【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
720 混沌の女傑たち【幽霊屋敷】
あちこちが一気に混沌の状況を示してきた気がする。
ミランダは、ロウの幽霊屋敷の中にもらっている私室で、集まっている情報を整理しつつ溜息をついた。
まずは、離宮にいるイザベラだ。
驚いたことに、イザベラは、身重でありながら、ノールの離宮から南方動乱に向けて出陣するというのだ。
どうやら、今回の王都騒乱に際して、いち早く王都を脱出した王都貴族たちが焚きつけたらしい。
ミランダは、慌てて単独で離宮に駆けつけたが、王太女を翻意させることはできなかった。
アネルザやアンもまた、大反対をしていたが、イザベラの決心は固く、すでに出兵の支度はできていて、明後日には水軍の支援によって、ライス将軍以下五百の手勢を率いて出立することになっている。
そして、まずは南方王軍とともに賊徒の乱を平定し、次いで王都に駆け上がり、王宮からルードルフ王を追い出して、すべての混乱を解決させるのだという。
あのマイムに逃亡した“善良なる王都貴族の会”とやらが、イザベラに注進したのがその内容だったのだ。
イザベラが地方軍を率いて王都に向かえば、王都の王軍から内応者が出る手筈まで整っているという。
あまりにもできすぎているし、どうにも
だが、これで王都の混乱を解消する可能性があるなら、イザベラは身体を張るのだという。
翻意させたいが、そもそも王都の混乱を作った当事者としては、王族としてこの異常な状態をなんとかしたいというイザベラの決断に対して、なにも言う権利もない気がして強く言えなかった。
結局、説得は断念して、そのまま戻ってきた。
むしろ、協力を依頼された。
マイムに逃亡した宰相フォックスの持ってきた話の裏取りと、優秀な冒険者のパーティの派遣を依頼されたのだ。
パーティの派遣というのは、つまりはクエストの依頼だ。
離宮に赴いたときに、ベルフ伯という南方域の領土貴族と引き合わされた。
随分と疲弊した様子であり、明らかに憔悴しきっていた。
すぐにはわからなかったが、教えられたところによれば、ベルズ伯は、今回の南方動乱において、ドピィという賊徒主が本拠地にしている領都で人質になっている侯爵夫人の実の両親だった。
そして、娘の救出を訴えられた。
話によれば、侯爵夫人は賊徒主の慰み者になっており、服も着せてもらえず、犬のように首輪を嵌められて、毎日賊徒主に犯される生活をしているのだそうだ。
侯爵夫人のシャロンには、幼い頃から好きだった婚約者がいたにも関わらず、家の存続のために、父親よりも年齢の高い侯爵の後妻として政略結婚を強いたのだという。
家長としては後悔はしていないが、親としては、ずっと娘には申し訳なく思っていたという。
もう政略としては使わず、残りの人生を心穏やかにすごして欲しいのだと、泣いて訴えられた。
そして、クエスト代として破格の金貨を渡された。
これひとつとっても、ベルフ伯夫妻の本気度がわかる。
ふたりは、侯爵夫人のシャロンを救うため、身代金の支払いを申し出たりしているみたいだが、賊徒主のドピィからは、その都度辛辣な返事が戻るだけという。
お願いだから、娘を助けてくれと、ふたりはミランダに頭をさげた。
ふたりとの面談が終わったあと、ミランダはクエスト執行のパーティとして、ミランダ自身が向かうことをイザベラに言った。
戦場に向かうイザベラの護衛にもなるし、一石二鳥だと考えたのだ。
だが、イザベラに一蹴された。
ミランダは、警察機能をしていない王都王軍の代替えとして、冒険者ギルドを使った治安維持のようなことをしており、それを抜けては困ると諭された。
もっともなことなので、ミランダ自身が同行することはとりやめた。
従って、いまはその人選に苦慮しているところだ。
パーティはいくらもあるが、本当に信頼できるパーティとなれば、それほどに多くはない。
すると、部屋の扉がノックされ、ベルズが入ってきた。
部屋の中にあるソファに、ベルズが腰掛ける。
「ミランダ、姫様と同行して、侯爵夫人を救出するクエストには、わたしが行こう。気の利く冒険者を数名つけてくれ。クエストが終われば、そのまま姫様の護衛にもなれる」
ベルズも最初にミランダが考えたのと、同じような思考を踏んだようだ。
だが、ミランダは首を横に振った。
「ベルズは、冒険者登録はしていないだろう。それに、ベルズの実力は認めるけど、今回のクエストは力押しのようなクエストじゃないしね。第一、ウルズはどうするんだい。スクルズが去り、お前までいなくなれば、ウルズの幼児退行がまた進んじゃうじゃないかい?」
「ブラニーがいる。ウルズのことは問題ないだろう。クエストはわたしじゃだめかい?」
「そうだね。この難しいクエストをこなすには経験がねえ……。それに、神官として不殺の誓いをしているベルズには護衛は厳しい。幾つか候補はある。支払いのいいクエストだし、手を挙げるパーティはいるさ」
「いても、それは姫様の護衛はしないだろう。いいから、わたしを行かせろ。ちゃんと姫様を守る」
「あんたに行かせるなら、あたしが行くさ。とにかく、だめだ」
ベルズならイザベラの護衛としては申し分ない。シャーラもいるが、ベルズなら、護衛としてはやり通せるだろうし、必ず役に立つ。
だが、冒険者として未経験のベルズを人質救出という難しいクエストに派遣するのはどうだろう?
