※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

773 / 1059
 第21話  南方軍乗っ取りと賊徒軍緒戦【南域】
773 淫魔師と淫気と魔妖精のお話


「ご主人様、しっかりしてください」

 

 コゼが振り返って一郎の腕を支えるようにがっしりと掴む。

 後ろにいたスクルドとガドニエルも、背中から支えた。

 だが、立ちくらみはすでに解消している。

 問題ないのだ。

 一郎は、大袈裟に心配する女たちの対応に、思わず苦笑してしまう。

 

「ロウ様、コゼに掴まって──。クグルス、いま、ロウ様はどういう状況なの?」

 

 エリカだ。

 恐ろしく動揺しているのがわかる。

 そんなに心配してくれるのは嬉しいが、あのパリスとの一件で倒れて以来、淫気切れについては、エリカは本当に過保護だ。

 だがいいこともある。

 それ以前は、人目のある羞恥責めは死ぬ気で嫌がったが、そういう“プレイ”の方が淫気の収集率がいいのだと言うと、渋々気味だが受け入れてくれるようになった。

 だから、時折、その手を使わしてもらっている。

 なにしろ、心の底から恥ずかしがるエリカを羞恥責めで悪戯するのは愉しい。そのくせ、一郎にかかれば、信じられないくらいに身体が敏感で感じやすく、かなりの露出癖でもある。本人に自覚がないのが、本当に面白いのだ。

 

「大丈夫だよ。心配ない。ちょっとくらっとしただけだよ。それよりも、まだ戦いの最中だ。気は抜けないぞ」

 

 一郎は笑った。

 すでに勝敗は決している様相とはいえ、油断していい状況ではない。

 奇襲的なやり口で潰走させたが、相手の数は圧倒的だ。集まられて再攻撃をされれば、再び包囲の状況に陥ってしまうだろう。

 数が違いすぎるのだ。

 できれば、あのとき賊徒の頭領を殺せてしまっていれば安心だったが、残念ながら取り逃がしてしまっている。

 だから、再び集まることがないように、追撃をかける必要があるのだ。

 

 一郎はもう一度全体を確認した。

 いまは、多くの屍体を残して大部分の賊徒も農夫たちも里から逃げ散っていこうとしている状況だ。

 ブルイネン率いる親衛隊や、あとから参加したイットやマーズを含む王軍は、距離をとって追い払う態勢だ。

 深追いはしていない。

 それにしても、王軍は随分と人数が少ないが、あれだけなのだろうか?

 イットやマーズと一緒に王太女旗を掲げて外に出てきたのは、十数名しかいないみたいだ。

 

「なら、指示だけしてください。わたしたちがやります。それに亜空間をお使いになっていただければ、瞬時に淫気も補充ができるではないですか?」

 

 エリカは、ブルイネンやシャングリアを大声で呼んだ。

 一方で、一郎は、またもや苦笑してしまった。

 とにかく、エリカは真面目なのだが、その内容が早く女と性交を結べというものなのだから、考えてみれば少し不謹慎かもしれない。

 なにしろ、ここはまだ戦場であり、たくさんの屍体が地面に転がっている。

 一郎としても、もう少し場所を選びたい。

 まるで、空腹なので食事をするようには、女を抱きたくはない。破廉恥で馬鹿げた遊びをしていても、一郎としては、一郎なりに、真面目に女性に向き合っているのだ。

 

「まあ、落ち着きなよ、エリカ。ご主人様は、お前みたいに大雑把にできてないんだぞ…。そもそも、ご主人様だって、ちゃんと気分が乗らないと“えっち”しにくいんだ。その雰囲気を作るのは、一番奴隷のエリカの役目だ。ちゃんと仕事しろ、エリカ」

 

 クグルスが冗談混じりの物言いで言った。

 しかし、その冗談を冗談と受けとめないのがエリカだ。

 顔を真っ赤にして、表情を険しくする。

 

「わ、わたしは、ちゃんとしているわよ──。そもそも、雰囲気を作れってなによ──?」

 

