【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
オルロイ川というのは、クロイツ領を南から北に向かって走っている大きな河川である。
港湾都市のガヤから領都に向かう流通は、このオルロイ川を中心に流れており、それは、領都を賊徒が占領している現状でも変わりない。
領都を中心とした地域を占領していると
こんな状態があり得るのも、表と裏を使い分ける特性の強い人間族の社会ならではことだろう。
エルフ族ではそうはいかない。
ケイラ=ハイエルは、そんな人間族の風習を最近では興味深いものとして考えるようになっていた。
もっとも、つい先日までは、唾棄すべき人間族の特徴のひとつと心に抱いただろう。
もちろん、ケイラが人間族を認めるようになったのは、お兄ちゃんが人間族の中で暮らすことを決めているからだ。もしも、お兄ちゃんがエルフ族として生きることを選ぶのであれば、ケイラはなんのしがらみもない人間族をいままでと同じように蔑んで生きるに違いない。
「穀物船が八隻です。すでに当たりをつけていて、こちら側は漁船で待ち受けています」
ケイラに報告をしたのは、ケイラが買収した人間族の闇ギルドのひとつがつけてきた男だ。
クリスタル石の収益などによって得られた莫大な富の一部を使って、ケイラは数個の闇ギルドを支配下に置いたが、お兄ちゃんの命令で、リー=ハックという南王軍の司令官や、この南域を荒らしている賊徒団の情報を集めているとき、たまたま、ある情報が入ってきたので、囮を使ったこの諜報活動に参加することにしたのだ。
普通は、こんなに乱暴な情報の集め方はしないのだが、お兄ちゃんが絡んでいる以上は多少の無理をしても、有力な情報を集めなければならない。
なにしろ、使える時間は一日というところなのだ。
だから、今回はケイラは、強引な策をとらせることにした。
つまりは、賊徒に流れているのではないかと考えられる荷物を運んでいるという密かな情報のある貨物船だ。
それを襲撃させるのだ。
しかし、調べてみても、表向きはただの穀物を運ぶ船らしい。もともとは海を渡ってきた船の荷であり、南王軍の主力が占拠しているガヤの城郭で川船に載せ替えている。
もしも、これが穀物に似せた武器の運搬なら、あまりにも堂々とした密輸だ。さすがに、南王軍も賊徒への武器の運搬は見つけ次第に死罪としている。
ケイラは雇った闇ギルドと接触して、この不確かな情報に触れたとき、思い切って怪しい穀物船を襲撃させることにした。
もしも、情報が誤りならば、なんの罪もない穀物船の船員たちを襲うことになるが、まあ、それはどうでもいい。
すべてはお兄ちゃんが満足できるような情報を得るためだ。
そのための犠牲なのであれば、穀物船の八隻どころか、ふたつや三つの小村の住民を皆殺しにしても構わない。
「やりなさい。あんたたちの手並みを拝見させてもらうわ。この国で一番の闇ギルドの自称をする以上は、わたしを失望させないでね」
ケイラは、襲撃隊の漁船のひとつの甲板に準備をしてもらった椅子に足を組んで腰掛けたまま言った。
後ろには、お兄ちゃんがつけてくれた五人の親衛隊の五人のエルフ兵がケイラを守るように立っている。
全員がケイラと同じように、頭を隠すフードを身につけていた。
人間族社会であるハロンドールなどでは、なんだかんだで美しい容貌のエルフ族はやはり目立つようだ。
だから、余計な悶着を起こさないための措置でもある。
目の前の男が属する闇ギルドを買い取って、最初にケイラがギルドを訪問したとき、ケイラたちが何者かを把握する前に、こいつの部下の三下がおかしなちょっかいを出してきたこともある。
場末のスラム街にきちんとした身なりで現れたケイラに、数名の人間族の男たちが卑猥な言葉とともに、ケイラたちを横筋に連れ込もうとしたことがあった。
ケイラは護衛に託すまでもなく、装着していた魔道具で男たちを八つ裂きにしてやった。
そんな騒動を避けるためには、なるべく顔を隠すことが得策だと悟ったというわけだ。
