【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
久しぶりに、物語の舞台を王都に移します。
主人公側の時系としては、ロウが水晶宮を出発した直後の頃となります。状況説明も兼ねています。
しかし、王都の場面を最後に書いてから、もう一年以上になるんですねえ……。
*
711 抹殺命令
「ロウ殿と連絡がついたって──?」
血相を変えた様子で、ミランダの執務室に入ってきたのはマアだ。
本当の見た目を
もっとも、実は、よく知られている六十歳相応の年配の女性の見た目が偽者で、こっちの若い女の姿が本物ではある。
ロウがあの得体の知れない自分の女を自由自在にできる能力を使って、マアの姿を若返らせてしまったのだ。
それによって、天下一の女豪商人として名高いマアがロウが絶対の信者になってしまった。
まあ、無理はないとは思うが……。
マアが若い姿でいるのは、その方が目立たないからだ。女豪商にして、大商会の会頭である老女マアの姿は、世間に知られすぎている。しかし、それに比べれば、若返ったマアの姿は誰にも知られておらず、動きやすいみたいだ。
それで、この王都に戻ってきてからは、若い姿でいる方が多くなった。
ミランダもやっと見慣れてきたところだ。マアは、よく若い男に声をかけられると笑っているが……。
「いや、連絡がついたわけじゃないよ。ある程度の正確な状況がわかっただけさ、おマア。だけど、やっと、ロウのいる水晶宮とやらに冒険者を連絡要員として派遣できたんだけど、すでに出立した後らしい。王国に向かっている。親衛隊三十名が同行しているそうさ……」
ミランダは説明した。
第三神殿の庭の地下に作っている隠れ家である。もともとは、スクルドが準備したものであり、大きな事務室のような場所と、いくつかの小部屋になっている。一度、冒険者ギルドで捕縛され、アネルザとともに監獄塔に入れられ、そこを出てからのミランダの居場所はずっとここだ。
いまは、本来の冒険者ギルドは閉鎖状態にあり、連絡のつく冒険者との接触を試みながら、ここを仮設のギルド本部として機能させようと努力しているところだ。
なにしろ、本当の冒険者ギルドは、国王命令で新ギルド長が寵姫“サキ”になり、いまだに王軍の警備兵が常置している状況なのだ。
それはともかく、つい先日、二度目のエルフ女王のガドニエルの魔道によって、ロウが女王から英雄の称号を授かる映像が全大陸に伝えられていた。エルフ女王国から供給される魔石を使った魔道通信設備を保有している施設では、どこであろうと、その映像を視聴できたのだ。
ここにもあるので、みんなで見たが、式典の最中にロウとガドニエル女王が口づけをしたときには度肝を抜かれた。
なによりも、向こうの式典側の誰もが、それを止め立てしようとしなかったことにも……。
もしかしたら、女王くらいたらし込むかもしれないとは思ったが、本当にするとは……。
つくづく、女という女をことごとく魅了してしまう好色男だ。
ここまでくれば、もはや、“女の敵”という言葉がぴったりの気もするが……。
とにかく、ミランダは、エランド・シティというエルフ族の城である水晶宮が位置するナタル森林の奥地に対し、なんとかロウと接触をしようと、向こうの冒険者ギルドに緊急クエスト扱いでロウとの接触を試みた。
それがやっと繋がったのだが、残念ながらロウたちはすでに出立した後だった。
ハロンドール王国との国境付近でなにかあったらしく、慌ただしく出発したらしい。
わかったのは、それだけだ。
ミランダは説明した。
マアが嘆息した。
「ところで、親衛隊が同行と言ったかねえ。女王の親衛隊がロウ殿の警護をするのかい?」
「いや、よくわからないけど、女王じゃなく、“英雄公”の親衛隊ということらしい」
「英雄公?」
「ロウのことだね」
ミランダはくすくすと笑った。
すると、マアが息を吐く。
「そうかい。やっと居場所がわかったのにねえ……。だけど、戻ってはくるんだね。こっちに向かっているというのは嬉しいことだよ」
マアが部屋の中にあるソファに腰をおろす。
ミランダは、机上の魔道具でマリーに、お茶を準備するように連絡した。
マリーはもともと、冒険者ギルドで受付をしていた下級魔道遣いであり、十数人ほどいたギルド職員の中で、こっちに合流してもらったふたりのうちのひとりだ。
もうひとりの合流者はランであり、ランはロウの愛人のひとりになったことで、事務処理能力や行政処理能力が爆発的に開花して、いまはミランダの欠くことのできない片腕にまで急成長している。
そのふたりとミランダで、この臨時のギルドを運営していた。
「向かった国境がモーリア男爵領ということまではわかっているから、今度はそっちにも、冒険者を向かわせようと思っている。だけど、緊急通信が届くギルド支部も限られていてねえ……。どうしても、連絡に時間差が生じるのさ」
ミランダは机の前から、マアに向かい合うソファに移動した。
「金のことは心配いらないよ。ロウ殿のおかげで、わたしの資産は百倍じゃあ、効かないからねえ。桁外れの報酬でつり上げておくれ。とにかく、一刻も早く、ロウ殿と連絡をとろうよ」
「やっているさ。クエスト報酬については、あんたが頼りさ。なにせ、なにもかも、ギルド本部ごと奪われた一文無しだからね」
ミランダは笑った。
すると、部屋にノックがあり、紅茶の準備を整えたマリーが入ってきた。
「おマア様、お帰りなさい。モートレット様は一緒じゃないんですか?」
マリーがミランダとマアの前にお茶を準備しながら訊ねた。
モートレットは、マアがタリオから戻ってくるときに連れてきた男装の麗人の娘だ。
無口であまり自分から喋る方じゃない性質みたいだが、なにか素性にいわくがある感じだ。ただ、モートレット本人もだが、マアもそれについては黙っている。
だから、ミランダも詮索はしていない。
だが、そういえば、一緒ではないのだろうか?
