【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
ゲーレという山村は、ガヤの港町に程近い山の中にある。
ガヤを出発し、ユンデの城郭に繋がる主街道を進むと、程なく山中に向かって離れる山道が現れる。そこを登っていくと、やがて、四方を山に囲まれた盆地のような場所に着く。
そこがゲーレ村だ。
つまりは山の中にぽつんと存在する平地のような場所である。
小村の真ん中を谷川から通じる小川が流れていて、それを利用して田畠が作られている。ただ、半分は荒れていて、人の手が離れてかなり経っている感じだ。
イライジャが昼間に聞いたことによれば、ここは廃れた山村であり、老人を中心として百軒ほどが残っているだけの土地だそうだ。
風光明媚な土地といえば聞こえはいいが、ガヤの港町が近いので、人はそこに流れてしまい、ここにはあまり人が残らず、こんな感じで過疎化して寂れてしまったらしい。
ただ、いまはこの場所に南王軍の兵站施設が作られて、大変な騒がしさである。
イライジャたちが領都で侯爵夫人を救出するクエストを実行したのは一昨日の夜であり、それから、ミウの縮地という魔道を使って、ここに辿り着いたのは、丸一日が過ぎて、次の夜も終わった今日の朝方だった。すると、今日の昼間は、兵糧を運ぶ南王軍の軍兵がひっきりなしに大量の糧食や軍事物資を運び込んでは、この中心となる平屋の屋敷をはじめとする小村のあちこちに荷を運び入れたりするのに接し、実に大変な騒ぎだった。
しかし、陽が落ちて、夜のとばりがやってくると、村に入る輜重隊もなくなり、いくらかの静かさがやって来た。
まあ、それでも、すでにイザベラの連れてきた五百の手勢が屋敷周りに露営をしているので、いつもに比べれば遙かに賑やかだそうだ。
さっき掴まえて訊ねた村の老人もそんなことを話していた。
いずれにせよ、そうやって、今日の昼間に農夫たちと会話して改めて思ったのは、この土地における貴族領主の治政の評判の悪さだ。
イライジャが南王軍の者ではなく、雇われた冒険者だということで口を開いてくれたが、そうでなければ会話をしてはくれなかっただろう。
クロイツ侯爵は、侯爵家の理財の悪化を建て直すため、相当に無理な重税をかけ、払えなければ家族を借金奴隷として売らせたりしていたらしく、その恨み辛みが随分と人々の心に影を落としてしまっている。
だからこそ、賊徒の反乱などというものが起きてしまうのだろう。そんなことを思った。
それに、この土地で起きているドピィの反乱は、あまり農夫たちの反感を持たれてない。それが会話の端々から滲み出るのだ。
よくよく聞けば、あの賊徒の構成員は、重税に耐えかねて逃散した農民がほとんどらしく、自分たちの仲間のようにも思っているみたいだ。
そのことについては、イライジャも少なからず驚いた。
それはともかく、イライジャは、こんなところに南王軍の兵站施設を作ったということに、甚だ疑問を覚えている。
イライジャは軍事の専門家でもなんでもないが、兵站施設といえば、軍事物資を運び入れるのも、あるいは、運び出すにも便利な大きな街道沿いに作るのが当たり前なのではないかと思う。
しかし、ここは街道から山道を使って登ってくる場所にあり、軍兵の出入りにはかなり不便である。
そもそも、兵站部隊や物資を入れるような地積や建物がなく、いまは運び入れる物資を田畠の脇や田畠が荒れて使っていない土地に平積みにしているような状況だ。
領都から侯爵夫人を連れて脱走し、ミウの縮地術と移動術を使いまくって、その日の夕刻までにガヤの近くまで戻ったのだが、その途中でイザベラがガヤの港町からゲーレという小村に作った兵站基地に移動したと魔道の通信具で連絡を受けたときには、そもそも驚いた。
おかげで、昨日の夜には王太女と合流できるはずだったのに、ここで再会できたのは、領都を襲撃して丸一日以上がすぎた今日の朝のことだった。
とにかく、どうして、王太女が南王軍の主力と司令部のいるガヤの港町から離れたのか、まったく理解できなかった。
そして、ゲーレという小村がどこにあるのかあちこちに訊ね回り、やっとのこと、今朝になって到着したときには、もっと驚いた。
