※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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766 ゲーレの死闘・二日目の始まり【南域】

「来たわね……」

 

 イライジャは、屋根の上に作った物見櫓(ものみやぐら)から、東側からやってくる農民の海を見ていた

 横にはミウだけがいる。

 

 

「はい……」

 

 そのミウが震える声で返事をした。

 襲撃してくるのは、手に様々な武器を持っている暴徒の大集団だ。

 いや、武器を持っている者は少ないだろう。

 農具や棍棒──。

 雑多な得物を彼らは持っている。

 具足さえもつけていない。

 

 しかし、圧倒的多数──。

 地面が揺れ、彼らの喚声で空が震えるような感覚に襲われる。

 

 一方で、西側にはしっかりと陣形を作った賊徒兵がいる。騎馬隊もいて、こっちは秩序の保たれた「正規軍」という感じだ。

 そっちには動きはない。

 おそらく、あれだけの農民の暴徒をぶつけて、屋敷側が粉砕されてしまえばそれでよし──。

 強力な魔道や防護魔具で凌ぎきったとしたら、完全に疲弊したところを今度は賊徒の正規軍が攻撃する──。

 そんな筋書きだとは思う。

 

 だが、完璧なやり方だ。

 こっちには、それに対応する手段はない。

 ただただ、その場その場で凌ぎきるしかない。

 

「イライジャさん、また出るよ──」

 

 イットが櫓に飛び込んできた。

 マーズもいる。

 

「待って──。出ないで──。屋敷内にいて──。出るときは指示する――」

 

 慌ててイライジャは止めた。

 いまにも櫓から屋根に飛び降り、そのまま階下に向かって跳躍するような態勢だったイットとマーズが同時に怪訝な顔を向ける。

 

「なんで──?」

 

 イットが叫んだ。

 

「無駄よ。凌ぎきれない──。屋敷の戦いになる──。そのときまで待って──」

 

 イライジャは言った。

 あんなものをたったふたりで抑えられるわけがない。

 津波をたった二本の杭で抑えるようなものだ。ふたりの周りで渦ができて大波がほんの少し阻まれたところで、ほかの場所から津波は溢れかえり、ふたりとも暴徒に包まれて終わりだ。

 

 遠くだった暴徒の津波が接近してくる。

 

「全員、東側に集結──。陣の内側に構え──」

 

 イライジャは庭に向かって叫んだ。

 半分が夜の内に逃亡してしまい、残った三十名ほどの王軍兵だ。

 陣形も、策もなにもない。

 ただぶつかってもらうしかない。

 ただし、詰めるだけ物資の入っている荷箱を積みあげた。

 また、木箱の前の部分は地面を掘り起こして水を撒き、足が取られるような軟弱地を箱の前に作った。

 できるのはそれくらいだ。

 

「イライジャ──」

 

 シャーラが駆けあがってきた。

 

「シャーラさん──。姫様を隠してください。屋敷内の戦いになるかもしれません。そのときには、隠れさせて──」

 

「いましているわ──、侍女三人をつけた。ユイナにも頼んだ。彼女に魔道陣を刻んでもらって、ただの壁に隠し部屋を幾つか作ってもらっている……。来るわね」

 

「ええ……」

 

 イライジャは頷いた。

 賊徒たちは、中心にあるこの屋敷と外縁までの距離の里の半分まで来た。

 

「いつでも、いけます……」

 

 ミウが両手を挙げた。

 顔は真っ蒼だ。

 だが、やってもらわないとならない。

 気の毒だが、彼女の魔道がなければ、この戦いは話にもならないのだ。

 しかし、賊徒たちの工作により、この里全体の魔素という魔道のもととなる力がかなり薄くされてしまっている。

 前回のような大魔道は駆使できない。

 ミウも、一方向に限定的──。しかも、数回魔道を打てば、魔素が再度満ちるまで使えないと言っている。

 あとは、やってみて、農夫たちが怯んでとまってくれるかだ。

 

 暴徒の先頭が昨日の朝、ミウが大火炎魔道で焼き払った場所に、もうすぐ辿り着く……。

 

 

「逃げるな──。あんたら、叩ききるわよ──」

 