外に出るときには護衛として同行したのは確かだし、いつもは必ずマアの横にいる。
「モートレットは借りている部屋の寝台に倒れ込んでしまったよ。女の格好というのが疲れたみたいでね」
マアはくすくすと笑った。
男装しかしたことがないというモートレットに、女の格好もするように、マアが言い渡したのは知っている。マアの護衛である以上、どんな場所に行くかはわからない。状況によっては、男装では都合が悪く、身分のある令嬢姿の方が都合のいいときもある。だから、女の姿も訓練しろと命じたようだ。
しかし、今日、マアが外出するときに、モートレットが女の格好をして出たとは知らなかった。
なにしろ、実際に女の服を着せてみたら、あれだけの美人なのに、まるで男が女装しているようにしか見えなかったのだ。
おそらく、男っぽい所作が原因だ。
ベルズが女らしい仕草や姿勢などについて、特訓を施していたが……。
「まあさいさ。ところで、マリーも座りなよ。ランも呼んで休憩にするかい」
ミランダは言った。
温かいお茶がミランダとマアの前に置かれる。
「はい。あっ、でも、ランはなにか重要な情報が入ったらしくて、そっちに対応してます。すぐにこっちに来ると思いますが」
マリーが応じる。
「重要な情報?」
マアが小首を傾げる。
「王宮の通達らしいですよ。たったいまのことなんですけど。ランは顔色を変えてました。それは本当かと、何度も通報者に念を押してました」
「なんだろうねえ……?」
ミランダも言った。
ランが血相を変えるというのは、あまりあることじゃない。もともと、ただの女給にすぎなかったランだが、ロウの精を受けたことで、頭の働きもそうだが、一本筋の入った度胸のようなものも備わったみたいになっていた。
だからこそのミランダの片腕なのだ。
ちょっと、ランのところに行こうかとも思ったが、思い直して任せることにした。
ランのことだから、可能な限りの状況を整理して、すぐにこっちにくるだろう。
その代わり、隣室にいるエルザに声をかけた。
この国の第二王女であり、ハロンドールのアーサー大公の妃として嫁いでいた彼女だが、いまはマアとともに、密かにこっちに戻ってきていた。
よくわからないのだが、アーサーに離縁されたと言っており、二度と向こうには帰らないとも言っている。
国と国との婚姻など、簡単に解消できるものじゃないし、実際にはどうなっているかわからないが、少なくとも、ここに来るときには、侍女ひとりさえも連れてなかった。
本当に、マアとエルザとモートレットだけの女三人でやって来たのだ。
エルザはすぐにやってきた。
「疲れたああ……。やっと寝てくれたのよ。あのウルズちゃん……。もう、参ったわ……」
エルザが愚痴をこぼしながらソファに座る。
ウルズというのは、幼児返りしてしまった元第一神殿の筆頭巫女だ。ただ、さすがに知能と反応が幼女では神殿巫女は務まらず、スクルズとベルズが預かるかたちで面倒を看ていた。
スクルズがいなくなってしまったので、いまはベルズがずっと世話をしているが、そのベルズも今日は外に出ているので、エルザが看ていたのだ。
「今日は、王女様が世話なのかね?」
マアが口を挟む。
「ベルズに頼まれてね。“エルザまま”と慕ってくれるのはいいんだけど、本当の幼女じゃないから、力強いし、重いし、むしろ、わたしよりも身体大きいし……。それでぎゅうぎゅうと抱きついたり、振り回してきたり……。そうかと思ったら、まんまん、まんまんって……」
エルザがうんざりしきった顔になっている。
「それは大変だったね。それでどうしたのさ。まんまんしてやったのかい?」
ミランダは笑った。
“まんまん”というのは、あの好色男が教え込んだことであり、つまりは、セックスだ。
ただ、女同士なので、気持ちのいいことをして欲しいというおねだりである。
「冗談じゃないわよ。そもそも、幼児返りなら、それでもいいけど、なんてことを教えてるのよ。身体は大人だけど、頭は子供なのよ」
エルザは憤慨している。
ミランダは肩をすくめた。
「教えたのは、ここにはいないロウだね。王都に戻ってきたら紹介するから、文句を言っておくれ。もっとも、取り込まれないように気をつけるんだね。なにせ、エルフ女王までたらし込んだらしいしね」
ミランダは軽口を言った。
「アネルザ様にも、そのロウ殿の女にしてもらえって、言われているけどね」
エルザも苦笑を浮かべた。
