【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
王都内の小屋敷には、すぐには向かわずに、ミランダはベルズとともに、さんざんに王都の城郭内を駆け回ってから入った。
第三神殿をふたりで派手に脱出してからは、ベルズの移動術でわざと第三神殿や第二神殿の近くに跳躍しては、そこで王兵をあおってから、再びベルズの魔道で姿を消すということをひたすらに繰り返した。
やはり、この捕り物騒動がミランダとベルズだけを捕縛するためにあったというのは確かなようであり、ミランダたちがすでに外にいるとわかると、第三神殿だけでなく、第二神殿の中に入り込んでいた王兵の集団も、慌てたようにわらわらと飛び出してきた。
とにかく、これだけ連中を引きつければ、まだ第三神殿の中にいるマアたちも、安全に脱出できたと思う。
かなりの時間が過ぎており、もう夕方も近い。
「もういいだろう、ベルズ。そろそろ、小屋敷に向かおうか」
ミランダは声をかけた。
王都の街辻の一角だ。
跳躍して逃げてきたところなので、王兵の姿はない。
ミランダたちがあちこちに跳躍しては、動き回っている王兵を刺激してやったので、王都のあちこちを王兵の集団が走り回っているが、とりあえず、ここの周りにはいまはいない。
「そうだな。みんなが無事だといいのだが」
ベルズが促して、人気のない路地に誘う。ミランダはついていく。
「それにしても、ランの言ったことはどうなのだろうねえ……」
ミランダはぽつりと言った。
「ランの言ったこと?」
「王宮でわたしたちを捕縛させようとしたり、ロウの抹殺命令を出した者がサキではなく、ほかの者じゃないかということさ」
「知らん。だが、魔族であることには変わりないのだろう。王宮を魔族に巣くわせるとは、お前たちも、とんでもないことを容認したものだな」
ベルズの口調は辛辣だった。
まあ、その通りなので、ミランダもなにも言い返せない。
そろそろ、五箇月前になるが、アネルザ、サキ、スクルズ、ミランダが四人組を作り、義姉妹の誓いを実施して、ロウのためのそれぞれの役割を定めた。
ロウの捕縛指示を出したルードルフを失脚させるためだ。
アネルザは貴族を動かそうとし、サキは王宮に入って、ルードルフに悪行を重ねさせ、ミランダとスクルズは世論工作をするというのが、それぞれの役割だった。
それが、あれよあれよというまに、事態はミランダたちの制御を失い、アネルザの実家のマルエダ家は、周囲諸侯を集めて、反国王の旗を掲げて戦争準備をしているみたいだし、スクルズの暴走で王都では大暴動が起こりかけ、サキは貴族の妻女や令嬢を集めて奴隷宮のようなものを勝手に作り始めた。
そして、それを糾弾したら、激怒して王宮に籠城だ。
いまや、眷属たちを呼び寄せて、王宮を支配して好き勝手している始末である。
ミランダも、もうどうしていいのかわからない。
自分のせいではないと言いたいのだが、事を起こした一員でもあるので、もはや項垂れるしかない。
「まあいい。とにかく、過ぎたことはよいが……。いずれにしても、事態を把握しなければな。みんなで、王宮内を探る方法を考えよう。話はそれからだ。しかし、その前に、まずは安全を確保することだ」
路地に入ったところで、ベルズが立ち止まる。
すると、ふたりの足もとに、移動術の魔道紋が拡がった。
次の瞬間には、まったく別の場所に転移していた。目の前には、なにもない空き地がある。
「あれ、ここは?」
「ここが小屋敷だ。ブラニーの魔道で屋敷が見えないようにしてある」
ベルズとミランダが空き地の前に行くと、空間が揺れて平屋の屋敷が出現した。
ミランダたちを迎え入れるような感じで、入口の扉が勝手に開く。
「おかえりなさいませ、ベルズ様……。お久しぶりです、ミランダ様」
屋敷妖精のブラニーがにこにこと出迎える。
人間族の童女にしか見えないが、もう何百年も生きている妖精なのだ。人間族の高位魔道遣いの屋敷に仕えるのをなによりも嬉しさに感じる本能を持っていて、契約が成立すると屋敷管理にかけては、無類の能力を発揮するという存在だ。
この小屋敷の主人はスクルズで、シルキー側はロウだ。ただ、ブラニーは、もともとはロウに惹かれてここに来たらしく、魔道遣いでないロウが屋敷妖精と契約が成立した理由は謎だ。
まあ、あの男のことは、まだまだ、わからないことばかりだ。
「おう、ブラニー、大義だな。ところで、みんなは来たか?」
ベルズだ。
「ウルズちゃんをはじめとした、マア様、エルザ様、モートレット様、ラン様にマリー様ですよね。しばらく前におみえになりました。いまは、シルキーの屋敷の方に向かわれましたよ」
