※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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710 道化師軍と南王軍

 峡谷の真ん中に岩が落ち続けている。

 一番狭くなったところだ。

 

 ドピィは、それを確認しながら、斜面を騎馬に駆けおろさせた。ちょっと見ただけではわからないように細工をしているが、馬で駆けおりることができる隠し道だ。だが、ドピィ以外の者が先頭になって進めば、簡単に罠にはまって道を阻まれるような特殊な仕掛けをしている。

 この狭い峡谷のような全領土内の地形の知識にしろ、こうやってそこら辺中に仕掛けている罠付きの隠し道にしろ、道化師(ピエロ)団の大賊徒団とともにドピィが十年かけて準備をしてきたものの一部だ。

 

 なにしろ、十年だ──。

 

 本格的にクロイツ領への侵攻を決めてからでさえ、数年の準備時間があった。

 あのタリオの諜者たちの接触で、その準備が加速されたのは事実だが、ドピィはいずれは、この領内を賊徒で席巻するのは決めていたのだから、盗賊団の育成と併せて、この領内に時折やってきては、ずっと手をかけ続けていたのだ。

 つまりは、数年という時間をかけ、ドピィを裏切ったシャロンと、シャロンを奪っていったクロイツ侯爵に復讐するために、この領域中を調べ回り、必要な準備を整えたということだ。

 

 賊徒団を作ることに加え、数年をかけて、このクロイツ領を歩き回り、あるいは、調べ回って、こういう場所を準備してきた。ほかにもあちこちに協力者を作り続けるなど、考えられることはずっとやってきていた。

 戦いに利用できる地形の知識だけでも、おそらくドピィは死んだクロイツ候よりも遙かに、この領域のことに詳しいだろう。

 それだけの自信はある。

 恨みを抱き続けて、いつか、シャロンとその夫の侯爵に復讐を果たすことだけを誓って、およそ、考えられる限りの準備をドピィは、このクロイツ領に注ぎ続けたのだ。

 

 あっという間に、斜面を駆けおりた。

 一度、後ろを確かめる。

 ドピィの進んだところ以外に騎馬を進めてしまうと、たちまちに罠にかかることを徹底していたが、見た範囲ではあるが、失敗して離脱した者はいないようだ。

 

「散会──。手筈通りに動け──」

 

 ドピィは合図を出した。

 罠のある経路のあいだを通り抜けていた。

 五百の騎馬が瞬時に五個に分かれて、全体を包囲する用に動く。

 

 輜重隊の率いる王軍の馬車群の前に着く。

 前方に巨石が落ちて、前を進んでいた主力である戦闘部隊と分断されてしまったことで、右往左往しているだけだ。

 警備の兵も百人ほどいるが、五百騎が束になって襲撃してきたのに接しても、ほとんど陣形らしい陣形も組んでいない。

 どうやら、戦いに慣れていない将校をこっちに回してしまったみたいだ。不用意な隘路への侵入もそうだが、向こうの指揮官は無能のようだし、全体の練度も低い。王都の本軍とは異なり、地方王軍となれば、出世競争の左遷先だったり、罪を犯した王兵の処罰代わりの地方送りだったりもするとも耳にする。

 そういう相手のようであり、ドピィにとっては運がよかった。

 

 五隊ほどに分かれたもののうち、ドピィに直接についてくる騎馬は百騎ほどだ。全部、ひとかたまりになって突き進んでいる。

 この百騎を含めて、全部がドピィが徹底的に鍛え、馬術にしても、武技にしても、そこらの王軍の将兵に勝るとも劣らぬ技量にまで育て尽くした精鋭たちだ。

 一万に近い賊徒団のうち、戦闘要員といえるのはその半分くらいであるが、騎馬までできるとなれば、数は少ない。

 

 賊徒など、もともとただ食いっぱぐれて集まっただけの烏合の衆に近いものでしかないのだ。

 もちろん、集まった者たちには、でまかせの「大望」をささやき、夢を語り、戦う意味を教え込んでいる。士気だけは高い。

 特にドピィの道化師団のところに集まった者たちは、たまたまこの一、二年の南域の貴族領主たちによる民衆への扱いが酷かったこともあり、貴族やその周辺商人などへの恨みが拡大している。

