【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「本来であれば、百回寸止めと百回絶頂を三周りは予定していたんだぞ。それを寸止めは三十二回、絶頂は十回で終わりでなんて、ひと回りにもなりはしない。だらしないなあ」
「じょ、冗談……言わないで……。し、心臓が……破けそう……。ゆ、指一本……動かない。し、死にそうよ」
リィナは息も絶え絶えに言った。
脳の皮膜が灼かれ、身体がばらばらになった気分だ。
この男との悪意の塊のような性交は終わった。
やっと解放してもらえたのだ。
「百回ゲーム」などと馬鹿げたこと口にしたこの男だが、それが大袈裟でも冗談でもなさそうだと感じたのは、たて続けの連続絶頂が七回を超したときだ。
リィナが知っている男女の営みといのは、女の身体を使って男が精を放つという単純にして、それに至るまでの一連の行為のことをいい、女が達するというのは、目的でも手段でもなく、行為のあいだに発生するかもしれない事象にすぎないものだった。
リィナはそれが不満で、夫たちにはリィナが絶頂する可能性を高めるために、簡単に精を放たないことを要求したりしたし、ときには男根の付け根を絞って精を放ちにくくさせたうえで、リィナを愛しさせたりした。
とにかく、リィナは男側が性愛の主体になるという現状に満足ならなかったのだ。
だから、可能な限りリィナに尽くし、満足させ、それまで精を放たないことを求めた。
男たちからすれば、面倒だったかもしれないし、女のリィナに主導権をとられることに我慢ならなかったかもしれないが、十分な手当は夫たちに支払っていたし、理不尽なことを夫たちに強要したという気持ちはない。
そもそも、夫たちに性交を求めたのは、四十歳までのことであり、それから十年は三人の夫たちに身体を求めたりしていないし、当然ながら夫たちからも求められなかった。
いまや、夫たちはそれぞれに若い愛人を囲っているし、それはリィナが与えている手当によるものだ。
求めたものに値するものは十分に渡しているのである。
しかし、ロウとの性愛は、とにかく、リィナがこれまでに経験をしたこととは根本が異なっていた。
なにが愉しいのか、最初の寸止め──。
あの行為に、ロウ自身の快感はなかっただろう。
リィナにとっては、寸止めという恥辱と性の苦悶であり、快感とするのは抵抗はあるものの、ロウがやっていたのは、ひたすらにリィナを愛撫し、昂ぶらせ、快楽の高みに昇らせるということだ。
ロウが射精するわけでもないので、男としての性的欲求が満足されるわけではない。
ただ、リィナだけがよがり狂い、与えられない快楽の極みを求めて焦がれ暴れさせられただけだ。
ロウは、リィナが我を忘れている姿に接するのが心から愉しそうだった。
そして、次の連続絶頂──。
リィナは、十回目の絶頂のときに泣きながら本気の哀願として、もうやめてくれと迫ったが、この間にロウが射精したのは、最初と最後の二回だけだ。
それも、本当はもっと精を放ちたいのだけれども、リィナの身体が受け入れない状況なので、仕方なく終わらせたという感じだった。
やられている最中においては、まさに拷問だと思ったが、こうやって解放されてから考えると、ロウは決して自分本位ではなかった。
それどころか、徹頭徹尾、リィナに尽くしていたように思う。
いまにして思うと、おそらくリィナは、三人の夫たちにこういうことを求めていた気がする。
夫として尽くす代償として金を払い、求めていたのは多分、こういうことだったのだろう。
しかし、ロウはリィナをいたぶり、愛し、悶え苦しむのを見るのが心から愉しそうだった。
確かにロウはリィナに精を放ったが、どう考えてもそれが目的だったとは思えない。
多分、ロウはまだ満足していない。
だが、リィナが心の底から拒絶しそうになったので、精を放って終わりにした。そういう感じだった。
もっとも、ロウはとことん無慈悲だった。
リィナを追い詰め、泣き叫ばせ、リィナの尊厳という尊厳を性の暴力で踏みにじった。
ただ、その無慈悲さが、リィナを貫く愉悦を十倍にも、二十倍にも膨れさせたのも事実であった。
いずれにしても、このロウとの性交の味を覚えさせられてしまったいまとなっては、二度とこの味から逃れられなくなり、この男を一生忘れられなくなったのは確かだ。
