※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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762 取り戻された侯爵夫人(その1)【南域】

 ユーレックを呼んだ。

 

 包囲しているゲーレの名主屋敷から一定の距離までの周辺については、向こうにいる魔道遣いによって、すべての建物が根こそぎ焼き払われていたが、里の外側近くにある家などは、ほとんど残っている。

 ドピィは、その中のひとつを自分専用の休息場として使っていた。

 ここには誰も入れない。

 例外はこのユーレックくらいであり、それも呼び出して来させるのみだ。

 

 ドピィは、基本的に自分の身の周りに人を近づけない。

 参謀のようなものも使っておらず、部下たちに対する指示は、ただ一方的に与えるだけだ。

 そして、指示に逆らったり、疑念を抱いたりした者は容赦なく処断する。その代わり、道具としてうまく動く者は、略奪を許したり、報奨を与えたりして報いる。

 それがドピィのやり方だ。

 

 今日の屋敷への攻撃も、ドピィが撤退の指示を与えてもすぐに退却せず、死んだ王軍の兵から武具や懐のものを奪って戻ろうとして、一隊だけ後退が遅くなった者たちがいた。

 遅れた者たちは、向こうにいる身体の大きな少女と獣人戦士に襲撃されて多くがやられてしまったが、それでも三十人ほどは逃げてきた。

 ドピィは、遅かった三十人を全員の前で並べ、五人ごとに銃で射殺させた。

 「道具」は道具として行動してもらわないと困る。

 指図に従わない道具は、邪魔なだけだ。

 

「いまから真夜中までのあいだ、俺の不在を隠しておけ」

 

 ユーレックがやって来るとドピィは言った。

 ドピィは、上から下まで黒装束で身を包み、頭まですっぽりと隠れる頭隠しまで装着していた。

 これからやろうとしているのは、あの屋敷への侵入だ。

 

 あそこに、シャロンがいる。

 それは、今日の攻撃を夕方に撤退させるときに、五名ほど王軍の兵を捕らえ、引きずって連れてこさせていたが、そいつらを拷問して確認している。

 細部の居場所さえも把握した。

 あの平屋の屋敷には、いくつかの地下貯蔵庫があり、その中のひとつを牢として改装し、そこにシャロンを監禁しているようだ。

 王太女に保護されたシャロンが、なぜ、客人としてではなく、囚人のように捕らわれているのかは知らない。

 しかし、そこにシャロンがいるなら取り戻すだけだ。

 だが、ドピィの姿に、ユーレックは唖然としている。

 

「なにをなさるんですか、頭領?」

 

「あの屋敷に入ってくる」

 

「えっ?」

 

 ユーレックはびっくりしている。

 だが、潜入は容易だと思っている。

 あいつらは弱兵だ──。

 今日一日の攻撃で王軍の弱さは知れた。

 先頭で活躍していた身体の大きな少女と獣人娘だけは邪魔だが、あとは烏合の衆だ。

 ほとんどの兵が意気地はないし、簡単に悲鳴をあげて賊徒兵に背を向ける。

 組織としての連携はとれていない。

 まったく大したことはない。

 

 だから、屋敷の壁か扉を火薬で爆破させて、そのまま王太女でも魔道遣いでも蹂躙できたがやめさせた。

 室内にシャロンがいるからだ。

 屋敷に入り込めば、賊徒たちのことだ。目の色をかえて略奪を開始し、女を陵辱し始めるに決まっている。

 そうなれば、シャロンの身に危険が及ぶ可能性があった。今日の時点で、ここまで圧倒できると思わなかったので、シャロンを安全に連れ出す算段を整えてなかったのだ。

 だから、撤退させた。

 

 また、騎兵については一部のみ敷地内に入り込ませて、全体については留めさせていた。

 ガヤの城郭から、王太女救出のための援軍が来ることを予想していたので、街道沿いに埋伏の兵を隠し、それに接触したら、すぐに騎馬隊を差し向けることを考えていもいたからだ。

