【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
ケイラは、「ゲート」と呼ばれるエランドシティの郊外にある転送装置の前にいた。
真っ白い二本の柱であり、高さは人の背丈の三倍はある。また、柱の側面には緻密な魔道紋がびっしりと書き込まれていた。
そして、刻まれている紋様の線はさっきまで黒色だったが、いまは青白く光り輝いていた。
すると、アーネストが声をかけてきた。
「長老殿、魔道力の注ぎ込みと、ゲートに転送先を入力する作業が終わりましたよ」
アーネストは、水晶軍の第三将軍だ。
人間族であれば、三十歳になるか、ならないかくらいの年代にしか見えないと思うが、実際には八十歳に近い。
ただ、高位エルフ族であればあるほど、見た目の年齢はわかりにくい。
アーネストは、特に老いが身体に出ない体質らしく、どう見ても若き貴公子だ。そして、ケイラから見ても、かなりの美男子である。
まあ、お兄ちゃんの方がずっと魅力的な風貌ではあるが。
「では、すぐに行くわ。出発してちょうだい」
ケイラの言葉にアーネストがさっと手を振った。
すると、五百人の第三魔道師団と呼ばれる部隊が順に二本の柱のあいだを、一列になって通り始める。
ケイラはアーネストとともに、柱の真横に近い場所にいるが、通り過ぎる戦士たちが、二本の柱のあいだのところで風に溶けるように消滅していっているように見えていた。
エルフ兵たちはほとんど間隔を開けないように通り過ぎていく。
やがて、百人ほどすぎたところで、まずは、五台ほどの馬車が列に加わった。
それもまた、柱の横で消えてしまう。
アーネストが五百人の魔道戦士とともに持ってきたのは、全部で十台の馬車だ。
「馬車」と行っても、人間族のいう馬車とは異なり、それを曳く馬はいない。魔石を組み込んで、魔道によって動いているのだ。だから、車輪のついた台車の上に大きな箱形の入れ物だけの状態だ。
享子としてのケイラの記憶だと、小型のコンテナ車が牽引車なしで動いているような感じだ。
あの十台の箱形の「馬車」に食料とか武器とか、五百人の戦士の生活に必要な物資が満載しているそうである。
だが、あの馬車があるために、転送に要する時間がかなりかかってしまう。
それがケイラには不満ではあった。
ただ、なにもなしに、身ひとつで五百人の戦士を遠征させるわけにはいかないとアーネストが言い張った。だったら、収納術で分散して運べとも言ったがそれも否定された。
あの十台の「馬車」は、戦うときには臨時の防護壁にもなるらしく、常用装備だという。
ケイラは、仕方なく認めることにした。
まあ、アーネストの物言いも、もっともだとは思った。どうせ、軍事のことは素人だ。それに、ごねることで出発に時間がかかっても困るのだ。ぼやぼやしていると、ラザニエルに気がつかれてしまうだろう。
「到着する時刻は、全部が同じ時刻になるように調整してあります。現地到着時刻は一日半後の早朝です」
「まったく、どうしようもないわねえ。同時に通過する人間や物資を積んだ馬車の隊列が長くなれば長くなるほど、時差が拡大するなんて。どうして、あんたたちは、これをもっと使い勝手のいいように改良しようとしなかったの? これもまた、百年も隠し宮に閉じこもっていたガドニエルの怠慢のひとつね」
エルフ族の支配するナタルの森に張り巡らされている転送装置は、通称「女王の道」と称される。エルフ王が男性だった頃は、「王の道」だ
使用するには女王の許可が必要であり、その管理も女王である。だから、この装置の欠陥は、当然、女王の怠慢ということになる。
実は、この転送装置は、三代前のエルフ族の王が設置させたものであり、もう五百年前のものだ。
確か、そのときからまったく改良されていないはずである。
時差というのは、こうやって集団でゲートを抜けるときには、どうしても連続の時間がかかるのだが、その通過時間が長ければ長いほど、到着する時刻が後になるのだ。
いま通り抜けている五百人の魔道師団がゲートを潜ると、その向こうは、人間族の辺境候領に近い森側のゲートになるが、それは一日半後というわけだ。
それに対して、少人数で短い時間で抜けると、その時差が生じない。
だったら、少人数通過を連続ですればいいと最初は思ったが、一度ゲートを発動させると、魔道を込め直すのに、最低一日の時間が必要なのだそうだ。
