【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
火が見えた。
ゲーレの里の中心にある屋敷が燃えている。その周りには凄まじいほどの暴徒だ。
里の半分を埋め尽くしているだろう。
ゲーレの里に台上にあがる森の里側の出口だ。
一郎たちは、里に繋がる小径ではなく、側面になる側面の森の中を進んできて、里の外縁部にあがってきた。
小川が流れ落ちる沢沿いの、人間族ではとてもじゃないが進めないような山間部だったが、さすがは森の民と呼ばれるエルフ族だ。
一郎をはじめとする人間族の者たちを引っ張っていきながら、縮地と呼ばれる魔道で、楽々に斜面を登り進んでいった。
その結果、あっという間に里の外縁部に辿り着き、いまこうやって、里の状況を確認することができた。
それにしても、エルフ族たちの運動神経は素晴らしい。
こんなところ、登れるはずがないと思う小川が走る岩肌を簡単に縮地だけでなく、手と足だけであがっていくのだ。
道ではない場所をあがってきたことで、屋敷を囲む賊徒たちには、一郎たちの存在は、まだ気がつかれていないと思う。
「ロウ様──」
「ロウ──」
エリカとシャングリアが素早く寄ってきた。
ふたりとも、すでに剣を抜いている。
一郎がひと声、許可すれば、なにも考えずに、すぐにでも飛び出していきそうである。
また、一郎の前に立つコゼは、逆に遠くにいる燃えている屋敷になど、まったく気にとめてなさそうだ。
コゼが見ているのは、かなり離れた位置にいる賊徒軍の方向だ。
あっちは、しっかりと陣を構えて静観の構えである。コゼは今回は一郎の護衛に徹することになっている。
だから、位置的にこちらに近い賊徒隊の方に意識を配っているのだろう。
しかし、いずれにしても、両方とも距離がある。
コゼもじっと視線を送っているだけで、いまのところ緊張感は解いている。
「待て──。急ぐな。まずは状況把握だ。迂闊に出ても、暴徒に阻まれる。それに、あの賊徒団の陣が動いて喰い千切られるぞ。情報のとおり、無敵の騎馬隊までいるんだ」
一郎はとりあえず止めた。
飛び出したいのは一郎も同じだ。
しかし、なにもわからずに突っ込んでも、あの暴徒の海を越えて辿り着けるかどうかわからないし、間違いなく賊徒の軍が襲撃にやってくる。
また、賊徒団の中に混じっている深紅の旗を掲げる騎馬隊のすごさは、享ちゃんが集めてくれた情報だけで十分に認識できた。
「里全体に、移動術を防ぐ逆結界がかけられています……。それに魔素が薄いです。魔道が妨害されています」
「そうですわね……。ところどころに、魔道を阻害する魔石が埋められているようです……。いえ、ところどころではありませんわ。あちこちです……」
スクルドに次いで、ガドニエルが言った。
「つまり、どういうことだ? 魔道が使用不能ということか?」
一郎は、遠目をこらしながら訊ねた。
屋敷に火がかけられて燃えているように思えるが、よく見れば、燃えているのは屋敷の周りに群がっている暴徒たちだけのように思える。
もしかしたら、特別な魔道を使って屋敷に結界を張った状態で、屋敷の周りに火をつけているのではないだろうか。
そうであるならば、間に合ったのか?
いずれにしても、すでにクグルスを先に送り込んだ。
いつもはおちゃらけたあいつだけど、実は淫魔師としてのレベルが限界突破した一郎のしもべである魔妖精ということで、能力は桁外れに跳ねあがっている。
侵入に成功することを疑ってもいないし、そのクグルスが戻ってこないということも、イザベラたちが無事であることの証ではないかと思う。
「いえ、わたしなら、薄い魔素を集めに集めて一発くらいなら発動させられます──。お任せください。どれを蒸発させればいいですか? あの屋敷周りですか? それとも、あっちにいる人たちですか──。」
スクルドと一緒に、一郎の後ろにくっついていたガドニエルが張り切った声をあげた。
驚いて振り返ると、いまにも大魔道を駆使するような仕草だ。
だが、蒸発──?
