【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
王宮への侵入は呆気ないほどに簡単だった。
マアの手配した出入り業者が奴隷宮に納める食料の入った荷箱のひとつに紛れ、ミランダとベルズが隠れている木箱を運び入れてもらっただけである。
そのあいだ、ミランダもベルズもなにもしていない。ただ、じっと隠れていただけだ。
ミランダとベルズは、ぞれぞれ別の木箱に隠れていて、もしも、隠れているのが発覚した場合には、その時点で隠密に忍び込むのは断念し、「魔族殺し」の粉末を風魔道で撒き散らしながら、武器を持って飛び出す手筈にしていた。
だが、その必要もなかった。
王宮に侵入するときにも、食料を積んだ荷馬車は、特に咎められることもなく、王宮内に入り込むことができたし、荷を改めるということもなかったみたいだ。少なくとも、荷箱のひとつに忍んでいるミランダが王兵の気配を感じることもなかった。
マアは、王宮に定期的に運び入れる荷の全数点検など、このハロンドール王宮では滅多に行われないから、侵入そのものは問題ないと保証していたが、ミランダとしては、仮にも王宮への潜入であり不安ではあった。
しかし、結果としては、マアの言葉のとおりであった。
荷馬車は三台になっていたが、少なくとも、ミランダとベルズが潜んでいる荷箱を積んでいる荷馬車に王兵が点検のために入り込んでくる気配は感じなかった。
もちろん、検査のようなことをされてもいいように、ミランダとベルズの入っている荷箱は二重底にし、肉の塊の入っている上段の下側にミランダとベルズは隠れ、さらに、重さで人間が隠れていることがわからないように、「重量軽減」の魔道陣を木箱の内側に刻んでもいたのだが、少なくとも、それは無駄に終わった。
またそれは、王宮内を馬車が進んで、奴隷宮に食材が納められるときも同様だった。
ミランダたちの荷馬車は、王宮内の敷地を横切り、手筈通りに奴隷宮のある建物内の一角の食材庫に到着したが、箱の中で耳を澄ましている限り、魔族であるらしい監視員は、作業に連れてきた令夫人たちを怒鳴りつけるばかりで、荷を運んできた請負業者に興味を寄せる気配もなかったし、荷を自ら確認しようとすることもなかった。
監視人の魔族の関心は、ただただ、女囚になっている人間族の令夫人たちに向けられるばかりであり、女魔族の甲高い罵声、女の肌に炸裂する鞭の音、そして、令夫人たちの悲鳴が耳に入り続けた。
また、隠れている木箱には、ほんの小さな覗き穴が作ってあり、密かに外を見れるようになっていて、ミランダはそこから外を確認することにした。
荷を運び入れている令夫人たちは、全員が股間に革の貞操帯を嵌めただけの半裸であり、乳首に糸で鈴を吊っているという格好だった。信じがたいことながら、事前に集めた情報のとおりだった。
そして、手首と足首には、それぞれに鎖のついた枷が嵌まり、その状態でミランダたちと一緒に運び込まれた荷を倉庫に運搬させられていた。
そこにいたのは六人の令夫人たちのようだったが、ミランダでも知っているような高位貴族の夫人たちばかりであり、荷運びのような力仕事は慣れていないみたいで、全員が汗びっしょりであって、荷の重さで足もとをよろけさせたりしていた。
だから、余計に鞭打たれたりしており、貴族女性に対する仕打ちとしては、想像以上の残酷な処置だった。
飛び出したくなるのを我慢して、ミランダは荷運びが終わるのを待った。
やがて、静かになり、しばらくすると、こんこん決められていた合図で箱が叩かれた。
そして、蓋も外される気配がそれに続く。
「ベルズかい……」
ミランダは、身体の上の二重底の一段目の底を押し上げて、外に出た。
青白い魔道光が真っ暗な倉庫の中に浮かんでいて、その灯りでミランダの隠れていた箱のそばに立つベルズの姿が見えた。
ほかには誰もいない。
先に箱から出るのは、「鑑定術」で周囲の存在を探れるベルズからと決めていたのだが、ベルズはしっかりと確認してから、箱の外に出たみたいだ。
どうやら、うまくいったみたいだ。
「……さて、ここまでは問題なかったね。計画通りでいいかい、ミランダ? もっとも、大した計画でもないけどね」
ベルズが魔道で亜空間に収納していた小斧をミランダに渡しながら言った。
本来のミランダの得物は、小柄なミランダの背丈ほどもある大斧だが、ここのような建物内では、大斧はむしろ不便だ。
だから、小斧である。
また、計画というのは、これからのことだ。
いまは、午後が少し過ぎたくらいの時刻だが、サキを助けるために、ここから隣接する建物である後宮に向かうのは、侵入後すぐと決めていた。