とても重要な軍事施設のある場所には思えず、ただの人の少ない山村だったからだ。それでも輜重隊が集まっていたから賑やかだったが、それも陽が落ちる前に引き返してしまい、小村に残るのがイザベラの連れてきた五百の隊だけになると、急に静かになった気がした。
いずれにしても、こんな防壁すらない場所に、わざわざ兵站施設を作るという発想がどうしてもイライジャには理解できなかった。
「リー=ハックからは、いずれ、隊を戻すと言ってきている。わたしたちと入れ替わるように守備隊が出て行ったのは、手違いだそうだ。それとともに防備施設の建設隊もやってくるようだ。だが、とにかく、あちこちに手が回らないので、数日はかかるかもしれないとも言ってきた。どうにも埒があかん」
イザベラが苛立ったように言った。
村の
名主家族については、その家人とともに、すでに別の場所に移っていて、ここは南王軍の施設として徴発した格好になっている。
この村にある家々にはほとんど敷地を区分する垣根すらないが、唯一ここだけは人の背丈の倍ほどの高さの石壁が囲んでいた。
また、建物を囲む庭も広い。敷地の中に田畠さえある。
教えられたところによれば、こんな場所でもかつて盗賊団が襲ったことがあり、その備えだという。
もしも、盗賊団がやってくれば、このゲーレの小村の人たちは、自分の家々を捨てて、家族とともにこの名主の屋敷内に逃げ込むことになっているのだそうだ。
それで、石壁の内側が広くなっているらしい。
屋敷そのものも広くて、部屋も大小合わせて二十はある。これも非常のときに村人が使えるようになっているかららしい。
とにかく、なんの備えのないゲーレ村にあって、唯一の例外がこの名主屋敷の周りの石壁の内側だということだ。
とにかく、イライジャはイザベラに呼ばれて、夕食の場に同席していた。
同じ場にいるのは、イザベラ王太女のほかに、護衛長のシャーラと女官長のヴァージニア、五百の手勢の指揮官のライス将軍、そして、イライジャである。イザベラの連れてきた三人の侍女は食事の給仕だ。
ユイナ、イット、マーズ、ミウはここにはいない。
別の部屋で、監禁している侯爵夫人を見張るとともに、いまだに外すことができない貞操帯の施錠の解除にユイナかがかかりきりになっている。
また、ミウについては、遠い領都から、一日で五人もの人間を連れて、縮地を使ってきたのだ。さすがに疲れてしまい、今日はずっと寝てばかりだ。いまも夕食もとらずに寝てしまっていた。
まだ十一歳の童女のミウを酷使してしまって申し訳ないとは思うが、そのおかげで、領都からこれだけ離れた場所まで、無事に移動できたのだ。
本当にミウには感謝である。
「つまりは、しばらくは、我らだけでここを守備するということでしょうか?」
ライス将軍が不安そうに言った。
イライジャは、この人物を知らないが、シャーラに密かに訊ねたところ、もともと王軍に属する将軍であり、王城の護衛や儀仗のようなことはしたことがあるが、ほとんど軍事的な活動はしたことがないという。
本来は、ノールの離宮に移ったイザベラたちを監視するために、王都から一緒にやって来たのだそうだ。
紆余曲折があり、イザベラに忠誠を誓うことになり、今回のイザベラ出陣にあたり、護衛部隊として同行したということだ。
確かに、軍人というよりは、舞踏会に参加するような貴族っぽく、腹は出ているし、肉体の逞しさもない。
ライス隊は、とりあえず、一部をゲーレに入る山道の出入り口に配備し、残りはこの屋敷周りに露営させているそうだ。
また、小村内に点在している軍事物資の荷については屋敷内の兵を使って巡回の処置をしたらしい。
とてもじゃないが、五百の兵だけでは、あちこちに置いた軍事物資などに配兵はできず、それでシャーラとライスが相談して、そういうことにしたそうだ。
シャーラもまた、ライスの五百の手勢は、兵站物資の警護ではなく、王太女の警護なのだと、かなり息巻いていた。
それというのも、イザベラたちが昨日、ここにやってきたとき、もともといたゲーレの守備隊は入れ替わるように引き上げてしまったのだそうだ。
しかも、なんの申し送りもなしにだ。
どうして、そんなことになったのか、いまだに理解できないと、イザベラもシャーラも言っているが、王太女であるイザベラの激怒をものともせず、もともといた守備兵の隊長は、命令であるの一点張りで集積している物資を放置して、山を下りてガヤに向かったそうだ。
