※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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 第10話  辺境候軍の総帥
689 辺境候軍の下剋上


「お館様、そろそろ、会合の時間です」

 

 扉の外から声をかけてきたのは、家宰のサーマクだ。

 クレオンは、思念から脱却して気を引き締めた。いずれにしても、これからが本番だ。この会合の如何により、この辺境候域の運命も変わると思っている。

 嫡男であるレオナルドの暴走、また、なによりも、クレオン自身が不甲斐なくもタリオの間者の手に落ちて一時期とはいえ、完全な操り状態になって容認してしまった、女王とロウへの攻撃だが、なんとしても穏便に解決しなければならない。

 タリオにいいように扱われた犬として、王国の守り人の歴史あるこのマルエダ家を終わらせるわけにはいかないのだ。

 それこそ、父祖に申し訳ない。

 

「伯父様、お身体は?」

 

 サーマクと一緒にいたのは、姪のジェシーだ。

 容体の悪いクレオンの看病をずっとつきっきりでしてくれたのは彼女である。弟のメンゲル伯爵の次女であり、この辺境候領の支配する国境軍に属する女騎士でもある。だが、この軍営に諸候軍を集め始めた時期からは、クレオンが病に倒れたために一時的に軍陣から抜けて、クレオンの気の回りの世話をしてくれていた。

 まあ、実際には病ではなくて、タリオの間者だった侍女たちが盛った毒だったのだが……。

 

「心配ない。あのスクルド殿の治療術ですっかりと解毒されている。ただ弱っていた足腰を強引に強化してもらっているので、術が解ければ数日は筋肉痛で苦しいらしいがな」

 

 クレオンは白い歯を見せた。

 もともと、辺境候として、生涯のほとんどは軍とともにあった。頑強に鍛えているので、病と思っていた毒さえ抜ければ、どうということもない。

 

「申し訳ありません」

 

 ジェシーが頭をさげた。

 クレオンは会合の場所に向かって廊下を歩き出しながら首を横に振る。

 

「謝るなと伝えたはずだがな、ジェシー。とにかく、完璧な治療術だ。完全に完治しているのが自分でもわかる。あと二十年は生きられるだろう」

 

 クレオンはわざと陽気に笑った。

 しかし、クレオンがあと二十年生きられるかどうかは、これからの話し合いによってだ。

 一方で、侍女たちがクレオンに毒を盛り続けて弱らせていたことに対し、すぐ横でクレオンを看病していたにも関わらず、まったく気がつかなかったことをジェシーは恥じていた。

 スクルドの治療によってクレオンが元気を取り戻し、あれが毒のせいだったと判明してからは、ずっとそのことを謝り続けた。だが、ジェシーのせいではないし、そもそも、あの侍女たちはマルエダ家の家人だ。なによりも、役割上、毒の扱いにも精通しているはずのクレオン自体が味でも匂いでも、まったく気がつかなかったのだ。

 経験の乏しいジェシーにわかるわけがない。

 

 それにしても、あのスクルド……。

 

 王都には頻繁に行ったことがあるわけではないが、あの女神殿長のスクルズに間違いないと思う。クレオンは、ハロンドール国内における史上もっとも若い女性神殿長、なによりも、王都国民に絶大に人気があって慕われていたスクルズの神殿長就任式に参加しているのだ。

 多分、間違いない。

 それがどうして、ここに?

 

 しかも、ルードルフの一連の蛮行の中で、王都の民が王を見限ることを決定的にしたのが、スクルズの処刑だという。

 クレオン自身は確認していないが、スクルズが王宮に呼び出されて陵辱されかかる光景と、嫌なら毒杯を飲めとルードルフに迫られ、スクルズが毒杯を飲み干す姿が、魔道具による映像記録によって、王都中に流れたのだそうだ。それどころか、複製をされて王都から持ち出され、王都を中心にかなりに拡がっているみたいだ。

 毒杯を呷ったスクルズにルードルフが激怒し、スクルズの死骸を全裸にして王都の広場に磔にして晒したときには、大暴動まで起きたという。

 眉唾だが、スクルズの魂を天空神が迎えてきて昇天したというが……。

 

 だが、なぜ、あそこに?

 しかも、ロウと一緒に……。

 名前も“スクルド”?