なにをするつもりだ?
「わっ、待ってください、ガドさん。そのまま魔道を打たないで──。ガドさんの魔道だと、こっちから打っても向こう側で魔素切れで発動しないかもしれません。それどころか、向こう側の魔素を根こそぎ食い尽くして、あっちの屋敷側の結界も壊れるおそれがあります──」
珍しくスクルドが慌てたようにガドニエルを止めた。
「なにをいうのです、スクルド様。そんな失敗はしません。向こうの発動側の魔素を限界まで集めて、その範囲で広域魔道を発動します」
ガドニエルは不満そうに言った。
「待ってよ、ガド。だから、あっちの魔素量を読み間違えば、魔素を使いすぎて、ミウの結界まで壊れてしまうかもしれないということよ。とにかく待って」
エリカが口を挟んできた。
意味がよくわからない。
とにかく、魔道は都合の悪い状況だということなのだろう。
「こちらの力点側と、向こうの発動側は等価量の魔素を使いますから、この状況で強引に使用すれば、向こう側の魔素を強引に吸収してしまったうえに、魔道陣が魔素不足で崩壊して、発動しないと思います。一方で、向こうにはミウがいますから、限定されている魔素を利用して、結界などを構築しているはずですわ。その魔素を奪って、結界が崩れるかもしれません」
スクルドが早口で言った。
焦っている口調だ。
「そんなことはわかっております。わたしに魔道学の基礎理論を紐解く必要はありません」
「つまりは、この里の中では、魔道は一切、遣わない方がいいという理解でいいか?」
一郎は、じっと里側に視線を送りながら、スクルドたちを振り返ることなく訊ねた。
「いえ、制御された中級以下の魔道であれば問題ないかと……。ただ、大魔道は危険です」
「じゃあ、ガドは今回も役立たず? あんた、制御された魔道なんて使えないでしょう?」
すると、ずっと黙っていたコゼが
「な、なにを言っているのです、コゼ様──。わたしは、エルフ女王なのですよ──。魔道でわたしの上をいくものなど……」
「そうだと思うけど、だって、なんだかんだで、ガドが失敗している姿しか見てないし……。まあ、安定しているということであれば、淫乱なのは別として、そのスクルズかなあ……。次はミウかしら……」
コゼが続ける。
一郎は黙っていた。
正直にいえば、一郎もそう思っていたからだ。
このガドニエルという女王様は、何事も大雑把で、単純なのは可愛いが、どうにも繊細さに欠ける気がするのだ。
「だから、今度こそ、汚名返上するのです──。ご主人様、どうぞ、なんでも命令してください。今度こそ、スクルド様よりも、お役に立ちますから──」
ガドニエルが興奮したように声をあげた。
「まあ、待てって……」
一郎はガドニエルをなだめた。
そして、じっと一郎は目の前に拡がる戦場を眺め続ける。
ただ、見ているだけじゃない。
能力を全力で駆使して、魔眼でステータスを読み続けている。屋敷を囲んでいる暴徒のほとんどは、ただの農民だ。戦闘力の数字も低いし、武芸に通じるジョブを保有する者もほとんどいない。
手にしている武器も、武器ともいえないような農具や棍棒などだ。
集まっているのも、男だけではない。
女、子供、老人など雑多だ。
それに対して、里の一角で整然を隊列を作っている軍隊のような一団は、それぞれがそれなりの戦闘員だ。また、驚いたことに、半分以上は銃を持っている。歩兵隊の後ろには騎馬隊もいるが、そっちも銃を持っている。しかも、一騎につき、三挺だ。
魔道を封印する魔石具の処置といい、大量の銃の存在といい、かなり強力な軍だ。
「ロウ殿、親衛隊は展開終了しています。言われていることも準備万端です。いつでも、わたしにご指示をください」