そして、唖然とするイザベラ以下の隊だけが残されたということのようだ。
さっきイザベラが口にしたのは、それに対するガヤの港町の司令部にいるリー=ハックという南王軍の司令官からの回答であり、なにかの手違いということみたいだ。
イライジャも、手違いとはなんだと首を傾げたくなる。
「とにかく、わたしが明日、ガヤに向かいます、姫様。なんとしても、リー=ハック司令官を見つけて、直談判してきます。話が違いすぎます」
シャーラだ。
「そうだな……」
イザベラも頷いた。
「姫様、あの司令官は、やはりおかしいと思います。少し調べた方がいいかと」
女官長のヴァージニアだ。
「おかしいか?」
「おかしいですね」
シャーラも同意した。
どうおかしいのかは、イライジャにはわからない。そもそも、ガヤに到着したあと、イライジャたちはすぐに船を降りて、侯爵夫人を救出するクエストのために、領都にすぐに向かったので、そのあとのいざこざは関与してないし、リー=ハックという司令官そのものの顔すら見ていない。
だが、話を聞けば聞くほど、イライジャもおかしいと思う。
なにしろ、あれから実に丸一日以上、イザベラたちは港に着いた船の中に待機させられたのだという。
ガヤの港町の治安が不穏で危険だからという理由のようだが、王太女に対する扱いとしては、考えられないほどの不敬ではないかと思う。
しかし、人のいいイザベラは、叱咤はしたが、特に対応はしなかったようだ。挙げ句の果てに、そのガヤの治安の悪さを理由にして、このゲーレにイザベラは向かわされたみたいだ。
だが、こんな小村で警備も難しい場所に、南王軍の一兵も置かずに、王太女隊を放置などするか?
まったくおかしすぎる。
「いずれにしても、まだノールに残っている侍女たちは、ここに呼びます。戦場に連れてくる者を最小限にしたいという姫様のお気持ちはわかりますが、こうなってしまうと、兵站物資の書類の管理だけでも、わたしたちだけでは手に負えません。よろしいですね?」
ヴァージニアがちょっと怒ったように言った。
これもイライジャは預かり知らぬことだが、もともと、侍女を含めて最小限の人間できたのは、イザベラの考えだ。
だが、それには、王妃のアネルザからして、大反対していた。そもそも、アネルザは、妊娠しているイザベラが戦場に向かうことそのものに怒っていたが、いくなら、侍女も隊も全部持って行けと息巻いていた。
それを最小限にしたのはイザベラ自身であり、特に、侍女については、あまり戦場に連れていきたくないと、頑として首を横に振った。
ただ、それは無駄な優しさだろう。
イライジャもそう思う。
そんな思いもあるので、ヴァージニアの物言いも少しきついに違いない。
「わかった」
イザベラは渋々という感じで頷いた。
とにかく、食事になった。
簡素なものであるが、美味しいものであり、イライジャは十分に満足した。一介の冒険者が王太女などと食事を同席してもいいのかと、ちょっと思ったりもするが、同じ男を愛人に持つ女同士だ。まあ、いいのだろう。
よく考えれば、ここにいる者は、ライス将軍を除き、ことごとく、ロウの女なのだ。
ある意味、それも凄いことだと思ったりした。
食事が終わると、慌ただしくライス将軍は戻っていった。
隊としては動いており、その指揮もしないとならないからだ。
夕食の皿なども片付けられ、イライジャたちの前にはお茶が出された。三人の侍女たちもイラベラに言われて、同じテーブルにつく。
「それで、イライジャ、侯爵夫人の様子はどうだ?」
イザベラが訊ねた。
イライジャは首を横に振った。
「相変わらずです。賊徒のいる場所に戻るの一点張りです。いまはユイナたちが見張ってます。自殺をしようとするのだけは、やめましたが……」
イライジャは言った。
とにかく大変だったのだ。
領都から強引に脱走するとき、侯爵夫人を毛布に包んで、文字通り
ミウがいるので、あっという間に治療したが、あのときは焦ったものだ。
結局、ユイナが禁忌の闇魔道で暗示をかけて、合言葉を唱えると命令が逆らえなくなるという魔道をかけて、自殺だけはできないようにした。
結局、もう一度拘束をして連れてくるしかなく、救出というよりは、本当にこっちが誘拐したみたいだ。
「わからんなあ……。さらわれていた賊徒のところに戻りたいなどとは……。あのシャロン夫人は賊徒の頭領に拷問をされていたのであろう?」
