。

 

 確かに、こうなってしまっては、女王を捕らえて軍営に人質にでもしないと、エルフ族の報復の対象になってしまう。

 だから、いまは、相手は偽者と思えということか……。

 捕らえた後で、偽者と思っていたと主張すればいいとも……。

 無論、嘘だが、嘘も百回繰り返せば、本当になるともいう。

 こうなったら、女王を人質に……。

 

「わかった──。だが、攻撃といっても、この分厚い結界の膜だ。矢弓も、魔道も通しはせぬ。向こう側さえも見えんのだ。どうしようもあるまい」

 

 レオナルドは言った。

 すると、リスターは首を横に振った。

 

「魔道の結界は、魔道は跳ね返しますが、完全に人や物を阻むわけではありません。ただ、力場を操作して、結界の壁を通り抜けるまでの人や物の速度を恐ろしく鈍重にするということ……。矢弓や槍はそれで完全に阻まれますが、意思を持った人であれば、時間はかかっても進み続けられます。そして、最後には突破できる……」

 

「それはそうかもしれないが、結界の中を突き進むなど、水の中を歩き進むのも同じ。相手の弓矢の的になるだけだ。多分、連中の結界は内側からはなにも妨げないようになっておると思うぞ」

 

 魔道結界のことについては、もちろんレオナルドも知っている。

 石や土のような物理的な壁とは異なり、魔道による結界の壁とは、強い力場の壁になる。

 通り抜けようとして抜けられないことはないかもしれない。

 しかし、操作された強い力場を貫き進むことになり、結界の内側にいる者からすれば、極めてゆっくりと外から人が進んでくるみたいに見える。

 また、通り抜ける者にとっても、すさまじいほどの筋肉を使用することになるので、かなりの疲労困憊になってしまう。

 だから、事実上は、通り抜けられない壁なのだ。

 

「相手はたった四十名の女たちです──。魔道鏡板の大楯を百枚準備させました。数で突っ込ませましょう。例えば、一枚につき十人が隠れ、全部で千人が突っ込んだとします。半分が死んでも、五百は残る。五百もいれば、三十人余りのエルフ族など圧倒できます。内側に潜れば、魔素火粒剤でエルフ族も封印します」

 

 魔道鏡板というのは、戦において、魔道遣いを要する敵から身を守るために、向こうから発射された魔道攻撃をそのまま跳ね返すことができる対魔道攻撃用の楯である。

 軍であれば、どこにでもあるものであり、もちろん辺境候軍でも多数保有している。

 それを運ばせてきたのだろう。

 

「しかし、それでエルフ族の結界の内側からの魔道は跳ね返せても、弓矢や槍は素通りだ。魔道鏡板は構造上、物理攻撃には弱い。さっきも言ったが、結界の重力場の中ではまるで時間がとまっているようになるのだ。見た感じでは、向こうが見えないほどの分厚い結界だ。壁を抜けるまでにほとんどが死ぬ」

 

「死ねばいいでしょう。ほとんど死ぬということは、幾らかは残るということです。女王、いえ、その偽者を人質にしなければ、我ら列州同盟に後はないのです──。ご決断を、レオナルド様」

 

 リスターが断固とした口調で言った。

 “列州同盟”というのは、レオナルドの構想として、このハロンドール王国から辺境候家を首班とする諸侯が独立国として分離することを考えており、そのときに名乗る予定の国名だ。

 それはともかく、レオナルドは思わず唸った。

 理屈は通っている。

 しかし、わずか数十名のエルフ族の女兵を相手に、大量の味方が死ぬ作戦だ。

 だが、レオナルドが逡巡したのは、長い時間ではなかった。

 

「わかった。各隊長を集めて指示をしろ。兵には魔素火粒剤の袋を持たせ、穴を開けて流砂を撒きながら進ませろ。通り抜けたときに死骸になっていたとしても、壁の向こうに辿り着けば、魔素火粒剤が流れる。結界に穴が開いても、新しく結界を刻み直せない」

 

「承知しました」

 

 リスターが離れていく。

 だが、すぐに各隊長級の者が集まってきた。

 レオナルドにより結界を抜けて攻撃せよという命令には戸惑った表情を見せたが、拒否する者はなかった。

 ここにいるのは、すべて辺境候軍の兵だ。これがまだ気心の知れないほかの諸侯軍の隊であれば違ったかもしれないが、辺境候軍の将兵の忠誠心も精強さも高い。

 厳しい命令であっても、拒否する者などいるわけもない。

 指示のあいだに、リスターの手配で各隊には、魔道鏡板が交付されてもいて、準備が整い次第に、すぐにはじめることになった。

 

 レオナルドは馬上になり、前方に近い後方から,各隊の動きを見守る態勢になっている。

 隣には、やはり騎馬になったリスターがいる。

 

「始まりました」

 

 リスターが言った。

 その言葉の通り、まずは三隊が突っ込む。約百人ずつの三隊だ。

 正面に魔道鏡板の大楯を並べ、その後ろから密集隊形の百人隊が方形陣形で駆けていく。

 

 同時に左右側と正面──。

 結界の壁にぶつかる。

 

 全速力で駆けていた百人隊の兵たちが途端にゆっくりとなり、陣形がほぐれて離れはじめる。

 力場のせいで、いつものような動きができなくて、前後左右の兵と動きを合わせられないで陣形を組めないのだ。

 

 雷が落ちるような大きな音が連発で起こった──。

 なにが起きているかは、ここからでははっきりとはわからない。

 しかし、おそらく、魔道による内側からの攻撃だろう。

 だが、魔道鏡板を前面に立てて進んでいるので、攻撃魔道はそのまま跳ね返したはずだ。

 

 各隊が押している。

 ゆっくりとだが、確実に前に進んでいる。

 いけるか──?

