※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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754 戦場の訪問者【南域】

 見たこともないような高位魔道で数百人の農民が一瞬にして殺されたという報がもたらされたのは、ドピィが部下の賊徒軍とともに、ゲーレの山村に到着した直後だった。

 

 だが、それに対する感情の揺れはない。

 けしかけた農民たちは、もともと殺されるのが前提だ。

 さもなければ、あの屋敷の中にシャロンがいるのに、無闇に攻撃をさせたりしない。

 シャロンをあの領都からさらってのけた冒険者たちが混じっていることもわかっていたし、仮にも王太女を守る軍勢だ。人数は少ないが、おそらく精鋭であろうと思った。

 ドピィがやろうとしたのは、とりあえず、どのくらいの力量を持った連中であるのかを確認するということだ。

 ただし、念のために、農夫の集団の中には、シャロンの身柄だけを確保させるために派遣した手の者を混ぜてはおいた。

 しかし、どうやら農夫集団の先頭近くにいたために、ことごとく炎の津波に捲き込まれて焼死したようだ。

 すでに、連絡が取れなくなっている。

 

 また、ドピィは騎馬隊とともに馬上にいる。

 シャロンがいるはずのこの山村の名主屋敷は、さっき焼け野原になった場所の中心であり、それを遠巻きにしているのが生き残った農夫の暴徒たちであり、その後方の一角に、ドピィたち賊徒軍の正規軍がいる。

 いつもの賊徒騎馬隊も一緒だ。

 領都から発進させた賊徒軍主力のうちの先にガヤ周辺に到着した約一千と、自慢の騎馬隊五百という勢力だ。

 それだけの勢力をこのゲーレに連れてきたのである。

 

 騎馬隊は夜通しの疾走で今朝に到着したばかりだが、歩兵の賊徒隊については、十年のあいだに集めに集めた「移動術」を刻んだ護符を使って、先行させた者たちだ。

 全員が剣や槍のほかに、銃で武装していて、各人の背に大量の銃弾と最小限の兵糧を背負わせている。

 

 残りのありったけの賊徒軍の全軍勢は、まだガヤに向かって移動中のはずだ。

 首に炸裂環を装着させたカリュートに指揮をさせており、南王軍の主力の駐屯するガヤの港町を襲撃するように指示している。

 ただし、向こうは徒歩で向かっているので、襲撃は明日の夜以降になると思う。

 都市への攻撃が開始されれば、援軍をこちらに寄せる懸念も減るが、それよりも前に救出隊を出されるだろうから、カリュートたちがガヤを襲撃するというのは、いまでも派手に喧伝させている。

 従って、ガヤから王太女救出に避ける勢力は大きなものにはできないはずだ。

 その分、カリュートたちは南王軍に待ち受けられると思うが、あいつらもまた、ドビィがシャロンを取り戻すための生贄(いけにえ)にすぎないのだ。

 

 しかし、いかなる理由で、王太女が南王軍の主力のいるガヤではなく、このゲーレの小村に少人数でこもっているのだろう?

 そのわけは、見当もつかないが、とにかく、ドピィの興味はシャロンただひとりだ。

 逃亡したシャロンさえ取り戻すことができれば、あとはどうでもいい。

 ましてや、農民など死のうと生き残ろうと、まったく問題はない。

 ガヤを攻撃するはずの賊徒軍も、最悪全滅でも構わない。

 

「どうだ? 中にいる魔道遣いの勢力がわかるか?」

 

「強力な結界に、あれだけの巨大な火炎術……。おそらく、王軍魔道隊のエリート連中である高位魔道遣いを十人は率いているでしょうな」

 

 ドピィの質問に応じたのは、賊徒団に属する十人ほどの魔道遣いの長になる者であり、すでに六十歳の初老にさしかかっている男だ。

 もともと王宮魔道師だったらしいが、政争に敗れて奴隷落ちしていたのをドピィが救い出し、賊徒団に加えた者である。ほかの魔道遣いたちも、大なり小なり、全員がいまの王国に何らかの恨みを抱いている。

 もっとも、能力はそんなに高くはない。

 この老魔道遣いがもっとも能力が高いが、せいぜい中級魔道遣いというところだ。

 目の前の里に拡がる焦土を一瞬で作るような王宮魔道遣いとは、能力には雲泥の差がある。

 

「さすがは、王太女の連れている隊というところか。高位魔道遣いを十人とはすごいな」

 

 ドピィは笑った。

 

