【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「面白い手を考えたものだな。監視の目の前で伝言を渡すためか」
ベルズが感心したように言った。
目の前には、シルキーが準備した三本の白い柱があり、それは女の腰の形になっていて、縄がぐるぐる巻きになっている。その縄のお尻部分に細かく文字が書かれていて、王宮におけるサキの窮状が訴えられていた。
それによれば、サキがルードルフ王の罠に嵌まり、部下に裏切られて、首だけにされているというのだ。
また、サキのいる場所も丁寧に書いている。
王宮には、国王用の「後宮」と、元の王妃用の「奴隷宮」のふたつの後宮があるが、国王用の後宮の方らしい。その部屋の場所まで書いている。
警備の状況も……。
そっちには、いくらかは魔族の警戒はあるが、基本的には配備が薄いみたいだ。
国王も後宮側らしい。
これに対して、令夫人や令嬢が監禁されているのは、奴隷宮側みたいだ。
こっちはかなり警備は厳重だ。ただし、警備は全員、人間族に化けた女魔族のようだ。
「これだけの情報があれば、王宮といえども、侵入は簡単だろうさ。これを監禁されている女たちが伝えてきたんだ」
ミランダは言った。
ロウの屋敷である通称「幽霊屋敷」だ。
その広間である。
ロウがいるときには、よくここに集まり、セックスをしたり、あるいは、ロウの思いつく淫らで好色な遊びに付き合わされた。
いまは、その部屋の一角にあるソファにみんなが集まっている。女たちの伝言である縄のメッセージは、その横に準備した白い柱に巻いた縄に描かれている。
「これによれば、これまでずっとあんたらが元凶と主張していたサキという女魔族は、首だけの状態にされて監禁されているということね。しかも、拷問を受けて……」
エルザだ。
ハロンドールの第二王女であり、いまはタリオ第二公妃であるが、あのタリオ公のアーサーにハロンドール工作を命じられて里帰りしたのを契機に、もう戻らないと決めて、自ら行方をくらましてここにいる。
よくわからないが、タリオ国内では、エルザはアーサーにべた惚れということになっているようであり、それでアーサーもエルザを工作員同様に、王国に送ったようだ。
ただ、話をする限り、エルザは完全にアーサーも、タリオ公国も見限っている。
それはともかく、いまここに集まっているのは、ミランダとベルズ、マアとその女護衛のモートレットだ。
シルキーもいる。
幼児返りしているウルズについては、こっちではなく、王都の「小屋敷」のブラニーのところで、そのブラニーが「子守り」をしてくれている。
王都の城壁の外にあるシルキーが管理している幽霊屋敷と、王都内のブラニーが管理している小屋敷は、場所は違うのだが、いつの間にか屋敷妖精同士で移動術で結んでしまい、同じ建物内のように行き来できるようになっているのだ。
屋敷妖精そのものは、屋敷に縛られるので移動はできないが、住民の移動は自在にしてくれた。だから、ベルズがここにいるあいだ、ウルズが慣れているブラニーが世話をしてくれているというわけだ。
「ロウ殿の伝言は正しかったということだね」
マアだ。
「それでどうするの?」
エルザが紅茶を口にしながら、訊ねてきた。
「エルザ様、新しいお茶をお入れします」
シルキーが声をかけてきた。
「あら、頂くわ。それにしても、とっても美味しいわよ、屋敷妖精さん」
「恐縮です」
シルキーがにこにこしながら、エルザが受け皿に戻したカップにお茶を注ぎ直す。
「助けにいくよ。あのサキが助けてくれというんであれば、助けにいくさ。あの女が謝るなんて珍しいんだ。助けてから、ちゃんと面と向かって謝ってもらうさ」
ミランダは言った。
それについては、すでに決めている。考えているのは、そのやり方だけだ。
「それにしても、随分と丁寧に書かれた情報ねえ。サキという女魔族の捕らわれいる部屋の場所や、魔族の警備の状況、わかる範囲の警備魔具まで調べてあるわねえ」
エルザが改めて縄に描かれているものを眺めながら、感心した口調で言った。
