【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「ま、待てよ」
自分に向けられている短銃に、真っ蒼になったジョナスが咄嗟に椅子から立ちあがろうとしたのがわかった。
一郎は手にしている短銃の引き金に力を加えていく。
「う、撃たないで、ロウ様──。撃ってはだめ──」
そのとき、エリカが一郎とジョナスのあいだに立ちはだかって大きく両手を拡げた。
さっきまで、この下衆男の命令で自慰をしようとしていたので、エリカの下半身はスカートと下着を身に着けていない裸だ。
それでも、その姿でエリカはジョナスを庇うために、一郎の構える銃口の前に身を投げ出してきた。
必死の形相だ。
操られている状態とはいえ、一郎の心に怒りの炎が宿る。
「……俺のことはわかるんだな、エリカ……?」
一郎は銃口を真っ直ぐにジョナスに向けながら言った。
ただ、その銃線には、エリカの身体が存在している。
「わ、わかります……。この人を撃たないで……」
エリカは一郎をじっと見返しながら注意深く言った。
この状況でも、エリカはほんの少しの隙も見逃すまいとするように、一郎の仕草を観察しているのがわかる。おそらく、エリカは機会さえあれば、一郎に飛びかかってくると思う。
いまは、完全にエリカは、ジョナスのことを大事な恋人かなにかと勘違いしている状態だ。
つまりは、操り状態なのだ。
しかし、それでも一郎の内心は腹が煮えたぎっている。
感情を操られていたとしても、エリカの頭には、一郎と旅をしてきた記憶は消えてはいないのだ。それにも関わらず、いまのエリカにはなんの葛藤もなく、一郎を敵とみなし、ジョナスを「主人」のように思っている。
それが口惜しかった。
「ジョナス、少しでも動けば、お前を殺す」
一郎は言った。
嘘ではない。
一郎はジョナスを殺すつもりだ。
だが、いまはエリカの身体が邪魔で撃てない。ただ、それだけのことだ。ジョナスが立ちあがれば、的は大きくなり当たりやすくなる。
しかし、そのときは、エリカが身を投げ出してでも、ジョナスを庇おうとする気がする。
「う、撃ってはだめです、ロウ様……。お、お願い……。わたしたちを逃がして……。ねっ? いいでしょう? さ、さっきは申し訳ありませんでした……。で、でも、ロウ様には治癒能力がありますから大丈夫だったんでしょう……?」
エリカが媚びるような笑みを浮かべた。
もちろん、エリカの内心は、一郎に対する親しみなど微塵も沸いてはいない。一郎にはそれがわかった。
ただ、いまは、憎しみを抱いている一郎に媚びてでもジョナスを救いたいという一心があるだけのようだ。
また、エリカのいまの発言で、エリカの心にある感情は歪められているようだが、記憶は確かに存在しているということを改めて確信した。エリカは、一郎がルルドの精霊のユグドラから自己治癒能力を与えられたことを知っている。
それを覚えているということは、エリカにはやはり、一郎や仲間たちとの記憶はあるのだ。
つまりは、エリカが一郎を刺したとき、あれくらいでは一郎は死なないことはわかっていただろう。
そういう意味では、エリカには一郎を殺す気まではなかったともいえる。
だが、エリカが一郎を刺したという事実には相違はないが……。
いずれにしても、エリカは、記憶を留めているにも関わらず、いとも簡単にジョナスの支配下に陥った。
一郎のエリカに対する怒りは理不尽とはわかっているが、一郎にはそれが赦せない。
いまのエリカがそうであるように、いまの一郎もまた、「理解」と「感情」は別なのだ。
「……わかった。逃がしてやる。ただし、こいつだけだ、エリカ──。エリカ、お前は残るんだ……。それから、ジョナス──」
一郎は怯えた様子で椅子に座っているジョナスに怒鳴った。
「ひっ──。な、なんだ……?」
ジョナスがびくりと身体を震わせた。
「なんだじゃねえ──。さっきから俺の心を操ろうとして、術を侵入させようとしているのはわかっている。お前の操りに支配される俺じゃないが、目障りだ──。やめろ──。それと後ろのミランダにもだ。今度、操りをしようとすれば殺す──。場合によっては逃がしてもいいと思っているが、操り術を遣おうとすれば、殺すからな。俺はお前が操り術を駆使しようとすればわかるんだ」
