【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
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叩き起こされた。
ヴァージニアとシャーラだった。シャーラはいつもの軍装だが、ヴァージニアについてはまだ寝着のままであり、髪も結わないままだ。ただし、身体に引っ掛ける薄いガウンは身につけている。
また、ふたりの顔は蒼く、身体にも緊張が漲っている。
「どうしたのだ?」
「暴徒の襲撃です──。屋敷が大勢の暴徒に襲われています──」
シャーラが言った。
珍しくシャーラの口調は落ち着きを失っている感じだった。そのことでイザベラは、ただならぬ事態が発生しているということを悟った。
「姫様――」
「姫様」
すぐに、三人の侍女たちも入ってきた。イザベラの具足を抱えている。
彼女たちも寝る格好の薄着にガウンの格好だ。
この部屋には窓がないが、おそらく早朝だろう。しかも、かなり早い時間帯だと思う。
「すぐにお着替えを──。食事もしてください。とにかく、お腹になにかを入れてください」
ヴァージニアだ。
具足を抱えている侍女のトリアとノルエルに対して、もうひとりのモロッコはお椀に汁物と千切ったパンを放り込んで温めたものを盆に載せてたものを持っていた。
それをイザベラの寝台の横の台に置く。
「食事だと? 暴徒の襲撃と言わなかったか?」
イザベラは訝しんだ。
「襲撃だからこそです──。完全に囲まれています。逃げられません──。しかも、シャーラさんとミウちゃんが移動術を発動しようとしましたが、波動を結べませんでした。移動術を防ぐ逆結界がかけられているようです」
ヴァージニアが言った。
「ここと姫様を頼むわ。わたしも出る──」
シャーラが部屋を飛び出していく。
イザベラは、耳を澄ませたが、なにかの気配のようなものは感じない。
「なにも聞こえんが?」
「ミウちゃんが防御結界を屋敷の敷地内に張ってます。それで音が聞こえにくくなっています。でも、完全に屋敷の石壁の外に暴徒が殺到しているんです。すごい数です──。いま、みんなで防いでいますが、どうなるかわかりません」
ヴァージニアの顔は泣きそうになっている。
イザベラもだんだんと切迫している状況がわかってきた。
だが、頭が回ってくると疑念も浮かぶ。
「待て──。暴徒が屋敷の石壁を囲んでいると言ったか? しかし、ライスたちは、その外に露営していたのだぞ。この里に入る山道に外哨も出していたはずだが?」
「屋敷内に入れた兵を数えても、生き残って屋敷に入れたのは百人もいないと思います。ほとんどが血だらけで、なにが起こったのかもわからないみたいです。突然に襲われたみたいで……」
ヴァージニアだ。
話をしているあいだも、侍女たちがイザベラから寝着を引き剥がし、顔を拭き、服を着替えさせていく。
それはともかく、生き残ったのが百人に満たないとはどういう意味だ?
イザベラが連れてきたライス将軍以下の隊の人数は、約五百なのだが……。
「つまりは、いま、戦っている真っ最中ということか? ライスはどうした?」
「ライス将軍は屋敷内に逃げられた者の中にはいません。どうなっているかもわかりません」
唖然とした。
だが、イザベラはすぐに我に返った。
具足を装着させようとする侍女の手を払い、ヴァージニアに顔を向ける。
「すぐに状況が見える場所に案内せよ。まず、確認する──」
イザベラは言った。
ヴァージニアは少し迷ったみたいになったが、すぐに頷いた。
「こっちに……。屋根に穴を開けて、応急の
ヴァージニアが歩き出す。まだ寝着にガウンの状態である。一方でイザベラは具足こそ装着してはいないが、具足下の軍装には着替え終わっている。
イザベラはその後を追った。三人の侍女たちもついてくる。
部屋の外の廊下には、あちこちに傷ついた兵が横たわっていた。
イザベラに気がつき、はっとしたように目を見開いたり、すがるような視線を向けたりしてくるが、とりあえず、そのまま歩き去る。
すぐに、屋敷の中の大広間に着いた、。
屋根に穴を開けたというのがよくわからなかったが、すぐに合点がいった。この大広間は屋敷の中心近くにあるのだが、その広間のど真ん中に櫓が組まれていて、平屋の屋根がぶち抜かれているのだ。
この広間にも傷ついた兵が大勢転がっていて、むっとするほどの血の匂いが漂っている。
「ミウ、もう少し頑張りなさい──。魔道具の材料になる魔石だけは大量にあってよかったわ。あんたが魔道を解除しても、防御結界が存続できるよう、魔石に魔道紋を組んでるから──。三ノス──。三ノスはそのまま頑張って──」
櫓の真下では、ユイナが胡座に座って、そのそばには十数個の大きめの魔石が積み上げられている。ユイナの手元は青白く光っていて、せわしなく指が手元の一個の魔石の表面を動いている。
