※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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716 王都からの商人【離宮】

「王都はかなり落ち着いてきておりますな。マア様からは、ロウ様のお屋敷はとても快適であるとの伝言です。残念ながら、シルキー殿は、我々男には屋敷を開放してはくれませんが……」

 

 ノールの離宮である。

 その客室でイザベラたちは、王都からやってきた商人と、ソファで向かい合っていた。

 座っているのは、イザベラのほかに、王妃アネルザと、姉のアン、アンの侍女のノヴァだが、ほかにも部屋の中には、女官団のうち、女官長のヴァージニア、侍女のうちトリアとダリアが侍っている。もちろん、イザベラの護衛長のシャーラもいる。

 そして、冗談めかした物言いで笑い声をあげた王都からの商人は、ラレンという男だ。

 

 マア商会がハロンドール王国への本格的な進出に関わる総事業における腹心的な存在らしい。

 にこやかな顔をした四十男であるが、実は凄腕の商人らしく、それどころか、マアの扱う諜者のような集団を取り仕切る闇組織の元締めのようなこともしているとのことだった。

 幾つもの裏組織にも顔が利き、マアに言わせれば、商人としても超一流だが、冒険者になっても、裏社会に生きても、一門の人物になったのは間違いないと言っていた。

 しかし、マアに心酔して商人の道を選び、いまはマアから、ハロンドール正面の数多くの商売を一手に任されるほどの商売人に成長したとのことだ。

 

 マアは、このノールの離宮にいて、なかなか外の情報を掴めないイザベラたちのために、出入り商人の体裁によって、自分に近い部下を頻繁に離宮まで送ってきている。

 そのおかげで、イザベラも一時期の完全な情報遮断状態からは、かなりの情勢把握ができるようになってきていた。

 ただ、マアがこのラレンほどの人物を派遣してきたのは三度目であり、いずれも重要な情報を運ぶタイミングで、ラレンを使ってきていた。

 

 以前の二回のうちの最初は、マアとエルザが王都に向かってから、しばらくのときであり、ふたりの尽力で荒れていた王都情勢が急速に回復し、それにより王都の人心が落ち着いてきたという報告を持ってきた。

 二度目は、つい先日であり、ロウの行方がわかり、なんとエルフ族の女王ガドニエルから英雄認定を受け、しかも、式典で女王と口づけをする映像が世界通信で流れて、一躍「時の人物」のような存在になっているという情報だった。

 エルフ族のガドニエルといえば、同じ王族といえども、高貴さも、在位の長さでも周辺の人間族の王公君主とは一線を画す存在であり、そのガドニエル女王と親睦を得てしまうのは、やはり、ロウはすごいと思う。

 ロウとガドニエル女王の口づけの映像は、世界中の魔道通信設備で視聴できたらしいが、残念ながらこの離宮にはそんなものはないので、イザベラは目にしていない。

 だから、どのくらいの親しさかはわからないが、あの神の手管ともいえる性の技で女王を魅了したのだろうか?

 まさか、エルフ女王を相手に、イザベラやアネルザにするような嗜虐癖は発揮しないとは思うが、もしかして、そうではないかと考えると、ちょっと愉しくはある。

 

 いずれにしても、ロウがやっと戻ってくるのだ。

 それを考えるたびに、イザベラの心が嬉しさでいっぱいになる。

 ロウから与えられた最高の贈り物……。

 イザベラは、膨らみの目立ってきたお腹にそっと触れる。いまははっきりと、この中に命の胎動を感じる。

 ロウは喜んでくれるだろうか……。

 そうだといいが……。

 まあ、そうでなくても、もちろん、ロウに迷惑をかけるつもりはまったくない。

 だが、できればロウにも、イザベラと同じように喜んで欲しいとは思う……。

 