「もっとスカート短くするとか。横に切り込みいれるとかな。ちらっ、ちらって下着を見せろ──。そうすれば、ご主人様も、きっと戦いの途中でもその気になる」

 

 クグルスがけらけらと笑う。

 明らかに、からかっている態度だ。

 

「こ、これ以上短いと、気になって戦えないわよ──。それに切り込みってなによ──」

 

 案の定、エリカが真っ赤な顔で怒鳴った。

 一郎は軽く噴き出してしまった。

 

「とにかく、いいか、よく聞け──。ご主人様は、それはそれは、偉大なる淫魔師様なんだ。本当に偉大すぎて、お前らが天空神様と呼んでいる嘘つきクロノスなんかより、ずっとクロノス様なんだ、エリカ」

 

「嘘つきクロノスってなによ……」

 

 エリカがむっとしている。

 

「いいから聞け。だから、偉大なるご主人様は、そのお力が強いんで、たくさんの淫気が必要なんだ。もう一度、言うぞ。たくさんの淫気だ──。それが毎日必要なんだ。だいたい、お前ら、ご主人様のお力で、強くなったり、頭がよくなったり、魔道がうまくなったりしているんだろう──。ぜええんぶ、ご主人様のお力が源だ。ずうううっと、ご主人様が力を補充しているんだ。つまりは、ご主人様はなにもしなくても、ずっと淫気を使ってるんだ。こんなに大所帯になったんだから、毎日なくなる淫気だって量は多いんだぞ──。だから、毎日補充しなければ、すぐに足りなくなのは当たり前だ──」

 

 クグルスが言った。

 

「えっ、そうなの?」

 

 エリカはきょとんとしている。

 

「へえ、そうなんですか?」

 

「そうなのですね?」

 

 コゼとガドニエルだ。

 驚いたみたいだ。スクルドも興味深い表情になっている。

 だが、それは一郎も知らなかった。

 いや、そもそも、淫気というエネルギーのことは、よくわからない。なぜ、魔道のような術が遣えるようになったのかも不思議だ。

 スクルドやミウの使う魔道とよく似ているなという認識があるだけだ。

 もちろん、一郎も、粘性体術や亜空間術、支配している女限定の治療術などを使うが、その力の源が魔道遣いたちが力の根源とする自然の中の「魔素」に対して、男女の性交で発生する「淫気」だということはわかっている。

 しかし、それ以上のことは、深く考えたことはない。

 いまクグルスが口にしたみたいに、女たちの能力向上の力が、毎日、一郎から流れているという認識もなかった。

 

「そうだ──。ましてや、今日、呼び出されたときに聞いたけど、夕べはお前らを亜空間に入れて、ご主人様は外でえっちなしでいたんだろう? そんなことすれば、淫気もなくなるぞ。亜空間に人を入れるなんて、エルフの女王様にもできない大魔道だろう──。その分、淫気も大量消費するんだ」

 

 クグルスが言った。

 

「そうですわね。確かに、人を亜空間に収納するというのは、耳にしたことはありません」

 

 ガドニエルだ。

 

「まあ、そうとは知りませんでした。ならば、あたしたちだけ、休ませてもらって、申し訳ありませんでした……」

 

 そして、コゼが言った。

 夕べは、早くこの里に到着するために、いつもなら就寝をして、女たちを抱く時間を削って、夜を徹して移動した。

 一郎だけはこちら側にいないと移動できないが、ほかの女たちについては、そのあいだ、亜空間で休んでもらって問題ない。

 一郎と一緒に、こちら側で行動したのは、南方までの経路がわかるシャングリア、縮地術を使うスクルズ、そして、護衛だとして断固として亜空間で休むことを承知しなかったエリカだけだ。

 コゼは休んだ側だったので、謝ったのだろう。

 一郎は首を横に振った。

 

「淫気というのが、俺の力の元というのは知ったけど、そんなに燃費が悪いとは知らなかった。俺のせいだ」

 

 一郎は言った。

 