魔石に直接に魔道紋を刻んでいるみたいだ。
「ユイナ、どういう状況だ──?」
イザベラはユイナに声をかけた。
ユイナもまた、侍女たち同様に薄物の寝着にマントを引っ掛けただけの格好だ。
「どうもこうもないわよ。こんなことに巻き込んだロウを恨むわ……。上にはミウとイライジャ。ほかの女は外です──。こらあっ、あんたらも、血止めが済んだから、さっさと戦いに出なさいよ──。こんなところで休んでても、殺されるだけだけよ。死にたくなければ、外に出て戦うのよ──。屋敷の外壁を連中が突破したら終わりなのよ──」
ユイナがイザベラを一瞥してから声をあげ、次いで、周りの負傷している兵に向かって怒鳴った。
よく見れば、血だらけの兵の周りには、たくさんの布が転がっていて、血止め薬のような小壺が十数個散らばっている。
だが、腕を切られている者、脚から血を流している者、頭をやられている者もいて、とても戦えるような状態には思えない。
「わたしの世話はよい。お前たちは、この者たちの治療に当たれ」
イザベラはヴァージニアや三人の侍女に声をかけてから櫓の
背後で、妊婦のイザベラを心配するようなヴァージニアの声がしたが、イザベラは振り返ることなく、治療にあたれともう一度叫んで、そのまま櫓の上まであがった。
「姫様──。危ないですよ。お下がりください」
櫓の上には、イライジャとミウがいた。
ミウは魔道師がよく着るようなフード付きのマントを身につけていて、一心不乱になにかに集中するような雰囲気だ。
すでにかなりの汗をかいていて、ミウの足もとにはミウの顔から滴ったらしい汗が水の染みを作っていた。
イザベラに声をかけたのは、イライジャだ。
「構わん。状況を報告せよ」
イザベラは叫んだ。
それとともに、櫓の上から周囲を見渡す。
夜は白々と明けてきていて、里の一帯が一望できる。確かに、この屋敷の周りをおそらく、数千の暴徒が取り囲んでいる。
具足さえも身につけていないただの農民たちだと思う。手にしている武器も、剣や槍を持っている者もいるが大半は鋤や大鎌などの農具だ。
しかし、数がすごい。
四周を農民の暴徒が埋め尽くしていた。
あちこちから石壁をよじ登って、こちら側に入り込むとしているのをイット、マーズ、さっき出て行ったシャーラなどがまだ戦っている兵とともに、懸命に阻止していた。
すでにあちこちの石壁の上に暴徒がよじ登っている。だが、石壁の上については、まるで止まっているみたいにゆっくりとしか動いていない。
ミウの結界魔道なのだろう。
そのため、数は多いものの、なんとか下から弓矢や槍、さらに魔道などで打ち落とすことは成功していた。
イットなどは、石壁の上を縦横無尽に駆け回り、次々に賊徒を斬り倒したりもしている。そういえば、イットだけはあらゆる魔道の影響を受けないと教えてもらったのを思い出した。だから、結界による行動制限をひとりだけ受けないに違いない。
いずれにしても、暴徒の勢いは、まるで地面に落ちた菓子に群がる蟻のようだとイザベラは思った。
「ご覧の通りです。異変を知らせる報告が外の隊から次々にもたらされて、あっという間にこの通りです。ミウが結界を張ってくれなければ、即座に雪崩れ込まれていたと思います。間一髪でした」
イライジャが早口で言った。
「イライジャさん──。もう一度、さっきのをいきます。今度はありったけの力で大きなものを出します──。その後、屋敷の周りに土魔道で堀を作ります。それで少しは楽になるはずです」
ミウが声をあげた。
さっきの──?
「やって──。だけど、倒れないでよ──。あんたが倒れたら、一環の終わりなんだから。だけど、こんなことをあんたにやらせて、ごめん──」
イライジャが叫んだ。
次の瞬間、屋敷の四周に突然に炎が取り囲んだ。
暴徒たちに火が燃え移り、阿鼻叫喚の悲鳴が沸き起こる。
すると、一気に炎が巨大な火柱となって炎の壁を作り上げた。それが暴徒に向かって外向きに拡がっていく。
暴徒たちの悲鳴がさらに巨大になる。
炎の津波が屋敷の周囲に拡がって消滅したときには、炎が到達した位置まで屋敷の周りに空白の地帯ができていた。
そこには暴徒たちの黒こげの屍体だけが転がっている。
「うわっ」
イザベラは残酷な光景に鼻白みかけた。
いまのミウの魔道で数百人が一気に死んだだろう。しかも、いまのは戦の光景というよりは、一方的な
「くっ」
ミウが身体をよろけさせた。
イザベラは慌てて、手を伸ばしてミウを支えた。
「こらあっ、ミウ──。考えるのは、やめなさい──。人を殺したと思わないのよ──。わたしたちを殺そうとする虫を退治したと思うのよ──。しっかりと意識を踏ん張るのよ──」
ユイナが櫓の下から絶叫した。
下からは見えないはずだが、魔道の波動かなにかで、ユイナは大きな魔道をミウが放ったことに気がついているに違いない。
もしかしたら、大量に暴徒が死んだことも悟ったか?