一刻も早く、お兄ちゃんのところにいって、無事を確かめたいのに、まったく使えない──。
まあ、それはともかく、とにかく、この全員を早くゲートを潜り抜けさせることだ。いまこうしているあいだも、あの小うるさいラザニエルが気がついて、とめられるかもしれない。
いや、とめるだろう。
なにしろ、王家の宝物庫から、あの三種の神器を持ってきた。
だけど、人間族に対抗するには、あれくらいの強力な兵器がどうしても必要なのだ。
「女王ではなく、我らの怠慢でしょう。申し訳ありません。転送に時差が生じるのは当然という思い込みで、それを改善する必要性をまったく感じておりませんでした。お許しを、長老」
アーネストが頭をさげる。
その仕草も優雅だ。
享子の意識が強いケイラには、わざとらしく思えてうっとうしいが、アーネストがいちいち気取った感じの所作をするのは、癖のようなものだ。
ケイラは軽く肩をすくめた。
「すべてのものを自然のままに……。あるものをそのまま使っても、使い勝手を工夫して改良したり、さらに発展させて新しいものを生み出そうとしない……。これはエルフ族の欠陥ね。だから、短命で、うようよと数がいるだけの人間族に、いろいろなことで抜かれるのよ。ケルビンの頃なんて、エルフ族の王といえば、人間族の国を圧倒する王の中の王だったのよ。人間族なんて、エルフ族の機嫌を損なわないように、びくびくと暮らしていたのだから。あんなに生意気にはびこりはしてなかったわ」
ケイラは言った。
「改革王ケルビン陛下の治世ですね。歴史で学びました」
ケイラもその王のことは覚えている。エルフ族にしては珍しく改革主義者であって、水晶宮という行政機関や、それを取り巻くエランド・シティという都市を建設させたのもその彼だった。
それまでは、国王といっても、小さな神殿に住む神官長のようなものであり、森に拡がるエルフ族の里に対して、なんの権限も持っていなかったのだ。
これを改革したのが、改革王と呼ばれたケルビンだった。
人間族に渡すクリスタル石の流通統制も、ケルビンが開始したことだ。
あの当時は、人間族の国は、ローム帝国ひとつであり、ハロンドールやエルニアなど、ただの植民地域にすぎなかった。
魔道でも、魔道技術でも、エルフ族が圧倒していたから、ローム帝国も、ケルビン王には一目も、二目もおいてかしずくような態度で接していたものだ。
だが、あれから、人間族は国をどんどんと発展させ、魔道技術でも、魔道ではない機械技術でも、新しいものを次々に開発していき、人間族の数も圧倒的に増えた。ローム帝国は解体されたが、支配域は格段に増えてもいる。
それに比べれば、エルフ族の世界はなにも変わらない。ケイラの記憶でも、五百年前といまと、エルフ社会はなにも変化がない。
ケルビンは、人間族のような都市をたくさん建設して、それを機能的に繋げる構想を遺言で遺したが、ケルビンを継いだ次代の王は、隠し宮であるイムドリス宮を次元の狭間に建設した以外は、なにもしなかった。
さらに次代の王の世代のラザニエルとガドニエルなど、女王の器だったラザニエルは、男を作って失踪してしまうし、どう考えても女王などには向かない妹のガドニエルなどは、父親の作った隠し宮に閉じこもって、すべての政務を部下に丸投げしてしまう始末だ、エルフ族の凋落は、あの親娘にあるような気がケイラはする。
その結果、技術力や軍事力で人間族に追い抜かれてしまい、戻ってきたラザニエルのように、人間族の戦力を気にして、エルフ族が軍を動かしたりするのをためらったりしなければならない弱腰にならざるを得なくなった。
誇りあるエルフ族のなんという凋落だろう。
「歴史じゃないわ。ほんのちょっとの過去よ。たった二世代前じゃないのよ。その二世代前のケルビンの時代は、人間族がエルフ族の機嫌を損なわないようにかしずいていたのに、いまは、ラザニエルなんて、人間族が過激な反応をするのを怖がって、ガドニエルやお兄ちゃんが大けがをしたというのに、報復のエルフ軍を出動させることさえ怖がるのよ」
ケイラは吐き捨てた。
「おや? この第三師団の出動は、副王陛下の認可のもとではなかったのですか?」
アーネストが含み笑いのような笑顔で言った。
ケイラは、しまったと思った。
このアーネストについては、大臣のひとりを脅迫して作らせた偽の命令書と、ゲート使用に必要な王族の護符を無断拝借して、たまたま魔獣退治に遠征する予定だった第三師団を強引にここにつれてきたのだった。