 そういう彼らの怒りは、賊徒としての士気を高め、強靭さを向上している。

 しかし、どんなに士気が高くても、戦う技術となれば、話は違う。

 賊徒団の構成員は、もともとが食いっぱぐれた農民なのだ。いくら鍛えても高が知れている。

 

 しかし、こいつらは別だ。

 

 それこそ、十年のうちの最後の三年くらいをかけて徹底的に鍛えあげた。

 しかも、命をなんとも思ってない。

 ほとんどが元奴隷であり、また、家族や恋人、妻や子を虐げられてた過去があり、その彼らの多くにドピィは恩を売り、家族を救い出し、尊厳を失って慟哭するしかなかった立場に光を与えてやったりしたのだ。

 だから、彼らのほとんどは、そんなドピィに感謝し、恩を返すためなら、命も厭わぬと心から誓っている。

 そういう者を集めて、徹底的に調練をした。

 

 厳しすぎる調練で命を失った者も少なくない。

 死んだ者たちは、恩を受けたのに不甲斐なくて申し訳ないと、泣きながら死んでいったものだ。

 それが七百人はいる。

 ここに連れてきたのは五百だが、彼らさえいれば、ドピィはどんな戦いでも勝ってみせる自信はある。

 

「攻撃用意、銃構え──」

 

 ドピィは合図した。そして、騎馬を走らせながら、両手を離して、馬の腹のベルトから銃を抜いて構える。

 慌てたように武器を構え出す王軍の将兵に銃を向ける。

 後ろでも同じように銃を構えているはずだ。

 馬腹を蹴り、さらに速度を増したところで、方向を斜めにして、輜重を守る防護隊に並行に近い態勢を作る。

 王兵の放つ矢がやっと飛んでくるが、これだけの速度で進む騎馬に当たりはしない。

 

「撃てええ──」

 

 銃をぶっ放す。

 狙うのは騎馬に乗っている騎兵だ。まずは、そういう者から狙うように厳命している。

 騎馬に乗るのは指揮官だ──。それらは、貴族だ。

 指揮官がやられれば、軍は混乱する。

 どんなに強い隊でも、頭をやられれば弱くなる。

 

 ドピィが狙った騎兵が馬から転げ落ちたのを確認した。それを待っていたかのように、あられのように銃声が鳴り響く。

 ほぼ一瞬にして騎兵はいなくなり、さらに歩兵でも屈強そうな者や具足の立派な者から最初に倒れていく。

 そういう者を狙えと徹底しているのだ。

 

「殺せ──。殺し尽くせ──。逃げる者は追うな──。ただし、逃げない者は、兵であろうと、女であろうと全員を殺し尽くせ──」

 

 銃をしまうと、今度は槍に持ち替える。

 最初の銃以外は、好きな得物に持ち替えることになっている。ドピィは槍でも剣でも使いこなせるが、馬に乗って使うのは槍が便利だ。

 

 この正面を含めて、賊徒の騎馬隊による襲撃が始まった。

 すでに勝敗は決したようなものだ。

 すぐに、ところどころで王兵の潰走が始まった。

 まだ、戦っている正面もあるが、向こうにまとまりはない。各個にやられていっている。

 やがて、虐殺に近い状態になり、あちこちで王軍の兵は殺されだす。

 こうなれば、早い。

 ドピィ自身も十人ほどを殺したが、いまは静観をしている感じだ。

 部下たちがあちこちで敵兵を突き殺すか、撃ち殺すかしている。

 

「よし──。油を撒いて、火を放て──」

 

 ドピィは頃合いを見て、次の合図を出す。

 部下たちが王軍の輜重馬車に次々に準備していた油瓶を投げて、火を放つ。

 これこそが今回の襲撃の目的だ。

 大軍になればなるほど、兵糧は大切だ。焼かれてなくなれば、どんな大軍でも撤退するしかなくなる。

 

「呆気ないですね」

 

 ユーレックが声をかけてきた。

 

「そうだな。だが、まだ第一段だ。兵糧を失えば、新たに送らせるか、現地調達するかだ。まだまだ、数日は同じようなことを続けると思え」

 

 ドピィは言った。

 岩を崩した隘路の方向を見ているのだが、いまだに向こう側から王軍がやってくる気配がない。

 潰された岩をどかすのに苦労しているのだろうか。

 やっぱり、向こうの指揮官は戦を知らないようだ。

 ドピィは、輜重の馬車群が完全に燃え続けているのを確認して、撤退の指示を出した。

 