 そのとき、シャーラが叫んだ。

 なにに向かって怒鳴ったのかと思ったら、眼下の庭側にいる王兵たちだ。槍をとって構えるどころか、逃げかけているのだ。

 だが、イライジャは一瞥のみで、駆け進んでいる暴徒に視線を戻す。

 あんな連中は、どうでもいい。

 どうせ、大して役には立たない。

 

「降りるわ」

 

 シャーラが梯子を駆け下りる。

 彼らの後ろで、逃げようとする王兵たちを脅すつもりだろう。イライジャは、シャーラの好きなようにさせることにした。

 

「ふたりは待機よ」

 

 イライジャは、イットとマーズに声を掛ける。

 シャーラと一緒に飛び出したそうな雰囲気だったからだ。

 

 暴徒たちが迫る──。

 すでに、焼け焦げた地面の部分を半分すぎた──。

 

 はっきりと表情がわかるようになってきた。

 全員に怒りの顔がある。

 なにをあんなに激怒しているのか……。

 

 男もいれば、女もいる……。

 年端もいかない子供もいるのではないだろうか……。

 

「打って──」

 

 イライジャは叫んだ。

 ミウの火炎魔道が炸裂して、暴徒の先頭付近が一斉に炎に包まれる。

 阿鼻叫喚の悲鳴が起きて、百人以上の先頭側の暴徒が火に包まれて暴れ出す。その火が次々に燃え移り、後ろに拡がる。

 火炎の壁自体も、暴徒たち全体を大きく舐めるように、ゆっくりと後続の暴徒たちを焼いていく。

 彼らの絶叫が大きくなる。

 身の毛をよだつような光景だ。

 

「うう……」

 

 ミウが苦しそうな声を出した。

 イライジャは、背中側からミウを抱くようにして両肩に手を添える。

 

「しっかり──。ロウが来てくれたら、ミウのおかげで生き延びたって言うわ。多分、ロウはあなたに感謝する。たっぷりと愛してくれるわ──」

 

 声をかけた。

 硬かったミウの身体がちょっとだけ緩む。

 

「いっぱい……。いっぱい、褒めてもらいたいです……」

 

 ミウがちょっと笑った気がした。

 

「ええ、きっと、いっぱい誉めてくれるわよ――」

 

 先頭付近が一斉に火炎に包まれてたが、暴徒全体の逡巡は少しだ。後ろは前に突き進んでくる。

 炎に包まれている仲間の暴徒たちを押し払いながら、こっちに向かってくるのだ。

 耳をつんざくほどの喚声がこだまする。

 

 百人、いや二百人はまだ火に包まれているだろう。しかし、後ろからやって来た新手が、彼らの前に出てきた。

 

 勝負にならない……。

 

 イライジャは歯噛みした。

 頼みの綱は、昨日の朝のように、一発の大魔道で暴徒全体が恐怖で止まってくれることだった。

 だが、今日は止まらない。

 

「次、いきます──。でも、勢いは小さくなります。多分、同じものをもう一発──。そうしたら、しばらく打てないかもしれません」

 

 ミウが叫んだ。

 賊徒たちが里の外郭全体に埋めた魔力を減殺する魔石は、完全に魔素を消滅させているわけではない。

 極めて量を小さくしているだけだ。

 だから、時間さえ待てば、やがて、大魔道を放てる程度には満ちるらしい。

 しかし、そのあいだに、屋敷は暴徒に囲まれるだろう。

 

 ミウの火炎魔道が再び大きく炸裂した。

 またもや、賊徒の先頭全体を火炎が呑み込む。

 だが、やはり、さらに後ろから襲ってくる。

 火炎に包まれる仲間を無視して前に出てくる。

 

「イット、ユイナをすぐに呼んで──。屋敷の庭に雪崩れ込まれるわ──」

 

 焼かれる暴徒を踏みつけて越えてきた暴徒の先頭が、ついに、屋敷周りの土堀に辿り着いた。

 後ろからやってくる暴徒たちに押されるように、次々に堀に飛び込む。

 その後ろからも、どんどんと飛び込む。

 