「では、新しい首領様に、俺らの仕事ぶりを見ていただきますね」
男の名前は忘れたが、今回の闇ギルドの長の老人が凄腕だと太鼓判を押した男だ。
そいつがさっと船の甲板で手をあげた。
不意に近くの岸から十艘ほどの小舟が出現した。
一艘に数名乗っていて、あっという間に先頭の穀物船を小舟で取り囲む。さらに後続の穀物船にも小舟を寄せ、どんどんと乗り込んでいく。
穀物船の上で争いごとが始まった。
だが、すぐに終わった。
小舟側の者たちが穀物船側を制圧したのだ。
あまりにも呆気なさすぎて、近傍の船や陸側にいる通行人たちにも、水の上の争いに気がついた者もいなかったに違いない。
「終わりましたよ」
ギルドの男がケイラを振り向いて白い歯を見せた。
「確かにいい腕ね。これは今回の襲撃に加わった者たちにあげてくれるかしら。酒代よ」
ケイラは後ろの護衛の親衛隊兵に合図をして、荷から金貨の入った革袋をふたつ出した。
常識外れの報酬だが、クリスタル石の報酬で潤っているエルフ族王家からすれば、それほどでもない。
ギルドの男が目を丸くしたのがわかった。
「こ、これは……。ありがとうございます」
男が金貨を受け取りながら頭をさげる。
「必ず全員に配るのよ。配分はあなたに任せるけど……。さて、乗り込むわ。目立たない場所に船を寄せてちょうだい」
ケイラの指示に従って、穀物船が何事もなかったように、水の上を遡上していく。穀物船を操るのは、すでに小舟から乗り込んだ男たちだ。
小舟はすでに穀物船から離れていっている。
ケイラたちを乗せている小舟だけがその後を追いかける。
しばらくして、目立たない山道の岸に穀物船を寄せてとまった。
ケイラは、男や親衛隊の女兵たちとともに穀物船に乗り込んだ。
「ゼニック様」
穀物船で待っていた襲撃者のひとりが、今回の襲撃の長であるギルドの男に声をかけた。
ゼニック……。
そういえば、そんな名前だったか……。
穀物船には一艘につき、五、六人が乗っていたようだ。男が多いが女も何人かいる。年端もいかない少年もいた。
すでに全員が縄で手足を縛られ、口に布を突っ込まれて猿轡をされている。
なにも知らずに荷を運んでいた船人足たちかもしれないし、実際にそうでしかない可能性も高い。だが、一応は後で訊問をしてみるか……。
ケイラは穀物船の上を一瞥して思った。
「あっ、ケイラ様」
すると、最初にゼニックに声をかけた男がケイラに気がついて、改めて声をかけてきた。
この連中の属する闇ギルドを丸ごと買い取ったことになっているので、いまはケイラがこの人間族の闇組織の頭領だ。
「荷は?」
「こっちです」
案内を受けて船底に向かう。
穀物袋が満載してあったが、手前側のいくつかが切り裂かれて中身が出されている。
袋の中身は黒い粉と、銀色の細かい粉だ。
割合としては、黒い粉が八に対して、銀色の粉が二というところだ。まあ、全部調べてみなければわからないが……。
そして、穀物が入っていた袋は、切り開いている袋の中にはひとつもない。
すべてが偽装だ。
「鑑定を……」
ケイラはエルフ女兵に振り返った。
彼女たちのひとりに鑑定用の魔道具を預けていたのだ。
「はい……」
すぐに女兵が鑑定具を取り出す。
「……黒いのは火薬……。銀色の細かい粒子は……“魔素火粒剤の原材料”と出ています……」
「どうやら、当たりね」
魔素火粒剤というのは、確か、ケイラがお兄ちゃんと合流したときに、お兄ちゃんに逆らった辺境候の軍も準備していた魔道を封じる粒子だ。軍用品であり、タリオという人間族の国が開発に成功したというもののはずだ。
そして、大量の火薬……。
ケイラが買収した闇ギルドの情報網で掴んだのは、今回の賊徒団の後ろには、ハロンドールと敵対するタリオ国がついているという噂だったが、これで裏付けがとれたことになる。
それにしても、もしも、八艘の穀物船の荷の全部が同じように火薬や魔素火粒剤の原料を充満して輸送していたとすれば、それだけでかなりの量になる。しかも、これが唯一ではないだろうし、最初の一回ということもない。