 

 *

 

 

 三日が過ぎた。

 

 ドピィは、いまだに騎馬隊を率いてクロイツ領内を駆け回っていた。

 

 この三日のあいだに、最初にやったガヤ方面からの主力の引っ張っている最初の輜重隊への襲撃にはじまり、次いで、ユンデ方面から向かっている二千の側に行き、移動中のところを奇襲して、いくつかの攻城兵器の車輪部分を破壊してやった。

 

 攻城兵器は大きくて鈍重だ。

 しかも、足が遅いので、全体の最後部を進むことが多い。

 だから、狙いやすい。

 

 そして、事前に地面に仕掛けていた爆薬を破壊して台車の部分を爆破してやった。

 とにかく、それで、ユンデ方面からの王軍の行軍も遅くなる。攻城兵器の足回りを修理するまで、とりあえず足止めができるだろう。 

 混乱したところを、前回と同様に輜重隊だけを襲撃して、兵糧を燃やしてやった。

 それが二日目だ。

 

 すると、ガヤの港町から再補給の輜重隊が出立したという情報に接したので、これを長駆して騎馬隊で向かい、輜重隊の守備隊を蹴散らして、その補給物資も燃やしてやった。

 これで、三日だ。

 

 シャロンに約束した帰還の時間はすぎたが、ドピィの見積もりではまだまだかかる。

 これからの時間がシャロンを本当に堕とすための時間になる。

 尻に痒み棒を打ち込んで、三日で帰る宣言したドピィが戻らないとなれば、シャロンは、ドピィの帰りを狂ったように待ち望むようになる。

 そうなれば、もう調教は成功したようなものだ。

 ドピィは、今頃どうしているかとシャロンのことを思って、ほくそ笑んでしまった。

 世話女のキーネには、最小限の接触以外は、誰もシャロンに接するなとも命令している。

 シャロンは、ただただ、ドピィから助けられるのを待ち望むしかなく、いないドピィのことしか、頭では考えられなくなるはずだ。

 これでシャロンを完全に堕としてやる。

 

 そして、待っていたものが発生したのは四日目だった。

 主力のガヤ方面からの四千の方が周辺の農村から兵糧の徴発を始めたのである。

 領都のクロイランドまで一日という距離のところであり、いったん前進をやめた彼らが各隊に分かれて、あちこちの農村に向かい強引に農民たちが備蓄しているものを奪いだしたのだ。

 

 当然である。

 全体の兵糧を引っ張ってきていた輜重隊は、その食料ごとドピィたちが全部焼き払っている。

 すぐに出立した再補給の流通も蹴散らして燃やした。

 そうなれば、当座のものとして持っていたものを食べてしまえば、周りから調達するしかない。

 手っ取り早いのは、農村から臨時徴発することだ。

 つまりは、略奪だ。

 

 ドピィは、それを待っていた。

 

 たが、これはドピィの手の上で踊っているということであり、実はこれに対する仕掛けをしていた。

 そのためにこのクロイツ侯爵領を乗っ取ってから、ドピィがシャロンを犯す以外にしていたことがもうひとつある。

 クロイツ領の近傍から始めて、その周辺の農村の代表者たちに会うことだ。

 数名の護衛しか連れずに、移動術の護符を使用して行っていたことであり、あまり部下たちにも教えてないので、重鎮たちには、ドピィがずっとシャロンのところに閉じこもっていたと考えていたと思う。そうなるのも無理はない。

 まあ、秘密主義はドピィの癖だが、今回のついては、仕掛けようしているものが稚拙であり、情報が漏れてしまえば、なんの効果もないものになるので、どうしてもそうする必要があったのだ。

 

 それは、シャロンとの時間をもっと長くしたいと思い出したときから始めた。

 農村の代表者たちを回って、「大望」について語り回ったのだ。

 どんなことを語れば、人の心に訴えるのかということは知っている。

 適当なことを言うわけではない。

 民衆の魂に訴えるような言葉を切実に訴えるのだ。

 彼らの怒りを呼び起こすのである。

 そして、死を厭わずに貴族たちと戦うことが至上なのだと信じさせるのだ。

 