おそらく、リィナは、もうロウなしでは満足できない。
この男は、ただの気紛れとしてこの中年の女を抱いたのかもしれないが、それにより二度と消し去ることを許さない欲情の渇望を植えつけた。
残酷なことに──。
「動けないことはないはずさ。この仮想空間では、俺にすべてを支配される。身体の疲労は回復させたはずだ。そのままにさせてあげたいところだけど、クレオン殿たちがお茶を飲み終える前には戻らないとね」
ロウが笑った。
そのロウはすでに服装を整えて、元の貴族然とした品のいい格好に戻っている。
これに比べれば、リィナはまだ全裸であり、背もたれが座椅子状に倒れているソファに身体を横たえたままだ。
一応は、変態的な開脚も、全身の拘束もなくなっている。
しかし、動きたくなかった。
いつの間にか、全身を濡らしていた体液からも綺麗になっている。身につけていた衣服も横にある。
よくはわからないが、これもロウの魔道なのだろう。
本人は、魔道遣いであることを否定しているが……。
だが、とてもじゃないがまだ立てない。
身体ではなく、心が疲弊しきっているのだ。
そして、決して、なくして欲しくない心地よい余韻と脱力感に包まれていた。
「戻らないとって……。本当この空間では時間がたたず、あのとき、あなたがわたしに最初に口づけをした時間に戻るの?」
「そういうことだ。嘘はついていないぞ。あの部屋には三タルノスで戻る。約束するよ」
ロウがくすくすと笑った。
リィナは大きく嘆息した。
とにかく、ゆっくりと身体を起こして、横の台に置かれている自分の服を身につけ始める。
ここがロウの特殊能力で作った空間であり、この世界ではまるで時間がたたず、あるいは、何時間、何日、何年すぎようとも、ロウが思うままの時間経過をした時間帯に戻れるのだということは、少し前に教えられた。
信じられないことだが、そもそも、いまの空間そのものがあり得ないことであり、まあ、真実なのだろう。
なにしろ、辺境候軍の司令部施設の建物内の小部屋のはずなのに、気がつくと壁も天井も消え失せ、リィナが横たわるソファもどきの椅子と服が置かれているだけの真っ白い空間になっている。
時間と空間を自在に操る──。
まさに闇魔道に属するものなのだが……。
「あなたって、本当に魔道遣いじゃないの?」
「違うね。さっきも言ったけど。少なくとも俺にその自覚はない」
「じゃあ、そういうことと思うことにするわ……」
リィナは嘆息した。
こんな途方もない上級魔道を展開しておいて、魔道遣いでないと主張するのはどうなのだろうとは思うが、まあ、本人がそういうのであれば、そうなのだろう。
どうせ、リィナには歯が立つような相手ではないというのは確かなのだ。
リィナは、この男に勝とうとか、仕返しをしようとかいう気持ちは全くなくなった。
だから、どうでもいい。
この男の秘密を暴いても、それでどうしようという感情も沸かないので、まあ、なんでもいいかという気持ちだ。
しかし、ただ、どうしても、このロウに訊きたいことがあった。
「あの女王陛下……、そして、王都の王太女殿下は、あなたと愛し合った犠牲者というわけね?」
訊ねた。
エルフ族女王──。
ハロンドール王太女イザベラ──。
そして、王妃アネルザ──。
本来であれば、一介の男など、口をきくことも許されない一流の女たちだ。
だが、リィナにはわかる。
合意によるものか、あるいは、陵辱によるものかは知らないが、おそらく、彼女たちもまた、たったいま、リィナが味わったものと同じものを味わってしまってしまったのだ。
だから、離れられなくなった。
だから、この男に支配されることを望んだ。
だから、ロウ=ボルグという男を受け入れ、彼を失うことを極度に恐れ、そして、尽くそうとしていている。
リィナにもわかる。
もしも、このロウがこれからもリィナを愛してくれると約束し、自分の女のひとりと保障するのであれば、リィナもなにもかも差し出すだろう。
まあ、リィナについては、そんなものなど望むべくもないが……。
「犠牲者とはひどいねえ。まあ、家族さ。ファミリィだよ」
「“ふぁみりい”というのは、家族という意味? 面白い表現ね」
リィナは思わず笑ってしまった。
その三人を家族だと言ってのけるのは、世界広しといえども、このロウだけだろう。
あり得ない……。
いや……。
だが、あり得るのか?