 だが、結局のところ、なにもなかった。

 ぶち殺したリョノといかいう魔族が戯言(たわごと)を吐いていたが、もしかしたら。あいつは案外本当のことを喋っていたのかもしれない。

 いまのところ、南王軍はまったく動く気配はなく、あの屋敷にいる王太女はどうやら見捨てられたようだ。

 絶えずガヤの情報は、潜入させている手の者から取り続けているから、すぐに動きがあればわかるが、ガヤの南王軍は完全な沈黙だ。

 ならば、急ぐ必要もなく、ドピィはシャロンのいる屋敷への攻撃を一度撤退させることにしたというわけだ。

 

攪乱(かくらん)が効いてきたようだしな……」

 

 ドピィはにやりと微笑んだ。

 攪乱というのは、夜になってから矢文で届けさせた逃亡勧告だ。全体の撤収のときにも、向こうの指揮官だったらしい将軍の生首の口の中に、シャロンの引き渡しを求める文を送ったが、いずれも、敵を混乱させることが狙いだ。

 本当にシャロンを無条件に渡すとも思っていないし、そうしてくれれば儲けものくらいの考えだ。

 それよりも、ドピィが狙ったのは、死ぬまで戦わなくてもすむ手段があるということを王軍の兵に教えることだ。

 

 死を覚悟した死兵は強い──。

 だが、逆に逃げ道を知った兵は弱い。

 

 あんなに効果があるとは思わなかったが、矢文を打った西側の面からは、ふたり三人とまとまって陣を離れて、里の外の森に駆け込む連中が続出しているようだ。

 ドピィは、逃亡する兵は逃がふりをして、森に入ったところを全員捕らえよと命じている。

 捕らえた者が男だったらその場で殺し、女だったら手をつけずに連れてこいと命じている。女を連れてこいと命じたのは、その中に万が一にも、シャロンが含まれている可能性を考えてのことだ。

 夕方に見せしめの処断をしたので、ドピィの指示に逆らう者はないと思う。

 

「屋敷に? おひとりでですか? 危険です──。そもそも、なんのために……。あっ、もしかして、侯爵夫人を……」

 

 最後まで言わせなかった。

 ドピィは、ユーレックの首にナイフを突きつけた。

 刃が喰い込み、すっとユーレックの首に赤い線が走る。

 シャロンがいなくなってから、ドピィはこれまでのように、分別のある頭領を装えなくなっていた。

 絶えず怒りが込みあがり、苛立ちがなくならない。

 

「お前に意見は求めてない。指示はさっき言ったとおりだ。もう一度言って欲しいのか?」

 

「ひっ」

 

 ユーレックが恐怖に顔を引きつらせて、何度もかすかに頭を縦に動かす。首に刃が喰い込んでいるので、それ以上顔を動かせないのだ。

 ドピィは、ユーレックからナイフを離した。

 

「賊徒軍の誰にも悟られるな」

 

 ドピィは顔を黒く塗ると、家の外に出た。

 走る。

 朝の最初の農夫軍にぶつけられた火炎で焼かれた場所までは草木も残っていないほどだが、そこよりも外は、樹木もあれば、建物も残っている。

 陣も展開していて、どうということはない。ドピィは賊徒軍の陣の外側に辿り着いた。

 

 問題はそこから先だが、見ると屋敷側から脱走の兵がこっちに向かって幾つも駆けてきている。

 あれを放置しているということは、あっちの見張りは、機能していないのかもしれない。

 ドピィは、それに紛れるように、逆に屋敷に近づいていった。

 

 掘がある。

 そこには、死んだ賊徒兵の死骸が放り込んであった。

 深さはさらに増したようだ。

 一度飛び込み、すぐに屋敷側に這いあがる。

 