 ドピィの言葉は、人を集める道具だ。

 十人の代表者たちに語れば、それはその百倍の信奉者を集められたし、いくつかの農村がまとまってドピィに従うようになれば、それは燎原に拡がる風のように、領域の中を席巻していった。

 しかも、ドピィは自分たちで作ったものは、自分たちのものだと訴えて、道化師団の統治における農村の無税を約束している。ドピィはこの賊徒で領域を支配できるのも長くて半年だと思っていた。

 そもそも、まともに統治をする気もないので、税などなくていい。半年間の賊徒の糧食など、領都内にある侯爵家の財や倉庫だけで十分に賄える。

 

 だから、領都の外にあるいくつかの侯爵の食料庫は開放して、あちこちにばら撒いて、わかりやすい人気取りもした。

 だいたい、領都の外の侯爵家の収税用の倉庫などは、おそらくやってくるだろう討伐軍に兵領として奪われる可能性が大きかったので、さっさと空にしておく必要もあったのだ。

 

 そうやって、撒いておいた仕掛けに、王軍が引っ掛かった。

 持ってきていた兵糧を失った南王軍の集団は、絶対に周辺農村から略奪的な徴発をやると思った。

 だから、ドピィは、農村を訪問しては、密かに叛乱に加われと農民たちを説得し、さらに、備蓄糧食を奪われるときに、毒を混ぜることを指示したのだ。

 

 遅効性であり、猛毒だと簡単な検査で発見されるので毒性は弱くした。

 しかし、武器を振るって戦うことは難しいくらいには効き目がある。そういう毒だ。

 その毒を配りまくった。

 それだけじゃなく、王軍への陣中見舞いだとして、同じ毒を仕込んだ酒樽なども渡せとも言っている。

 果たして、どのくらいの効果があるか……。

 奪った兵糧や酒を夕食に口にしたとすれば、翌朝が効き目のピークになるはずなのだが。

 

「ユーレック、全員に伝えろ──。明日の朝、集結している王軍を攻撃する」

 

 前のときもそうだったが、ドピィは数百の騎馬が隠れられるような拠点をこの領都中に作っている。

 無論、簡単には見つからないところにだ。

 ドピィは、明日早朝の拠点出発と、王軍への攻撃を伝達した。

 少しずつ領都側にも戻ってきていて、この拠点は、かなり領都に近い場所だ。南王軍としても、兵糧不足のまま、領都を攻撃するわけにもいかず、その一日前に停止して、糧食集めとなったのだろう。

 南王軍の集結地域までも、騎馬なら一ノスくらいだ。

 

 翌朝、斥候を出した。

 南王軍の主力は、魚鱗の陣を組んだまま動きはないみたいだ。多くの兵に覇気がなく、下痢をしているものが膨大な数になっているという。

 ドピィは、すぐに出発させた。

 

 しばらく進むと、敵陣が見下ろせる丘に着く。

 ここもまた、隠し拠点のひとつだ。知ってないと、樹木は草で頂上は錯雑しすぎていて、徒歩であってものぼれない。

 だが、隠しているだけであり、実は草も樹木も簡単に横に倒れる仕掛けになっていて、王軍の陣地側にも一気に駆けおりることもできる。

 

 王軍の陣を改めて見る。

 確かに魚鱗の陣──。

 しかし、明らかにひとりひとりの兵が弱っている。

 ドピィは全員を集めた。

 

「みんな聞け──」

 

 ドピィは整列した賊徒団の騎兵たちの前を駆けながら大声を発する。

 

「──これから南王軍を襲撃する。俺たちは五百──。向こうは四千──。だが、心配するな。勝たせてやる──。俺たち農民や元奴隷の虐げられた者たちの戦いぶりを見せてやれ──。死に物狂いで戦え──。ただし、指揮を見落とすな──。行くぞ──。大望のために──」

 

 ドピィが槍を上にあげると、五百騎が一斉に大望のためにと叫んだ。

 馬腹を蹴る──。

 五百が塊になって駆ける。

 今日も先頭はドピィだ──。

 

 もう余計なことは考えない。

 毒で弱らせても、相手は四千──

 常識外の兵力差だ──。

 

 ぶつかる──。

 

 槍の柄でなぎ倒しながら先頭で駆ける。

 あっという間に敵陣が乱れる。

 そして、突き抜ける。

 

 すぐに反転する。

 再び突っ込む──。

 