彼女たちもまた、それを味わってしまったからだ。
そして、離れられなくなり、支配された。
支配されることを望んだ。
そうなのだろう。
女であるリィナにはわかる。
このロウは本物だ。
ならば……。
つまりは、この男に乗ることこそ、勝ち組だ。
こういうことの勘は、リィナは外さないつもりだ。
ロウ=ボルグ、いや、ロウ=ボルグ・サタルスという男を絶対に離してはならない。
リィナの女として本能が……、子宮がそれを教えてくれる。
理屈などない。
だが、この偶然の機会を逃がしてはならないのだ。
リィナは、服を着ようしていた手をとめて、ロウの眼を見つめた。とりあえず、ほぼ服は着終わっている。後は髪を整え、着こなしを直す程度だ。
「ねえ、本当にこんな歳とったわたしをあなたの奴隷にしてくれるの? いえ、して──。なんでもするわ。その代わり……」
リィナは、その代わりに手当を出すと言いかけてやめた。
そんなもので、この男を買えるわけがない。エルフ族の女王、この国の王妃、王太女がいるのだ。この男が求めれば、なんでも差し出すだろう。リィナが差し出すことのできる程度で満足させられるとは到底思えない。
そもそも、根拠はないが、この男の物欲は低い気がする。だいたい、欲しいものがあれば、勝手に回りの女が差し出しそうだ。
だったら、なにを……?
若くもない。
地位といっても、ただの地方領主だ。
なにを差し出せば、この男はリィナを必要に値すると見なすか?
リィナの価値はなんだ?
「すでに性奴隷だ。だが、その代わりか……。とりあえずの要求は、俺の女の返還かな。クラウス殿とは、ある女ふたりの身柄を引き渡すということ話がついている。それに口を出さないで欲しい」
すろと、ロウがにこやかに言った。
「女ふたりって、あの魔族娘のこと? レオナルド殿が捕らえているふたりでしょう。文句はないし、もともと、わたしに損も得もない。もちろん、承知よ」
レオナルドが軍営に潜入していたサキュバスをふたりを捕らえているらしいという情報は、もちろん掴んでいた。
ワイズ家の陣営には被害はなかったが、幾人かの諸侯は身体の関係を結んで魅了にかけられたとも聞いている。
レオナルドは怒り狂って処刑すると息巻いていたようだが、リィナはそんなことがあったのかと思った程度だ。
異空間に追放した魔族の末裔がこちらに紛れ込むことは珍しいことではない。かなりの高位魔族でもない限り対応も可能だし、サキュバスは比較的現れやすい魔族でもあるので、大袈裟には捉えていなかった。
「おっ、話が早いな。ついでに、ほかの諸侯たちについても抑えてくれな。クレオン殿よりも、あんたの方が余程に諸侯の手綱を握ってそうだ」
「まあ、それくらいの影響力はあるわね。問題ないわ」
あのクレオンは、そういうことには疎いので、近傍の諸侯連中が裏切らないような処置はなにもしていないが、リィナは逆にあらゆることをして、諸侯の中に自分の言いなりになる確固たる派閥を作りあげていた。
だからこそ、総帥の座の乗っ取りなどが成功したのだ。
マルエダ家以外の四家には、すべてリィナの子か、ワイズ家の親族が婚姻により結びついている。
リィナが伯爵を継いでからは、農作物から得られる税を安定させることよりも、流通を盛んにすることを重視した施策を行ってきた。いまは、領土の広いマルエダ家とは農村からの税収は当然かなわないものの、商売によって得られる富はそれを補って余りある。
リィナは、その富を周辺諸侯に還元することで、深い関係を維持してきた。
クレオンやレオナルドなど、そういうことに疎いので、出し抜くのは造作なかった。
とにかく、ロウの言葉のとおり、魔族娘の二人程度のことなら問題ない。裏調整の必要もない。リィナが意思表示すれば、ほかの諸侯はリィナの顔を読んで、勝手に賛成してくれる。
それくらいは、牛耳っている。
「なるほど……。やはり、この辺境候軍全体の手綱は、あなたに握ってもらう方が都合がよさそうだ。クレオン家には悪いけど、あそこにはタリオの手が入り過ぎている。エルフ族王家は、今回の代償としてナタルの森に接するハロンドール軍の総帥の地位から、マルエダ家がおりることを要求する。ハロンドール王家の新しい女王のイザベラは、それを承認する。これでどうかな?」