 しばらくすると、堀に人が満ちて、その上を暴徒集団が通過してくるようになった。

 昨日破壊された外壁を突破される。

 

 荷箱の壁が押されて、こちら側に倒され始める。

 そこも先頭が越えてきた。

 

「来るわよ──」

 

 イライジャは兵たちに叫んだ。

 シャーラがなにかを彼らの後ろから叫んでいるが、暴徒たちの声が大きくて、なにも聞こえない。

 集まらせた王兵たちが、ひとりふたりと端っこから逃げ出し始める。

 

 王兵と暴徒がぶつかる――。

 

 暴徒たちと王兵たちの戦いになった。

 外壁のあった場所には、まだミウとユイナが準備した防護結界が魔石で残っている。

 だから、目に見えて暴徒たちの動きがゆっくりとなっている。

 しかし、後ろからやってくる仲間に彼らは押し倒されている。

 その後ろの者も動きが緩慢になるが、その後ろから暴徒がまた押し避けるように襲ってきて……。

 イライジャは息をのんだ。

 

 動きがとまった先頭側の暴徒たちがどんどんと突き倒される。

 しかし、彼らは構わずに進んでくる。

 王兵たちが暴徒に呑み込まれだす。

 

「最後です──」

 

 ミウが叫んで、土掘の中が爆発して、再び数百人の暴徒が吹き飛ぶ。

 しかし、無駄だ。

 

 なにもなかったかのように、さらに後ろから暴徒が押し寄せて、またもや土掘のあった部分が人で満ちる。

 

「わっ、もうこんな状況──?」

 

 汗をかいているユイナが、イットと一緒に櫓に駆けあがってきた。

 一方で屋敷内の庭に暴徒に雪崩れ込まれた。

 あっという間に、王兵たちの姿が屋敷の庭から消えてしまった。

 

「シャーラ──」

 

 彼女がどうなったかわからない。

 屋敷内に戻ってきてくれればいいが……。

 

「あんたら、次いくわよ──。イットとマーズは、庭の王兵の収容を支援。ただし、暴徒に入り込まれそうになったら、外に残っていても封鎖して」

 

 イライジャは言った。

 ふたりが階下に駆け下りていく。

 

「ミウ、地面に魔道を注いで──」

 

「はい、ユイナ──」

 

 屋敷内の庭には、ユイナが埋めた炸裂弾に変えた魔石がたくさん埋まっている。ユイナが準備したものであり、昨日のうちに埋めたのだ。

 それは、魔石自体に魔力が満ちているので、発火するだけの小さな魔力だけで魔道は発動する。

 

 大音響が地面で次々に起きる。

 一応は王兵たちがいた場所は避けているが、そっちに王兵が逃げてしまっていたら知らない。

 全員に、炸裂弾が埋めてあるので、示された場所以外は動くなと告げていたので、爆発に巻き込まれたとしても、ある程度自業自得だ。

 

 屋敷周りに溢れかけていた暴徒が爆風に吹き飛ばされて倒れていく。

 少しだけ屋敷の庭の暴徒の数が減る。

 

 やっとシャーラの姿を確認した。

 打ち合わせの通りに、屋敷の扉のひとつから入ってきた。

 ほっとした。

 十人ほどの王兵が続く。

 

 そこからイットとマーズが出る。

 群がった暴徒を斬り倒していく。

 さらに三人王兵が戻る──。

 

 イットとマーズが建物側に戻った。

 

「いって──」

 

 イライジャが叫ぶよりも早く、外の者を収容した扉の前の地面が噴き飛び、数十人の農民の暴徒が身体を千切られて転がる。

 

「残り全部──」

 

 ユイナがミウに叫んだ。

 もう一度、庭全体で大爆発が起きる。

 立っている暴徒がいなくなる。

 

 だが、すぐに外から暴徒が屋敷の庭に入ってきた。

 

「もう、仕掛けはないわ──」

 

 ユイナが蒼い顔で叫んだ。

 

「わかっている。ありがとう──。でも、戦いはこれからよ──」

 

 暴徒たちが屋敷の壁に群がり、手も持っている道具で叩き始める。

 それがあまりの数なので、屋敷全体がぐらぐら揺れ始めた。

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