「サキを助けること……。それそのものは簡単そうだな。奴隷宮側と違って警備も緩い。王宮そのものに入る手段も、請負業者を使えばいい。荷箱に隠れて入り込むとかだ。いずれにしても、潜入そのものは、わたしとミランダでやろう」
「そうだね」
ベルズの言葉にミランダも応じる。
「ふたりだけでかい? このモートレットを連れていってはどうだい。腕は十分さ。問題ないだろう、モートレット?」
マアが後ろに彫像のように立っている男装の麗人に振り返った。
「私は、マア様の護衛ですが、ご命令とあれば」
モートレットがきっぱりと言った。
だが、ミランダは首を横に振る。
「いや、あんたは、自分で言ったとおりに、おマアの護衛だろう。あたしらになにかがあれば、おマアを守るのはあんただ。それに、サキを助けるのは、同じ男を愛人に持つあたしたちのやることさ。なんだかんだで、仲間なんだ」
「確かにな」
ベルズも頷く。
「なら、あたしも仲間だけどね」
マアが笑って言った。
「当然さ。あんたには、あたしたちを王宮に送る段取りをつけてもらうさ。明日には頼むよ」
ミランダは言った。
「明日かい? 随分とすぐじゃないかい」
「できないとは言わせないよ。あんたもロウの愛人なんだ。汗くらいかきな」
「汗でもなんでもかくけどね。だけど、もう少し裏取りでもしたらどうだい? たったひとつの情報のみで行くのかい?」
「裏取りしようにも、王宮内、しかも、後宮とあっては、とりあえず侵入するしか情報のとりようもない。どうせ侵入するなら、そのまま助けてくる」
ミランダは言った。
「問題は、令夫人と令嬢たちだね」
ベルズが口を挟んだ。
「一緒に助けよう……。ベルズ、奴隷宮を制圧すれば、そこからここに、移動術で繋げることはできるかい?」
「スクルズほどは熟達してないけど、半日あれば可能と思う。だけど、それだけはかかるよ。王宮に張り巡らされている結界も破らないとならないし」
ベルズが応じる。
ハロンドール王宮には、移動術による潜入を防ぐ結界が張り巡らされており、基本的には移動術で出入りはできない。
ただし、スクルズなどは、勝手にその王宮の結界破りをして、この幽霊屋敷と、王宮内の王妃やイザベラの寝室を移動術の進入路で結んだりしていた。
とことん、不良神官だったと思うが、とにかく、できないことはないようだ。
スクルズの作った進出入装置はとっくに封鎖されているが、いま、ベルズも半日あれば、それを再現できると言っていれた。
「じゃあ、それでいこうよ、ミランダ。まずは、サキの身柄……というか、首かな。それを確保する。次いで、奴隷宮にいる魔族全員を無力化し、そこに移動術のポッドを作って、令夫人たちをここに避難させる。その方針でいいのかな」
ベルズが言った。
「そうだね。この縄を使った情報が正しければ、後宮も奴隷宮も、通常の王軍の警備は皆無で、人間族に扮した魔族だけが警戒しているみたいだ。入れ替わってね。だから、一度、制圧してしまえば、本来の王軍の警備兵に気づかれないで済むと思う。もしも、情報に間違いがあれば、作戦を中止して引き返す。それでいいね……。それで、例のものは、おマア?」
ミランダは頷くとともに、マアに視線を送る。
頼んでいたものというのは、「魔族殺し」という魔族の能力を一時的に封印できる魔道の秘薬だ。
もともと古代魔道にあったものを、近年、タリオ王国の研究所で再生させたものらしい。
人間族にとっては、にんにくのような匂いがするが、魔族にとっては無色無臭で風魔道でも使って撒き散らせば、魔族だけの建物など簡単に制圧できる。
本来は、サキとの対決のために、マアに入手を頼んでいたものだ。
今回の潜入に役立ちそうなので、さっそく活用することにした。
それが前提の、ふたりだけの潜入なのだ。
「モートレット」
マアが声をかける。
すると、彼女がテーブルにふたつの粉袋を載せた。
「足りるかい? あと二日あれば、この五倍は集まるよ」
マアが言った。
「十分さ。ねえ、ベルズ」
「ああ、問題ない」
ベルズも同意した。
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