ロウの物言いに、リィナは噴き出してしまった。
「まるで、あなたが両国の王であるかのような口ぶりね。だけど、ありがたいわ。そうしてくれれば、心からの感謝をする。あなたは約束を守ってくれそうだし」
「別に、俺が王でもなんでもないから、いま約束できるのは、“善処する”という言葉だけだ。だけど、俺の言葉には重みがあるぞ。俺が善処するというのは、本当に善処するということだ」
「頼もしいわね。それでわたしはなにをすればいいの? 感謝だけでいいということはないのでしょう?」
リィナは今度は声をあげて、笑ってしまった。
「ひとつ目の条件は置いておこう。二つ目の条件は、辺境候軍をしっかりとまとめること。そして、タリオのかかっている息を可能な限り排除することだ」
「それは、条件なんかには入らないわね。当然のことだもの。わたしのワイズ領軍も、すでに徹底的な洗濯を開始させているわ。レオナルド殿のみならず、諸侯の中にも、タリオと握手していたものがいそうよ。そういうところは、圧力をかけてでも当主の交代も断行させる。だけど、それは、あなたのためじゃないわ。わたしがこれから握るわたしの軍のためよ」
リィナはきっぱりと言った。
これについては、迂闊なことながら、地下牢に収容されているレオナルドがタリオ公国の諜者にそそのかされたと自白したという情報に接するまで、この軍営全体にかなりのタリオ公国の諜者が入っているということは気がつかなかった。
ワイズ家は、重鎮クラスには身元調査もしっかりとさせているし、手など伸ばせなかったと信じたいが、まだわからない。ただ、リィナ自身には、そういうものの接触がなかったのは確かだ。
だが、ほかの諸侯には、少なからずタリオからの息がかけられかけたみたいだ。
それが前提の「列州同盟」だったのだ。
「おお、頼もしいねえ。とにかく、あの国の大公は女を軽視する傾向がある。だから、女への工作には手を抜くところもあるようだ。従って、女のあんたが総帥になることで、それだけでいくらでも出し抜ける。よろしく頼むよ」
ロウが微笑んだ。
だめだ……。
年甲斐もないが、この笑顔には負けそうだ。リィナは、この笑顔を向けられ、あの汚辱と苦役に満ちた快感の歓喜が再び与えられるのであれば、なんでもしそうである。
リィナには予感がある。
自分はこれから、ずっと官能の飢餓感に襲われ続けるに違いない。
このロウとの性交を求めて……。
「条件とやらは、それで終わり? さっきのを飲めば、わたしがこの辺境候域の総帥となることの根回しをしてくれるの?」
「条件は四個だ。三つ目は王家への叛旗はさげてもらう。とりあえず、クレオン殿が集めた諸侯たちは自領に返すこと。糾弾すべきはルードルフ王個人であって、王家ではない。女王イザベラを認めてもらおう」
「当然ね。新女王イザベラ陛下が誕生すれば、この西方域の諸侯はどこよりも最初に新女王を支持するわ。その代わりに、新女王陛下と新王太后殿下、特にアネルザ様には話を付けて欲しいわ。マルエダ家から総帥の座を簒奪したのは野心からじゃないの。事態を抑えられないマルエダ家に代わって、混乱を収めるためにやむを得ず、やったことなの」
もちろん、本心は野心以外のなにものでもない。
女伯爵になる前から、リィナはクレオンにとって変わることを考えていたのだ。手ぐすねを引いてこんな機会を待っていた。
そして、勝手に失敗して、総帥の座から転げ落ちる隙を作ってくれた。
リィナがこんな好機を逃すわけがない。
「善処するよ」
ロウが笑った。
リィナも思わず微笑んだ。やっぱり、この笑顔に引き込まれる。
「王家とアネルザ様との落とし所は任せるわ。ただ、わたしを騙さないということを信じるわ。あなたの善処に期待する」
「俺は自分の女を裏切らないよ。女たちも俺を裏切れないしね。そうだろう?」
「もちろんね。それで、四番目の条件は?」
「これは、三つ目の条件を成就させるために必要なことだ。マルエダ家は存続させる。力も奪わない」
これには、リィナは困った。