「頭領、農夫たちの長たちが面会を求めています。どうしますか?」

 

 声をかけたのは、ユーレックだ。

 このところ、ドピィが従者代わりに使っている少年であり、実はタリオの諜者だ。だが、いまのところ、諜者としての動きをする気配は全くない。

 

「あとだ──。ただし、指示だけは伝えておけ。賊徒軍と農夫たちの位置を入れ替えて、後ろに退げる。前に置いておくと、今度は小さな魔道に襲いかかられただけで連中は逃亡する。死を覚えた暴徒などしばらく役に立たん」

 

 さらにドピィは、さっきの火炎の届いたぎりぎりの位置に、賊徒の正規軍の方を四隊に分けて四方に陣を組むように指示を伝えた。

 四方向の陣のうち、山道のある正面に位置する隊の後方に、ドピィが直接に率いる騎馬隊五百を配置する。

 農民たちはさらにその後方だ。

 いずれにしても、あの魔道を連発されては、こちらに何倍の勢力があっても、あの屋敷に近づけない。

 まずは、魔道を無力化することだ。

 

「いま、やらせているこの一帯の魔力を無力化する処置はどのくらいかかりそうだ?」

 

 ドピィは馬からおりるとともに、水を求めた。すでにユーレックは、さっきの指示を伝えに走り去っている。

 水筒が差し出したのは別の賊徒兵だ。

 ドピィは一気に水筒の水を呷った。

 

「まもなく整います。ただ、向こうに高位魔道遣いが混ざっているなら、流れ込む魔力を減殺するだけであり、屋敷内に存在する魔力まで消すことはできません。ただ、全体量が減りますので、さっきのように、全面に防護結界を張りながら、その外側に攻撃魔道を四方に仕掛けるという離れ業はできなくなります。そこまでの魔力は集められません」

 

 老魔道遣いが応じる。

 いまやらせているのは、魔力減殺の魔石を里の四周にくまなく埋めさせるという処置だ。

 同じような処置として、移動術による逃亡を防ぐ「反結界」の魔石を埋めるのは終わっていて、この里から移動術で外に出ることはできない。つまりは、領都を冒険者に襲撃されたときのように、移動術で再びシャロンを連れ出される懸念はないということだ。

 また、外からの移動術による潜入も防止できる。

 どうせ、こちらには王軍の魔道遣いほどの能力保持者はいない。魔道を封じて、得するのはこちらだけだ。

 

「どの程度の魔道になると思う?」

 

「防護結界の効果は半減──。攻撃魔道を屋敷の外に拡げるのは困難になると思います。ただ、魔石のようなものを使って攻撃するのは、魔力減殺処置には関係ありません」

 

「なるほど。いずれにせよ、完全に向こうの魔道を封じる手立てはないということだな。なら、別のやり方で魔道を封じることも考えるか」

 

 ドピィは老魔道遣いに、魔力封印の魔石の埋設作業を速やかに終わらせるように指示してから、賊徒軍の各隊から命令受領者を集めさせた。

 すでに、ユーレックにより新たな陣形変換の指示が出ていて、各隊は動いている最中だ。

 だから、隊長ではなく、代わりに指示を受ける者に集まるように指示したのだ。どうせ、指示は単純なものだ。

 

 すぐに命令受領者が集まった。

 ドピィの指示に、各隊の参集者の全員が驚いていたが、すぐに駆け去っていく。

 農夫たちに対するあの攻撃魔道は、全員の心肝を寒からしめたと思う。

 それを防ぐ手段ということであれば、多少の汚い手も容認するはずだ。

 

 ドピィは改めて、シャロンがいるはずの屋敷の方角に目をやった。

 王太女とともに、その護衛隊が籠城している屋敷の周りは、炎の大波によって焼かれて、なにもかも焼け焦げになっている。黒い平地に屋敷だけがぽつりと浮かんでいる状態だ。

 ちょっとでも動きがあれば、すぐにわかるが、いまのところ全く動きはない。

 石壁の外に一兵でも出てくる気配すらない。

 

 やがて、四隊に分かれて屋敷を遠巻きに配陣した各隊の前面に、ドピィが指示をしたものが出現した。

 今朝の(あかつき)の襲撃のときに、外に展開していて農夫の襲撃を受け、負傷して生き残り、捕らわれて放置されていた者たちだ。ドピィたちがやって来たとき、その全員を連れてこさせ、死に瀕している者についてはとどめを刺して山の斜面に捨てさせ、生きている者は最小限の治療だけをして、拘束をして集めさせていた。