 

「順調です……。しかし、すぐにあれは全滅します……。第二段を向かわせます。敵に息をさせないほどに進み続けるしかありません」

 

 リスターが言った。

 そして、手で物見櫓(ものみやぐら)にいる兵に合図をした。

 櫓はここに隊を展開させたときに組み立てさせたものであり、持ち運んで短い時間で組み立てることができるように細工をされたものだ。

 その櫓にいる兵が赤旗を振った。

 続く百人隊の三個組が進み出す。

 また、リスターの予想通りに、最初の三百人は結界の壁の途中でほぼ倒れたようだ。

 薄っすらとだが、結界の力場の中で矢が刺さって、ことごとく倒れているのが見える。

 

「第二段がぶつかります──」

 

 続く三百人がぶつかる。

 今度は最初に倒れた味方の兵を弓矢の楯にして這い進むことができるはずだ。今度こそ……。

 そして、第二段が結界にぶつかる。

 途端に、動きが鈍重になるのがわかる。

 

「いけるか?」

 

「どうでしょう……。幾らかは壁の向こうに行けるかもしれません……。しかし、勝負は次でしょう」

 

 リスターが櫓に合図をさせる。

 第三段の三百人が方形陣形を組んで進みだす。

 まだ、第二段の進みはとまってない。

 しかし、その後ろに第三段がついて、先を進む第二段の兵を押すように進んでいく。

 

「力場が弱まってます……。しかし、結界は張り直しがありません。魔素火粒剤が内側に到達しているんです」

 

 リスターが言った。

 レオナルドは魔道力はそれほどでもないので、力場が弱まっているのかどうかはわからない。

 しかし、そう言われれば、全く見えなかった力場の向こう側がだんだんと透けてきている。

 

「おう──」

 

 レオナルドは思わず声をあげた。

 結界の向こう側の戦いの光景が視界に入ってきたのだ。

 次々に倒されているが、エルフ族の女兵と味方の兵が戦っていた。しかし、圧倒的にエルフ族の女兵が強い。

 結界を突き抜けて疲労の限界にあるせいもあるのかもしれないが、女兵たちの剣のひと振り、ひと振りで、一度にふたり、三人と斬り倒されていく。

 女兵ひとりにつき、少なくとも十人が群がっているが、それでもエルフ族の女兵たちが動きが鈍くなる気配すらない。

 だが、第三段の兵たちが壁の向こうに辿り着きだす。

 

 エルフ族たちで戦っている正面は、わずか三十人程度──。

 その間隙に、味方の兵がどっと割り入ったのがわかった。

 

「行けます──」

 

 リスターの声に喜色の響きが混じる。

 櫓に向かって、手をあげた。

 赤い旗が振られる。

 

 第四段だ──。

 兵はこれで終わりだ。

 辺境候軍のもともとの自隊兵はこれでほぼ出し尽くした。

 

 そのとき、結界の向こう側から騎馬が一騎飛び出してきた。

 白銀の長い髪をした女だ──。

 (かぶと)は被ってない。

 こちらの第二段集団、第三段集団を断ち割って、突破してくる。

 しかも、まっしぐらにこっちに駆けてきた。

 槍先に剣の刃がついているような長い剣を持っている。

 それでこちらの兵を斬り払いながら進んできた。

 みるみるうちに、目前にまで迫る──。

 

「気の毒な攻撃を味方にさせながら、お前らは高みの見物かあああ──」

 

 やってくる。

 レオナルドは恐怖した。

 

 間違いなく斬られる──。

 本能がそれを教えてくれた。

 

 気がつくと、レオナルドはリスターも護衛の兵も置き去りにして、ただ一騎で全力で馬を後ろに駆けさせていた。

 

「女、待てええ──」

 

 背中側で遠くになったリスターが狼狽える声が聞こえた。 

 

「邪魔ああああ──」

 

 悲鳴があがった。

 駆けながら振り返ると、リスターの首が宙を飛んでいた。

 あの女の騎馬は、すでにリスターの横を過ぎ去っていた。レオナルドの護衛たちも、圧倒されて置き去りだ。

 

 仰天したレオナルドは、思い切り馬の腹を足で蹴る。

 しかし、追ってくる騎馬の音がどんどん大きくなる。

 

「だ、誰か、助けよ──。俺を助けるんだああ」

 