失敗が許されないクエストだ。
ミスは、冒険者側ではなく、人質の死に繋がる。
冒険者ギルドを預かる者として、護衛ではなく、今回のクエストの最適任者という視点では、経験のないベルズは候補者にはならない。
「わかったよ……。ところで、ロウ殿のことで新しい情報が入ったって?」
「ああ、おマアから聞いたかい? モーリア男爵のところで、ちょっとした騒乱があったみたいさ。向こうのギルド経由の情報だよ」
たまたま、ロウの最新情報が入ってきたとき、マアとエルザたちがいたので、一緒に情報に接したのだ。
それによると、ロウを迎え討とうとジャスランという魔族が国境沿いに罠を張り、ロウたちと戦いになったのだという。
ただ、それは無事に解決して、その後、ロウたちは辺境候領域に向かったということだ。
それ以上の詳細は不明である。
辺境候領は、現在、反国王の軍を集めている場所であり、ロウがなぜ、王都ではなく、そっちに向かったのかも不明だ。
ミランダは、冒険者ギルド経由の情報網を慌てて、そっちの正面に回すように依頼をしたところである。
「なんでまた、わざわざ向こうに?」
「あたしが聞きたいよ」
ミランダは肩をすくめた。
そのとき、扉がノックされ、ランがやってきた。
「ミランダ、ベルズ様、急いで広間にお越しください」
ランは慌てている感じだ。
ふたりで広間に向かった。
すると、マアとエルザとモートレットがソファに座っていて、さらに五人ほどの旅装の女が腰掛けている。
驚いたことに、もう五箇月ほど前になるが、ロウと一緒に出立していった褐色エルフ族のイライジャだ。そして、ミウ、元闘奴隷のマーズである。
残りのふたりの娘は知らない。
知らない娘のうちのひとりは、褐色エルフ族の少女で、もうひとりは獣人少女だ。
ロウやエリカたちはいないみたいだ。
「イライジャ、ミウ、マーズ──。戻ったのかい」
ミランダは思わず大声を発した。
「ああ、ミランダさん。ええ、戻りました。ロウがいなくて残念でしょうけど、彼の指示で一足早く……」
イライジャが苦笑気味に微笑みながら言った。
そして、ロウについては、モーリア男爵領で別れて、いったん、マルエダ辺境候領に向かった後、それから王都にやってくる手筈になっていると、イライジャは語った。
それは、今日入手した情報に合致した。
とにかく、色々と聞きたいことがある。
ミランダは、彼女たちの座るソファに急いで腰掛けた。
「なあんだ、このドワフ女も、あいつの奴隷なのね? それと、この真面目そうな魔道遣いもね。このおばあちゃんも性奴隷みたいだし……。ああ、こっちのタリオの王妃様は違うのね? えっ、タリオ? その王妃様がなんでここに?」
すると、一番真ん中のソファに悠々と腰掛けている褐色エルフの少女が声をあげる。
話の内容はともかく、次々に女たちの立場を言い当てるのは、鑑定術でも使っているのだろうか?