賊徒軍は、大量の火薬と魔素火粒剤を保有している。
これは間違いない……。
お兄ちゃんに知らせないと……。
ケイラは嘆息した。
「荷はどうします?」
船底まで同行してきたゼニックが言った。
ケイラは肩をすくめた。
お兄ちゃんかガドニエルでもいれば、これだけの積み荷でも収容できる亜空間術の能力もあるが、ケイラにも護衛の女兵も、そこまでの能力はない。
「全部、水に捨てさせなさい。全部よ……」
「えっ、全部、捨てる? あっ、いや、ご命令のとおりに……」
ゼニックが頷いた。
「それと……」
ケイラはさらに続けた。
可哀想だが、賊徒に運ばれる積み荷が襲撃されて調べられたという情報を漏らしたくない。
いまのところ、襲撃に気がついた者もいないだろう。
知っているのは、襲撃をされた穀物船の船人足たちだけだ。
「船頭のうち、五人でいいわ。山の中に運んでちょうだい。ほかは殺して水の中に」
「えっ……。だって、女とか子供も……」
当惑した声を出したのは、ずっと黙っていた五人のうちのひとりのエルフ族の女兵だ。だが、ケイラが睨むと、蒼い顔をして口をつぐんだ。
「すぐにかかります……」
ゼニックが指示をするために、甲板にあがっていった。
*
血の匂いがしている。
山の中だ。
船で捕らえた船頭たちを拷問している真っ最中である。
ケイラの指示のとおりに、穀物船に乗っていた船人足
たちは皆殺しにして水に放り込み、いまや生き残っているのはこれだけだ。
あの穀物船から陸におろしてから、まずは五人を荷車に乗せて、山の中まで連れてきた。
闇ギルド側の襲撃者については、二十人ほどが残ってここにいる。
そして、ケイラの指示で、連れてきた数名の船頭に訊問をしているところだ。
また、木々の隙間から見える太陽は、中天からやや西に傾いている。
お兄ちゃんは無事だろうか?
イザベラとかいうハロンドールの王太女の娘を助けるために、賊徒団との戦いに向かったが、今頃は戦いのさなかかもしれない。
魔道馬鹿のガドニエルもいるし、スクルドという人間族も魔女も超一流の遣い手だ。
なによりも、お兄ちゃんが不覚をとるとは思えないが、あれだけの火薬や魔素火粒剤が運ばれていたということは、あれの数十倍も、数百倍も、賊徒軍は火薬と魔素火粒剤を保有していると考えていい。
大丈夫か……?
「や、やめてくれええ……。な、なんでも喋る……。喋るから……」
ゼニックたちに「訊問」をさせている船頭のひとりが泣きながら喚いた。
五人のうち、一番気が弱そうだと判断をした男だ。この男にはまだ拷問はしてないが、その代わりに、一番気が強そうだった男を目の前で拷問した。
手足を切断して、目玉に木の小枝を突き刺し、一寸刻みで身体の肉を削いでやったのだ。
悲鳴もあげられないように、途中で喉を潰してもいた。
止血をしながら一ノスほどかけて殺させたが、それで残っている男たちのひとりが失禁をした。
残っている者たちのうちで訊問を最初に開始したのは、その失禁をした男だ。残りは、ちょっと離してほかの場所に置いている。
また、五人のうちのひとりは、この山に運ぶ途中で死んでいた。
隠し持っていた毒薬を拘束されたまま飲み込んだのだ。
それに気がついたとき、慌てて残りの二人を素裸にして毒薬を回収した。
自殺した男は「ドピィ様のために──」と叫んで血を吐き、まるで狂信者の様相だった。
もしかしたら、情報が取れないかもしれないと思ったが、やっとひとりが喋りだすみたいで安心した。
まあ、自白がないとしても、状況からタリオという国が絡んでいることは確かなので、まあいいのだが……。
「ううっ」
後ろでまたもや、エルフ族の女兵が吐き気を催したような呻きを発した。
お兄ちゃんから能力をあげてもらえて一騎当千の女傑になっている彼女たちだが、残酷な拷問は見慣れてないみたいだ。
さっきから、交代で吐いている。
「もういいわ。あんたらは、どこかで隠れてなさい。無理してここにいなくていいわ」
ケイラは呆れて言った。