 全員で二百人くらいだが、その全員を大楯の前に両手両脚を拡げて縛り付けて、各隊の前に出させたのだ。

 具足どころか、下帯さえも剥がした素っ裸である。

 王太女の隊ということで、三十人にひとりは女兵もいたが、同じように処置している。

 つまりは、人間の楯というわけだ。

 

 この状況にすれば、向こうはこっちを攻撃するときには、魔道であっても、弓などの飛翔具であっても、生きている仲間をまずは殺すしかない。

 服を着せていない素裸なら、ちょっとした攻撃でも死にやすいから、それで多少なりとも、攻撃を躊躇(ためら)えば、攻撃魔道も使いにくいだろう。

 静かだった里の戦場が、拘束されて各隊の前面で磔にされた連中の悲鳴と呻き声、さらに、屋敷側からの罵倒と非難の声で一気に騒がしくなる。

 

 すると、再びユーリックがやって来て、意外な訪問者が現れたことを告げた。

 ユーリックは、里の外側にある木造の一軒家をドピィ用の軍営にしつらえていて、そこに待たせているという。

 ドピィは、やって来た訪問者が誰であるかを教えられ、驚いてしまった。

 しかも、突然に陣営の真ん中に現れたのだという。すでに、移動術を防止する結界は刻んでいるので、出現したとすれば、賊徒軍の陣営の警戒を潜り抜けてやって来たことになる。

 とりあえず、必要な指示をして会うことにした。

 

「頭領殿か? 驚いたな。まさか、すぐに会えるとは思わなかった。しかも、ひとりでか?」

 

 待っていたのは、若い男だった。

 具足もつけないただの平服だ。ただ、諜者のようなことを生業にしている者だとすぐに思った。

 しかも、魔道遣いだろう。

 ドピィ自身は魔道は遣えないものの、多少の魔道力はあり、目の前の相手の魔道力を見破るくらいはできる。

 目の前の男がかなりの高位魔道遣いであることくらいはわかる。

 また、こいつは、頭領のドビィの顔を知っていたようだ。ドビィの顔だけで、頭領であると断定した。

 

「俺に会いたいという話だったが違うのか? しかも、できれば二人きりでということだったが?」

 

 ドピィは部屋にひとつだけある椅子に腰掛けた。

 目の前の男は立ったままだ。こいつが座るための椅子は準備されていない。

 

「まあそうだが、まさか、会えるとは思わなかった。あんたの信頼できる部下か誰かの面談がかなって、俺が持ってきた情報が正しいということが知ってもらってから、明日にでも出直そうと思ってたんだ。まあ、とりあえず、挨拶程度の予定だった。まさか、得体の知れない俺に、すぐに会うとはな……。俺が怖くないのか?」

 

 そいつは呆気にとられた表情をしている。

 ドピィは苦笑した。

 

「それは、俺の言うことだな。ここは賊徒とはいえ、軍営のど真ん中だぞ。それなりに忍びの腕もあるようだが、あまり好き勝手に動くと死ぬぞ。もう一度、訪問するつもりなら、割り符の板を渡しておいてやろう。それがあれば、自由に軍営に入れる」

 

「そう簡単に死なねえよ。お前らがどれだけ出てきても、そこそこ戦えるんだ」

 

 男が言った。

 ドピィは肩をすくめた。

 

「それで用事はなんだ? ただ喧嘩を売りに来ただけなら特別だ。さっさと帰れ。名乗りもせずに、世間話をしたいなら、市井の井戸端にでも行くんだな。ここはそういう場所じゃないぞ。戦う者の場所だ」

 

 ドピィは手で追い払う仕草をした。

 男はむっとしている。

 

「俺を三流扱いするんじゃねえぞ。お前を特別扱いしてやってるのは俺の方だ。お前のような男の首をねじ切るのは大した手間じゃねえんだ。俺に殺されたくねえなら、ちゃんと護衛を連れていた方がいいぜ。これでも一流の技を使うんだ」

 

「じゃあ、忠告に従うよ。それで、なんの用事だ? いい加減に名前くらい名乗ってくれないか」

 

「あんたの従者だという子供には名乗ったぜ」

 

「そうか。だが、まずは挨拶をするのが礼儀だ。南方軍司令官のリー=ハック将軍の使者だというのであれば、礼は守った方がいいぞ。お前じゃなくて、お前の主人の格がさがる」

 

