【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「しゃきっとしなさいよ、エリカ。ご主人様がいないからって、少しだらしないんじゃない」
コゼが笑った。
ギルド本部のロビーにあるテーブルのひとつに突っ伏すようにして休んでいたエリカは、むっとして顔をあげた。
「ど、どの口で言ってんのよ、コゼ。あ、あんたのせいでしょう。ぜ、絶対に夕方には仕返しするからね」
エリカは声が周りに漏れないように注意しながら、コゼに向かって声をあげた。
「なんで、あたしのせいなのよ、エリカ? ご主人様がエリカたちに命令したんでしょう?」
「あ、あんたが、ロウ様に入れ知恵して、けしかけたせいじゃない。酷いわよ……」
「でも、最終的に命令したのはご主人様よ。それをあたしのせいなんていうのは、八つ当たりでしょう。それに責められたのは、あんただけじゃないじゃないのよ。シャングリアを見なさいよ。しゃきっとしているわよ」
「ふ、ふざけるんじゃないわよ」
エリカは思わず声をあげた。
このコゼの小馬鹿にしたような態度に腹が煮える。
エリカがこんなにも疲労困憊しているのには理由がある。
ここにやってくる前まで受けていた責めのためだ。
すなわち、「どじょう責め」だ。
責めの材料に使われたどじょうについては、もともと普通に料理するために、川辺を歩いていた物売りから購ったものだったのだが、コゼがそれに目をつけて、「どじょう責め」という「ぷれい」を思いついたのだ。
ロウとロウに支配された女たちのあいだで、取り決められている遊びのルールがひとつある。
それは、ロウが悦ぶような「責め」のアイデア──つまり、「ぷれい」を思いつき、それがロウに採用されたならば、アイデアを出した女が、それを指名する者に試していいという取り決めだ。
今朝は、コゼが「どじょう責め」というアイデアをロウに提供し、それを気に入ったロウが採用して、エリカとシャングリアは、朝から「調教」を受ける羽目になったのだ。
ロウは、そういう遊びを「ぷれい」と呼んでいるのだが、どじょう責めの「ぷれい」は、快感とはほど遠い拷問そのものだった。
犠牲者の「指名権」を得たコゼにより、当然のようにエリカとシャングリアが指名され、エリカたちは地下の調教室で全裸で両足を左右から逆さに吊られた。
そこに、“くすこ”という膣を拡げる道具を股間と肛門に挿し込まれて穴を拡げられ、それぞれにどじょうを数匹ずつ入れられたのだ。
繰り返し……。
暴れまくるどじょうの気持ち悪さと苦しさに、エリカもシャングリアも泣き喚いた。
それを一ノスは続けられたのだ。
エリカの体力と気力がまだ回復しないのは、自分でも無理もないと思うのだ。
「前から思っていたのだが、エリカはロウの調教が好きではないのか?」
そのとき、シャングリアが何気ない口調で訊ねた。シャングリアの声も周りを憚って小さなものだ。
「す、好きとか、嫌いとか……。で、でも、あんたもわたしと一緒にあんな目に遭ったのに大丈夫なの?」
エリカはシャングリアに言った。
朝っぱらから、どじょう責めという馬鹿馬鹿しい責めを受けたのはエリカだけではなく、シャングリアもそうだ。
しかし、シャングリアは比較的、しっかりとしているように思う。
「あれはつらかったが、ロウのやることだからな……。終わった後は、なんというか、充実感を感じる。ロウに命じられたことを頑張り抜いたぞ──という嬉しい気持ちだ。調教がきつければ、きついほど、終わった後で嬉しくなるのだ。だけど、それは頑張り抜かないと、そんな気持ちにはならない。そういう意味で、疲れはあるが、いまはいい気持ちだ」
シャングリアはにっこりと笑いながら言った。
エリカは驚いてしまった。
「そんな風に思えるの?」
膣や尻穴にどじょうを何匹も入られて、苦しむ姿をロウやコゼに嘲笑されながら見物され、それに充実感を覚えるなど、エリカには到底受け入れることのできない感性だ。
すると横で聞いていたコゼがくすくすと笑った。
「な、なによ?」
なんとなく意味ありげなコゼの笑いに、エリカは眉をひそめた。
コゼはもう一度周囲を見渡して、こっちに耳を傾けている者がいないことを確かめてから、エリカとシャングリアにぐっと顔を近づけるようにした。