マルエダ家を陥れたはいいが、マルエダ家とワイズ家では領地の大きさや動員できる領民の数が違う。つまり、養える兵の数が違うのだ。
いまは、レオナルドの阿呆が兵力を減らして、マルエダ本軍の兵員が大きく減っているが、時間が経てばマルエダ軍は回復し、再び兵力が増す。
それが一年後か、二年後かわからないが、マルエダ家の兵力が復活してしまえば、ワイズ家はマルエダ家を支配下に置けない。
だから、いま、強引にでもマルエダ家の力を削ぐ必要がある。
「それは……どうかしら……。マルエダ家が大きいままでは……」
ロウの要求はすべて飲みたい。
従いたい。
しかし、いま、マルエダ家を追い込まなければ、この地はほかの領域に比して豊かで大きすぎるのだ。
すると、ロウがくすくすと笑った。
「領土が大きくてなんの問題があるんだ? 問題は国境警備の常備軍が主要六家に分散していることじゃないか。さっき、諸侯軍は戻せと言ったけど、常備軍はそのままでいい。もともと、軍というのは一枚岩であるべきものだ。それを一地方領主に力を集めたくないという王家の意向で、六家に分散させていると聞いたよ。だけど、それこそが歪だ。国境警備の常備軍はそのまま。そして、ワイズ家はその統一指揮権を得ればいい。しかし、常備軍の維持負担金は、領土域に応じて分担させる。その線でまとめられないか?」
「常備軍の全部を根こそぎワイズ家が奪うの?」
驚いた。
「奪うというのは語弊がある。共同管理だ。ただ、共同管理のうえで、指揮官をワイズ家が出すだけだ。どの家から統一指揮官を出すかについては、せめて話し合いの形式くらいはしなよ」
ロウが笑った。
理屈が通っいてる。いまは国境を越えたロームが不穏だ。もともと、軍を集める大義名分があるし、必要性もあった。
このまま統一状態を常態に……。
もともと、統一状態こそが望ましい状況なのだ。
その指揮官は話し合いで決める──。
これでいい。
マルエダ家から指揮官は出せない。
出そうとしても蹴り飛ばす理由はある。
一方で、リィナの子供は優秀だ。
十人のうち、五人が領軍にいるが、おそらく誰でも統一指揮をこなせる。
マルエダ家から領土をとりあげるなどということよりも物騒でないし、聞こえもいい。
「なるほどねえ……。だけど、あなたって、ますますわからない男ねえ。わたしの情報では、人たらし……、というよりは女たらしというのはあったけど、治世力や軍隊管理に精通しているということなんてなかったわよ」
リィナは言った。
「なぜかな。いざとなれば、知恵も沸くし、頭も回る。まあ、勘がいいんだろうね」
「そういうのを勘とは言わないのよ」
リィナは呆れた。
「ワイズ家がこれからやりやすくなるように手助けもしよう。王都が落ち着けばすぐに、マア商会の会頭を紹介するよ。この地域一帯を流通の力で支配しろ。流通統制をして事実上の王になるんだ。ワイズ家を中心とする経済圏を作り、ワイズ家とともに地域全部を繁栄させる。しかし、従わない地域は、その繁栄をとめてしまう。それでワイズ家に逆らうものは消滅する。領主はともかく、その下の領民はワイズ家による支配を歓迎するだろうさ」
「そんな施政のやり方は聞いたことはない。まるで商人が国や領土を支配するような……」
「金権政治制度という。発想程度だが、あんたならこれを現実にできるだろう?」
「そ、そうね……」
リィナは頷いた。
ロウに言われたことを考える。
なぜか、いつもの数倍はリィナ自身の頭がまわる。ロウに言われたやり方の利点、欠点、欠点の対処法、発想だというものを現実の制度にするためのやり方などが次々に閃き、それに応じて頭も整理される。
なにこれ?
リィナは、突然に活性化した自分の思考に驚いてもいた。
「だ、だけど、マア商会のマア会頭って……」
この大陸でもっとも有名な豪商だ。
あのマアの商会が進出してくれるのであれば、ワイズ家はもちろん、この地域の流通は急激に発展するだろう。
それだけの力を持っている女性だ。
「俺の女だ」
ロウが白い歯を見せた。
「俺の女って……」
確か、年齢は六十を軽く超えていたはずだ。六十五? それを俺の女?