 ユーレックがドピィに告げたのは、南方軍司令官の使者を名乗る男が、突然に陣営のど真ん中に出現したという知らせだった。

 最初は捕らえようとしたが、瞬時に消えてしまい逃げられたという。だが、すぐに再び出現して、頭領のドピィに用事があると告げろと迫ったらしい。

 そのときに、リョノはユーレックの耳に、南王軍の使者だとささやき、リー=ハック将軍の伯爵家の紋章の入った短剣を手渡してきたという。

 ユーレックは、それで、独断だが、とりあえずこの建物に連れてきて、頭領に要件だけは伝えるとだけ告げて待たせたという。

 眉唾だが、まあ、この男の正体が本当はなんであれ、それだけの能力のある者がわざわざ軍営に忍び込んできたのであれば、なんらかの意味があってやってきたのだろう。

 ドピィは会うことに決めた。

 だが、いまのところ、なんの用事なのか見当もつかない。

 

「へっ、賊徒の頭領が礼を尽くせとは、ちゃんちゃらおかしいぜ……。まあいい。リョノだ。南方王国軍のリー=ハックの伝言を持ってきた。取引きがしたい」

 

 リョノが言った。

 

「どんな取引だ? 命を助けるから降伏でもしろというようなことなら、お前ら貴族の豚は生きる資格などないと伝えろ。お前たち王侯将相は生きていることが罪だとな。死ぬことによってしか、罪はあがなえないと言っておけ」

 

 ドピィはうそぶいた。

 

「そうか? あんたの損になることはひとつもない話だと思うけどな。まずは、シャロン=クロイツ夫人は間違いなく、あそこの屋敷の中にいるぜ。それについては、ガヤの南王軍の司令部でも確認していた」

 

 ドピィは目線を逸らした。

 その名前を聞いて心が動揺したことを見破られたくなかったのだ。

 

「そんな女のことはどうでもいい」

 

 とりあえず、それだけを言った。

 すると、リョノがくすりと鼻で笑うような音を出した。

 

「そうなのか? だが知っておいた方がいいぜ。あんたが侯爵夫人を生きて取り戻したいと考えているなら、攻撃の要領は考えた方がいい。今朝の攻撃は危なかったぜ。あのまま農民どもが雪崩れ込んでいれば、侯爵夫人などただではすまなかっただろうな。なにせ、あの屋敷の中で拘束されて、檻に閉じ込められてるんだからな」

 

「拘束?」

 

 なんでシャロンが拘束をされているのだと思った。

 しかも、檻に閉じ込められている?

 シャロンは冒険者の手を借りて、まんまとドピィの手の中から逃亡することに成功したのだ。

 そのシャロンを王太女が拘束している理由が思いつかない。

 

「あんたは、あいつらが簡単に農民の暴徒程度は跳ね返せると踏んで、あの屋敷の中にいる兵の力を測るためにあいつらをけしかけたと思うが、実際には間一髪だったんだ。あそこには、ほんのわずかの勢力しかいないからな」

 

「わずかな勢力か? あそこには十人以上の王軍の高位魔道遣いがいるはずだ。あの防護結界に、火炎の津波だ。いまは、一瞬にして作りあげた壕が俺たちの攻撃を阻んでいる。なにをもって、わずかな勢力と言っているのか知らんがな」

 

 ドピィは笑った。

 すると、リョノが意味ありげな笑みを口元に浮かべた。

 

「王軍の魔道師なんてひとりもいねえよ。子供の魔道遣いがひとりいるだけだ。ほかには、護衛長のシャーラかな。だが、あの高位魔道は多分、その童女だ。十人なんてとんでもねえよ。まあ、あれだけの威力ある魔道を見せられれば、信じられねえかもしれねえけどな」

 

 リョノが言った。

 

「はあ、魔道遣いは、童女ひとりだと? 馬鹿を言うな」

 

「そうかな? あんたらが巣くっている領都から、夫人を連れ出したのも、童女魔道遣いだったはずだぜ。その情報は入っているんだろう?」

 

 リョノがくすくすと笑う。

 ドピィは訝しんだ。

 領都からシャロンを連れ出した冒険者パーティに混じっていた魔道遣いの正体はわかってないが、童女のようだったというのは、幾つかある不確かな情報のひとつだ。

 リョノは、それが真実のように伝えてきたが、もしかして、それが本当なのか?