ブルイネンが目の前に出現した。
これが縮地という魔道だ。
一郎の理解では、いわゆる、「瞬間移動」という魔道だろう。視界にとめた場所に一瞬にして移動できる。ただし、瞬間移動する場所と場所のあいだに、なんらかの障害物があれば、それに阻止されるか、高速でぶつかってしまい、最悪死ぬこともあるそうだ。
一緒にやってきたブルイネン率いる親衛隊二十五人は、里の外縁部の森の中に溶けるように分散している。
だが、ブルイネンの号令ひとつで、そのまま集団で行動できるということだ。
また、親衛隊のうち、五名はここにはおらず、里に向かう直前で、享ちゃんと一緒にガヤの城郭に向かってもらっている。
情報に接する限り、こんな状況になっている責任のほとんどは、ガヤにいる南王軍司令官のリー=ハック将軍みたいだ。
もちろん、こんな里で賊徒に包囲される事態を許したのは、イザベラたちの危機意識のなさと、状況に対する甘さが原因ではある。しかし、リー=ハック司令官が意図的にこの状況を作ったのは明白だ。
完全な王家に対する裏切りだ。
だが、一方で、リー=ハック司令官が賊徒に与している様子もなく、また、王家への叛乱にしては、周辺貴族に対する根回しなどの実態も皆無だ。その態度に合理性がない。
だから、一郎はリー=ハックについての調査を享ちゃんに頼んだのだ。享ちゃんのことだから、なんらかのことを調べてきてくれるだろう。
だが、まずは、目の前のことだ。
あの燃えている屋敷の中に、イザベラたちがいる。
モーリア男爵邸で一足先に王都に戻したイライジャたちも、紆余曲折の末に、イザベラを守るために、一緒に籠城してくれているというのも把握している。
イライジャたちには感謝しかない。
しかし、状況を把握すればするほど、なぜ、イザベラがわざわざ南域にやってきたのかわからない。
いずれにしても、南域に近づくにつれ、イザベラたちがゲーレと呼ばれる小里に入ったというのは事実だということがわかった。
また、昨日のうちに、そこを賊徒が囲んだというのもわかった。
それで、本来であれば、夜営を予定していたのを取りやめて、夜通し進んできた。
嫌な予感がしたのだ。
イザベラたちは大丈夫かと、そればかり考えて、夜を徹して突き進んだ。
もっとも、すべての夜の時間のあいだずっと起きていたのは、一郎のほかには、スクルドとエリカと、道をいくらかわかっているシャングリアだけだ。
ほかは、一郎の亜空間で待機して休んでもらった。
全員を外に出したのは、この里にあがる街道の分かれ道に辿り着いてからだ。
そこで、享ちゃんと別れたというわけだ。
「スクルド、魔道の使用が制限されているというのは、どこまでだ? つまり、空のことだが」
一郎は、指で上を指した。
「えっ、空ですか?」
スクルドは一瞬きょとんとした表情になったが、すぐに口を開く。
「……十ペスほどです。魔素を減少させる魔石具は、地中に埋められているようですので……」
十ペスというのは、一郎の感覚では“十メートル”くらいだ。以前にこの大陸で一般に使われている単位を教わったとき、一ペスというのは、一般的なエルフ族の一歩の幅が基準になっているということだった。
つまりは、魔素の減少の影響は、十メートルまでだ。
それより上は影響ない……。
「だったら、そこの小川の水をありったけ、あの農民たちの頭上に転送しろ。ずぶ濡れになるまでだ。足首まで浸かるほどに、暴徒たちを水浸しにできれば、もっといい」
「水を転送するということですね? 転送したあとは、ただ落ちるだけなので問題ありません」
スクルドがすぐに小川の水を屋敷側の上空に転送し始める。
豪雨のような雨が降り出し、暴徒たちが混乱しているのがわかる。