「“ねんぴ”? まあいいや……。とにかく、ご主人様も、気をつけるんだよ。ここは魔素が極端に薄い状況になっているよねえ。そういう場所で力を使うと、淫気も大量に減るからね。まあ、まだ倒れるほどじゃないけど、さっきは一気に減ったから、多分、身体がびっくりしたのさ」

 

 クグルスが笑った。

 

「それにしても、あれねえ……。あんたって、頭の軽い悪戯な妖精なぐらいにしか思ってなかったけど、結構、なんでも知っているのねえ。びっくりしたわ」

 

 すると、コゼが横から口を挟んだ。

 

「えっへん──。まあ、ぼくも、ご主人様の(せい)しもべだしね。ぼくたち淫魔族にとっては、本物の淫魔師様なんて神様も同じだ。ご主人様の能力があがれば、ぼくの能力も自動的にあがる。ぼくなんて、いまや、魔妖精の族長様よりも力があるんだよ」

 

「族長?」

 

 一郎は訊ねた。

 

「うん、族長。ぼくたちの女王様さ。そういえば、族長が一度だけでいいから、ご主人様にお礼したい言ってたよ。ご主人様のおかげで、ぼくは一族で一番の働き妖精なんだ。なんといっても、ご主人様にしもべにしてもらってから、ぼくが巣に運ぶ淫気なんて、桁外れだからね」

 

 よくわからない。

 働き妖精?

 巣に淫気を運ぶ?

 そういえば、クグルスのような魔妖精の生態など聞いたこともないことを思い出した。

 

 ただ、いまの言葉で想像したのは、一郎の前の世界における「ミツバチ」のような生態だ。

 ミツバチは、集団生命体に近く、交尾をして子孫を作るのは女王蜂とオス蜂であり、それに対して、生命維持に必要な食糧の蜜を採集するのは、数多くの働き蜂と称するメス蜂の役目だ。役割が定まっていて、働き蜂のメス蜂は、子孫を残すための活動はしないし、生殖の役目の女王蜂とオス蜂は食糧集めはしない。役割が分化して集団で生きているのだ。

 それに似ているのかなと思った。

 

「あんたの族長や仲間? 勘弁してよ。あんたみたいな悪戯者が大勢やって来たら、大変なことになるじゃないのよ」

 

 コゼが笑った。

 すると、クグルスもけらけらと笑い出した。

 

「族長様は、子供作りで忙しいから巣を離れない。お礼をしたいと言っているのは口だけのことだよ」

 

「族長様は子孫を作るが、ほかのことはしない。お前たち、働き妖精は、淫気を集めるが、子孫を残す行為はしない。そういうことか?」

 

 一郎はかまをかけた。

 

「へーえ。さっすが、ご主人様。ぼくたちのこと知っているんだね。あんまり、人族には知られてないのに」

 

 クグルスがちょっと驚いた顔になった。

 そのとき、隊をまとめたブルイネンがやっとやって来た。

 敵の騎馬を奪って、馬に跨がっているシャングリアもいる。

 さらに、イットやマーズも来た。

 一郎は、彼女たちに顔を向けた。

 

「イットとマーズは悪かった。本当は戦いのようなことを避けさせたかったから、先に王都に帰したんだが、逆に酷い戦いに巻き込ませたな……。だけど、話はあとだ。追撃をかける──。疲れているだろうが合流してくれ」

 

「あっ、は、はいっ」

 

「はい、先生──」

 

 イットとマーズは、ものすごく緊張感のある顔だったが、一郎が話しかけると、目に見えて安堵した表情になる。

 おそらく、かなり苛酷な戦いだったのだろう。

 一郎の顔を見て、ほっとしてくれたなら嬉しいことだ。

 

「……みんなは無事か? 怪我した者は? 死んだ者は?」

 

 一郎は訊ねた。

 

「たくさん死にました……。でも、あたしたちは元気です……。王太女様も……。シャーラ様も……。イライジャさんも、ミウも、ユイナも……。先生のおかげで生き延びました……」

 

 すると、マーズがしっかりと応じた。

 よかった……。

 一郎もほっとした。

 