いや、そうなのだろう。
なかなかに勘の鋭い女だから、ミウの心の衝撃にも気がついたのだろう。だからこその、いまの激励だ。
「う、うん……。だ、大丈夫です……」
ミウがイザベラの腕を振りほどき、真っ直ぐに立ち直す。
だが、顔が青白い。
大きな魔道を放った影響というよりは、自分で作った残酷な光景に対する精神的な衝撃だと思う。
イライジャが周囲に視線を送ったままミウを抱きしめた。
「ありがとう、ミウ──。あなたのおかげで生き延びられる。助けてくれてありがとう──。そして、まだ子供のあんたに、こんなことをさせてごめん──。これはあたしが指示したことよ。一切、なにも気に病まないで──」
イライジャがミウを抱きしめて、声をあげる。
「だ、大丈夫です……。あたしもロウ様の女のひとりですから……。大人です……」
ミウが無理に作ったような笑顔を浮かべる。
すると、今度は屋敷の石壁の外に大きな堀が次々にできあがる。
深さは人の背丈の三倍はあるだろうか。幅も人が跳躍できる距離ではない。
こんなものを瞬時に作るのか?
イザベラは、さっきの炎の津波といい、たったいまの土魔道といい、ミウの魔道能力の高さに舌を巻いてしまった。
だが、これがあれば、どれだけの暴徒がいても寄せ付けないだろう。
イザベラは、安堵の感情に包まれかけた。
すでに、暴徒はかなり離れている。
屋敷を取り囲んでいる状況に変化はないが、距離は離れており、今度は近づいてこない。
「あれっ?」
そのとき、ミウが怪訝な声を出した。
「どうしたの?」
まだミウを抱きしめていたイライジャがミウに訊ねた。
「どうかしたか?」
イザベラも声をかけた。
「おかしいです……。魔力が……。あたしじゃなくて、周囲一帯から魔力が薄くなっているみたいな……」
ミウが首を傾げている。
周囲の魔力が薄くなっている?
すると、櫓を駈け上がってくる音がした。
ユイナだ。
「うわっ、やったわね、ミウ──。お手柄よ……。だけど、変だわ……。一気に魔力がかなり薄まったわ。これじゃあ、さっきみたいに大きな魔道を結ぶのは難しくなるわ……。どういうこと?」
ユイナも不審そうに言った。
イザベラは、最下級の魔道遣いでしかないので、辺りの魔力の濃さを感じられる能力はないが、魔力というものは日の光の下にある場所にはすべて漲っているものであり、特殊な環境下でなければ、薄くなるということはないはずだ。
ミウやユイナの言葉が本当なのであれば、どういうことなのだろう?
「里全体を囲むように、魔力を封じる結界を作られかけているのよ──。こうしちゃいられないわ。こっちも魔力を保持する魔石を設置しないと……。イライジャさん、結界維持の魔石は一時中断──。魔力維持の魔石を作ります。急いで十個くらいは作るので、片っ端から屋敷周囲に埋めさせてください。さもないと、この屋敷内の敷地でも魔道が遣えなくなります。それでも、かなり制限されますけど……」
「わ、わかった。ユイナ、頼むわ。ミウ、この間に、下の兵たちの治療をお願い──。休ませてあげたいけど、踏ん張って──。誰か、ミウに水と食べるものを──。動きながら食べれるものを準備してあげて──」
イライジャが櫓の下に向かって叫ぶ。
ノルエルの「すぐに準備します」という声が響く。
「待て──。あれを見よ──」
イザベラは里の外縁部に新しい集団を見つけて声をあげた。
里の外に繋がる山道の方向であり、さっきまで取り囲んでいた農民の暴徒ではなく、明らかに軍であることが明白なまとまりだ。
それが拡がって軍陣を作っていっている。
「なにあれ……。新手?」
ユイナが不機嫌そうに舌打ちした。だが、そのまま櫓を降りていく。
さっき口にしていた新しく魔道紋を刻んだ魔石を準備するのだろう。
「とにかく、ミウ……。下に……」
イライジャがミウを
「全員、いまのうちに休息を……。すぐに新手が来る──。今度は軍よ。おそらく、賊徒の正規軍よ。里全体の魔力を薄められているわ──。その処置が終われば、もう一度来るわ──。それと負傷している者は直ちに治療術を受けなさい。食べられるうちに食事も──」
イライジャが下に向かって叫んだ。
シャーラをはじめとして、戦っていた将兵たちのうちの将校たちが次々に指示を出し始めた。
「姫様、魔力封じが完成されると、外との通信が途絶されるかもしれません。いまのうちに、南王軍の主力をガヤからこちらに向かわせるように連絡してください」
イライジャがイザベラに言った。
「わ、わかった」
イザベラは急いで櫓をおりていった。