だが、ミランダの感知能力では、このエルフ族の少女には魔道を使った感じはしなかった。
「そなた……、変わった術を使うな……。鑑定術のようだが……。ああ、もしかして、眼球紋か? それでほとんど術の気配がないのか?」
ベルズが疑念そうな表情から、納得したような顔になる。
眼球紋?
なんだそれ?
「さあね。まあ、なんでもいいじゃない……。だけど、驚いたわねえ。最初は廃墟だと思ったけど、屋敷妖精が出現して、ここに案内するんだから……。ところで、屋敷妖精ちゃん、わたしは、あのロウの言いつけで、ここに住むことになったからよろしくね。日当たりの一番いい部屋をあてがってよね。なにせ、あたしはロウの性奴隷なんだから。ああ、それと、ほかの連中と違って、あいつと一緒ならごろ寝でいいというタイプじゃないから、寝具も一流のものを頼むわ。それと食事も気を使ってよね。まずはお手並み拝見といくわ。不満があったら遠慮なく言うから悪く思わないで。とにかく、大切に扱うのよ。なにせ、あたしはロウの性奴隷なんだから」
すると、エルフ少女が屋敷妖精のシルキーに向かって言った。シルキーは、みんなの近くに静かに侍っていたのだ。
だが、どうでもいいが、随分と厚かましい娘だなと思った。
「ね、ねえ、ユイナ……」
すると、ミウが彼女をたしなめるように口を挟む。
やっぱり、このエルフ少女がユイナなのだと思った。
「なによ、ミウ。いいじゃないのよ。屋敷妖精は、主人やその家族、客人に仕えるのが幸せなのよ。遠慮なくこき使っていいんだから。そういうものなのよ。ねえ、シルキーちゃん」
「もちろんでございます。遠慮なく申しつけください、ユイナ様」
シルキーが満面の笑みを浮かべて言った。
すると、マアの笑い声が部屋に響いた。
「これは、愉快な娘が来たのう。ユイナか。あたしはマアだ。お主らのご主人様には世話になっておる。それと、そっちは獣人のイット殿だったな。よろしくな。そして、ほかのみんなも無事に戻ってよかった」
マアが笑いながら言った。
すると、ユイナがマアを凝視した。
「ああ、あんたがロウが言っていた、“おマア”という人? もっと若いのかと思った。おばあちゃんじゃない」
本当に遠慮のない娘だ。
逆に感心したくなる。
いまのマアは、見た目が年寄りに見えるカモフラージュリングを首に嵌めている。鑑定術を使っても、それはわからないらしい。
「見たとおり、老婆だ。ロウ殿には愛してもらっているがな」
マアがにこにこしながら言った。
「まあ、好色にかけては、あいつも慎みなんてないしね。なら、仲良くしましょう。性奴隷同士ね」
ユイナがけらけらと笑った。
ロウたちは、この娘を助けるために、遙々とナタルの森まで行ったはずなのだが、この傍若無人な態度はなんだろう?
そもそも、この娘が奴隷の競売にかかるので、それを落札してくれというのが、そこのイライジャが持ってきたクエストだったはずだが……。
しかし、性奴隷だとはいうが、奴隷とは名乗ってない。それらしい隷属の首輪もないみたいだ。
「クエストの内容には随分と変更があったのかい?」
ミランダはイライジャを見た。
「色々とありまして……。お話しますわ、ミランダ」
イライジャが言った。
すると、なぜか、ユイナがそれを制した。
「その前に、そこのミランダというドワフ女に伝えておくわ。ロウから伝えておけって頼まれたのよ。ミランダと王妃と魔族のサキは、覚悟して待ってろってよ。どんなお仕置きをされるのか愉しみにしてろって言っていたわ」
ユイナが大笑いしながら言った。
「お、お仕置き?」
思わず声が裏返りそうになった。
「そうよ。あの乳女なんて、両腕消滅させられて、首輪をつけて引き回されたりしてたわ。絶頂すると乳から汁が飛び出すように改造されたりね。それに、ロウから怒鳴られまくって、泣きべそかいたりもしたそうよ」
ユイナが言った。
「乳女?」
ベルズが口を挟んだ。
「スクルズ様のことです……。いまは、スクルド様と名乗ってますけど」
すると、ミウが言った。
「えっ、あいつ、ロウ殿のところにいるのかい?」
ベルズがちょっとびっくりしている。
「いるわね。ポンコツ女王とふたりで、どっちがロウのお気に入りの雌犬になれるのかって、いつも争っているわ。そもそも、たった一日で国境から王都に辿り着いたのは、あの乳女の作った移動術の設備のおかげだしね」
またもやユイナだ。やはり、けらけらと笑っている。
移動術の設備とは、スクルズが失踪直前まであちこちから資金をまきあげて、狂ったように建設していた長距離跳躍設備だろう。
なるほど、それであっという間に着いたのだと思った。しかし、あれはベルズも確認しようとしたが、スクルズでなければ使えないように調整されていて、余人では使えなかったのだ。
あちこちから資金提供させたくせに、私物化してしまったて……。
ベルズは、それを思い出して、ちょっとむっとした。
「ポンコツ女王って?」
エルザが不思議そうに口を挟む。
「ガドニエル女王よ。あっちが雌犬二号。乳女が一号……、あれっ、逆? どっちだっけ、イット?」
「ど、どっちって……。まあ、順番からすれば、スクルド様が一号で、ガド様が二号なのかと……」
獣人のイットがぼそりと言った。
どういうこと?