「……あんたらは、同じマゾなのに性質が違うのよね……。エリカもシャングリアも責められて感じる身体をしているくせに、エリカは心ではそれを受け入れていないみたい。それに比べれば、シャングリアは責められるのも積極的よね。つまりは、消極的なマゾと積極的なマゾ……」
コゼが愉しそうに喉で笑った。
「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ。わ、わたしだって受け入れているわよ。ロウ様のすることなら……。それが償いでもあるし……」
ロウという外界人をこの世界に召喚したのは、ほかならぬエリカだ。ここに召喚される前には、ロウにもロウの人生があり、友人がいて、家族がいたのだ。それをすべて捨てさせて、ロウにとってまったくの異世界に連れてきてしまった。
それも、ロウの意思に反して、奴隷にするという目的のためにだ。
いま考えると、エリカは償おうとしても償うことのできない仕打ちをロウにしてしまったと思う。
だから、ロウのことは受け入れるし、ロウの命令であればどんな仕打ちでも受ける奴隷でも甘んじてなっている。
「それよ、それ──。あんたって、ときどき“償い”という言葉を口にするわよね。そういう意味では、ご主人様の奴隷であるということを本質的に受け入れていないのよ。まあ、誇り高いエルフ族だものね。それはわかるけど」
コゼはにやにやと微笑みながら言った。
「な、なによ……。随分と嫌な言い方するじゃないのよ……。わ、わたしはロウ様の性奴隷よ……。それを受け入れているわ」
「ほらね……。あんたは、“性奴隷であることを受け入れている”──。そういうことなのよ。別に悪いと言っているんじゃないわよ。ただ、あたしとは違うんだなあって、前から少しだけ思っていたのよね」
「なにが違うというのよ、コゼ?」
なんだか含みのある物言いだ。
エリカはなんとなく気に入らない。
なんだかんだで、エリカは一番最初にロウの性奴隷になった。
だが、コゼのいまの言葉は、コゼの方がロウの支配を積極的に受け入れて、エリカはそうではないとでも言いたい感じだ。
「まったく違うわ、エリカ……。あたしにとっては、ご主人様は救世主よ。受け入れるとか受け入れないとかじゃない。ご主人様がいなければ、あたしは死ぬよりもつらい人生を送っていた。こんな風に笑える日が来るなんて夢にも思わなかった。あたしはご主人様から受ける調教は好きよ。喩えれば、違う人生が百回あっても、あたしは、ご主人様の性奴隷になりたいわ」
「なに言ってんのよ──。なんだかんだで、あんたって、ロウ様にすり寄って、責め側に回るじゃないのよ。そりゃあ、そんな気持ちになるわよ」
エリカは頬を膨らませた。
今朝もそうだが、三人の中では、なぜかコゼはエリカやシャングリアを責める立場になることが多いのだ。もちろん、同じように「調教」も受けるのだが、責められる数は圧倒的にエリカが多いと思う。
「じゃあ、シャングリアにも聞いてみなさいよ──。ねえ、シャングリア、あんたは、どんな気持ちでご主人様の調教を受ける?」
コゼがシャングリアに話を向ける。
「わたしか? そうだな……。ロウは鬼畜で好色だ。だけど、どうやら、このわたしも好色だったようだ。それがこの二箇月でよくわかった。最初は、“まぞ”という言葉がよくわからなかったが、説明を受けると、わたしはそうなのかもしれない……。うん──。多分、そうなんだろう。わたしはまぞなのだな。ロウ専用だが……。だから、不満はない。正直に言えば、ロウに拘束されて、なにをされるかわからない状態になると、本当にぞくぞくする」
シャングリアはあっけらかんと言った。
エリカは唖然としてしまった。
「もういい──。なんだが、調教を嫌がるわたしが悪者みたい」
エリカは立ちあがった。
「どこ行くの、エリカ?」
コゼがからかうような口調で言った。
「厠よ」
エリカは声をあげた。
なんだか、自分を否定されたような気分になった。
エリカは苛ついた気持ちのまま、ギルド本部を出て、その裏に回る。
ギルド本部の厠は、入口を一度出て、裏側に回った場所にあるのだ。
用足し場の並ぶ厠に着く。
裏庭の隅に大きな仕切り壁があり、その向こうに木の壁に囲まれた用足し場がある。女の冒険者も多いので、さらに奥には女専用の用足し場が準備されていた。いずれの用足し場も地下下水に直結してあり、糞尿はそこに直接に流れ込まれるようになっているようだ。