夜になるのを待つことも考えたが、夜になると侵入防止の警戒魔道具があちこちに張り巡らされるために、むしろ移動しにくくなるのだ。
それに対して、昼間はさっきの令夫人たちのように作業をさせられる女たちや監視役の女魔族が奴隷宮に出入りすることがあるので、渡り通路などからは魔道具の警備具が解除してあるということだった。
だから、意表をついて、この昼間のうちに潜入すると決めた。
こんな大胆な策は、あの縄を使った伝言で、警備の女魔族の動きなどを事細かく伝えてくれたことから可能になったことである。
「あたしが先に行くよ。例のものを頼むよ」
ミランダは低い声で言った。
例のものというのは、マアが大量に入手してくれた「魔族殺し」の粉末を仕込んだ噴出球のことだ。
どんぐりほどの大きさの小さな球体に、魔族にだけ効果のある能力低減薬である「魔族殺し」の粉を詰め込み、その粉を風魔道とともに撒き散らす仕掛けをしたものだ。
これをあちこちに撒きながら進むことにしているのだ。
魔族殺しの粉だけでなく、魔族の体質に合わせた睡眠剤も混入させているので、うまくいけば、大きな苦労もなく、この奴隷宮を制圧できるだろう。
「わかっているよ……」
ベルズがさっそく、倉庫内に魔族殺しの噴出具を床に転がす。
音はしないが、にんにくのような臭みが倉庫内に拡がる。これを魔族は無臭に感じるそうだから、面白い魔道薬である。
「さて、とりあえず、向かうのはサキが監禁されているらしい後宮だ。ただ、そこまで辿り着くまでに、なにかあれば、状況に応じて臨機応変に対応するつもりさ。何分にも情報不足でね。とにかく、なにかの異変を魔道で探ったら声をかけておくれ」
ミランダはこの食料庫から奴隷宮側に進む扉に手をかけて探る。
この食料庫は、奴隷宮のある建物の一階の端であり、ここから後宮に進むには、一度、奴隷宮のある地下側におりて、そこから通用口になっている通路を抜け、地下経由で隣の建物側に行くことになる。
外を経由する方法もあるが、情報が正しければ、建物内側の警戒は緩く、地下通路経由がずっと安全だ。
後宮側まで無事に辿り着ければ、もっと難しくない。
サキのいる部屋もわかっているし、その建物にはほとんど警備もないことがわかっている。
「……状況に応じて臨機応変かい……。それは行き当たりばったりと言うんじゃないのかい?」
ベルズが背中側で苦笑するような声を出す。
「言うんじゃないよ……。とにかく、誰かが接近したら、ちゃんと警告を発しておくれよ……。ところで、鍵が外から閉まっているねえ……。解錠していいかい?」
ミランダも人の気配を探るのは長けているが、ベルズには鑑定魔道を放ちっ放しにしてもらうことになっている。
ベルズの魔道力であれば、ここを占拠している魔族が近づいても、向こうよりも先にこっちが探知できるはずだ。
「廊下には誰もいない……と思う……。少なくとも一階には誰もいなくなった……。特に魔道がかかっている感じはないね。解錠をかけても問題ないと思う……」
ベルズが背中側で言った。
ドワフ族は、媒体を通じてしか魔道を遣えず、ミランダはいつものように指輪を遣って魔道をかけた。
解錠の魔道で簡単に鍵が開く。
建物側に出た。
人の気配は皆無であり、誰もいない。
「行くよ……」
ミランダは建物内を進んでいった。
事前に、マアから建物の見取り図を手に入れてもらっていて、それを頭に叩き込んでいる。
結局、一階では誰にも会うこともなく、警備具などに引っ掛かることもなかった。
まずは地下に進む階段を見つけて、そこを降りる。
そもそも、いわゆる「奴隷宮」というのは地下だ。一階以上は王妃宮であり、王妃アネルザの政務場所である。いまは王妃がいないので、閑散としている。
「……地下に、十人以上の人間族の娘……、いや、二十人以上いるね……。階段を降りてすぐの広間だ。魔族も四人ほどだ……」
だが、階段を少し進んだところで、ベルズが鋭い口調で警告した。
ミランダの耳にも、女の悲鳴のような声が聞こえている。
階段は地下側の廊下に繋がっていて、ベルズが警告した広間というのは、その廊下から降りた左側にある場所だ。
奴隷宮側に通じる通用口は、廊下のずっと先にあり、うまく通り抜けることができれば、ここは素通りでいい。
どうするか……。
とりあえず、ミランダは注意深く階段を降りた。
すると、広間に通じる扉が中途半端に開いていた。
ミランダは、そっと内側を覗いた。
すると、室内からの声が聞こえてきた。
「また、お前が懲罰かい、エリザベス──。じゃあ、全員で鞭打ちだ。手を抜くんじゃないよ。万が一、手を抜けば、ここにいる全員が延長懲罰だからね──。よし、五人ずつ、開始──」
ミランダの眼に入ったのは、まずは中心にいる公爵令嬢のエリザベスの姿だった。