「おマアと呼んでいる。可愛い女だぞ。気前もよくて、この服もおマアの贈り物だ」
そりゃあ、貢ぐだろう。
六十五歳にもなって、ロウのような性技の達人に可愛がられるのだ。リィナだって、同じ立場なら、稼ぎまくってロウに貢ぐ。
目の前にいるのは、それだけの男だ。
だが、想像以上の人脈だ。
やっぱり、ロウを逃がしてならない。
「あなたの言うとおりにするわ。すべてね。だから、言って。わたしはなにをすればいいの? こんな中年の女なんて、あなたのような男の眼中にはないでしょう? どうして、俺の女なんて言ってくれたの? どうして、性奴隷になれという嬉しい言葉を告げてくれたの? わたしを女に戻してくれたあなたに捧げるものを持ってないわたしは、なにをあなたに与えればいいのかしら?」
「嬉しいと言ってくれて嬉しいねえ。まさに、最初にとばした一番目の条件だ。性奴隷の役目なんて、ひとつしかないだろう。さて、服を着たところで、もう一回戦だ。だらしのないガドは、俺の精を股間に注いだまま会議に出ろと命じたのに失敗して、ディルド挿入の罰則中だ。あんたはどうかな?」
ロウに掴まれた。
身体を反転させられて、上半身をソファにうつ伏せにされ、ロウにお尻を向けさせられる。
スカートをまくられた。
次いで、下着を剥がされる。
あっという間だ。
「アナルに二発、前に二発だ。クレオン殿のところには、俺の精を入れたまま戻るんだ。下着は返さない。さっき途中だったけど、アナルは処女だろう?」
ロウが後ろ側でズボンを脱ぐ気配がした。
突然に再開した性愛に、リィナは戸惑った。
しかも、アナル──?
「も、もちろん、け、経験はないけど、いきなり──?」
「誰だって最初はある。心配するな。それと、さっき自分のことを中年の女だと言ったが、それは間違っているぞ。性奴隷の肉体支配の術の応用で肌の張りを戻し、皺も染みも根こそぎ治療した。余分な皮下脂肪も散らしておいた。後で“カモフラージュ具”のチョーカーの魔道具をやろう。マアにもさせているもので、完全とはいえないが、突然の若返りを誤魔化せる」
ロウの言葉が終わるとともに、面していたソファの背もたれが消滅して、目の前に大きな鏡が出現した。
「ええっ、えええええええ」
リィナは絶叫した。
そこに映っていたのは、紛れもなく若い頃に美しいともてはやされたいた時代のリィナだ。鏡の向こうのリィナも、仰天している表情だ。リィナの動きに従って、向こうも動く。
どういうこと──?
なにこれ?
若返りの魔道?
禁忌の術では?
いや、そもそも、そんな魔道があるのか?
リィナは大混乱した。
しかし、思念はそこまでだ。
ずんという衝撃とともに、リィナのアナルに衝撃が走り、巨大な傘が菊座に侵入してきた。
不思議なことに、痛みなどない。
なにかの潤滑油が怒張にまぶしてある。
とにかく。あるのは快感だけだ。
「おっ、おおおおっ」
リィナは雄叫びのような嬌声を放ってしまった。
また、鏡の中の若いリィナは口を開け、しまりもなく、だらしなく、そして、とても気持ちよさそうな顔をしていた。
*
【列州同盟】
サタルス帝が皇帝として諸王国の女王たちの上に君臨することになったとき、旧ハロンドール域の北西方域が独立した統治区分として分離されたが、その地域に名づけられた国家の名称。
幾つかの州からなる合衆国家形態であり、その中心はワイズ州である。ほかに、マルエダ州、ヨーク州などがある。
(中略)
……初代同盟統領のリィナ=ワイズ(細部は【リィナ=ワイズ】の項を参照)は、前半生は三人の夫の配偶者として過ごしたが、後半生は夫たちと離縁して、ロウ=サタルスの愛人のひとりとして過ごした。
このことから、彼女には「閨で掴んだ地位」という揶揄がずっとつきまとったが、リィナ自身は生涯、それを誇りと喜びをもって受け取ったと言われている。
ボルティモア著『万世大辞典』より
(ここに再録した引用文はすべてスクルズ記念国際図書館から許可を受けて初版本から抜粋して採録したものである。