イラベラも首を傾げている。
この屋敷に連れ来ているので、夕食前にイザベラも夫人と面会している。そのときも、シャロン夫人は、賊徒のいる領都に戻して欲しいと、イザベラに泣いて頼んでいた。
イザベラも困り果てていたが……。
また、イライジャからイザベラたちに、シャロン夫人の状況も報告している。
身体のあちこちには鞭痕があり、監禁中に拷問されていた形跡があること、いまだに外れない貞操帯の内側にでは、お尻に張形が挿入されていて、張形には強い持続性のある掻痒剤が塗ってあったこと……。そのことで、おそらくシャロンは数日は満足に寝れないほどに苦悶していたはずだと説明した。
報告をしたとき、イザベラは、かなり、それをした賊徒団の頭領のドピィという男に怒っていた。
とにかく、その貞操帯には、魔道の施錠がかかっているので、ここに到着してから、ずっとユイナがその解除に取組中だ。
とりあえず、貞操帯を取り付けたままではあるが、掻痒剤の効果については、まずはミウが魔道で除去し、治療術で痒みも消した。
それがなければ、縮地でここまで連れてくることもできなかっただろう。
また、溜まっていた便についても、ミウが転送術を使って、シャロンの体内から排除させた。
これも、冷酷なことに、シャロンを監禁していたドピィという頭領は、シャロンの尻穴を張形で塞いだまま、大便を許さずに出動をしていったらしいのだ。
イライジャは、その残酷な仕打ちに唖然としてしまった。
ところが、シャロンは、そのドピィという頭領のところに戻ると言い張ってきかない。
イライジャもわけがわからない。
「侯爵夫人は、自分は頭領の妻だと言い張っています。父親が結婚許可書を送ってきたとか……」
イライジャは言った。
それもまた、シャロンがイライジャたちに訴えたことだ。
「結婚許可書? ばかな──。シャロンの救出依頼のクエストは、ベルフ伯だぞ。許可などあり得ん」
イザベラは一蹴した。
ベルフ伯というのは、シャロン夫人の実の父親だ。
「ならば、その頭領が偽の文書を夫人に見せたということなのでしょうね」
イライジャは言った。
すると、シャーラが口を開いた。
「狡猾です……。魔道を用いない洗脳です……。酷い目に遭わせ続けて、ほんのちょっとの優しさを時々与える……。そうやって、心を自分たちに傾かせるのです。しばらく時間を置けば、徐々に回復するとは思いますが……」
「そうだな。とにかく、明日にはベルズ伯には連絡をしよう。伯夫妻は、マイムの城郭に滞在しているので、連絡が届くのに数日かかるかもしれんが……。それから、伯爵が迎えに来るだろう」
イザベラだ。
マイムの城郭というのは、王都に隣接する副王都とも称される都市である。王都でルードルフ王の蛮行が続いているので。王都貴族たちのかなりの者がそっちに避難しているらしい。
王都の冒険者ギルドに、シャロン夫人の救出を依頼してきたベルフ伯夫妻も、そこに滞在しているようだ。いや、そもそも、シャロン救出はマイムに避難していた宰相を通したイザベラへの直談判らしく、それがミランダに伝えられ、冒険者ギルドのクエスト扱いになったものである。
「伯爵がここに夫人を迎えに来るまでに、なんとか夫人を落ち着かせたいですが、夫人の状況は、伯爵にもお伝えください」
イライジャはイザベラに言った。
イザベラが頷く。
「わかっている……。ところで、本来であれば、お前たちの仕事はこれで終わり、夫人とともに、ここを出るのが本筋なのだろうが……」
「いえ、残りますよ。それはミランダからも、アネルザ王妃様からも頼まれています。なによりも、ロウの子供です。微力ながら、わたしたちもその子をお守りします」
イライジャは言った。
「この子か……」
イザベラが顔を柔らかくして、自分のお腹に触れた。
「そうです」
「そうだな……。では、よろしく頼む」
イザベラが神妙そうに頭をさげた。
しばらくして、その席も解散になり、イライジャはユイナたちのいる部屋に向かった。
部屋に入る。
真ん中に寝椅子があり、そこにシャロンが両手を頭側にあげて束ねて縛り付けられている。
脚は両側の手すりにあげられて、大股を開いてやはり縄で縛られていた。口には布を押し込んで猿ぐつわだ。
やりたくて拘束しているのではなく、こうしないと暴れるし、ドピィという頭領のところに戻りたいと泣き喚くのだ。