 本当に、あの屋敷にいる魔道遣いは、王太女の護衛長を除けば、童女ひとり? それが事実なら、こうやって慎重に仕掛けるよりも、強引に連続で攻めた方がずっといいかもしれないが……。

 だが、いまのところ、なんのために、このリョノがドピィの前に現れたのかがわからない。

 こいつが南王軍司令官の使者などという戯言については、いまのところ半信半疑というところだ。

 

「まあいい……。それで? わざわざ、南王軍司令官閣下が大事な情報を伝えにきてくれたのは、どういうわけなんだ? さっき取引きとか言っていたと思うが?」

 

 ドピィは言った。

 すると、またもや、リョノがにやりと微笑んだ。

 

「王太女の身柄を受け取りたい。無傷でだ。俺の主人の我が儘でな。それを約束してくれるなら、ガヤの南王軍から援軍は送られない。それどころか、そのことを屋敷内に立て籠もっている連中に知らせる。援軍がないということになれば、気力もくじく。ほかにも、王太女軍を追い詰める仕掛けに協力しよう」

 

 リョノが声をあげて笑った。

 ドピィは驚いた。

 

「王太女の身柄を渡すだと? どうするのだ?」

 

「野暮な質問をすんじゃねえよ。俺だって呆れてんだ。だが、お前にとっちゃあどうでもいいものを提供すると約束するだけで、お前さんの望みにぐっと近づけるんだ。悪い取引じゃねえはずだぜ。あっ、ただ、王太女については、ここで殺されたことにしてもらうぜ。まあ、その処置も俺がする。あんたらは、ただ殺さねえでいてくれればいいだけだ」

 

 リョノが言った。

 理解不能だ。

 王太女を死んだことにして、身柄だけ連れていく?

 わざわざ、それを賊徒と取引き?

 雰囲気からして、王太女だけを救出したいという気配ではない。こっそりと慰み者にでもしようというのか?

 それが本当ならば、とんでもない司令官だが……。

 

「確かに損になる取り引きではないな……。ところで、要件というのは、これで終わりか?」

 

「そうだな。返事を聞きてえな。それとも、明日に出直した方がいいか? 割り符なんていらねえぞ。これくらいの警戒を抜けてくるなんざ、どうということはねえ……。それで、どうする?」

 

「どうするという質問か。俺が言えるのは、お前の忠告に従うということくらいかな」

 

「忠告?」

 

「お前に会うときには、しっかりと護衛をつけるということだ」

 

 ドピィは手をあげた。

 すると、四方の壁のうち、横の一面とドピィの背後に待機させていた二十数挺の銃が一斉に火を噴いた。

 一瞬、リョノの顔が驚愕に歪むのがわかったが、銃弾は間違いなくリョノの全身に幾つも貫いたのを確認した。

 リョノの身体が消滅する。

 だが、血の痕が点々と床に残っている。

 

「逃げられましたか──?」

 

 射撃隊に混じっていたユーレックが部屋に飛び込んでくる。

 ほかの銃兵も雪崩込んできた。全部で二十人はいる。第二射も準備していたので、まだ銃弾を込めたままの兵もさらに十人以上だ。

 

「いや、逃げてない。魔道による移動術とは違う。ちょっとした目眩(めくら)ましをしただけだ。血の痕を追え」

 

 ドピィは血の痕を追わせた。

 果たして、瀕死の状態で倒れているリョノが家の裏の納屋にいた。

 ドピィは、火のついたままの銃を受け取って、リョノの頭に銃口を向けた。

 

「ま、待て──」

 

 リョノが両手で頭を庇うようにした。その全身からは夥しい血が流れ続けている。

 

「お前にも忠告しとこう。俺は大抵のことは信用しない。ちょっとでも胡散臭ければ取引きなどせずに、殺すことに決めている。お前のようなおしゃべりは、全く信頼も信用もできないし、そもそも、自信過剰な相手は、俺が一番嫌いなタイプだ」

 

 ドピィは引き金を引いた。眉間に穴が開き、リョノが一瞬にして死骸に変わる。

 

「連れてきている魔道師を集めろ。もしも、こいつが持ってきた情報が正しいなら、向こうにいる魔道遣いはたったのふたりだ。しかも、術を使っているのはひとりのみらしい。魔道師には術の出所がいくつあるのかしっかりと見極めさせる。もしも、本当に童女ひとりなら、向こうに交代はいない。攻め続ければ、魔道師は疲れていなくなる。そうすれば、あとは力攻めで簡単に落ちる」

 

 ドピィは集まってた者たちに声をかけた。

 もう、死骸に変わった男に対する興味は失っていた。

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