【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
始まったのは鞭の雨……。いや、豪雨をいっていい。
とにかく、五人以上の女たちがアドリーヌという令嬢をところ構わず、繰り返し鞭打つという行為だ。
さっきのエリザベスのときもそうだったが、取り囲む令嬢たちには、まったく手を抜くという気配もない。
力の限り打っているのがわかる。
「ちっ」
一緒に覗いていたベルズが横で舌打ちしたのが聞こえた。
ミランダも、小斧を握る手に力を込めた。
飛び込んで、中止させようと考えたのだ。
そのときだった。
「わっ、グーラ様──」
「ラポルタ様も──」
「こっちもよ――」
魔族の女看守たちがその場で、ばたばたと倒れだしたのだ。
見ると、この広間にいた四人の看守の全員が倒れている。どうやら、ベルズが部屋の中に転がした「魔族殺し」と対魔族用睡眠剤の噴出具が効果を及ぼしたみたいだ。
確かめるまでもなく、女魔族の看守たちは昏睡している。
「看守の方々をすぐに癒やしの風に当てなさい──。さあ、すぐに運んで──。また、今日の性修行は、これをもって中止とします。とにかく、癒やしの風に――」
すると、遠くから血相を変えた様子の女の声が響いて、部屋の中が一瞬、静まりかえった。
アドリーヌやエリザベスを鞭打ってた令嬢たちも一斉に動きをとめる。
だが、すぐに慌ただしく動き出す。
持っていた鞭を放って、倒れている看守たちを手分けして運び始める。
「さあ、エリザベズ様も……」
「アドリーヌ様もこちらに……」
さっきまで鞭打たれていたふたりの令嬢も一緒に運ばれていく。
たったいままでの殺伐とした雰囲気が嘘のようだ。
まるで、決められているいつもの分担をこなしているかのように、きびきびと動き出す。
ミランダは呆気にとられた。
なによりも、残酷な仕打ちをされていた令嬢たちが、大切そうにその女看守たちを扱っているのにびっくりした。
とにかく、雰囲気が一変したのだ。
また、癒やしの風と騒いでいたものについてもわかった。
気がつかなかったが、広間の隅に魔道陣が描かれている場所があり、そこに風の滝が落ちている場所があるのだ。
そこに女たちが抱えられていく。
「あそこに張られているのは、治療術の魔道陣だねえ。魔石が嵌まっていて、あの風にあたれば、一瞬にして高位治療がなされるようになっているみたいだ……。それと、もう魔族はいない。全員睡眠状態だ」
ベルズがぼそりと言った。
ミランダも状況は理解したが、よくわからないのは、その癒やしの風とやらを当たり前のように虐げられていた令嬢たちが使っていることだ。
まるで、たったいままでの残酷な出来事などなかったかのような感じなのだ。
治療を施される女看守たちも大切そうに扱われている。
「ミランダ殿──、ベルズ殿──」
大きな声がした。
ミランダたちはずでに隠れるのをやめて、広間の入口のところで呆然と立っている状態だったのだ。
奥側からひとりの年配の女性が近づいてくる。
令嬢たちもミランダたちに気がついて、ちょっと驚いたような視線を向けてきた。
「グリムーン公爵夫人……」
ベルズが声をだした。
そして、慌てたように、収納術を使って身体を覆うマントを取り出した。
ミランダたちのところに歩いてきたのは、しばらく前にルードルフ王によって、突然に王都広場で磔処刑となったグリムーン公の令夫人だったフラントワーズ=グリムーンだった。
また、最初に大きな声で叫んだのも、いま、ミランダたちに声をかけたのも、彼女であることが声でわかった。
それはいいのだが、彼女もまた、令嬢たちと同様に股間に革の貞操帯を嵌めただけのほぼ全裸であり、やはりふたつの乳首に鈴をぶら下げている。そして、首に嵌めているのは、青色の首輪た。