そのときだった。
部屋の外から慌ただしく誰かが駆けてくる気配がした。
多分、ランなのだろう。
「ミランダ様、大変です──」
案の定、ランだった。
なにかの紙を持っている。貼り紙を剥がしてきたという感じだ。
「ラン、あたしのことを“ミランダ様”って呼んだら、返事しないって言っただろう」
ミランダは、常日頃から、誰であろうとミランダのことを呼び捨てにすることを要求していた。
ところが、このランは、興奮するとそれを忘れて“ミランダ様”と呼ぶ。もう何度も注意しているのだが……。
「それどころじゃありません。抹殺命令です。ロウ様の抹殺命令が出たんです。国王命令です──」
ランだ。
「なにをそんなに慌てているの? そのロウという男の手配書は前から出ているんでしょう。そもそも、それであんたらは、おかしな計略をアネルザ様と始めたんでしょうに」
エルザが横から言った。
確かに、そうだ。
今回の大騒動の発端は、あのルードルフ王がロウの手配書を全土に発信したことから端を発している。
いまはノールの離宮にいる王太女のイザベラと、キシダインと離縁したアン王女のふたりがロウの子を同時に身ごもったのだ。
それで怒った王がロウの捕縛指示を出し、それを取り消させようとしたアネルザが計略し、わざと自分を捕縛させて、ルードルフの悪名を拡大させて、王を失脚させようとしたということだ。
まあ、そのはずだったのだが、いまでは随分と、おかしな状況になってしまってはいる……。
なぜか、あの監獄塔で姉妹の杯を交わして、謀略を誓ったアネルザ、スクルド、ミランダ、サキの四人は、いまはばらばらになってしまったのだ。
アネルザはイザベラとともにノールの離宮──。
スクルドは、自分を死んだことにして、ロウを迎えに行くと国境に向かい、それ以降、音沙汰なしの行方知れず──。
ミランダはここにいるが、サキなど、テレーズという希代の悪女の女官と組んで王宮でやりたい放題をして、いまや、ミランダやアネルザと絶縁状態だ。なにをしているのかもわからないし、なにを考えているのかも知らない。とにかく、王宮を完全閉鎖して、閉じこもり状態であり、こっちからの連絡は無視したままだ。
「いえ、それとは違います。あれは捕縛指示でした。今度のは抹殺です。見つけ次第に殺すように命令されています。また、確認しましたが、その命令書と同時に、地方ギルドに、高額クエストがかけられてました。やっぱり、ロウ様の暗殺です。それが一斉に……」
「なんだって──?」
ミランダは声をあげた。
捕縛じゃなくて、抹殺──?
しばらく沈黙していた王宮が新しい指示ということか?
だが、王宮を支配しているのは、サキのはずだ。
まさか、サキがロウの死刑指示を国王に出させたと?
しかし、いまや、ロウはエルフ女王による英雄宣言を受けているのだ……。
英雄公だ。
そのロウに、暗殺指示を出すとなれば、そのエルフ国との敵対行為にもなりかねない。
「まさか……。あいつ、なにを考えているんだい……?」
ミランダは困惑した。
「しかも、それだけじゃないんです」
ランが泣きそうな顔で持っていた紙を差し出した。
どうやら、辻書のようだ。それをどこからか剥がしてきたものみたいだ。「辻書」というのは王都内の道路の要所の辻に貼られる王宮からの連絡であり、その内容は千差万別だ。
ランが渡したのは、その辻書であり、手配書だ。
ロウの死刑宣言が書かれている。
しかし、ミランダはびっくりした。
それに、ミランダとベルズの名も入っているのだ。
「あれえ? あたしたちもかい?」
驚いた。
ロウ、ミランダ、ベルズと並べて、見つけ次第に処刑と記述されている。高額の報奨金もある。
そのときだった。
部屋の一部の空間が揺れ出した。
“移動術”の兆候だ。
果たして、顔にフードを被ったベルズが出現した。
「ちょうどよかった、ベルズ。あたしと、あんたの手配書が……」
ミランダは説明しようとした。
だが、ベルズはそれを制した。
「知っている。ロウ殿もなのだろう。わたしも、それを確かめた。だけど、そんなことよりも大変だよ。わたしもいま、知ったんだけど、夕べのうちに、ロウ殿が暮らしている幽霊屋敷が王軍の襲撃を受けたみたいだ。慌てて、移動術で見てきたんだけど本当だった。しかも、火をつけられている。屋敷全体が燃え尽きて、ただの焼け野原になっていたよ」
ベルズが言った。
ミランダは唖然とした。