ついでに、王家の宝珠の武器も持ってきた。
あの集団行動に長ける人間族の軍に対抗するには、人間族の世界を一瞬にして焼け野原にできる「神器」が必要なのだ。
この魔道師団と神器──。
お兄ちゃんを傷つけた者は、誰であろうとただではおかない。
かつては、お兄ちゃんに甘えて頼るだけの、何の力もない女でしかなかったが、ケイラとなったいまは違うのだ。
こうやって、魔道師団だって動かせるし、神器だって持ち出せる。
お兄ちゃんの敵は、全エルフ族の敵だ。
「も、もちろん、認可を受けているわ」
ケイラは言った。
黙って、魔道師団を連れ出したことで、ラザニエルは絶対に文句を言ってくるとは思うが、そのときには、すでにケイラと魔道師団はお兄ちゃんのもとにいる。
あっちにはガドニエルがいるから、あの馬鹿をたきつけて、新しい命令を出し直させればいい。
大けがをしたとはいうが、この世で最強の白魔道──治療術を使うガドニエルだ。
死にはしないだろう。
お兄ちゃんを守るために必要だとそそのかせば、絶対に魔道師団に命令を付与する。
わからずやで、お兄ちゃんの恩よりもエルフ族を優先するラザニエルとは違う。
「ところで、そろそろ、我々も……」
アーネストが声をかけた。
全体の五分の四ほどがゲートを抜けた。
十台の馬なし馬車も全部が進み終わり、「三種の神器」を積んだ特別馬車も過ぎた。
ケイラが頷くと、アーネストとケイラの周りを護衛兵が囲む。
彼らとともにゲートを通過した。
一瞬にして景色が変わった。
朝もやの立ち込める森の中だ。
周囲は少し開けていて、こっち側のゲートである二本の白い柱が樹木のあいだに立っている。
すでに先に通過した隊が整列をしている。ケイラたちが着いたのは、整列している隊の前方側だ。
編成の部隊単位ごとに、微妙に転送位置が変化するように、アーネストが調整をすると言っていた。
アーネストとケイラたちは、司令部なので、各隊の先頭になる位置になったということだ。
だが、その少し離れた場所に、数名の集団がいた。
小さな天幕が張ってある。
その前に装飾のある椅子に座ったガドニエル、なによりも、お兄ちゃんがいた。お兄ちゃんの愛人の娘たちも一緒だ。顔を覆いで隠している変な女もいる。
向こうは六人いるが、そのうち座っているのはガドニエルだけで、お兄ちゃんも含めて、ほかはガドニエルを囲むように立っていた。
護衛はいない。
アーネストの率いる魔道師団とお兄ちゃんたちが対面をしているようなかたちだ。
「お兄ちゃん、大丈夫なの──? けがは? ちゃんと治してもらったの──?」
ケイラは駆け寄りながら声をあげた。
見た限り、大丈夫そうだ。
しかし、お兄ちゃんが立っているのに、ガドニエルが座っているとはなんということだろう。
ここは、長老として叱らなければと思った。
「享ちゃん、おはようと言いたいところだけど、まあ、よくもこんな大袈裟なことを……」
お兄ちゃんは微笑んでいた。
ケイラは、お兄ちゃんに抱きついた。
「ああっ、お兄ちゃん、心配したのよ──。だって、ラザニエルがお兄ちゃんがけがをしたって。本当に、心配で心配で、心配で……」
ケイラはお兄ちゃんを抱きしめながら言った。
すると、お兄ちゃんがケイラを抱きしめ返してくれ、頭に優しく手を乗せる。
心の底からの幸福感がケイラを包んだ。
「これは、これは……。英雄公が、両陛下のみならず、長老様のお心を掴んだという噂は本当だったのですね……。陛下、命令により、アーネスト=ヘイミング第三魔道師団長、部下とともに参上いたしました」
いつの間にか、アーネストも横に来ていて、座っているガドニエルの前で右手を胸の前につける敬礼をしていた。
「た、大儀です」
ガドニエルが少し気怠そうに言った。
まったく……。
あまり喋らなければ、どこからどう見ても、神秘的でさえある威厳に満ちた女王なのに、実は、女王になど向かない頭が空っぽの馬鹿女だ。
いまは、多分、お兄ちゃんに、ひたすらに甘えるだけに夢中でしかなく、お兄ちゃんにどうやって尽くそうかだなんて、考えもしてないだろう。
ここは、強く教育しないと……。
「ガドニエル、負傷はなんともないようね。なによりだわ。でも、人間族ごときにしてやられるだなんて。女王として恥を知りなさい。しかも、お兄ちゃんにけがまで負わせて」