 さっぱりわからない……。

 

「いえ、そのことではなくて、父のことで……」

 

 すると、ジェシーが申し訳なさそうに言った。

 

「コンクッドがどうした?」

 

 コンクッド=ヨーク……。クレオンの実弟にして、ジェシーの父親だ。クレオンが辺境候の地位を継ぐのに併せて、マルエダ家が支配するもっとも大きな飛び地と、辺境候のほかに持っている幾つかの爵位のうち、「ヨーク伯爵家」を渡して独立をさせた。

 もっとも、それは一応はコンクッドの死に伴って、領地も爵位もマルエダ辺境候家に返還してもらう約束だ。

 しかし、そのコンクッドがどうしたのだ?

 

「ヨーク伯爵様は、対応がとれないために会同には参加できないという連絡がありました」

 

 すると、家宰のサーマクが口を挟んだ。

 

「欠席ということか?」

 

 ヨーク伯爵家は、クレオンの実弟というだけでなく、マルエダ家以外に五家ある辺境域の領主群の中で筆頭の地位にある。

 今回は、マルエダ家のみならず、辺境候域全体の将来やクレオンの檄で集まった叛乱軍の趨勢にも関わることなので、女王家側との会合に際しては、一応中心五家には同席するように声をかけた。

 檄で集まっている諸侯は十数家を数えるが、中心となっているのは平素、国境守備の常備軍を分割して管理しているマルエダ家を含めて六家なので、この六家がまとまれば、ほかから集まっている諸侯はどんな結論であろうとも従うだろう。逆に、この六家が分裂すると、非常に面倒だ。

 だから、声をかけた。

 女王家がやってくるのは、まだ一ノスくらい後だが、その前に、六家で話し合うために、早く集まってもらうように指示をした。

 しかし、筆頭のヨーク家が参加しない?

 

「申し訳ありません」

 

 ジェシーが半泣きの顔で頭をさげる。

 

「ほかに、コンクッドから伝言は?」

 

 クレオンはサーマクに訊ねた。

 

「所用で参加できないと」

 

「所用とはなんだ。我々の運命が決まる会同よりも大切な用事か? まあいい。参加しないのであれば、意見をいう資格はない。どのような結論であろうとも、飲み込んでもらう」

 

 クレオンは吐き捨てた。

 確かに、もともと明日の会同だったものが、女王家側からの申し出により、準備会同が急遽今夜になった。

 予定が急なのは認めるが、参加できないということはないだろうに。

 

「圧力がかかったのでしょうね」

 

 すると、サーマクが言った。

 

「圧力?」

 

 クレオンは足をとめて、首を傾げた。

 会同の場所は司令部側にあるので、クレオンの生活の場である場所とは渡り廊下で繋がっていた。いまは、その渡り廊下の真ん中だ。

 

「ほかの四家からでしょう。コンクッド殿はお館様の弟君です。実の兄に最後通牒を向けることなどできなかったのでしょう。ならば、欠席しろと詰め寄られたのではないかと」

 

「最後通牒とはなんだ──? 辺境五家がわしに盾突くというのか?」

 

 さすがに不快になり、クレオンは声に怒気を込めてしまった。

 確かに、形のうえでは対等に王家に忠誠を誓い、国境常備軍を分割して管理する五家ではあるが、実質上はマルエダ家を「寄親」とする寄子の家たちだ。

 平素訓練から各領主軍の指揮権をマルエダ家が持ち、その軍の維持費も辺境候家が負担している。

 その五家がクレオンに逆らうだと──?

 クレオンは思わず声をあげそうになっていた。

 

「お館様をお迎えにくる直前に、マルエダ家を除く五家筆頭が集まったという情報が入ってきました。我々には知らされずにです。そして、ヨーク家の会同欠席の連絡です。そこでなにかが話し合われ、その結果を受けて、ヨーク家が不参加となったのでしょうね」

 

 サーマクが不本意そうに言った。

 クレオンは唸った。

 そして、口を開く。

 

「そうか……。今回のわしらの失態を受けてか……」

 

「しかも、レオナルド殿の指揮で本軍は大きなダメージを受けています。ほんの数瞬の戦闘で百人以上が戦死し、現時点で動ける勢力は五分の一にもなりません。最終的には、それなりには復帰すると思われますが、それでも後遺症によって、三分の一は引退となるのは間違いありません」

 

「本家に力がなくなったのを見越して、それにとって代わろうということか。さしずめ、中心はリィナ女史か。あの女狐め」

 

 クレオンは舌打ちした。

 今日の戦闘でエルフ族軍に大きな痛手を受けた辺境候軍だったが、その大部分はマルエダ家の本家軍だ。

 一方で、そのほかの領主軍は、女王討伐には直接に関わっておらず、ほとんど無傷である。

 レオナルドが他家との調整を面倒がって、本家だけの軍を動かしたのが原因であるが、そのために大きな損害が発生した現状において、一時的に力の差の逆転が生じている。

 その隙をリィナがついてきたのだ。

 