ミランダは首を傾げた。
「いずれにしても、とにかく、よく戻ってきてくれた。知っているとおり、いまは王都も、そして、王太女殿も大変な時期でな。まずは、お互いの情報交換といこうではないか……。そして、なによりも、ミウ。魔道が随分と安定しているように感じるな。旅に出たのは正解だったようだ。少しは成長できたのだな」
ベルズが全員を制するように言い、次いで、ミウににっこりと微笑んだ。
「はい、ベルズ様。旅に出てよかったです。それと、報告することがあります。あたしは成人を待ち、ロウ様と結婚して頂けることになりました。ロウ様が約束してくれたんです」
すると、ミウがぱっと顔を輝かせた。
「えっ、結婚だと?」
ベルズが声をあげた。
ミランダも驚いた。
「あら、あんたは、すぐじゃなくて成人待ちだったの? だったら、わたしも、そのときに一緒でいいかなあ。折角だから、ミウと一緒にしてもらうわ。わたしも結婚は了承させたのよ。でも、結婚は、すぐじゃなくていいわ……。マーズも今回は見送って、わたしたちと一緒にする?」
ユイナがマーズを見る。
ミランダは目が点になる思いだ。
一体全体、なんの話?
ロウは一緒に旅をした女たちと結婚する約束をしたのか?
「そ、そう……ですね。あたしも、今回はメンバーがすごくて……。正直、それに混じるのは……。先生の妻のひとりにして頂けるのは嬉しいのですが……。できればそうしたいです」
マーズがぼそぼそと言った。
「そうよねえ。そうしよう──。あいつって、ガドやこの国の王太女を含めた合同結婚式とか話してたけど、それには混じりたくないわよねえ。じゃあ、頼もうよ。わたしたち“新参組”はリーダーのミウと一緒に次の回よ。あっ、だけど、イットは無理か。あいつ、イットは獣人だから、絶対に含めるって言ったわ」
ユイナがあっけらかんと言った。
次って、なんだ?
それに、合同結婚式?
「えっ、そうなのですか?」
獣人のイットだ。ちょっと当惑顔である。
「へええ、結婚?」
「なにか、面白いことになってるのう」
エルザとマアだ。こっちのふたりは半分、面白がる雰囲気だ。
「ちょ、ちょっと、お待ちよ。ロウはみんなと結婚式をするって、言っているのかい?」
ミランダは訊ねた。
「ああそうよ。あっ、そうだ――。ミランダがあんたなら、女王と王太女との結婚式のときに、ミランダも混ぜるって言ってたわ。決定事項って言ってたわね。なにせ、ドワフ族だから。妻ハレムには複数の種族を混ぜたいんですって。なんか、そんなこと言ってたわ」
ユイナが言った。
「はああ? 冗談だろう?」
ミランダは声をあげた。
「いえ、これは……別に冗談では……」
「確かに、先生はそんなことを話してました」
ミウとマーズが言った。
ミランダは今度は絶句してしまった。
「ま、まあ、それも含めて、まずは話をしましょうか」
すると、イライジャが口を挟んだ。