一郎は言った。
その瞬間に、心に侵入しようとしていたジョナスの関与がさっと消滅したのがわかった。
同時に、ジョナスの顔に一郎に対する怯えがありありと浮かんだのもわかった。
もちろん、いまの一郎の言葉は、半分は洞察だが、半分ははったりだ。
一郎にわかるのは、一郎自身にジョナスの術が侵入しようとしてきたときだけだ。ミランダに対してはわからない。だが、この状況であれば、ジョナスは一郎の感情を操ろうとするとともに、無言で身構えている後ろのミランダにも操りを施そうとするはずだ。
もちろん、それは無駄なことだ。
ここに来る直前に、コゼやシャングリアにあったジョナスの刷り込みを消去しただけでなく、ミランダに対する一郎の影響力を強めてきた。
それは一郎の精液を飲むという行為を通じて行ったのだが、それによって、もともと、ジョブレベルがジョナスよりも高いミランダに、さらにレベル“70”の一郎の支配の防壁を与えている。
ミランダがジョナスの操りに屈することはあり得ない。
「お、お前も操り師か……?」
ジョナスが当惑した表情で言った。
「さあな……」
一郎はそれだけを言った。
「ところで、エリカ……」
一郎はジョナスに視線を向けたまま、エリカに声をかけた。
「は、はい……」
「さっきも言ったが……この男を助けてもいいが、お前は、俺のところに残ることになる。それでも、お前はこいつを助けたいか……?」
一郎は訊ねた。
エリカが一瞬、返事に窮した顔になった。
いま、エリカが考えていたのは、この状況をなんとか打破して、恋する──そう思い込んでいる──ジョナスととともに、一郎から逃げることだけだったろう。
だから、ジョナスは救われても、エリカは逃げられないということには、咄嗟には返事ができないのだ。
しかし、エリカはもともと自己犠牲の精神の強い女だ。
エリカがジョナスを助ける決心をするというのは予想している。
元はと言えば、一郎にエリカが従ったのも、その自己犠牲が下地になっている。
「エ、エリカ──。俺を助けろ──。助けるんだよ──。なにを迷っているんだ──」
ジョナスが怒鳴った。
むかっ腹が立ったが一郎は我慢した。
だが、ジョナスの言葉でエリカは決心できたようだ。エリカの顔から迷いのようなものが消滅した。
「わ、わかりました……。従います、ロウ様……」
エリカが静かに言った。
「ロウ、口を挟んでいい?」
そのとき、背後のミランダから声がかけられた。
「いや、駄目だ、ミランダ──。言いたいことはわかっている。だけど、それじゃあ、駄目なんだ」
一郎は前を向いたまま返事をした。
ミランダがなにを喋ろうとしたのかはわかっている。
エリカの操りをジョナスに解かせようとしないのを怪訝に思っているに違いない。それをさせれば、エリカがジョナスを庇おうとする状況は消滅する。
エリカも正気に戻り、すべては解決する──。
ミランダはそう思っていると思う。
「でも、逆に、殺してしまったら……」
「それも、わかってる。それよりも、手枷をふたつ、エリカの前に投げてくれ」
一郎は言った。
ジョナスが操り師であることは、すでにミランダに説明した。おそらく、エリカは、そのジョナスの操り状態にあるとも……。
すると、ミランダは、そうであるなら、ジョナスにまずは、エリカへの暗示を解かせろと忠告してきた。
万が一、暗示が残ったままジョナスが死ねば、最悪、エリカの暗示を解く手段がなくなる可能性もあるようだ。
しかし、一郎はそれは心配してない。
コゼとシャングリアの暗示を解いたように、もう一度エリカの身体に一郎の精を注げば、簡単に暗示は解ける。
もっとも、一郎は簡単に解くつもりはないが……。
なにしろ、これは一郎のせいだ。
ジョナスという操り師は、心を操れる能力を持った者としては小者だろう。しかし、その小者にエリカはつけ込まれた。
それは一郎に責任があるのだ。
一郎はエリカを淫魔師の呪術で支配している。
だが、その支配の力は極めて弱いものだったのだ。
身体を自在に操ることについては、最大限のことができるほどに強化しているが、実は、心への接触は最小限にしていた。それはコゼやシャングリアについても同じだ。