エリカの故郷の里でも、以前冒険者をやっていた三公国でも、厠の糞便は、糞尿屋という買い取り業者が汲み取りをするというやり方だった。だが、この王都では、水道だけでなく、下水も発達していて、汚物そのものを城郭に集めないようになっている。
だから、とても清潔な感じがして、エリカはそれには感心していた。
最奥の厠に入って、戸の鍵を閉める。
四隅を壁に覆われた厠には小さな穴があり、そこにしゃがんで用を足すのだ。エリカは戸に向かって身体を向けるような体勢で、穴を跨いでしゃがみ込んだ。
股間を緩めて放尿をした。
そのとき、鍵をしたはずの戸が外から開かれた。
「なっ?」
あまりの驚きで、エリカは絶句して目の前に立つ男を見つめた。
知らない男だった。
年齢は四十前後だろうか。顔の下半分が髭で覆われている。
「あ、あんた、なに?」
立ちあがりかけて、エリカはその場に座ったままの姿勢に戻った。
まだ放尿は続いている。
一度出したゆばりは、自分の力では止めようがない。
「へへ、エルフ女の小便姿か……。いいもんだな」
男が笑った。
「な、なによ、あんた──。出て行って──」
エリカは狼狽して叫んだ。
覗かれているのはわかっているが、放尿は続いている。エリカは男が目の前にいるのにも関わらず、股を閉じられないでいた。
「もっと、怒りな……。怒れば、どんな人間でも心に隙ができる……。だ、だが、これは……」
男が呻きのような声をあげた。
やっと、エリカの頭に激怒の感情が昇った。
あまりのことに、まったく頭が回らなかったのだ。
しかし、そのとき、なにかが心の中に入ってきたと思った。
エリカは愕然とした。
急に、その男に対する切なさのような感情が芽生えたのだ。
操り……?
そう考えたのは一瞬だった。
次の瞬間には、頭が真っ白になり、なにも考えられなくなった。
やっと放尿が終わった。
しかし、エリカは動くのも忘れて、身体を硬直させたままでいた。
眼の前の男──。
誰だか知らないが、とても親しみを感じるその男は、蒼白になって荒々しく息をしていた。
「はあ、はあ、はあ……。な、なんだ、これは……。なんでこんなに抵抗が強いんだ? こんなのは初めてだぜ……。心が無防備なときでなければ、うまくいかなかったかもしれねえ……。危なかった……。本当に危なかった……」
男は独り言のような言葉を口にした。
エリカははっと思い立って、慌てて立ちあがって下着をはいた。
股間を布で拭くことなく下着を身に着けたので、残りしずくで下着の股間の部分が濡れたが、そんなことに構う余裕もない。
「あ、あなたは……誰……?」
エリカは訊ねた。
自分はこの男を知らないはずだ。
だが、どうしようもなくこの男を愛しいと思う自分がいる。
エリカの中のなにかが完全に封印されているのがわかる。おそらく、この男はエリカの感情を支配して、理性を消し去ろうとしていると思う。
それがわかっているのに、身体も思考も自由にならない。
身体がいうことをきかないのだ。
それどころか、男に対する抵抗心は、どんどんとエリカの心の壁の奥底に沈没して隠れていく。その代わりに、この男に進んで従おうとする別のエリカが出現して、エリカを支配しようしている。
「俺はジョナス。お前の恋人だ。俺に従うな、エリカ?」
ジョナスが笑った。
「も、もちろん……」
エリカは答えていた。
心からの悦びとともに……。
*
最初は驚いた。
ジョナスの操り術が跳ね返されそうになったのは、初めての経験だったのだ。
無論、ジョナスの操り術は完璧ではなく、若い女に絶対の力を駆使できるジョナスの力でも、男や老女には効かない。
しかし、それは、もともとジョナスの能力が若い女を主体にした能力であるということであり、術が跳ね返されるということとは異なる。
だが、エリカに支配を及ぼそうとしたとき、紛れもなく、ジョナスの操りに対する強い壁のようなものを感じた。
そんなことは生まれて初めてだった。
だが、エリカは女がひとりで放尿をしているという、考えられる限り最高に無防備な心の状態だった。また、分厚い壁のように感じた心の抵抗も、思ったよりも強固なものではなかった。
だから、ジョナスの支配の操りを最終的には及ぼすことができた。
ほっとはしているが、いまでもジョナスは動揺している。
こんなことは初めてだ。
なんなのだ……?
