【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
ミランダは、この数日、この通称「幽霊屋敷」において、ロウからの伝言について考え続けていた。
すなわち、一連の王宮の騒動については、単純にサキがしていることではなく、サキを使って第三者が絡んでいるのではないかという疑念だ。もしかしたら、サキは外の情報を遮断されているのではないかと……。
ミランダがいるのは、屋敷の客間である。
午後のひだまりが気持ちのいい部屋であり、屋敷妖精のシルキーが手配してくれたものだ。この部屋に限らず、屋敷のすべては快適な状態が保たれている。さすがは、屋敷妖精の管理する屋敷である。
ほかの客間を、ベルズとウルズの部屋としても使わせてもらっている。先日、サキに送り込まれた王軍を相手に大暴れしたために、ミランダもベルズも手配状態であり、この屋敷に匿ってもらっている状況なのだ。
これを機会に、女豪商のマアや、ノールの離宮からやって来た、本来はタリオ公妃のエルザもここを拠点にすることになった。だから、さながら、ここは、反ルードルフ王、反寵姫サキ及び反女官長テレーズの拠点のようになっている。
この屋敷と、王都側にあるブラニーの管理する「小屋敷」を移動術のできる鏡の魔道器具で繋いでいて、相互に行き来しながら活動をしているのだ。ふたつの屋敷を魔道具で繋いだのは、いまは王都にはおらず、ルードルフ王に処刑されたことになっているスクルズである。そのスクルズは、名乗りをスクルドに変えて、ロウと一緒の旅を満喫しているようだ。なんだか、腹がたつが……。
ともかく、そのロウからの伝言をもたらしたのは、すでに南域に向かったイライジャたちであり、それによれば、ロウは勘であるとしたものの、ナタル森林から王国に戻る途中の国境で、サキの女眷属に襲撃されたこと、辺境候軍にチャルタとピカロが捕らわれてしまったことを根拠にあげた。
あのサキは、魔族であることから、ほかの人族とは価値観も性質も異なるところがあるが、絶対にロウに危害を加えようとしたり、仲間を陥れたりすることはないと、伝言によりロウは主張してきた。
なによりも、やり口が狡猾だという。
国境ではロウたちを出迎えを装って襲撃してきたし、チャルタたちに至っては、辺境候軍に対する名を伏せた密告だという。もっとも、すぐに王宮経由であることは露見したようだが……。
およそ、サキらしくないというのが、ロウの評価だ。
一理あると、ミランダも思った。
そういう意味で改めて、王宮の周囲を探ったが、なにもわからない。王宮の内部については完全に遮断されていて、これといった情報が入らないのだ。
そのくせ、最小限の勅令や行政処置はなされていて、王宮の内部には出入り業者も入っている。
王宮には監禁状態の行政官の役人はいるものの、官吏貴族のかなりが逃散もしていて、機能停止してもよさそうだが、そこまではなっていない。
誰が必要な書類などを動かしているのかもわからない。
監禁されている令夫人や令嬢たちだという噂もあるものの、とにかく判然としない。
いっそのこと、王宮に踏み込むかという迷いもある。
だが、成算は低いし、そんなことをすれば間違いなく罪人だ。先日の王軍によるミランダ捕縛の襲撃については、いずれ冤罪も晴れると踏んでいるが、王宮なんかに押し入れば、うまく逃げおおせたところで、間違いなく手配犯となる。逆に、捕らわれれば、その場で処刑だろう。
それがミランダを迷わせている。
そもそも、情報がない。
「ミランダ様、ブラニーから、ラン様がギルドのことで、至急、お目にかかりたいと伝言でございます」
この幽霊屋敷の屋敷妖精であるシルキーが現れて、ミランダに声をかけてきた。
ランとマリーの冒険者ギルドのメンバーについては、表に出られないミランダの代わりに、マアから別の建物を借り、封鎖させられている冒険者ギルドの隠し拠点を新たに作り、ミランダの息のかかっている冒険者に連絡をして、王都の治安維持などに関わるさまざまなクエストを処理させている。
だから、特にミランダの直接指示を必要とする案件がある場合は、まずはブラニーの小屋敷にやって来て、そこから、ここに跳躍してやってくる場合が多いのだ。
いまも、なにか指示を仰ぎたいことがあるのだろう。
「お願いするわ」
ミランダが応じると、部屋の中の空間が揺れて、そこにランが出現した。商人の手代らしき四十歳ほどの男も一緒である。さらに、奉公人のような若い男も一緒だ。
「ミランダ、王宮に出入りしている商人に直接に話を聞きたいということを言われていたので、連れてきました。彼らは、この半月、後宮に直接に食料品などを収めていたそうです」
ランが言った。