「よし──。ブルイネン、全体の指揮を頼む。俺は屋敷に向かう。ほかの者はブルイネン隊に加われ。逃げていった者を追いかけて、しばらくやって来れないように、打ち砕いてこい……。あと、スクルドとガドは、協力して埋まっている魔石を探して壊してくれ。魔素が復活すれば、大軍が戻ってきても、今度は魔道で粉砕できる……。それと、ガドにブルイネン」

 

「はいっ」

 

「はい」

 

 ふたりが一郎を見る。

 

「追撃はエルフ族の旗をおろして、王太女軍の旗だけを掲げさせて欲しい。今後のことも考えて、これは姫様が行った功績にする必要があるんだ。その埋め合わせはするから……」

 

「いいええ──。まったく、問題ありません。すべてはご主人様の思し召しに従います──。ええ、もちろん。よいですね、ブルイネン──」

 

 ガドニエルがにこにこと嬉しそうに言った。

 とにかく、この愉快な女王様は、一郎がなにを頼んでも嬉しそうな顔になる。しかも、内容をよく聞かない。

 ブルイネンも笑っているが「承知しました」と答えた。

 

「あっ、ちょっと待ってください」

 

 しかし、エリカが異議を唱えた。

 

「どうした?」

 

 一郎は、エリカに言った。

 

「全員が離れるのではなく、誰かロウ様と一緒に……。もちろん、コゼには護衛をしてもらいますが……。そうだ──。ガドは、亜空間に入って、ロウ様と一緒に戻ったらいいわ。魔石探しは、屋敷の中にユイナがいるなら、あいつに手伝わせましょう。ガドは、ケイラ様から、自分が戻るまで、ハロンドール王国の王族には、勝手に会うなって言われてたし、亜空間に入れてもらって、隠れてれば……」

 

 エリカが言った。

 しかし、ガドニエルは、エリカの言葉を遮った。

 

「大叔母様の言いつけなんて、関係ありませんわ。さっきも、そんなには活躍できなかったし、ご主人様のお役に立つことを今度こそ、お示しするのです」

 

 ケイラ=ハイエルこと、享ちゃんからの言いつけというのは、ガヤに向かった享ちゃんがガドニエルに残した言葉のことだ。

 ガドニエルが辺境候軍や男爵領で、女王としては、かなり(はじ)けた態度だったと知った享ちゃんが激怒し、ガドニエルに対して、ハロンドールの王族との面会は自分のいる場面でないと禁止だと言い渡したのだ。

 その王族であるイザベラが、向こうの屋敷にいる。

 ガドニエルには従うつもりはないみたいだが……。

 

「いいのか? すぐに、ロウに抱かれる役目だぞ」

 

 するとシャングリアが口を挟んだ。

 

「亜空間に行きますわ。よろしくお願いします」

 

 ガドニエルが満面の笑みを浮かべた。

 

「あのう……。だったら、屋敷にミウがいます。ご主人様に会ったら元気になると思うんです……。ミウもお願いできないでしょうか……」

 

 そのとき、イットが遠慮する口調で言った。

 一郎は、彼女に視線を向ける。

 

「ミウがどうかしたのか?」

 

「たくさん人を殺しました……。ミウがいなければ、多分、昨日のうちに全員死んでいたと思います。だけど、ミウはこれが最初の戦で……」

 

「ああ、わかった……」

 

 最後まで言われなくても、十分に悟った。

 もともと、あのモーリア領で、先に何人かを王都に戻したのは、辺境候領域でおそらく、戦いになるかもしれないという予感があったからだ。

 魔道遣いとしては、一気に一流の能力に達したミウだが、命の奪い合いには早いことはわかっている。

 だから、遠ざけようと思ったのだ。

 しかし、あのときの一郎の判断ミスが、むしろ、彼女をもっと苛酷な状況に陥れてしまったらしい。

 

「……ミウのことも任してくれ」

 

 一郎は言った。

 イットがほっとした顔になる。

 改めて、一郎は全員の顔を見た。

 

「じゃあ、よろしく頼む、みんな──」

 

 全員が大きく頷いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。