 破壊した外壁の部分には、大きな木箱が壁のようになっていた。しかし、隙間がいくつかあり、そこから屋敷側の王兵が脱走しているみたいだ。

 それを逆に縫って進む。

 あまり人はいない。

 木箱を抜けるところで、激しい力で上から押さえられるような感触が襲いかかった。

 防護結界だろう。

 必死に這い進む。

 やがて、急に圧力が消える。

 結界層を抜けたのだ。

 

 屋敷は目の前だ。

 だが、そこにも月に照らされる視界に歪みがある。どうやら、壁にも防護結界が張ってあるみたいだ。

 

 これは厄介だな……。

 ドピィは舌打ちした。

 

 壁をのぼって、屋根から侵入することを考えていたが、壁そのものに防護結界があるなら、壁を這いあがるあいだ、ずっと結界の影響を受けることになる。

 それで這いあがるのは困難だ。

 どこかの入口を探すか……。 

 しかし、それでも外側から内側に向かうには、やはり結界の影響がある。

 

 そのときだった。

 建物の側面から数名の人の集まりが出てきた。

 王軍の兵だ。三名ほどいて、中心に頭から大きな布を被せた人間を連れている。上体の部分に布の上から縄で縛っていて、左右から身体を掴んで強引に歩かせている。

 防護結界というのは、外側から内側に向かうときには、激しい空間の抵抗が生じるが、内側から外側に向かうときには全くなにもない。

 だから、内側からの攻撃だけが阻まれないということだ。

 彼らは、まったく問題なく、屋敷から外に出てきたみたいだ。

 

 それはともかく、ドピィは、彼らを見て、はっとした。

 頭から布を被せられている者が女であることに気がついたのだ。

 ほとんど無意識に、そいつらに飛びかかっていた。

 瞬時に打ち倒し、三人にとどめを刺すと、木箱の陰に遺体を隠した。

 次いで、うずくまってしまった女から縄を切断して布を剥がす。

 

 シャロンだ──。

 

 ドピィは驚喜した。

 どうして、こんなところにいるのかはわからない。

 もしかして、さっきの連中がシャロンを連れ出して、ドピィへの土産にでもしようとしたのかもしれない。

 しかし、そんなことはどうでもいい。

 大事なのは、ドピィの腕の中にシャロンが戻ってきたという事実だ。

 

「ああ、ルーベン──」

 

 シャロンは、動きやすいようなスカートの軽装をしていたが、後手に手錠をかけられていた。

 ドピィであることを認識して、ドピィの胸に頭を擦りつけるようにしてきた。

 

 激情が湧きあがる

 気がつくと、ドピィはシャロンの髪を掴んで、その場に引き倒していた。

 シャロンの顔を力一杯に踏みつける。

 

「……残念だったな。うまく逃げおおせたと思ったか──。だが、そうはいかん。お前は、永遠に俺の奴隷だ──」

 

 大きな声ではない。

 しかし、シャロンにははっきりと聞こえたはずだ。

 二度と逃がしはしない──。

 絶対だ──。絶対にだ──。

 ドピィは、顔を踏みつけながら誓った。

 

「くっ、ル、ルーベン……。ああ、もっと……。もっと罰を……。ルーベン……」

 

 ドピィの足の下でシャロンがかすかに呻くように喋ったのが聞こえた。

 しかし、その声に苦悶の響きはない。

 むしろ、恍惚としているような……。

 

 いずれにしても、それでドピィは我に返った。

 シャロンを担ぎあげて、肩に背負う。

 内側から外側に向かうときには、防護結界の影響は皆無だ。シャロンにも抵抗はない。

 侵入の痕跡を消しながら、屋敷の敷地内から離れる。

 駆け進んで、陣営内に進み、ユーレックを待たせている家まで戻った。

 王太女軍のいる屋敷に潜入することよりも、賊徒軍の陣営に帰るときの方が大変だった。

 だが、誰にも咎められることなく、ドピィはシャロンを連れ帰った。

 

 シャロンを伴って戻ったドピィに接して、ユーレックは目を丸くしている。

 ドピィは肩に担いでいたシャロンを自分の寝台の上に放り投げた。

 