「あ、あなたは……誰……?」
エリカがきょとんとした表情で訊ねた。
大丈夫──。
もう、完全に支配している……。
ジョナスは念のために、エリカの感情を握る手ごたえを確認したが、すでに完全支配の状態にある。
さっきの感覚がなんだっだのかは不明だが、おそらく、なにかの勘違いだったのだろう……。
しかし……。
「俺はジョナス。お前の恋人だ。俺に従うな、エリカ?」
ジョナスは微笑みかけた。
「も、もちろん……」
エリカも釣られるように満面の笑みを浮かべた。
ジョナスは頷いた。
いずれにしても、これでエリカを捕えることに成功した。
すでに、この女はジョナスの操り人形だ。
あとは、それなりに調教して、依頼主に渡すだけだ。
それで金貨百枚──。
簡単な仕事だ。
だが、さっき垣間見たエリカの仲間の女ふたりもまた、美貌の女だった。シャングリアは当然として、もうひとりの黒髪の女もまた、美人だ。あの黒髪の女は、エリカと同程度の値段で好事家に売れると思う。
そして、ジョナスは、前々から、あのシャングリアに個人的に興味があった。
少し以前までは、男嫌いのお転婆姫と評判だったが、このところ冒険者ギルドに出入りするようになり、決して、そうではないことを知った。
むしろ、男に媚びるような可愛らしさを垣間見せることが多かった。
無論、それは、あのロウという男だけに示す態度なのだが、それをジョナスにも向けさせたい。
男勝りのシャングリアに、自分だけに女っぽく甘えた態度をとらせる。
こんなに男として心地いいことはないだろう。
エリカの仕事が終われば、金貨百枚が手に入る。
それに加えて、あの黒髪女を売り飛ばした金──。
それだけあれば、しばらくは金に不自由することもない。
女衒で荒稼ぎしたから、このハロルドもそろそろ潮時だろうということはわかっている。
だから、この仕事を機にバロンドールを立ち去ることは決めている。
冒険者の籍を抜き、ほとぼりの冷めるまで流浪することになると思うが、そのときシャングリアをジョナス専用の性奴隷にするというのもいいと思う。
あのシャングリアなら、流浪を慰める格好の玩具になる。
エリカのついでに、残りのふたりも連れていく──。
ジョナスは決めた。
「エリカ、お前は俺の恋人だ……。なんでもいうことを聞くな? さもないと、俺はお前を捨てなければならない」
すると、エリカの目が大きく見開かれた。
「そ、そんな……。捨てるだなんて──。なんでもする。なんでもするから……」
エリカが狼狽えた声あげた。
「わかっている……。だったら、俺に従え。いいな?」
「従うわ」
エリカが必死の口調で言った。
ジョナスは満足した。
最初に感じた抵抗力は、いまは微塵もない。
やはり、ジョナスの操り術は絶対だ。
この力にかなう者があるわけがない……。
「ならば、まず、お前はふたりの女のところに戻れ。俺は入口のところで待っている。うまく言い含めて、外に連れ出すんだ」
「わ、わかったわ」
エリカはしっかりと頷いた。
厠の並ぶ裏庭から表に回る。
ジョナスはエリカとともに、冒険者ギルドのロビーに入った。ジョナス自身は入口から入ってすぐの場所に目立たないように壁にもたれてエリカを見守る態勢になる。
エリカはそのまま、仲間の待つ女の方に歩いていく。
エリカがなにかを話しかけ、シャングリアともうひとりの女がこっちに歩いてきた。
眼の前にエリカとシュアグリア、さらにもうひとりの女がやってきた。
「誰、こいつ?」
シャングリアが不思議そうな表情をした。