そして、女たちとの生活が長くなり、淫魔師の力に頼らずとも心の絆ができてくると、それに応じて、さらに心の支配を弱めていっていた。
だから、三人への呪術の支配など、実際にはほとんどない状態だったのだ。
そこをこのジョナスにつけ込まれた。
そして、それはすべて、一郎の甘い考えが理由だ。
一郎は、自分の愛している女たちの心を操りたくはなかった。
だから、可能な限り心の支配を弱めようとしていた。
それがエリカが、ジョナスの関与を許して支配に陥った原因だ。
一郎が最初の頃のように、エリカを強く淫魔師の呪術で支配していれば、ジョナスにつけ入る隙はなかったに違いない。
それでも、コゼとシャングリアは、記憶操作は受け入れてしまったが、ジョナスの感情操作までは受け入れなかった。
それに対して、エリカは受け入れてしまった。
その理由もわかる。
それは、三人が一郎の支配に陥った状況の違いだ。
つまり、一郎の呪術の根っこの部分の強さの差なのだ。
コゼとシャングリアについては、一郎が呪術で支配する直前に、一郎の支配に陥るという自己意思がちゃんと存在していた。
奴隷だったコゼは、主人の命令で一郎を殺そうとして、逆に捕らわれた瞬間にすべてを諦めて一郎に身を任せる境地になっていたし、シャングリアは押しかけ性奴隷だ。
ふたりとも、もともと自分自身の意思で一郎に屈しており、そこに一郎の呪術が刻まれたという状態なので、一郎との呪術の絆が強いのだ。
それに比べて、エリカは違う。
エリカの意思は完全に無視して、最初に一郎が支配した。
だから、呪術の縛りは弱いものだったのだ。
それにも関わらず、一郎はエリカの呪術の支配をどんどんと弱めていっていた。
その結果、エリカは、本来は強靭であるはずの一郎による呪術の防壁を受けられずに、ジョナスの心への侵入を許してしまったのだ。
いまこそわかる──。
淫魔師として女を支配するには、実のところ、精の呪術で支配する前に「堕ちる」という状態が必要だ。
それにより支配が著しく強化される──。
今後、女を支配する状況になったときには、それを覚えておこうと思った。
だから、一郎はエリカの支配を強化する。
このジョナスは小者だったが、今後、もっと力の強い操り師が目の前に出現する可能性もある。そのときに、心への関与を許さないように、エリカの淫魔師の支配を根っこから強める必要がある。
つまり、エリカを呪術の支配以前に、自分自身の意思で「堕ちさせる」のだ。
そのため、一郎は、ジョナスの操りで一郎に対する反抗心が頂点になっているいまの状況を利用するつもりだ。
「投げるわよ」
ミランダの声がして、ふたつの手枷が床を流れて、エリカの足元に届いた。
「ひとつをとって、自分の足首にかけろ」
一郎は言った。
エリカは、きっと一郎を睨みつけてから、ゆっくりと屈んで手枷のひとつを手にした。
枷は、それを嵌めるときには簡単に締るようになっているが、開くときには鍵がないと開錠できない仕組みのものだ。枷と枷のあいだには拳二本ほどの長さの細い鎖が繋がっていて、それを嵌めてしまえば、もうよちよち歩きしかできない。
「嵌めました」
エリカが屈んでいた上体をあげた。
「もうひとつを手に取れ。それで手首を繋ぐんだ。ただ、手錠は股間を通して、右手は後ろにして、身体の前側で左手首に繋げ」
一郎は言った。
「なっ──」
エリカが一瞬、反抗するような声をあげたが、一郎の構える短銃に視線を向けると、すぐに口をつぐんだ。
無言で指示された格好になる。
エリカは股間を通して、両手首を拘束された状態になった。
そのとき、ジョナスが口を開いた。
「お、俺の能力がわかってるみたいだな……。だったら、言っておく……。俺を殺せば、この女に与えた刷り込みは……」
「黙れ。勝手に口を開くな。すぐに引き金を引くぞ――」
一郎は怒鳴りあげた。
余程の形相をしてしまったのか、ジョナスの顔が真っ蒼になった。
「撃ってはだめ、ロウ様。ジョナス様、ここはわたしに任せて」
エリカが素早く言った。
一郎はエリカを見た。