ルードルフ王によって粛正されたラングーン公爵家の孫娘であり、冒険者ギルドを預かる者として、王都の主要貴族を頭に入れているミランダには、すぐにそれがわかった。
また、そのエリザベズを取り囲んでいる令嬢たちも、いずれも高位貴族の令嬢たちだ。
そして、全員が素っ裸であり、エリザベス以外は長めの乗馬鞭を持たされていた。
その真ん中でエリザベズが土下座をしているのだ。
すぐ横に白い棒のような武器を持っている女が四人いる。その四人はきちんと服を着ていて、怒鳴ったのはそのうちのひとりだ。
「きゃあああ、んぎいいいいっ、ひぎゃあああ」
ミランダの視線の中で、すぐに素っ裸の令嬢たちによるエリザベスへの鞭打ちが開始された。
なにが行われているかをすぐに悟った。
理由はわからないが、とにかく、この広間に集められている令嬢たちに対して、あの監視役のような女がエリザベスへの鞭打ちを命じたのだ。
監視員が自ら鞭打つのではなく、監禁している女囚相互に叩かせることで、エリザベスの屈辱を深いものにすることを狙っているのだろう。
ミランダは、その監視員の陰湿なやりようにかっとなった。
また、改めて、ここに集められている令嬢や令夫人たちの過酷な状況を目の当たりにし、一刻も早く彼女たちを救出する必要を感じた。
「こりゃあ……」
後ろから追ってきて、ミランダとともに室内を覗き込んだベルズが鼻白むような低い声を出す。
一方で鞭打ちは続いている。
真ん中でうずくまっているエリザベスへの鞭打ちをしている五人が次の五人に交代を命じられてもいた。
最初の五人も、次の五人も、本当に容赦のない鞭打ちだ。
おそらく、手を抜くことを禁止されているのだろう。
エリザベスは、ひたすらに泣き叫んでいる。
「よし、次──」
三組目になった。
ここには三十人は、令嬢たちがいるだろうか……。もしかして、全員に鞭打たせるのか?
倉庫で作業をさせられていたのは、年齢からして令夫人たちだと思うが、その年齢層はここにはいない。
この広間で虐げられているのは、いずれも十代から二十代前半と思われる娘たちばかりである。
その全員が交代で、同じ令嬢仲間のエリザベスを滅多打ちにしている。
「ミランダ──」
後ろでベルズが鋭い声で名を呼ぶ。
言いたいことはわかっている。
「わかっている──。魔族殺しの玉を──」
令嬢たちにしても、監視役の魔族らしき女にしても、鞭打ちに夢中で、こっちには気がついていない。
ミランダの指示により、ベルズが十個ほどの魔族殺しの噴出玉を広間に滑り込ませる。
それでも、誰も気がつかない。
「気絶するんじゃないよ、エリザベス──」
そのとき、女看守のひとりがひと際大きな声で怒鳴り、いったん令嬢たちの鞭打ちを中止させて持っていた白い棒をぐったりと動かなくなったエリザベスの内腿近くに無造作に当てた。
「ごふううう──」
すると、ぐったりとなっていたエリザベスがその場で飛びあがった。
顔がこっちに見えたが、目を見開いて苦悶の表情をしている。
おそらく、なにかの苦痛具だろう。
鞭打ち以上の苦痛の表情をしている。
しかも、股間から失禁をした。
だが、エリザベスは、そのまま気を失ったように動かなくなった。
「お、お待ちください──。エリザベス様は限界です。アドリーヌが残りを交代します──。どうぞ、わたしに残りをお命じください」
そのとき、ひとりの娘が飛び出して叫んだ。
「あれは……アドリーヌ=モンベール伯嬢?」
ベルズが呟くのが聞こえた。
彼女については、ミランダも面識がある。
少し前に、イザベラが令嬢たちを集めて流通や政務の勉強会のようなサロンを開いていたことがあり、そのときにサロンに参加していた令嬢のひとりだと思う。
ミランダもそのサロンに顔を出したことがあるので、顔くらいは覚えていた。
「ふん、だったら、お前がエリザベズの小便を掃除しな。舌でね──」
すると、女看守が酷薄に言った。
「ありがとうございます──。アドリーヌは、舌で床の掃除をします──」
すぐに、そのアドリーヌがエリザベスのもらした小便を舌で舐めだす。
「わたしにも手伝わせてください──」
「わたくしも参加します──」
すると、ほかの女が次々に叫んだ。
「お前らは、懲罰打ちの続きだ──。エリザベスの懲罰は、アドリーヌが引き受けた。今度はアドリーヌを打つんだ──。一切の手抜きをするな。これも天道様に相応しい性奴隷になるためだ――。はじめっ──」
女看守が叫んだ。
ちょっと困惑した感じで硬直した感じになった令嬢たちだが、すぐにアドリーヌを鞭打つ態勢になる。
「んぐうう、んぐうう──」
今度は、舌で床を掃除するアドリーヌへの集団鞭打ちが始まる。