「頭領?」

 

 ユーレックがドピィとシャロンを交互に見る。

 

「出て行け……」

 

「えっ?」

 

「お前は出て行け──。各隊には、明日の朝、すぐに動けるようにしておけと伝えろ。明日は屋敷内の人間を殲滅する。王太女もいるし、その侍女たちもいるだろう。多分、財宝も携行しているはずだ。早い者勝ちだ。略奪も陵辱も思いのままだと伝えておけ──」

 

 ドピィは言った。

 もはや、このゲーレの屋敷には用事はない。

 このまま立ち去ってもいいが、ドピィからシャロンを奪おうとした酬いはしっかりと受けてもらう。

 冒険者を雇って、王太女がシャロンを連れ出したのは調査済みだ。

 その首謀者である王太女を許すつもりはない──。

 

「あっ、はい……」

 

「早く行け──。しっかりといまの命令を徹底しておけ──。寝ている隊長は叩き起こせ──。明日は夜が明けたら、王太女たちの血祭りだと伝えろ──。集まっている農民たちにもだ」

 

 ドピィは怒鳴った。

 ユーレックが慌てて出て行く。

 賊徒軍の数はまだ一千くらいしかいないが、続々と集まっている農民どもはその十倍になっている。

 まずは、そいつらをけしかけるか……。

 そして、疲弊したところで、賊徒軍をぶつけよう。

 数で押されて、農夫たちに屋敷内を突破されてしまったら、それはそれでいい。

 ドピィがしたいのは、二度とシャロンを奪われないようにすることであり、冒険者と王太女が殺せれば、あとはどうなっても構わない。

 

 ドピィは、潜入用の黒装束を脱いで下着だけの半裸になると、顔を布で拭く。

 そして、こっちをじっと見ているシャロンに近づいた。

 

「ルーベン……、わたし……」

 

「黙れ……」

 

 ドピィはシャロンの頬を引っ叩いた。

 

「きゃああ」

 

 シャロンが寝台の上で跳ね飛ばされる。

 馬乗りになり、動けないようにしてから、反対側からも頬を力一杯に叩く。

 

「ふぎゅうう」

 

 おかしな奇声を発した。

 構わない──。

 平手で殴り続ける。

 

 殺してやる──。

 殺してやる──。

 

 頭の中には、その自分の言葉だけが響いている。

 ドピィからまたもや逃げたシャロンなど、このまま殴り殺してやる──。

 十発ほど平手を加えたら、あまり悲鳴をあげなくなった。

 

 ドピィは服の襟に手をかけた。

 一気に引き破る。

 貴族女のように面倒な服は着ていなかった。一枚剥がせば、胸覆いと腰の下着だけだ。

 それも剥がす。

 

 シャロンは全裸になり、汗で薄っらと濡れ光る乳房がかたちよく盛りあがり、それが荒い呼吸で大きく揺れている。

 ドピィは、噴き出す怒りの感情のまま、シャロンの首を両手で掴んだ。

 シャロンの首を絞めあげていく。

 

「がはっ、かっ」

 

 シャロンが息を吐く。

 その顔からみるみるうちに血の気がなくなる。

 

 殺してやる──。

 

 この女を殺す──。

 

 ドピィは巨大な怒りのまま、シャロンの首に力を入れ続ける。

 

 許せない──。

 

 絶対に許さない──。

 

 自分から逃げようとするなど──。

 

 シャロンの息が止まったのがわかった。

 顔が土気色になっていく。

 

 だが、シャロンはそれでも抵抗しない。

 両手首を後手に手錠を掛けられているとはいえ、シャロンはまったく暴れようとはしない。

 

 そのときだった。

 閉じられていたシャロンの両眼が開いて、その瞳にドピィが映る。その眼から涙がこぼれた。

 

 すると、シャロンの頬が綻び、その口元に微笑みが浮きあがったのがわかった。

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