「エリカ、股の筋肉の凍結は解除してやった。鎖で股を擦って自慰をしろ。さっきの続きだ──。俺が百数える。そのあいだに達することができれば、ジョナスは解放してやる。だが、それができなければ、ジョナスは死ぬ」
「な、なんですって──?」
エリカが目を丸くした。
「聞こえなかったのか、エリカ? 鎖で自慰だ。あと九十だぞ。俺が心の中で数え終わったら、引き金を引くからな」
一郎はわざと頬に笑みを作った。
エリカについては、徹底的に再調教する──。
そう決めている。
それが必要なのだ。
「は、早くしろ、エリカ──。さっさとやれよ──」
ジョナスが焦ったように怒鳴りあげた。
一郎は腹が煮え返るのをぐっと耐える。
「や、約束よ──」
エリカは屈辱で真っ赤になった顔を一郎に向けた。
そして、捨て鉢になったかのように、いきなり激しく鎖で股間をしごき始めた。
「んっ……んっ……んんっ……」
始まってしまえば、感じやすいエリカの身体だ。
あっという間に、エリカの「快感値」の数字は下がり始める。鎖に蜜がまとわりつきはじめ、エリカの身体が小刻みに震え出すのに、それほどの時間はかからなかった。
一郎は、エリカの身体を操作して、「快感値」が“5”よりも下がらないように操作した。
これでエリカは際限なく快感は膨れあがっても絶頂だけはできない。
そのあいだも、エリカは羞恥から逃れるように、必死になって卑猥な作業に没頭している。
エリカの反応がいよいよ大きくなった。
すでに“5”だ。
だが、そこでエリカの快感値は止まった。
「……あ、ああ……な、なんで……」
エリカは懸命に股間を擦っている。
だが、あと少しのところでいけなくて、動揺をし始めた。
「は、早くしろよ、愚図め──。お前が達しないと、俺は殺されるんだ──。わかってんのか──」
ジョナスが大きな声をあげた。
「は、はい……。わ、わかってます……。で、でも、なんでか……」
エリカが泣きそうな表情で言った。
そして、鎖で擦るのをやめ、前側の手で直接に肉芽をいじり始める。
さらに後ろ側の手はお尻の穴に入れたようだ。
必死に達しようとしている健気な姿に、一郎はほくそ笑みながら、一方で、その必死さが背後のジョナスのためなのだと思うとどうしようもなく腹が立った。
「あと三十だ」
一郎は宣告した。
「……ああ……そんな……そんな……」
エリカは腰を振り出した。
少しでも快感を増幅しようとしているのだ。
後ろでは早くいけとジョナスが喚いている。
黙っていろ──と引き金を引きそうになり、一郎は自重した。
「残り十、……九……八……」
一郎はカウントダウンと始める。
「……ま、待って……ちゃんといく……いきますから……ま、待って……」
エリカはもう涙目を浮かべている。
下半身になにも着けてない女が一生懸命に鎖で自慰をして腰を振るさまは、滑稽であり卑猥だ。
一郎はカウントダウンが五になったところで、絶頂を止めていた縛りを解除してやった。
「ああ、い、いきます──あうううう──」
エリカが大きく背中をのけ反らせた。
絶頂を凍結していたため、そのあいだに溜め込んだ淫情が一気に全身に貫いたようだ。
エリカは驚くほどに激しく反応して、その場に崩れ落ちるように膝をついた。
一郎はその姿を確認しながら、ジョナスに視線を向けた。
「行っていいぞ。二度と、俺たちの前に現れるな」
一郎はそう言って、銃をおろした。
ジョナスがほっとしたように脱力したのがわかった。
椅子から立ちあがったジョナスが、跪いたまま肩で息をしているエリカの横を通り抜ける。
一郎は、完全に油断しているジョナスに銃を向け直した。
轟音が鳴り響き、至近距離で心臓を撃ち抜かれたジョナスが、糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた。
「いやああ──ジョナス──ジョナス──」
エリカが発狂したように声をあげた。
拘束された状態のまま、エリカはジョナスの死体に取りすがろうとした。一郎は、むんずとエリカの髪の毛を掴んでそれを阻止する。
「ひいい──痛い──。う、嘘つき──。騙したわね──。この人を許すと言ったくせに──」
髪を掴まれて動けなくなったエリカが泣き叫んでいる。