「お、大伯母様、それについては、不甲斐なくて……」
「黙りなさい――。そもそも、どうして、お兄ちゃんを立たせて、お前が座っているのよ──。お兄ちゃんは、昨日負傷したのでしょう? 気を使って、お前が椅子を譲らなければならないでしょう──」
ケイラはお兄ちゃんに抱きついたまま怒鳴った。
「えっ、でも……ごしゅじ……、いえ、ロウ殿が……そうしろって……」
「そうしろって言われても、気を使うのが、あなたの立場じゃなくて――?」
ケイラは怒鳴った。
「滅茶苦茶ねえ……。ガドは女王なんだから、ガドが立って、ご主人様が座っているのはいくら何でも変じゃない?」
「それに、昨日のけがならガドの方が大けがだったぞ、長老殿。まあ、いまのガドは夕べ、ロウに可愛がられすぎて、腰がまだ抜けているんだけどな」
横から口を挟んだのは、確か、お兄ちゃんの愛人のうちのコゼとシャングリアだ。
「あんたたち、ちょっと口をつぐんで」
エルフ族の娘、エリカがぴしゃりと口を挟む。
「享ちゃん、それはいい。それよりもだ……」
お兄ちゃんがケイラがガドニエルに詰め寄るのを制する。
そして、顎を掴まれて、ケイラの顔をお兄ちゃんに向かって真っ直ぐに向けられる。
「いろいろと話があるけど、まずは、享ちゃんだな。さすがに、ここで全員の前で、お尻をはぐられて尻を叩くのは勘弁してやろう。一応は天幕を準備させた。その中に入れ。お尻ぺんぺんだ」
お兄ちゃんがケイラから手を離しながらささやいた。
誰にも聞こえないような声だったが、お兄ちゃんの口調には、どことなく怒りの響きがある気がした。
お尻ぺんぺん──?
「もしかして、お兄ちゃん、怒っているの?」
ケイラは首を傾げた。
「とってもな」
お兄ちゃんの言葉が終わるとともに、お尻の中になにかが出現した。
突然のことであり、ケイラにはなにがなんだかわからなかった。
しかも、それがいきなり蠕動運動で動き出したのだ。
それだけでなく、一瞬にして、全身の感覚が鋭敏になり、身体が熱くなる、汗がどっと噴き出した。
「はうっ」
ケイラはお尻を押さえて、その場にうずくまってしまった。
お尻の中に出現した棒のようななにかが、激しく動き続ける。
脳天まで突き抜けるような衝撃だ。腰に力が入らない、
それだけでなく、なんだか痒いような……。
いや、とっても痒い――。
しかも、どんどんとお尻の中の痒みが拡大する。
「どうやら、移動術酔いのようだ。エリカ、スクルド。長老殿を天幕の中に運んでくれ……。アーネスト殿、ほんのちょっとお待ちください。すぐに終わりますので……。それと、あなた方がゲートを通過しているあいだに、水晶宮から新たな命令が届いています。本物の命令が。封印されていて、あなたとガドが揃わないと開かないようになっているようです」
お兄ちゃんがアーネストに声をかけた。
それとともに、エリカとスクルドがケイラの両腕を抱えて、強引にケイラを立たせる。
「おお、本物の命令ですか? それはよかった。副王陛下は過激ですから……。きっと長老殿に強要されたと言っても、言い訳は通用しないと思っておりましたので」
「もしかして、これが、享ちゃん……、いや、長老殿の茶番であることはご存じでしたか?」
「ええ……。しかし、陛下と英雄公殿の危機ともなれば、偽物の命令と承知していても、行くべきだと思いました。特に、英雄公には、ヘイミング家として恩義がありますので」
「恩義?」
「はい、しかし、その話は後ほど……」
アーネストがお兄ちゃんに軽く頭をさげた。
「そうですね。じゃあ、長老殿、いくぞ」
お兄ちゃんが促して、エリカとスクルドに支えられて、前を進むお兄ちゃんの後ろから天幕に連行される。
そのあいだも、お尻の振動は続いている。
また、目が眩むほどの快感と、猛烈なむず痒さだ。
「お、お兄ちゃん、こ、これはやめて──。特に、みんなの前では……」
ケイラは小さな声で訴えた。
「ほう……。やっぱり、享ちゃんには調教のやり直しが必要なんだな。性奴隷妻のくせに、俺の罰を拒否するなんてね」
一瞬だけ、お兄ちゃんが振り返った。
ケイラはぞっとした。
お兄ちゃんは微笑んでいるけど、実はとても怒っていることに、いま気がついたのだ。
「あら、本当にお怒りですのね」
「本当だわ……」
横のスクルドとエリカが言った。
お兄ちゃんの本当の怒り──?
ケイラは頭を大きな岩で殴られたような衝撃を受けた。