 また、そのリィナというのは、辺境六家では、マルエダ家に次いで大きな領域を持つワイズ伯爵家の女領主だ。

 クレオンよりも十五歳ほど下であり、クレオンが家督を継いでエンゲル王に従って内乱の鎮圧に明け暮れていた頃は幼女にすぎなかった。だが、成長とともに才媛ぶりを発揮し、父親に認められて、三人の兄がいながら二十代で伯爵家の家督を継いだ。

 いまはすっかりと中年となり、体型も小太りとなって若い頃の面影はないが、才女ぶりは健在であり、領土経営にかけてはクレオンを遙かに凌ぎ、軍事力や動員力こそ、マルエダ家の半分にも満たないが、経済力についてはそんなに遜色はない。

 ルードルフ王がひとりしか妃を持たなかったため、この十数年のハロンドール王国内の貴族家では、実力のある家でも正式の妻はひとりであることが主流だが、あのリィナは正式に三人の夫を持っていて、子供も十人産んでいる。

 子育てに失敗した感のあるクレオンとは異なり、リィナの子供たちは、いずれも有能の評判が高く、そのうちの五人がワイズ家軍に入っている。

 

 前々から、この辺境候家にとって代わって、下剋上を狙っていることは知っていて、ついに、今回の機会を狙って動いてきたのかと思った。

 今回の騒動の背景で、タリオの間者が動いていたのは明らかのようなので、これもまた、その謀略の一環であることは否めないが、いずれにしても、いまそれをやられるのはあまりにも面倒だ。

 

「だから、私は以前から言っていましたよ。あの女領主は危険だから、理由をつけて排除すべきとね」

 

 サーマクは言った。

 クレオンは不快さを忘れて苦笑した。

 このサーマクは口が悪い。しかも、あまり搦め手という手段を使わない。いまも、気心が知れているとはいえ、他家の娘であるジェシーの前でありながら、平気でリィナ=ワイズを暗殺でもすべきと口にするくらいだ。

 まあ、これもまた、クレオンがサーマクを信頼する理由のひとつでもあるが……。

 わかりやすいのだ。

 

「同じ辺境六家の領主を理由もなく排除などできんよ。しかも、リィナはわしの娘のアネルザとも変わらぬ歳なのだぞ」

 

「すっかりと中年の女ですけどね……。おっと、私はアネルザお嬢様を貶めているわけではありません。お嬢様は相変わらずの可愛らしいお方です」

 

「二十年も顔を見てないだろうが……。まあ、確かに、アネルザは、まだまだ若い外観ではあったがな。あの女史とは違う」

 

 クレオンが王妃となったアネルザを最後に見たのはこのあいだであり、あのスクルズの神殿長就任式の式典のときだ。

 もともと、サーマクはアネルザの母であり、クレオンの最初の妻だった女が連れてきた家人だった。最初の妻は、アネルザを産んだことで、貴族の娘として義理は果たしたと口にして、愛人と暮らしたいので離縁をしてくれと言われたので、金を渡してその愛人の男とともにローム三公国に逃がしてやった。いまはどうしているか知らない。

 なお、レオナルドとシモンの母親は、二度目の妻になる。家臣の娘だったが、残念ながらシモンを産んだ後で、女にしかならない病で死んでしまった。

 

 それはともかく、サーマクは最初の妻に仕える従者だった。だが、その有能さを惜しんだクレオンが自分の家人として抜擢した。そんな経緯もあるので、サーマクがアネルザに抱く感情は娘を見るような特別なものがあるようだが、王妃となったいまでは、父親のクレオンでさえ、滅多に会うことも難しく、辺境候家の一介の家宰ではずっと会う機会もなかったはずだ。

 だから、サーマクのアネルザに対する記憶は、嫁入り直前の十代後半でとまっているのだと思うが、そういえば、思い出してみると、式典のときに会ったアネルザは、二十代を彷彿させるほどの肌の美しさであり、皺なども消えていた気がする。

 

「そうでしょう。お嬢様は素晴らしいのです」

 