ブラニーが微笑んだまま言った。
「シルキーも、屋敷も、無事なのかい──?」
ミランダは声をあげた。
ロウの屋敷が王兵に焼き払われたと、ベルズから教えられていたので、ずっと心配していたのだ。
よかった──。
あの場所は、もはや、ミランダにとっても大切な場所だ。
「昨日の夜のことですよね。シルキーも王兵に囲まれてしまって、面倒になったようですね。そのまま籠城してもよかったけど、火を放たれたので、そのまま燃えてしまう幻影を使ったと言っておりました」
「幻影だと? あれがか? まったくわからなかったぞ」
ベルズは驚いている。
焼け跡を王兵が調べていたと言ったのはベルズだ。ベルズは高位魔道遣いでもあるし、自分にわからない幻影術というものにびっくりしたのかもしれない。
「そうですね。わたくしたち屋敷妖精は、自分の家を守るためなら、なんでもできますから」
ブラニーの顔は、相変わらず微笑みを帯びている。
「とにかく、行ってみよう」
ミランダは言った。
ブラニーの管理しているこの小屋敷と、シルキーの管理しているロウの幽霊屋敷とは、「移動ポッド」とロウたちが呼んでいる跳躍設備で、ほとんどひと繋がりの屋敷のようになっている。
自在に移動できるのだ。
「わかりました。ご案内します。でも、シルキーのところばかりに集まって、わたくしめは少し寂しいですわ。折角のお帰りと、お客様でしたのに」
ブラニーがちょっとだけ寂しそう雰囲気になる。
すると、ベルズが歩きながら口を開いた。
「いや、しばらくは両屋敷に滞在すると思うが、少なくとも、わたしとウルズは、こっちに寝泊まりをする。夜には戻るので、就寝の準備を頼む」
「まあ、嬉しいですわ。張り切ってご準備いたします。是非、朝食も召しあがってください」
ブラニーの口調には、明らかな喜びの響きがあった。
屋敷妖精として、居住者の世話をできるというのは嬉しいのだろう。つくづく不思議な習性を持った妖精だ。
移動ポッドのある部屋に着く。
そこから、壁にある大きな鏡を通り抜けて、反対側に出る。
幽霊屋敷の大広間だ。
久しぶりなので、懐かしささえ感じる。
ここで、散々にロウにいたぶられたこともあったなあ……。
ちょっとそれを思い出して、子宮の奥がぎゅんと疼いた感じになり、慌ててミランダはおかしな邪念を振り払った。
「いらっしゃいませ、ミランダ様、ベルズ様」
シルキーだ。
まったく変わりない。
よかった……。
「シルキー、心配したよ──」
ミランダはシルキーを抱きしめた。
「あれくらい問題ありません。いまでも、庭をうろうろしていて、嫌なものですけど、下手に追っ払うよりも、好きなだけ幻影の中で捜索をさせてやれば、そっちの方がよいと思って、自由にさせてます」
シルキーは言った。
「つまりは、まだ、屋敷の外には王兵がいるということか?」
ベルズが眉間に皺を寄せる。
「そうですね。ただ、結界で保護しているので、この屋敷そのものには、近づけません。近づいたと思っても、ちょっとだけ向きを変えて、追い払われているだけです。わたしくめの作った屋敷の焼け跡の幻影をいまだに、捜索しているようです。でも、大分、減りました」
「そのうち、諦めるだろう。だが、あの屋敷の焼け跡の情景は、そなたの幻影だったのだな?」
ベルズが溜息をついた。
自分に見破れなかった幻影術というのが、やはり、ちょっと驚きみたいだ。
「そのとおりです。いずれにしても、まだ外におりますので、庭には出ない方がよいと思います。でも、屋敷の中であれば、なんの問題もありません。ところで、先にお越しの皆様は、当面ここに滞在していただけると言っておりましたが、おふたりはいかがいたしますか。ずっと旦那様たちが、ご不在だったので寂しい思いをしておりましたのですが」
「みんなも、ここにいるのだな? いまは、どこに? ああ、もちろん、しばらく逗留させてもらえばありがたい。ただ、わたしとウルズは、ブラニーの方で休もうと思っているが」
ベルズだ。
「まあ、それはブラニーも喜ぶでしょう。わたくしめと同じように、お寂しく感じていたみたいですので……。皆様は地下に向かわれました。大浴場にお入りです。ご案内しましょうか?」
シルキーが言った。
大浴場とは、あのロウの自慢の設備であり、もともと幽霊が住み着いていた屋敷なのだが、大浴場があるということで、一も二もなく、この屋敷が気に入って、ロウは自分たちのものにした。
そういえば、その大浴場でも、ロウに遊ばれた。
拘束されて入浴させられ、ロウに裸体をさわれらまくり、息も絶え絶えになったところを体力の限界まで犯されたのは、両手両足ではきかないだろう。
そして、ミランダははっとなった。
やはり、自分はおかしい。