 それはともかく、今回の三度目のラレンの訪問は凶事だった。

 なんと、第三神殿の地下に隠れて活動していたミランダやベルズが王軍に襲撃され、マアやエルザたちとともに脱走を強いられたというのだ。

 驚いたし、王軍が神殿を襲撃したという事実にも驚愕した。

 王都三神殿というが、実は神殿界と王権は別ものであり、すべての神殿はかつてのローム帝国、現在ではタリオ公国内にある大神殿に属する。つまりは、治外法権的な存在なのだ。

 その神殿に軍を入れるなど、後の影響を想像すると、イザベラはぞっとする。

 おそらく、父親でもあるルードルフ王の破門宣言は免れないであろう。

 これひとつとっても、イザベラが王に代わらなければならない理由ができあがった。

 

 いずれにしても、マアは、いろいろとあったが、いまは大丈夫だという意味で、このラレンを派遣してきたのであろう。

 全員の脱出は完了して、みんなでロウの幽霊屋敷に身を移したそうだ。

 あの屋敷の地下にある大浴場を堪能しながら、快適に暮らしているらしい。

 ロウがついに水晶宮を出立したという話もあり、その屋敷でロウの帰還を大人しく待つつもりだとも伝言を受けた。

 羨ましいことだ。

 

 王族として、王都や王国そのものの治政の混乱の回復の責任があるイザベラはともかく、アンやアネルザなどについては、こんな辺鄙な離宮に禁足されてさえいなければ、ロウの屋敷に送ってあげたい。

 アンもイザベラ同様に、やっと安定期と呼べる時期になってきたので、移動するのであれば、いまの時期がいいらしいのだ。

 

 だが、実際には、サキが送り込んできたスカンダという童女妖魔がイザベラたちを見張っていて、イザベラとアネルザとアン、さらに、シャーラとイザベラの女官十名については、強力な魔道でこの離宮の敷地内からまったく出られないという状況になっている。

 

 ちょっとでも脱しようと思うと、彼女の瞬間移動の魔道で強引に引き戻されしまう。

 スカンダ自身は、とても優しい性質であり、そんなことは意に沿わないのだという態度なのだが、サキとの魔道契約で逆らえないらしく、何度か脱出しようとした女官たちやシャーラを引き戻してしまうたびに、懸命に謝罪していた。

 

 いずれにしても、いまは、もうここから無理に離れようとする努力は断念している。

 スカンダの結界は、イザベラたちが外に出られないだけではなく、不審な存在や集団が離宮に近寄るのも遮断しているみたいなのだ。入ってこれるのは、イザベラたちに対して敵意のない者に限定されるらしい。スカンダは、人間族の感情も読めるみたいだ。

 だから、ここから離れようとする努力は断念しようという結論になった。

 いずれ、ロウが戻れば、王宮に閉じこもっているらしいサキをなんとかしてくれるだろうし、そのときには間違いなく、イザベラたちの禁足も開放される。 

 

「あの男ももうだめだね。救いようもない。神殿に兵を入れるなど、なにを考えているのか……」

 

 アネルザが吐き捨てるように言った。

 しかし、イザベラは、あの好色でやる気のないルードルフ王が、貴族たちを粛正し始めたり、軍をわざわざ動かして王家に敵対する者を捕縛しようとするなど、どうにも「らしくない」と思っている。

 なにか理由があるのではないだろうか?

 そんな面倒なことをする父王ではないのだ。

 もしかして、操られている?

 

 そう思わないでもなかったが、まあ、そうだとしても、王である以上、操られた時点で罪だ。

 そもそも、歴代の王に代々引き継がれているあらゆる操り魔道や暗殺手段を反射する「王家の守り」の宝珠というものがある。ハロンドールの王はそれにより、絶対的にその身を守っているのだ。

 しかし、その話題を先日、アネルザに出したとき、妙な汗をかいた感じになったので、もしかしたら、イザベラには言わないが、アネルザはこれについてなにかをしたのかもしれない。

 

 根拠はないただ勘だ。

 だが、突然にルードルフ王の性格が人代わりしたみたいになったというのは、操られているというのが、もっとも納得がいく。

 もしかしたら、ルードルフ王から王家の宝珠を盗んだか?