それで気がついたが、ここにいる女たちは、三種類の色をした首輪をしているようだ。
さっき、比較的近くで、女看守たちに虐げられていた若い令嬢たちは全員が赤いチョーカーをしていて、年配の令夫人たちと思われる女たちは、黄色と青色のチョーカーがいるみたいだ。圧倒的に数が多いのは、黄色のチョーカーだ。
青色はやって来た公爵夫人を含めて数名程度である。
百人近くはいるのではないだろうか……。
おそらく、さらわれて人質になっている令夫人と令嬢たちのほぼ全員がここにいると思う。
いずれにしても、好都合だった。
見渡す限り、ここにいた魔族の女看守たちは、倒れた四人だけであり、全員がまだ睡魔の魔道により昏睡状態にあるのだ。
フラントワーズが目の前に立つ。
ベルズが差し出したマントを受け取る様子はない。
「いまは公爵夫人ではありません。ただのフラントワーズです……。ところで、よく来てくれました。サキ様を助けるために来てくれたのでしょう。ありがとうございます。サキ様は後宮側です。このベアトリーチェが場所を知っております。案内をさせます。さあ……」
いつの間にか、大勢の人質の女たちに囲まれている状況になっていた。
フラントワーズに促されて、ひとりの凜とした女が現れた。
ミランダもその女を知っている。
シャングリアと同じ王軍の騎士隊に所属する女騎士のベアトリーチェだ。
やはり、貞操帯とふたつの乳首の鈴という格好だ。また、シャングリアもそうだが、女としての美しい身体をしていながら、身体も鍛えられており、腹筋もきれいに割れている。
「サキ様は一刻を争う状況です。わたしたちだけでは、悪王とそれに寝返ったラポルタをどうにもできないのです。でも、おふたりが来てくれたなら、状況も変わりますね」
前に出てきたベアトリーチェが白い歯を見せた。
そして、すぐにミランダたちを促すようにする。
ミランダは当惑した。
「ちょ、ちょっと待っておくれ。あたしたちは、あんたらを助けに来たんだ。そのために侵入してきたんだよ。サキは助けに行くけど、逃げるのはあんたらもだよ」
ミランダは言った、
すると、集まっていた令嬢や令夫人たちが一斉に怪訝な表情に変わった。
「えっ?」
「逃げる?」
「どういうことですか?」
令嬢たちが首を傾げている。
どうにもおかしな感じだ。
さっきから、思っていた反応と異なるのだ。
そもそも、女看守たちへの対応もちょっとおかしい。
睡眠の魔道が効いているので、治療術の風を受けても目を覚ますことはないみたいだが、そっち側では女看守たちは、令嬢たちの集団に大切そうに介抱されている。
残酷に扱われていた相手への対応ではない。
「ミランダ殿、助けて欲しいとお願いをしたのは、サキ様のことです。本当に大変な状況なのです。わたしたちではありません」
フラントワーズが代表するように言った。
彼女の顔にも困惑の色がある。
ミランダの後ろ側だったベルズがずいと前に出る。
「あなたたちを王宮の外に逃亡させる算段は準備している。王宮の結界を一時的に破って、外と移動術で繋ぎます。数ノスの作業にはなりますが、それまで女魔族たちを無力化させておきます。とにかく準備を……。ここに集まっているものが全部でしょうか? それとも、ほかにもいるのであれば……」
「その必要はありません。そう言ったはずですがね、ベルズ殿」
フラントワーズがきっぱりと言った
「えっ、しかし……」
「わたしたちは、ここで天道様のご帰還を待つためにここにいます。そのために修行もしています。わたしたちに問題はなく、助けを必要とはしていません。ミランダ様とベルズ様への伝言は、サキ様を助けたいからです。わたしたちをどうかして欲しいわけではありません」
フラントワーズははっきりと言った。
ミランダは耳を疑った。
助けを必要としていない……?