 サーマクがにこにこと微笑む。

 搦め手を好まないということ以外は、なかなかに冷徹で優秀な男なのだが、唯一の欠点は、アネルザを心酔しきっていることである。

 あれは、性格もきつくて我が儘であり、王妃としても不人気であり、かなり問題があったが、サーマクはそれを信じなかった。

 悪いのはすべてルードルフ王であり、王妃の悪評はすべてが国王の無能に起因すると公然と言い放っていた。

 ここが辺境候領という王都から離れた場所だったために、問題にもなりようもなかったが、その口の悪さは、国王に対する不敬罪が問われてもおかしくはないくらいだった。

 だから、ロウという愛人の噂が立ち、アネルザの評判が高まりはじめると、そのロウのことを無条件に受け入れて、心から喜んでいた。

 

 そして、アネルザがルードルフ王に捕縛されたという情報には、クレオン以上に怒って涙を流していたし、昨夜、クレオンが錯乱させられ、ロウを処断しろとレオナルドに告げたときには、必死の口調でそれを諫めていたのをかすかに記憶している。

 とにかく、アネルザが絶対なのだ。

 それは、アネルザの愛人だというロウに対しても同じであり、サーマクはロウがアネルザの想い人だという一点でロウを認めている。

 それは、ロウがガドニエル女王の恋人であるという事実を前にしても変わらぬようだ。

 サーマクは、クレオンの知らない部分でアネルザと書簡のやりとりもしているようであり、ロウが女たらしであることを知っていて、それでも、アネルザが認めているという理由で、ロウを受け入れているようである。

 

「いずれにしても、次に機会があれば、サーマクの忠告を考慮することにする」

 

 クレオンはそれだけを言って、会議の場所である部屋に向かった。

 部屋には対面になる形で、テーブルと椅子が配席されており、入口側の椅子には辺境候家側の領主たちが並んでいた。すなわち、ワイズ家を含む四家である。弟のコンクッドが座るはずだったヨーク家の椅子には誰も座っていない。

 クレオンは、辺境候家側の筆頭席に腰掛けた。

 向かい側の女王側の席には誰もいない。

 彼女たちがくるのは、まだ一ノスほど先である。

 

「辺境候殿、お身体の具合が悪かったと伺っていますわ。嫡男殿に軍の指揮を変わってももらわないほどにねえ。だから、話し合っておりましたのよ。とんでもないことをやらかしたご嫡男殿が地下牢に入っているいまとなっては、全体を指揮をする者がおりませんわ。だから、軍の指揮を総括する者を決めねばならないとね」

 

 クレオンが席に着くや否や、すぐにリィナが言った。

 このリィナを含めて、四人の領主たちはクレオンを立ちあがって迎えるという行為をしなかった。

 つまりは、そういうことなのだろう。

 

「この辺境候軍の統一指揮権は、マルエダ家当主にある。これは王家によって与えられている権利だ」

 

 クレオンは言った。

 すると、リィナはいきなり大笑いした。

 

「これは、クレオン殿としたことが耄碌されたのでは? 王家に叛旗を掲げて集まっている反乱軍の総帥を決めるのに、王家から与えられている内容を理由になさるのですか? 我らは王家に反乱の旗を掲げた者たち。その総帥は、全員の意見を持って決めるべきですわ」

 

 クレオンはさすがにむっとした。

 

「王家に対する反乱ではない。現王ルードルフの兇行を糾弾して、退位を迫るのが我らの決起の目的だ。やむを得ないときには軍としての行動を起こすこともやぶさかではないが、まずは王宮に要望する。軍事行動はそれからだ」

 

「それはレオナルド殿の物言いと異なりますわね。レオナルド殿は、わたしたちが王国から分離独立する。列州同盟という新しい国名も決まっておりましたのよ。そもそも、ここに集結している軍は、いまは集まっているというだけで、王都への進軍の準備などしておりません。それにも関わらず、場合によっては王都に進軍すると? まあ、あなたはずっと床につかれておられたので、詳しい現状は承知はされていないとは思いますけどね」

 

「レオナルドがなにを言っていたのかは知らんが、それは無効だ。そもそも、そなたの言い草じゃないが、レオナルドはすでに地下牢だ。軍の指揮権は解いた。指揮権を解かれた者の言い草を根拠の理由とするのか?」

 

「レオナルド殿の物言いではなく、わたしたちの総意のことを申しているのですよ。そもそも、ルードルフ王の兇行に対する檄を受けてわたしたちは集まっています。その行動の方向性の話など、クレオン殿からはなにも聞いておりませんわ。聞いていたのはレオナルド殿の言葉です」

 

「明確な指図をしていなかったのは申し訳ないと思っている。だが、わしの考えはいま告げたとおりだ。この辺境候軍は、その総意としてルードルフ王に退位を要求する。それがなされない場合は、王都に向けて軍を動かす。だが、その目的はあくまでもルードルフの退位だ。おそらく、戦にはなるまいよ。ルードルフは退位する」