どうにも、きっかけがあると、淫らなことばかり考える。ロウが出立して、しばらくしてからずっとそうだ。
身体が火照ったようになり、眠れないときさえあるのだ。
自慰などしたことなどなかったのに、このところは、ロウにいじめられたことを思い出しながら、自慰で性欲を発散させないと、満足に眠れないということさえ続いていた。
「そうだな。頼む」
ベルズは言った。
シルキーが軽く両手をあげる。
身体を温かい風が包み、気がつくと、浴場の脱衣場にいた。
「お着替えはご準備いたします。それとも、不要でしょうか? もしかして、いつものように、お裸でお過ごしになられますか」
シルキーが言った。
「着替えはいるよ──。馬鹿なことを言わないでおくれ」
ミランダは慌てて言った。
「いつものように、裸?」
ベルズが怪訝そうな顔になる。
「あ、あいつが、いつもそんなことするんだよ。一緒に大浴場に入ると、着替えを隠してしまうんだ。拘束を解いてくれないから、抵抗できないし……。あっ、いや、なんでも……」
言い訳しようとして、くだらないことまで口走ったことに気がついたミランダは、はっとして口をつぐむ。
すると、ベルズが吹き出した。
「愉しそうなことをしていたのだな。だから、スクルズも入り浸りだったのか」
そして、笑った。
ミランダはかっと身体が赤くなるのを感じた。
浴場側から愉しそうな声が聞こえたので、服のままそっちに向かう。
「べーまま──。ミランダちゃん──」
浴場の湯気の中には、みんながいた。湯に浸かっている者もいれば、寝椅子に横になって飲み物を飲んでいる者もいる。
そして、洗い場のところでは、ウルズが人形のようなものを出してもらって遊んでいたみたいだが、ベルズとミランダの姿を見て、裸んぼうで駆け寄ってくる。
「おう、無事だな、ウルズ。みんなもな」
ベルズがウルズを抱きしめながら、ほっとしたように笑った。
どうでもいいが、湯も拭わずにウルズが抱きついたので、ベルズの服はびしょびしょだ。
ただ、ベルズは嫌がる様子もない……。
本当に、母親が娘を慈しむような姿である。
「ミランダ、これは快適すぎるわあ。王宮よりもいいわねえ……。屋敷妖精も親切で万能だし、しばらく、ここにいることに決めたところよ。あの屋敷妖精がいれば、ここよりも安全な場所もないしね。あのシルキーちゃんも歓迎するって言っているし」
エルザだ。
湯に身体を横たえるようにしていて、本当に寛いでいる。
あんまり無防備に喜んでいるので、ミランダも、思わず笑ってしまった。
「ここで過ごして、ロウ殿がいないのは変な感じだが、確かにここはいい拠点だ。王兵にも万全なことがわかったし、あの移動ポッドとやらを使えば、王都側にもあっという間に行ける。ここを新しい拠点にするのは賛成だな。ただ、シルキー殿は、女性でないと入れられないとは言っているけどね」
マアだ。
マアについては寝椅子に横たわっている。
もちろん、全裸である。
その横にはモートレットがいる。やはり、寝椅子に横になっている。
しかし、こうやって裸体を眺めると女である。本当に、男装の令嬢など、あの好色男が喜びそうな対象だなと、ちょっと思った。
「モートレットも、ご苦労だったね」
ミランダは声をかけた。
「別に……。ただ、巫女の服を着て、歩いて出ただけです」
モートレットがぶっきらぼうに応じる。
「でも、臨時ギルドはここでは開設できませんね」
すると、ランが声をかけてきた。マリーとともに、湯に下半身だけを浸けている。
「うーん、あたしも、ここで暮らしたいけど、家族もいるしなあ……。どうしよう……」
マリーは唸っている。
家族といっても、マリーは複数の愛人がいて、それぞれのところに全部で三人の子供を持っている。つまりは、かなりのやり手の女なのだ。
「マリーも念のために数日は隠れてな。王兵がどこまで捜索の範囲を拡げるかわからない。むしろ、お前が子どもたちに接触すれば、かえって、彼らが危険かもしれないし」
ミランダは忠告した。
「そうですね……。そうします」
マリーが大きく息を吐きながら頷く。
「まあ、わたしの手の者を使って、旦那たちには、しっかりと気を配っておくよ。ところで、あんたらは服のまま入るのかい?」
マアが笑いながら、声をかけてきた。
「うんうん――、べーままもミランダちゃんも、いっしょにはいろう。ほらほら」
ウルズがベルズのスカートを大きくまくる。
「わっ、は、はぐるな、ウルズ。待てというのに──」
力だけは強いので、ベルズも強引にウルズに迫られたらたじたじだ。
珍しくも、ベルズの狼狽えた様子に、ミランダも思わず吹き出してしまった。
(第13話『女狩りの陰謀』終わり、第14話『王太女の出陣』に続く)