 アネルザがそんな事に手を出すとすれば、十中八九、ロウが絡んでいるのは間違いない。

 だから、イザベラは、これについても、あまり追求はしないことにした。

 

「まあ、王都のことは静観だな。エルザ姉様とおマア殿のおかげで、一応の落ち着きは見せている。あの園遊会事件で集められた貴族の妻女や子女たちの監禁については、なんとかしたいが」

 

 イザベルは嘆息した。

 これについても驚愕したが、ルードルフ王の命令で集められた王都居住の貴族夫人や令嬢たちは、連日、王に犯され、あるいは、調教という名の性的な嗜虐を受け続けており、それを記録した「映録球」が王都には出回っているのだという。

 高位貴族の夫人や令嬢の破廉恥映像の流出については、そもそも、誰がなんのために行っているのかもわからないが、そのようなことをしている国王の威厳を最底辺以下にまで落としているのみならず、好色的な娯楽として、王都内では一種の流行のようなものにもなっているという。

 

 イザベラとしては、直ちにやめさせたいが、これもまた、離宮に監禁されている状態のイザベラにはどうしようもない。

 アネルザに相談しても、向こうにいるミランダたちも打つ手はないのだと言っていた。

 いまの王宮は、サキと眷属の部下たちが、集めた貴族夫人や令嬢ごと、国王を人質にとって立てこもっているといっていい状況らしく、そもそも、サキに接触できないのだそうだ。

 

「王太女殿下のご懸念については、必ず、王都にお伝えします」

 

 ラレンはそう応じるに留まった。

 

「だけど、急に王都の人心が落ち着いてきたというのは嬉しいことだが、ちょっと不思議ではあるね。確かに、流通が回復して物価が落ち着き、生活が安定してきたことは人の心の不安を静かにするだろうけどねえ……。でも、それだけで、スクルズが磔処刑になったり、さっきの破廉恥映像が出回っているという政情不安が落ち着くかい? わたしには、その王都市民の静かさが不気味なんだけどねえ」

 

 アネルザが半分冗談めかして言った。

 だが、それはイザベラも、同じように思っていた。

 一時期は暴動寸前まで……、いや、実際に暴動になっていたほどに不穏だった王都情勢が、どうして急に落ち着いたのだろう?

 物価の安定が一因とは認めるが、あまりにも劇的すぎはしないだろうか? まだ、王都の混沌はなにも解決していないのだ。

 

 それはともかく、スクルズの失踪というのも驚きだ。

 王都で起こったスクルズの処刑騒動の情報そのものに、イザベラたちには遅れて接したが、結果だけ聞けば、馬鹿みたいな話だ。

 ロウと一緒のときには、あの敬虔そうな美貌の女神官長が羽目を外す傾向があったのはわかっていたが、まさか、ロウを追いかけるために、自分の死を演出するとは、なんという人騒がせな女だろう。

 

「そうですなあ……。あっ、だけど、もしかしたら、あの聖典朗読も王都の者の心が落ち着いてきた理由のひとつかもしれませんね。最近、あの破廉恥映像の映録球に混じって、なにかの本の朗読が入り込むようになったのです。“聖典”という説明でしたが、貴族令嬢が縛られて全裸で三角木馬に乗せられたり、大勢の娘たちから筆や刷毛でくすぐられて、何度も気をやるような映像と一緒に、なにかの言葉が流れるのですよ。あっ、これは、あまりにも赤裸々でしたか? 失礼を」

 

 ラレンが気がついて恐縮したように頭をさげた。

 ここでの情報提供に関わることについては、いかなることでも言葉を飾らずに告げてくれと頼んでいるし、一切の無礼講を約束している。

 だが、あまりにも露骨な表現で、イザベラが気を悪くすると思ったのかもしれない。

 だが、イザベラは気にしないと告げた。

 そんなことで動転するようでは、ロウの愛人は務まらないだろう。

 