 レオナルドは馬で駆けながら叫んだ。

 だが、味方は誰もいない。

 

 そのときだった。

 離れている正面側に二騎の騎馬とそれを囲む人の集団の姿が出現した。

 ちょっと距離があるが、現れたのが何者なのかはすぐにわかった。

 騎馬は父親のクレオン──。そして、従妹のジェシーだ。

 そして、その護衛たち……。

 

 また、見知らぬ男とそれを囲む女たちもいる。クレオンとジェシー以外は全員が徒歩だ。

 しかし、彼らは歩いてきたわけではなさそうだ。

 まるで、宙から溶け出すように出現したように見えた。 

 

「シャングリア、とまれ──。レオナルド殿を殺すな──」

 

 すると、クレオンの横にいる徒歩の男が怒鳴った。

 

「おう、ロウか──。無事なのか──」

 

 すぐ後ろで、女の声がした。

 振り返る。

 

 ぎょっとした。

 さっきの女騎士だ。すでにすぐ後ろにいる──。

 

 騎馬のままで馬をとめているが、武器は手に持ったままであり、全身に返り血を帯びている。槍のような剣も血でべっとりと汚れていた。

 ただ、構えは解いていて、レオナルドに興味を失ったように、男の方に嬉しそうな笑みを浮かべている。

 

 とにかく、レオナルドは、自分の全身にどっと冷たい汗が流れるのがわかった。

 あの男の声がなければ、あと数瞬で死んでいただろう。

 

 だが、ロウだと?

 

 さっき声をあげたのがロウなのか?

 名は承知しているが、顔はよく知らなかった。

 あいつがそうか……。

 しかし、なぜ、父のクレオンと一緒にいるのか?

 そもそも、エルフ族たちと一緒に峡谷のあいだにいるのでは──?

 

「武器を引けええ──。直ちに戦いをやめよ──」

 

 クレオンが大きな声で一喝した。

 それとともに、クレオンの横の随行兵が軍ラッパを吹奏する。辺境候軍で軍行動の停止を命じるラッパ音であり、それが周囲に響き渡る。

 

「クレオン様、もう一度、ご命令を……。魔道で拡散させますわ」

 

 女の声がした。

 クレオンに話しかけたのは、顔をベールで隠した女だ。そういえば、最初にぶつかったとき、顔を隠した女もエルフ族たちの中に混ざっていた。

 そして、再び、クレオンの命令が戦場に響く。

 今度は魔道で拡散された。

 振り返ると、ずっと離れてしまったが、エルフ隊たちと辺境候軍の各隊が戦闘を停止し始めたのが見えた。

 クレオンの声を辺境候の将兵が聞き間違うはずもない。

 そのクレオンが戦闘の中止を命令したことで、兵たちは直ちに戦うのをやめたようだ。

 

 それにしても、なぜここにクレオンがいるのだ?

 看病をしていたジェシーもいるということは、間違いなくクレオンなのだろうが、夕べ話したときには、寝台から起きることもできないほど衰弱していた。

 いまは元気そうに見えるが……。

 わけがわからない……。

 そのクレオンがレオナルドに視線を向ける。

 

「レオナルド、お前を捕縛する……。大人しくせよ」

 

 そして、突然にクレオンが声をあげた。

 また、その声でクレオンの周りの護衛たちがレオナルドにゆっくりと向かってきた。

 

「ま、待ってくれ、父上──。なぜ、捕縛を……」

 

 どうして──?

 まさかとは思うが、エルフ族と戦端を開いたからか?

 だが、これは夕べ、病床にあったクレオンの指示を受けてそうしたのだ。まあ、確かに、命令されたのは、ロウの誅殺であって、女王たちと戦うことではなかったが、そのロウと女王は一緒にいたのである。

 やり口はまずかったが、叱られるならともかく、捕縛とはなんだ──?

 

「黙れ──。お前は私的な理由で辺境候軍を勝手に動かし、あまつさえ、女王陛下を負傷させた。これは断じて許すことなどできん。お前は辺境候を潰すつもりか──」

 

 クレオンが怒鳴った。

 私的な理由で勝手に……?

 それはまあ……、個人的な感情もあって、ロウを始末しようとしたことは確かだ。だが、勝手に軍を動かしたと言われては不本意でしかない。

 ロウを誅殺せよと、夕べ寝台にレオナルドを呼んで命じたのは、ほかならぬクレオン自身だ。

 

 しかし、すぐにレオナルドは悟った。

 なるほど、父は辺境候家を守るために、レオナルドを生け贄にしようとしているのか……。

 

 レオナルドは最悪の状況になりかけた事態を解決しようと、女王を人質にしようして隊を突撃させたが、クレオンは、それではなく、すべての責任をレオナルドひとりに押しつけて、マルエダ家の安泰を図ろうとしているということか?

 クレオンとロウが一緒にいることを考えると、もしかして、なにかの密談でもあったか?

 

 とにかく、レオナルドは自分を見捨てたクレオンにがっかりしてしまった。

 クレオンの護衛たちがレオナルドに縄をかけ始めたが、レオナルドはまったく抵抗をしなかった。

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