 敵も慌てている。

 だが、覇気がない。

 

 そのまま五回続けた。

 敵は完全にばらばらだ。すでに逃亡を開始する兵も出てきた。

 

 やがて、乱戦になった。

 ドピィは、三名ひと組で戦うことを徹底していた。ふたりは槍や剣で戦い、もうひとりは必ず銃を持つのだ。

 そして、ちょっとでも抵抗があれば、銃で殺す──。

 銃手を攻撃しようとすれば、槍や剣の者は守るというものだ。ドピィは、これを三位一体攻撃と名付けていた。

 やがて、敵全体が潰走し始める。

 

「ひとりでも多く殺せ──」

 

 逃げ出す王軍の兵を前に、ドピィは叫んだ。

 これだけ勝っても敵は大軍だ。

 どこかでまとまられてしまえば、また攻撃してくるに決まっている。

 

 追撃は酸鼻を極めたが、ドピィは一ノス追わせて、撤収を指示した。

 戦いの場になった原野と追撃の経路沿いには、おびただしい死骸が続いていた。 

 

「これは終わりじゃないぞ。まだまだ、大望のための戦いは続く。しかし、今日は、十分な大勝利だ。よくやった、君たち――」

 

 ドピィは言った。

 主力の四千が潰走したとなれば、別の経路から来ている二千は後退していく可能性が高い。

 そうでないとしても、また改めて蹴散らすだけだ。

 

 ドピィは全員に、移動と集結、そして、食事を命じた。

 さらに、領都にも伝令を出す。

 この大勝利を市民にも伝達し、あちこちに喧伝するのだ。

 領都内で道化師団に協力する者たちは、さらに拡大するに違いない。

 

 移動したところに、近傍の農村から荷車がやってきた。

 兵糧とまぐさ、数頭の猪もいる。酒まであるようだ。これには、毒はないだろう。

 ドピィは、持っていたものから、十分な代金を運んできた農村の者たちに手渡した。彼らは、代金をもらえると考えてなかったみたいで、仕切りに恐縮していた。

 すぐに、料理が始まる。

 ドピィは一杯を制限をして、酒も許すことにした。

 

「すばらしい勝利でした」

 

 ユーレックが興奮している顔で言った。

 この少年に限らず、どの顔にも感情の昂ぶりが観察できた。

 確かに、圧倒的な王軍に対して、ほとんど被害もないような大勝利だ。気が昂ぶって当然だ。

 しばらくすると、猪も吊されて焼かれだす。

 大鍋で内蔵も煮られている。

 ドピィも少しばかり、酒を口にした。

 あちこちで焚き火を囲んで食事になった。

 

 やがて、料理が半分くらいになったとき、領都に出した伝令が戻ってきた。

 カリュートという道化師団の軍事責任者も一緒だ。

 本来であれば、この五百騎の中に入ってもいい立場だが、領都の防備を空にするわけにもいかないので、防衛責任者として残ってもらっていた。

 こっちの主力は潰走させたし、あっち側の二千も、まだ領都にやってくる距離ではないことは確かだが、どうして、領都の防備の責任者がここに?

 ドピィは怪訝に思った。

 

「どうした、カリュート? まさか領都が落城したわけじゃあるまい?」

 

 冗談めかして言ったが、理由なく領都を離れたなら折檻ものだ。

 だが、物の重大さがわからないカリュートじゃない。多分、なにかがあったのだろう。

 

「い、いや、領都そのものは無事です……。だけど……。いや、頭領、申し訳ありません──」

 

 すると、カリュートは騎馬から転がるように降りると、ドピィの足もとでいきなり土下座をした。

 

「カリュート?」

 

「頭領、ごめんなさい──。領都そのものは無事です──。でも、拠点にしていた侯爵家の屋敷に、冒険者のパーティが潜入したんです。それで、侯爵夫人を連れて行かれてしまいました──」

 

 カリュートが泣くような声で言った。

 ドピィは一瞬、唖然とするとともに、次いで、ものすごい激怒の感情が沸き起こった。

 

 

 

 

 

(第12話『怒りの道化師』終わり、第13話に続く)





 *

 次話からは、さらに時間を遡り、王都の女たち、イザベラ及びサキの正面を語ります。そして、本話の時間の後の時程に繋げる予定です。
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