また、服はあの領都の離れから連れてきたときのままで、胸を包む薄物一枚のみだ。
服を着せるという状況ではなかった。
ここまで、本当に毛布でぐるぐる巻きにして連れてくるしかなかったのだ。
「あっ、イライジャさん」
「イライジャさん」
イライジャが顔を出すと、マーズとイットが横になっていた身体を起こした。
ミウはまだ毛布にくるまって寝ている。
ユイナはいまだに寝椅子に乗って、シャロンに施されている貞操帯と格闘中だ。
「食事は?」
イライジャは部屋を見渡して言った。
部屋の隅に食事が運ばれているが、二食ほど残っている。ほかは食べ終わっている。
「あたしたちは食べました。残っているのは、ミウとユイナの分です」
マーズが言った。
「こいつも食べましたよ。貞操帯に電撃を送って、強引に口にさせたんです。その後で、また猿ぐつわをさせました」
すると、寝椅子でシャロンの股ぐらに顔を突っ込んだまま、ユイナが言った。ユイナの指は青白く光っている。
魔道紋を書き換える魔道を使っているのだ。
「電撃ねえ……」
イライジャはシャロンを見た。
シャロンは涙目だ。
「んふううう、んんんん」
イライジャの顔を見ると、シャロンがなにかを訴えてきた。
その顔を見る限り、穏やかなことを言いたいわけでもなさそうだ。いまだに怒っているのだろう。
イライジャは溜息をついた。
「どう調子は……?」
イライジャはユイナに声をかけた。
「込み入った施錠です。書き換えは簡単だったけど、外すとなると手が込んでます……。というよりは、勝手に外そうとすると、自爆するようにできてるんです。やり方が卑劣ですよね……。でも、やっと外れそうです……」
ユイナが顔をあげずに言った。
自爆装置?
イライジャはびっくりしたが、次の瞬間、貞操帯ががちゃんと音を立てて、留め具が解除されて緩まった。
外れたのだ。
「終わりました……」
ユイナが顔をあげてにっこりと微笑んだ。
余程に集中していたのだろう。ユイナの顔にはかなりの汗が吹き出ている。
「おう、すごい──」
「よくやった、ユイナ」
イットとマーズが声をあげた。
「ご苦労様、ユイナ」
イライジャもほっとして声をかけた。
「じゃあ、外すわよ、夫人」
ユイナが貞操帯を外して、アナル張形を引き抜いていく。
「んんっ、んふううっ、んんんっ」
さすがにシャロンが身悶えするような仕草をする。
やがて、完全に張形がお尻から抜かれて、貞操帯がシャロンの腰から外れた。
シャロンの股間はこっちが恥ずかしくなるくらいに真っ赤に充血して、愛液で濡れていた。
イライジャは、イットに言って、とりあえず、シャロンの下腹部に毛布をかけさせた。
「しまった──。失敗したわ──」
そのとき、ユイナが貞操帯を持って、急に声をあげた。
「失敗?」
イライジャはユイナに視線を向けた。
「貞操帯のこのアナル張形に魔石が嵌まってた──。これはこの貞操帯のある場所をどこかに伝える発信具よ。多分、どこかにずっとこの場所を送り続けていたと思うわ。最初にこれを外してから、こいつをここに連れ込むべきだったわ」
ユイナが言った。
「発信具?」
「ええ、イライジャさん。しかも、かなり強力なもので、この領内くらいなら完全にどこでも届くくらいのものです」
ユイナが手を伸ばして、シャロンの体液でねっとりと濡れているアナル張形に手を伸ばして、再び魔道紋を描く。
すると、ぽろりと魔石の破片が外に出てきた。
「……これで、もう信号の発信を解除できました。でも、この場所そのものは、多分、賊徒に知られています」
ユイナが言った。
イライジャは、ユイナの肩に手をやった。
「まあ、どうせ、ここは南王軍の支配地域だから、大きな問題はないと思うわ。とにかく、発信具の存在については、姫様に報告してくる。いずれにしても、ご苦労様。あとは休んでちょうだい。夫人の見張りは、あたしたちでするから」
「じゃあ、お願いします……。とにかく、久しぶりに、疲れたああ──」
ユイナが寝椅子から降りて、床に横になって手足を思い切り伸ばした。
*
翌朝の早朝──。
手に武器を持った暴徒の大集団が屋敷を取り巻いているという知らせに、イライジャたちは叩き起こされた。
本日(12月8日)は「対米英開戦記念日(戦時中の呼称)」です。
本投稿でも、イザベラ隊とドピィ率いる賊徒軍の戦いが勃発しました。