「本の朗読ですか? それが聖典ですか?」

 

 口を挟んだのはアンだ。

 このような誰かの訪問の際には、アンにも同席をお願いしているが、滅多にアンが発言することはない。

 しかし、このところ、恐ろしいくらいに勘が働くようになり、なにかの重大事に繋がるかもしれない事象に接すると、なにか心に触れるような心地がするようになったらしい。

 だから、気になっていることがあれば、必ず口を出してくれと頼んでいる。

 従って、その聖典とやらの朗読というのが、アンの勘を刺激したのだと思う。

 

「そうですね。内容は他愛のないものですよ。でも、気になるのですよ。最近では、一緒に映っている破廉恥映像ではなく、その朗読を聞きたさに人が集まっているのではないかというほどでして」

 

 ラレンが言った。

 

「もしかして、ラレンも聞いたか?」

 

「聞きました。確かに、妙に心が静かになります。そして、天道様というお方にお慕いする気持ちに溢れるのです」

 

「天道様だと?」

 

 天道様というのは、主神クロノスの別名である。

 

「ええ、その天道様の行いことを朗読しているのですよ。王都の大ラットを大量に捕らえる奇跡を起こしたとか、ある村人たちが困っている魔獣を退治したとか、山の中に湯を見つけただとか……」

 

「クロノス神のことではないのか?」

 

 アネルザが訊ねた。

 イザベラ同様に、アネルザも「天道様」というのがクロノス神だと思ったようだが、なんとなく違うようだ。

 

「偉大なる天道様ですよ。クロノスとは異なります」

 

 ラレンがきっぱりと言った。

 なんだが、クロノスを軽んじているような口調に、イザベラは違和感を覚えた。

 まあいいか……。

 

 そして、南方の叛乱のことの話題にもなった。

 相変わらず、ドピィという叛乱主が、クロイツ領という場所を占拠しているようだが、近傍で対応するはずの南部国王直轄軍は、いまのところ静観しているだけみたいだ。

 王宮からの具体的な命令もないみたいだし、これについてだけは、早急な対処が必要とイザベラも焦っている。

 ほかにいくつかの情報を入れてもらい、話もひと段落した。

 すると、ラレンが改めて姿勢をただす。

 

「では、スタンを入れても構いませんか? おふたりに贈り物をしたいと持ってきたのです。もちろん、信用のおけるものです。マア商会としてしっかりと検査もしています。ただ、スタンが自分で採集したものでして……。それに、またアン様と直接にお話をしたいとか……。ミウちゃんのことですよ」

 

 ラレンが含み笑いをするような顔になる。

 スタンというのは、マアが拾ってきた孤児であり、立派な商人にするべく、マアが徹底的に鍛えている少年だ。

 年齢は、ロウと一緒に旅に出ている見習い巫女のミウと同じであり、前二回のラレンの訪問にも、その少年はついてきていた。

 しかも、その目的は、とても微笑ましいものだった。

 スタンはミウに初恋を抱いていて、アンがミウと同じ第三神殿ですごしていたということから、ミウが気に入るものとか、好きな食べ物などの、とにかく、ミウのことを教えてもらいたいということなのだ。

 イザベラは、是非とも、その淡い初恋を応援してあげたい気持ちになっている。

 

「ああ、ミウに惚れているスタンか。また、アン姉様に、ミウの好きなものなどに関する情報を教えてもらいたいのだな。まあ、スタンの初恋のためだ。アン姉様、また有益な情報を教えてあげてくれ」

 

 イザベラは笑った。

 だが、アンがちょっと複雑そうな表情になった。






 *

 今日の昼間から、仕事で長崎に来ています。ホテルでタイプを打つ余裕があれば、少しでも投稿したいと考えています。(コスパも入手したので……)
 それにしても、ロウがいない正面になると、どうにも、エロチックな場面が挿入しにくいです。
 しばらく、比較的な真面目なシーンが続くと思いますが、何卒、よろしくお願いします。
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