「ご主人様、わたしも──。わたしもですわ。水魔道を発動させます。あっちの空に向かって発動させればいいのですよね──?」
ガドニエルだ。
一郎は微笑んだ。
「そうだ。じゃあ、一緒に頼む。だが、ガドにはもうひとつ頼みたいことがあるからな。魔力は残しておいてくれよ」
「わたしの魔道力は無尽蔵です。やりますわ──」
一郎に命令されたのが嬉しそうに、魔道を振るいだす。
スクルドが次々に川の水を空に飛ばし、さらに、現在生きている者の中で最高の魔道遣いと目されているエルフ女王ガドニエルの全力の魔道だ。
あっという間に、それこそ天の湖をひっくり返したような大豪雨が暴徒たちに襲いかかる。
「なるほど、水をぶっかけて、あいつらの戦意を失わせようということだな?」
シャングリアが声をかけてきた。
すでに大豪雨が里に降りかかっている状態であり、屋敷を囲んでいる暴徒たちの姿がよく見えなくなっている。
もちろん、水は賊徒側にも降り注がせている。
「もっと、直接的なことさ……。ガド、水はもういい。この鉄の玉のひとつひとつにありったけの電撃を浴びせて、同じように暴徒の上から落としてくれ」
しばらく水をかけ続けさせてから、一郎が取り出したのは、五十個ほどの鉄球だ。
ひとつひとつは人の顔の大きさくらいの大きさであり、細い鎖がついている。
もともと、責め具として使おうと、収納していたものであり、ラザニエルが水晶宮に戻る直前に、ノルズに鼻輪をつけて、鉄球を鼻輪に繋げて調教をしたという話を聞き、是非とも女たちの誰かに試したいと集めていたのだ。
残念ながら、使う機会のないうちに、ほかの用途で使用することになったが、まあ、仕方ないか。
「わかりました。ありったけの電撃を浴びせます」
ガドニエルが言った。
「五発ずつ、間をおいて、十回──。音が出せるなら雷のような音を出してくれ」
一郎はスクルドにも水を撒くのをやめさせた。
注文どおりに、水が屋敷に集まっている大群衆の足もとを浸している。できれば、賊徒軍の連中のところも同じようにしたかったが、あっちは小高い場所に陣取っていて、あまり水は溜まっていない。
まあいいか……。
だが十分だ。
あれだけ濡らしてやれば、連中の持っている大量の銃はほとんど役に立たないと思う。
この世界に存在する銃は、まだ火縄のはずだ。
「いきます──」
五個の鉄球が放物線を描いて宙に飛んでいく。
大きな雷のような音が響き、一番高い位置で、ガドニエルが後追いで放った電撃に当たって、そのまま群衆に向かって落ちていく。
水は電気を通電する。
大きな電荷を帯びた鉄球が水を含んだ地面に当たれば、電荷は水側に伝わって拡がり、大勢の人間を感電させると思う。
五発の鉄球が落ちるとともに、直接当たった者はもちろん、周辺にいたものが百名ほど感電して吹っ飛んだ。
それが五箇所──。
「もう一回──」
同じことをもう一度する。
再び、爆発音のような音とともに電気を帯びた鉄球が群衆の集まっている場所に落ちていく。
またもや、一度に大勢の人間が感電して倒れる。
さらに、落とす位置を示して、三回──。四回と繰り返す。
暴徒たちは、鉄球に直撃される者はともかく、直接に当たっていない者たちが同時に倒れる意味がわからないみたいだ。
「天が割れた」という悲鳴も聞こえだす。
そして、大混乱を始めだした。
「逃げ始めたわ──」
エリカが声をあげた。
一郎は意図的に、集まっている暴徒を高台にいる賊徒側に向かわせるように落とさせた。
暴徒たちがうまい具合に賊徒の陣側に我先に逃亡していく。
「いいぞ、ガド──」
「はいっ」
ガドニエルが褒められて、嬉しくて堪らないという笑顔になる。
こんなにちょっとした褒め言葉が嬉しいのか?