ジョナスは、すかさず、ふたりの女に刷り込みを開始した。
だが、できない──。
弾き返される──。
ジョナスは焦った。
「な、なに……?」
「な、なんか……おかしい……」
シャングリアとコゼはぼんやりとした口調で呟いた。
ジョナスはありったけの力を込めて、ふたりの支配を完成しようした。しかし、やはり、抵抗力が強すぎる。
ジョナスはこれだけ力を増幅して、それでも受け付けないふたりの心の壁の強さにびっくりしていた。
これはまずい──。
とっさに思った。
支配しようとするのを諦め、シャングリアたちに与える影響を「支配」ではなく、ジョナスについての「忘却」に切り替える。
こっちは大丈夫だ。
ジョナスのことなど忘れてしまうということについては、ふたりはまったく抵抗はしなかった。
ふたりの顔が虚ろになる。
これで、シャングリアともうひとりの女は、ジョナスを見ているが、まったく心ではそれを認識できない状態だ。
だが、なぜだ──?
ジョナスは途方に暮れた。
そのとき、奥の個室の扉が開き、黒髪の若者がこっちに進んでくるのが見えた。
ロウだ──。
エリカたちのパーティリーダーの男だ。
不味い──。
ジョナスは慌てて入口の反対側に身体を隠した。
「ジョナス?」
エリカが訝しんで声をあげた。
ジョナスは全身全霊の力を込めて、エリカの心にあのロウに対する憎悪の感情を与えた。
なにかのときに、エリカにジョナスを守らせるためだ。
それにしても……。
ジョナスは狼狽していた。
どうして、シャングリアや黒髪の女に、ジョナスの操りが通じないのだ……?
とにかく、ありったけの力をエリカに込める──。
そして、こっちには操りの感覚はある。
やはり、エリカには効果があるようだ……。
それなのに、どうして……?
「そこでなにをやっているのだ、お前たち?」
ロウが三人の女のいるギルド本部の入口までやって来た。
ジョナスは入口の向こう側に隠れているので、ロウにはジョナスの存在はわからないはずだ。ジョナスは完全に入口の反対側に隠れ、感情の読み取りだけで、壁の向こうのエリカやロウの気配を見守る態勢になった。
「んっ?」
しかし、ロウの注目が真っ直ぐにこっちに向いたのがわかった。
隠れていたジョナスを見つけられたのだ。
ロウの感情の動きから、それがわかった。
さらに、わかったことがある。
最初にエリカに感じた心の壁も、シャングリアたちを守る心の防壁も、このロウの影響だ。
感情を読むという行為を通じてロウの心に触れたとき、ロウの心に、三人の心にあった防壁と同じ性質であり、遥かに凌ぐ強固なものを感じた。
ジョナスは、その正体はわからなかったが、本能的な恐怖を覚えた。
とにかく、ジョナスは焦った。
「エリカ、そいつを刺せ──」
咄嗟にジョナスはエリカに壁越しに言った。
次の瞬間、エリカの心で極限まで膨らませたままだった憎悪の塊りが爆発した。
「うぐうううっ」
ロウの呻き声がした。
ジョナスはさっと入口から入って、エリカの手首を掴んだ。
エリカは腰の剣を抜いて、深々とロウの腹に剣を突き刺していた。
致命傷だ。
ひと目でジョナスにはわかった。
「きゃあああ──ご主人様──」
「エリカ──なにをするのだ──」
黒髪の女とシャングリアが狼狽の悲鳴をあげた。
だが、ふたりともさっきのジョナスの操りの効果により、ジョナスのことは認識できないでいるようだ。
「来い──」
ジョナスはエリカの手首を掴んだまま駆けだした。
とにかく、逃げるのだ──。
ただ、それだけを思った。