 

「あなたのお考えはそうなのですね。拝聴いたしました。しかし、この状況では、その言葉にはなんの価値もありません。自裁なさいませ。エルフ女王家もそう要求するでしょう。そうでなくても、それを講話条件にすべきです。なにしろ、今回の粗末な状況を引き起こしたのはマルエダ家です。女王に剣を向けたのもマルエダ家──。損害を受けたのもマルエダ家──。まさかとは思いますが、わたしたちをなんのために集めたのですか? まさか、マルエダ家が起こした失態に関する責任をわたしたちもとれと?」

 

 リィナが軽蔑しきった口調で言った。

 クレオンは背後からかすかな歯ぎしりの音が聞こえて、少し振り返った。

 家宰のサーマクだ。

 顔を真っ赤にして怒っている。

 だが、クレオンはおかげで少し冷静さを取り戻すことができた。辺境候として、これほどに無礼な言葉を突きつけられたことはないが、確かにエルフ女王家に理由もなく攻撃をするという愚行を起こしたのは、クレオンとレオナルドだ。

 そのことで、この軍営に集まっている者の全家に悪評が拡がるのであれば、不満も文句もあるだろう。

 

「責任はマルエダ家にある。それは間違いない。しかし、エルフ女王国との話し合いはこれからのことだ。わしらは、その会合を前にして、空中分裂するわけにはいかん。会合は一ノス後だ。いや、もう半ノス後か……」

 

「同意です。わたしたちは空中分解するわけには参りません。それをあなたが言ってくれて助かりました。女王を攻撃するなど蛮行を起こしたのはマルエダ家ですが、エルフ族側からすれば、ここに集まっているすべての軍営の愚行だとみなすでしょう。あなた方マルエダ家のせいで──」

 

 リィナの口調は、いまやほとんど喧嘩腰になっていた。

 

「わ、わかっている。だから、わしらはいまこそ、一体となってこの危難を……」

 

「わたしたちの危難ではなく、本来はマルエダ家の危難です。あのエルフ女王を……可憐にして、大陸の中にある人族の王朝の中でもっとも古く、もっとも権威のある女王家の当主に、あなた方は攻撃をしたのです。一体全体、どんな小児病的な理由があるかは存じませんがね」

 

 リィナは辛辣に言った。

 クレオンは追い詰められてたじたじになっていた。

 だが、弟のコンクッドが今回の会合に欠席をした背景も理解した。クレオンが彼女たちに合流する直前に、彼らは五人で話し合いをしていた。そのときに、このリィナが中心となって、クレオンへの弾劾を決めたのだろう。

 コンクッドは対抗できなかったに違いない。

 だから、せめてもの意思表示として、リィナたちと横並びでクレオンの弾劾に加わるよりはと、集まりに欠席する決断をしたのだと思う。

 コンクッドは、その集まりに関する情報をクレオンに知らせることはできなかった。その暇もなかった。家宰のサーマクでさえ、そういう集まりがあったことを知ったのは、ついさっきのようだし……。

 

「つ、つまり、わしに辺境候軍の総帥の立場から降りろと?」

 

「放り出されるよりも前にね」

 

 リィナが冷たく言った。

 

「わしを放り出すだと?」

 

「ええ、いずれにしても同じでしょう。女王家との話し合いのためには、レオナルド殿とクレオン殿の命……。少なくとも、それは最低必要です。女王家の報復がほかの諸侯たちの領土、領民にまで向くことは避けねばならないのです──。いずれにしても、時間はありません。今夜の事前会合においては、あなたがわたしたちの代表の席に座ることは認めます。しかし、話はわたしがします。一切の口を開きませんように通告します。そして、その後で、わたしたちのことを話し合いましょう。本会同は明日ですので、ひと晩の時間があります。次の総帥を誰にするかの話し合いをするには十分だと思います」

 

「それは、リィナ……いや、ワイズ伯爵殿だけの意見か? わしは、ずっと黙っているほかの三人からも意見を聞きたいのだがね」

 

「わたしの意見は、すでにわたしたち全員の意見です。ここにはいないヨーク伯爵殿からも同意を得ています。あなたの弟君がここにいないのが、その証明です」

 

 クレオンはぐっと拳を握りしめた。

 

「それがわしへの最後通牒ということか……」

 

「最後通牒でも、警告でもありませんよ。繰り返しますが、わたしたちの総意をお伝えしているだけです」

 

 リィナは冷たく言った。

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