それからも、轟音を立てて、鉄球を群衆に落とすということを続ける。
鉄球が落ちるたびに、大きな感電を起こして一度に百人以上が倒れていく。
やがて、屋敷の周りに、立っている者がいなくなっていた。
残っているのは、感電して倒れている者ばかりだ。死んでいる者もいるだろうが、大部分は死んでもいないと思う。
感電による負傷はあるだろうが、ガドニエルやスクルドにより、文字通り身体を消滅させられるよりはましだっただろう。
また、逃げていった暴徒の混乱にまき込まれて、賊徒の陣もかなりの混乱が発生している。
「ブルイネン、前進だ──。歩いて整斉と進めばいい──。エルフ王家の旗と、ボルグ家の旗を掲げろ。堂々とな──。みんな行くぞ──。コゼ、俺の護衛を頼む。ほかの者は指示があるまで自由に動いていい」
一郎は森の外に出た。
向かうのは、あの屋敷だ。
すでに、炎は消えかけている。ただ、屋敷そのものはびくともしていない。
「わかりました──。コゼ、頼むわね。シャングリアとわたしで、前を固めます」
エリカが叫んだ。
そのエリカは、剣を収めて、弓矢を持っている。
シャングリアはいつもの剣だ。
「任せて……。ご主人様を襲うのがたとえ、鉄砲の弾でも切り捨てるわ」
コゼが一郎の前を進みながら、二本の短剣を構えたまま頷いたのが見えた。
そして、進んでいく。
森から一斉にブルイネンたちが出る。
一郎たちが最後尾になるように、極端な半楕円形に大きく拡がる。一郎のいるすぐ前ではエルフ王家の旗と一郎の使うボルグ家の旗がたなびいている。
ボルグ家の旗は、逆さ塔と二匹の蛇だ。
ここにいる一郎の女たちの全員の股間に施している隠し彫りであり、淫魔術で二匹の蛇を肌の上を泳がして愛撫したり、塔を股間やアナルに挿入させることもできる。
あれで辱められた経験が一度や二度ではない三人娘は、それぞれに、ちらりとボルグ家の旗を眺めて反応していた。
一郎は思わず微笑んでしまった。
里を横切って進んでいくが、しばらくは、特に賊徒の妨害はなかった。
すでに暴徒たちは、屋敷の前からはいなくなっている。そして、暴徒が逃亡していった側の賊徒の陣の混乱も続いている。
そして、地面にはまだ水が溜まっていて、まるで底の浅い川の中を歩いているようだった。
一郎たちは足首から下を濡らしながら、ゆっくりと進んでいった。
そのときだった。
地面が揺れ出す。
混乱している賊徒たちの中から、深紅の旗を先頭にした騎馬隊が飛び出したのだ。
この賊徒の最大戦力は、あの騎馬隊──。
その情報は、享ちゃんが集めに集めてくれた情報の中にあった。
あれこそが、ドピィという男が率いる賊徒団の強さの象徴だ──。
一郎は静止した。
「ブルイネン──」
一郎は叫んだ。
降らせた水で、里全体がぬかるみ状になっていて、騎馬が脚をとられて勢いを失っているはずだが、それでも速い──。
あっという間に、一郎たちに迫ってくる。
もうすぐそばだ。
数百騎の騎馬隊がまっしぐらに一郎に向かって突っ込んでくる。
すごい──。
あれは、騎馬隊の集団ではない──。
まるで一匹の竜だ──。
それが口を開けて、牙を剥き出しにして襲いかかってくる錯覚に陥る。
ブルイネンたちは、すでに停止して、その場にしゃがみ込んでいる──。
賊徒の騎馬隊が襲いかかる。
親衛隊の者たちが、戦わずして左右に散って逃げる。
賊徒の騎馬隊は、彼女たちに武器さえ向けることなく、そもまま一郎と旗を目がけて襲いかかる。
凄まじい恐怖感だ──。
逃げたくなるのを一郎は懸命に我慢した。
ありったけの気力をふり絞る──。
「来るわよ、みんな──」
エリカが絶叫した。弓を構えている。しかし、まだ射ない。
それなりに距離はあるものの、一郎と賊徒の騎馬隊のあいだには誰もいない。
地面がさらに揺れる──。
先頭の騎馬に騎乗するのはふたり──?
槍を構える先頭の男の後ろには、女が乗っている?
一瞬、一郎は目を疑った。
「ガドさん──。防護結界を──。二重にかけましょう」
「任せて──」
目の前の空気の層ができる。
あっという間に、騎馬隊との距離がなくなる。
「いけえっ」
一郎は大きく手をあげた。