「ベルズ──?」
ミランダはベルズに声をかけた。
逃げたくないなどとというのはおかしい。
間違いなく、なにかの操り術のようなものをかけられていると思ったのだ。
すると、フラントワーズが笑いだした。
「別に操られているわけでも、呪術のようなもので価値感を狂わせられているわけでもありませんよ。わたしたちはわたしたちの意思でここいることを決めたのです。そもそも、逃亡しようと思えば、その手段が皆無というわけではありませんから」
「逃亡しようと思えば、逃げられる?」
ミランダは、怪訝に思った。
だが、確かにそうかのかもしれない。
いま、この瞬間では、令嬢や令夫人たちを見張る者はいない。また、女看守たち四人はいまだに倒れたままだが、ほかの魔族がやってくる気配もない。
しかし、女たちが逃げるという行為を起こす気配はない。
「とにかく、話は後です。サキ様のところに……」
フラントワーズが言った。
「そうです。早くサキ様を……。わたしたちには歯が立たない方法で監禁されているのです。どうか、サキ様を助けてください。日に日に、サキ様への拷問は酷くなっているのです。もしかしたら、殺されるかもしれません」
ベアトリーチェが横から口を出した。
「サキが殺される?」
ベルズがベアトリーチェを見る。
「ラポルタという男魔族の執着が凄まじいのです。いま、昨日くらいから、いまのようにわたしたちへの監視が緩くなっています。でも、実は、その分、サキ様のいられる後宮側の警備が強くなっているんです。わたしたちのところにいた監視たちも、大半は後宮側に移って、サキ様を拷問するために使われている感じなのです」
ベアトリーチェが言った。
フラントワーズも再び口を開く。
「とにかく、サキ様を」
「いや、だから……」
ミランダはもう一度説得を試みようとしたが、とにかく、フラントワーズをはじめとして、女たちは自分たちは逃げないが、サキは助けて欲しいの一点張りだ。
ベルズも説得に加わるものの、埒があく感じではない。
「……まあいい。ミランダ……。ここはサキの救出を優先しよう。どっちにしても、それが先なんだ」
やがての果てに、ベルズが諦めたように言った。
ミランダも同意した。
とにかく、こっちは後だ。
すると、フラントワーズたちが明らかにほっとした表情になる。
「わたしが案内します。罠の場所は調べています。どうか同行させださい」
ベアトリーチェが言った。
「その必要はないよ。縄の伝言の内容は頭に入れている。ふたりで向かうよ」
ミランダは言った。
だが、ベアトリーチェが首を横に振る。
「いえ、伝言をしたときとは状況も変わってきています。後宮側の監視が厳しくなり、かなり危険になっているんです。わたしは、サキ様を連れ出すことはできないでいますが、毎晩、罠だけは調べていて道案内できます。ですが、情報なしに行くのは危険かもしれません。わたしならば、足手まといにはならないと思いますが?」
「まあ、だけどねえ……」
ミランダは迷った。
確かに、ベアトリーチェは女騎士だ。普通の状態であれば、足手まといになるということはないだろう。
だが、いまもそうだが、ベアトリーチェの股間は貞操帯の隙間から愛液が垂れ出ているくらいの状況であり、かなりの疲労の気配もある。全身も火照りきっていて赤い。
鞭打ちの痕こそないものの、この広間で淫らな仕打ちを受け続けていたようであり、かなり身体にきている感じもある。
道案内は有用だが、大丈夫だろうか?
「……かなり込み入った魔道陣を刻んでいるねえ……。その貞操帯の解錠については、短時間では難しいみたいだ。道案内といっても、そのままになるけど……?」
ベルズがぼそりと言った。
「問題ありません。サキ様をお助けしたいのです」
ベアトリーチェはきっぱりと言った。
結局、彼女の案内を受けることになった。
それはともかく、気がつくと、さっきよりも大勢の貞操帯だけの女たちにすっかりと囲まれている。
むっとするほどの女の匂いだ。
むせ返るほどの汗と淫ら汁の香りであり、それが鼻にきて、頭をくらくらとさせるほどである。
だが、そのことに、ちょっとだけ違和感を覚えた。
しかし、すぐにこれから赴かなければならないサキを監禁されている後宮側のことで頭がいっぱいになってしまい、心に浮かびかけたことは、すぐに消滅してしまった。