とりあえず、緊急の案件というよりは、ミランダが頼んでいた者を連れてきてくれたみたいだ。
ここに閉じこもっているミランダは、サキが常時いる後宮に出入りしている者の話を直接に聞きたいと、ランに頼んでいたのである。
ランは、ギルドの仕事の傍ら、それをやってくれたようだ。
それにしても、ついこのあいだまでは、このランは悪徳商人に騙されて、奴隷娼婦として娼館に売られた食堂で働く娘だったのだ。
文字さえも十分には読み書きできなかった。
それが、ミランダが救出して引き取り、気紛れのようにロウが抱いたことで、ロウの持つ特殊能力により、彼女の能力が飛躍的に伸び、短期間の勉強で読み書きができるようになったどころか、誰よりも文書読解に精通してしまって、いまや、ミランダのような「脳筋女」とは比べものにならないほどに、過去の冒険者記録やギルド運営に必要な法規類を熟知してしまった。業務処理能力にも超一流の才能を示す。
いまのミランダには欠かせない人材だ。
ロウがすごいのか、もともと、ランにそういう能力の素質があったのかわからないが……。
まあ、とにかく、後宮のことだ。
「そうかい。座っておくれ。話を聞きたいんだ」
ミランダは座っていた机の前から、ソファに移動した。
商人の手代らしきの男も座る。奉公人のような若者は困惑していたが、ランに促されて、ソファに座った。
すると、そこにシルキーが登場した。
「どうぞ、お客様」
ふたりの前にお茶とお茶受けの菓子を出す。
「わっ」
「いつの間に」
突然に出現したので驚いたみたいだ。
「これは、わたくしめとしたことが申し訳ありません。驚かせるとは給仕失格ですね」
シルキーは意気消沈した顔になる。
そういえば、最初に見たときのシルキーは、あまり感情を表に表さない人形のような印象だったが、気がつくと随分と感情豊かになった気がする。
時折、ロウから抱かれているのを目の前で接することもあるが、そのときには、しっかりと女の反応をしている。
これも、やはり、ロウによる変化なのだろうか……?
シルキーは、今度は歩いて部屋を出て行った。
ランがふたりに、お茶と菓子を勧め、落ち着いたところで、まずはランが口を開いた。
「ミランダ、このふたりは、今日の午前中に、王宮の寵姫のサキ様に面したそうです。そのときのことをお話してください」
「は、はい。私らは三日に一度、小麦やら肉やら野菜などを後宮に収める仕事をしていまして……」
すると、手代が語り出した。
それによれば、ほかにも同じような業者がいるが、もともと王宮御用達として、まとまって契約をしている大商人がいて、彼らはその下請けとして、大商人の指示を受けて、定期的に物を運び入れている商人なのだそうだ。日常のものなので、彼のような手代クラスが対応しているらしい。
若者は、荷を運ぶために、ほかの若い奉公人とともに、運搬作業をしたようだ。
「後宮に直納?」
ミランダの知る限り、後宮からは一切の女官などは排除されている。ほかの男の官吏もだ。
その後宮に、ルードルフ王も閉じこもっていて、国王の様子がわからないのは、そのためでもある。
それはともかく、後宮は国王以外の男は出入り禁止であるはずだ。そこに運び入れたのか?
「はあ、裏口までですが……。指示を受けて、最近ではそうなってます」
「そうなの? 誰が受け取るの?」
これには、ミランダもちょっと驚いた。
ただの商人の手代や作業員としても、後宮敷地に男を入れるなどあり得ない。
「あっ、後宮というか、王妃様の後宮というか……通称、奴隷宮と言われるところで……。対応は、そのう……令夫人の方々……と思う女性たちです」
手代が言った。
「奴隷宮」というのは、以前は、あのアネルザは、好色者で女奴隷を集めては、政務もせずに後宮に入り浸っているルードルフ王に対抗して、男奴隷を集める王妃専用の後宮を持っていた。いまは閉鎖しているが、そこは「奴隷宮」と呼ばれていたのだ。
そこに、園遊会で集められた令嬢たちが監禁されているというのは、ミランダも情報として持っていた。
ただ、男子禁制なのは、「後宮」であろうと、「奴隷宮」であろうと同じである。
「どんな様子なのか説明してください」
ランが声をかけた。
「へい、以前は、それでも元気で明るい雰囲気だったんですが、この数日は悲壮な感じで……。監視人のような女兵がいるんですが、令夫人たちのような方々を鞭打ったり、蹴りとばしたり、それと、白い棒のようなものを当てて、苦しめたり……」
「ちょっと待って、あなた方の前で令夫人が鞭打たれたりするの?」
ミランダはびっくりした。
白い棒のようなものというのは、なんらかの拷問具だと思うが、まさか、出入り商人の前で、令夫人や令嬢を折檻する?