そのとき、外からコゼとシャングリアが部屋に飛び込んできた。
このふたりは、ミランダと異なり、ジョナスの操りの侵入を許す可能性があった。だから、気配を探られないように、部屋の外に隠れているように申し渡してたのだ。
「エリカ、しっかりしなさいよ。あんたは、こいつに操られていたのよ」
「そうだ、エリカ──。ロウがこいつを殺してくれた。もう、大丈夫だ」
コゼとシャングリアがエリカを両側から抱きかかえるようにした。
一郎はエリカの髪を離した。
「は、離してよ──。こいつが──こいつが──」
エリカは泣き喚いている。
「俺が憎いか、エリカ?」
一郎は銃を上着の内側にしまい直すとエリカに視線を向けた。
「に、憎いわ──。憎い──。憎いに決まっているでしょう──。この卑怯者──」
エリカは目に涙を浮かべたまま、一郎を睨みつけた。
「そうか……」
一郎は頷いた。
すでに、エリカを操っていた術師のジョナスは死んだ。
しかし、術者が死んでも暗示は解けてない。そういう操り術だったのだろう。
「……だか、その憎い俺にお前は屈服することになる。屋敷に戻るぞ、エリカ──。しっかりと調教し直してやる」
「だ、だれが、あんたに屈服なんて……」
「だが、屈服することになる。最後にはな……」
一郎は笑みを浮かべた。
口惜しそうな表情のエリカが、突然に一郎に向かって唾を吐きかけた。
その眼には、憎しみしかこもっていない。
「エ、エリカ──?」
一郎に向かって唾を吐いたエリカに、シャングリアが目を丸くしている。さらに、エリカの身体を押さえながら一郎に顔を向けた。
「なあ、ロウ──。エリカの状態を戻さないのか? わたしたちにやったようにすれば、エリカは正気に戻るのではないか?」
シャングリアが言った。
「多分な……。だが、それは、いまのエリカが屈服してからだ。とにかく、馬車まで連れていけ──」
一郎は、いまの状態のままのエリカを屈服させると決めている。
エリカに自分の意思で一郎の支配に陥ることを決心させるのだ。
それにより、コゼとシャングリア同様の強い呪術の支配が刻まれるはずだ。
やり直しの支配だ。
簡単に戻してしまえば、エリカが一郎に従うのは当然であり、元には戻るものの、同時にエリカが自分の意思で一郎を支配を受け入れる機会もなくなり、淫魔術による洗脳魔道への防壁が得られない。
「とにかく、エリカ、さあ……」
拘束されながらも、それでも暴れようとするエリカをコゼとシャングリアがふたりがかりで押さえつけて立たせた。コゼが横の寝台からシーツをとって、エリカの身体を隠す。
三人が部屋を出ていった。
「……エリカを再調教なんて本気? 可哀想に……。正気に戻してあげればいいじゃないの」
ミランダが静かに言った。
「冗談言うなよ、ミランダ──。エリカをもう一度、屈服させる愉しみを失って堪るものか」
一郎はうそぶいた。
ミランダには淫魔術のことを細かく説明したくない。
すると、ミランダが呆れた表情で肩を竦めた。
「……ところで、ミランダ。こいつの後始末を頼めるか?」
一郎はジョナスの屍体を顎で指した。
「まあね──。こいつも冒険者ギルドの一員だったわけだし、あたしの方で当局に届けておくわ……。こいつがエリカを使ってあんたを殺そうとしたことは目撃者もいるし、それをあんたが返り討ちしたということにしておく。それで問題も起きないはずよ……。それにしても、心を操る者だなんて、とんでもない者もいたものね」
ミランダがジョナスの死体に目をやった。
心を操る者か……。
一郎は心の中で呟いた。
ミランダの心は一郎が操作しているので、ミランダが一郎に対する懸念を抱くことはないが、一郎もまた「心を操る」能力を持った存在だ。
そして、ジョナスもそうだった。
つまりは、珍しい存在なのかもしれないが、他人の心に関与できる者は決して唯一無二ではないということだ。
「さて、じゃあ、行くよ」
一郎はミランダに声をかけた。
そして、再調教をすることに決めているエリカが待っている馬車に向かった。
一郎が憎いと叫んだエリカに対する理不尽な怒りと、そのエリカ再調教できる心の浮き立ちとともに……。
(第13話『操られたエルフ女』終わり、第14話『新しい関係』に続く)