「はい……。今回と前回のときだけですが……。特に、今回はサキ様という方がお見えになりまして、そこにいた女の方々を理由もなく、彼女たち全員を並べて、平手打ちをされて……。最後にはひとりが気絶されて、ひとりは失禁とか……」
手代は悲痛そうに言った。
ミランダは、耳を疑った。
「待って──。どうして、彼女がサキだとわかったの?」
「ほかの方がそう呼んでました。サキ様だと……」
ミランダは、手代にそのサキの特徴を喋らせた。
ロウの指示を受けて、サキが化けている人間族の女の寵姫の風貌に合致している。
サキなのだろう……。
「サキ様は、とても苛立っている感じだったのでしょう?」
ランが横から言った。
事前にある程度の話を聞いているのだろう。
「はい……」
「そおっす」
手代が頷き、念のために奉公人の少年にも訊ねたが、同じように頷いた。
「女性たちはどんな格好だったか説明してください」
さらにランが言った。
「ほとんど裸です」
手代が言った。
「裸?」
ミランダは思わず、言葉を繰り返した。
鞭打ちだけでなく、外の商人の前に、裸で対応させる辱めをさせているのかと驚いたのだ。
「そのう……、正確には裸でなくて、腰に小さな布を巻いていて、あと、布の代わりに縄を身体に巻いていたり……。いや、基本的には、全員縄をかけられてます。上半身と二の腕のところをこんな風に……」
手代は両手で身体の前で、幾つかのひし形の形を作る。
「はあ?」
ミランダは声をあげた。
なんという破廉恥な……。
仮にも、上級貴族の夫人や令嬢なのに……。
また、手代が言った上半身と二の腕の縄というのは、ロウがこの屋敷で女たちを集めて「緊縛会」などということをしたことがあったが、そのときに、施したもののひとつで「亀甲縛り」と説明していたものだと思う。
それにしても、あのときのロウも意地悪だった。
ミランダも強制参加させられたが、動けば動くほど喰い込む股縄縛りをされて、全身をくすぐられたりした。
それだけでなく、脚を畳んで縛り、みんなで競争とか……。
最下位は浣腸とか言われて、全員で死ぬ気で広間をぐるぐる回ったのだ。
結局、ミランダは三回目の競争で浣腸をされた。
ロウに意地悪をされて、競争のあいだ、粘性体を変形させた柔らかなひげのようなものをつけられたのだ。
それで満足に動けるわけもなく、最下位になった。
まあ、結局、そうやって、全員が一度は最下位になったのだが……。
そんなことを思い出して、かっと身体が熱くなる。
ミランダは、慌てて、股間に生じてきた疼きのようなものを打ち払った。
「剥き出しの乳首のところには、鈴をぶら下げたりしてるっす……。とにかく、目の毒っす」
奉公人の少年も言った。
「サキったら……」
ミランダは呆れてしまった。
「サキ様が令夫人たちを平手で殴ったあとのことを説明してください」
ランが言った。
「サキ様は、それで、奥に戻られました。気絶した女の介抱をその場にいた女の方々がして、ほかの方は俺たちから荷を受け取りました。準備でき次第にすぐに来るように言われて、帰されました」
「準備でき次第とは? なにか頼まれたの?」
ミランダは訊ねた。最初に、三日に一度、定期的に食材を卸していると言っていた。
準備でき次第に来いとはなんだろう?
「それがわかんなくて……。聞き返したんですけど、その女の人は、準備でき次第にすぐにって、繰り返しただけで……」
「準備でき次第にすぐ?」
ミランダは首を傾げた。
なんだか気にかかる言葉だ。
「もしかして、監視の女兵は、そばにいた?」
「ずっと張りついています。サキ様に、絶対に甘やかせるなと命令されて、とにかく、理由をつけては、女の方々に鞭打ちしてました」
手代が言った。
横の奉公人も頷いている。
脈略もない言葉という程でもないが、横に監視がいたので、なにかを伝えようとしているとも言える。
しかし、よくわからない。
「それで、あなたは、別の女性に、ほかのことを言われたのよね?」
すると、ランが奉公人の少年に言った。
「そうっす。いつものように、ゴミを冒険者ギルドに処分させてくれと言われたっす。だけど、わけがわからなかったっす」
彼は言った。
ゴミ処分?
冒険者ギルドは、そりゃあ、クエストをかけられれば、ゴミでもなんでも処分しにいくが、いつものように処分とはなんだ?
もちろん、王宮のゴミを冒険者ギルドで請け負うクエストなど存在しない。
だが、やっとミランダは、ランがここに彼らを連れてきた理由がわかった。
なにかを伝えようとした女たちの言葉をミランダに伝えようとしたのだろう。そして、この手代たちもまた、奴隷宮の女たちが、突然に冒険者ギルドのことを口にしたので、とりえあず、冒険者ギルドの隠し拠点に来たのだろう。
隠し拠点とはいえ、その場所はあちこちに明らかにしており、商人たちには、マアの商会を通じて、冒険者ギルドの情報を流している。
「そのゴミとはどれでしたっけ?」
ランが口を挟む。
「これっす」
奉公人の少年が麻袋を差し出した。彼はずっとそれを抱えていたのである。
「これを?」
ミランダは中を覗いた。
しかし、ただの縄束だ。
袋から出したが、やはり、なんの変哲もない汚れた縄だ。
ところどころに、赤黒い染みがたくさんある。ただし、なぜか青い線が縄のところどころにもつけてあった。
しかし、伝言の紙のようなものはない。
袋を見る。
これもただの麻袋だ。
裏返したが、やはり、なにもない。
「俺は見ていなかったんですが、介抱された女の方に結ばれていた縄をそこに押し込んだみたいです。ほかにもぐったりしている方もいて、その方々の縄も女の方が解いて、その袋に押し込んで渡していたようです」
手代が言った。
やはり、よくわからない。
ミランダは、さらに訊ねようとした。
だが、ランが突然にそれを制した。
「ありがとう。もう結構です。情報提供に感謝します。シルキーが向こうにお送りします。ただし、この事は他言無用にしてください。監禁されている女性の方々の名誉にも関わりますので」
そして、いきなり話を打ち切った。
驚いたが、ランが目でミランダになにかを訴えてきた。とりあえず、ミランダは黙ったシルキーが出現して、ふたりを転送した。
ふたりきりになると、ミランダはランに不平をぶつけた。
「ラン、これは重要な伝言かもしれない。奴隷宮の女性たちがなにを伝えようとしたことは確かだと思うよ。それをなんとか聞き出さないと」
「いえ、間違いなく、重要な伝言です。ただ、あのふたりにも、その伝言の内容を伏せたかったんです。それで返しました。内容はもうわかってます」
ランが言った。
「わかっている? もしかして、ほかに伝言が?」
「いえ、伝言はこの縄束にあります。彼女たちが監視の目を掻い潜って、あたしたち……というよりは、ミランダとベルズ様にあてた伝言です。ここに書いてありました。あたしが確認した分は、ひと束だけですが、ほかの縄もそれぞれに伝言が隠されているみたいです」
「ここに?」
ミランダが驚いて改めて縄束を見たが、文字のようなものはない。
ところどころの青い線が不自然ともいえるが、あとは赤黒い汚れがあるだけだ。
「シルキー」
そのとき、ランが宙に声をかけた。
シルキーがすぐに現れる。
「ブラニーから伝えられたものを準備してくれる。向こうで使ったものを……」
「かしこまりました」
シルキーが言い終わると同時に、一本の直柱の柱が出現した。柱の太さは人間の女の腰の太さほどあるだろうか。
「見ててください」
ランがその白い柱に縄を巻き始める。
縄は密着すれば、柱にくっつくように細工をしているみたいだ。
先端は青い線があり、一周するとまた青い線の場所が同じ柱の位置で重なった。
さらに一周──。
そのまま巻いていくと青い線がずれたので、ランはシルキーに指示して、その部分の柱の太さをほんのわずかに大きくする。
さらに一周──。今度もちょっと柱の太さをシルキーに調整させる。
しばらく、そうやって縄を巻いていくと、柱の形が人間の女のお尻のかたちに似てきた。
青い線の部分は、横に巻いている縄に対して、一直線に重なっている。
「あっ」
そのとき、ミランダは気がついて叫んだ。
縄束になっていたときには、ただの赤黒い染みだと思っていただけのものが、ランがしたように巻くと、文字として浮かび上がったのだ。
そして、合点した。
これは、もともと誰かのお尻に縄を密着して巻き、そこに染みに似せて文字を書き、それを解いて縄掛けにしていたのだ。
いま、縄に文字が浮かんでいる。
“悪かった。助けてくれ。サキ”
そこには、そうあった。
ほかにも、監禁されている女たちからの伝言からと思われる文字がびっしりと書かれている。
「ほかの縄束も同じようにしておくれ……。いや、その前に、ベルズをここに──。大至急だ」
ミランダは叫んだ。