「そ、そんなわけには……。英雄様のご命令で、ケイラ様を護衛しているのですから……。ううっ」
別の女兵が応じたが、そのそばからもらい吐き気を起こしている。
ケイラは苦笑した。
「なら、好きにしなさい」
ケイラは意識を語り出した船頭に向け直した。
「ほう、喋ってくれるか。ならば、楽に死なせてやれるな」
訊問をしているのは、ゼニックが自らだ。
そのゼニックは拘束されて地面に転がされている船頭のそばに屈み込む。
「あ、あああっ、ドピィ様ああ──。ドピィさまあああ」
しかし、なにかを喋り出すかと思った船頭は、突然に賊徒軍の頭領の名を絶叫し始めた。
まただ……。
最初に自殺した船頭も、ドピィの名を叫んだし、山中に到着してなぶり殺しにした男もそう叫んだ。だから、うるさくて喉を潰させたのだ。
「また、ドピィか……。おい、松明を持ってこい」
ゼニックも舌打ちしている。
火のついた松明を受け取ったゼニックが仰向けに転がしている船頭の股に松明を寄せた。
毒を取り上げるために、船頭たちからは下履きさえもとりあげて、全裸姿である。また、抵抗ができないように、手足を拘束しているだけでなく、全部の関節を砕かせてもいる。
ゼニックが船頭の腹を踏んで動けないようにしてから、船頭の局部を火で煽った。
「うぎゃああああ。やめてくれ──。うぎゃああああ」
船頭の陰毛にぼっと火がつき、じりじりと性器の肉が焼け始める。
やっと、その船頭が喋りだして、火が離される。
だが、結局のところ、大したことは知らなかった。彼らは、ドピィという頭領から受ける指令により、ガヤの港町に海船で運ばれる荷を受け取り、河川を使って指示をされた場所に運搬をしていたらしい。
荷の中身は、この連中も知らなかったみたいだ。
詮索するなという指示もドピィから受けていたようだ。
運ぶ場所は、賊徒が占領している領都のことが多かったが、ほかの場所のときもあるらしい。
今回は、かなりガヤに近い場所が目的地だったみたいだ。
しかし、ガヤから出てすぐにケイラたちが襲撃をしたということだ。
だが、そこまで喋ってから、またもや、ドピィの名を叫びだした。
ゼニックが再び松明で股間を焼きだす。
「もういいわ。殺しなさい。それ以上の情報もとれないでしょう」
ケイラは声をかけた。
「わかりました」
ゼニックが合図をすると、周りにいたゼニックの部下のひとりが短剣を取り出す。
胸に刃を貫かせ、一瞬にして船頭が絶命した。
「残りふたりの訊問は任せるわ。新しいことがわかったら、渡している魔石通信具で報告を……」
ケイラは立ちあがった。
長距離間を通信できる魔石具は、大玉と言われる大きな魔石一個を一度の通信だけで消費する恐ろしく高額の魔道具だ。
それをこの闇ギルドに惜しげもなく大量に渡している。
なにか新しいものを掴むたびに、その通信具でケイラに報告をすることを厳命している。
「わかりました」
ゼニックが頭をさげた。
「じゃあ、行くわよ」
ケイラはエルフ族の女兵たちに声をかけた。
これから、彼女たちの「縮地」という移動魔道で、お兄ちゃんのいるはずのゲーレという里に移動する。
だが、大丈夫か?
五人とも随分と顔が蒼いが……。
いずれにしても、今回の賊徒の乱には少なからずタリオ国が背景にある。
これが今回の調査でわかったことだ。
そして、もうひとつわかったのは、ドピィという賊徒の頭領の正体は、ルーベン=クラレンスという、この国の下級貴族の令息だということだ。
これは、この穀物船襲撃の前に、闇ギルドの隠れ家を訪問したときに教えられていた。
彼は天才だ……。
いや、天才と呼ばれていた。
地方のことなので、それほどには名は売れていなかったが、周辺では彼の有り余る才能は結構評判だったようだ。
しかし、婚約者だったベルフ子爵家の令嬢との婚約が破棄されたことをきっかけに、彼は身を持ち崩した。
ケイラが得た情報によれば、ルーベンという男は、婚約者だったベルフ伯家の令嬢のシャロンと駆け落ちをしようとして、彼女に拒否されて囚われ、囚人として鉱山送りになった。
そして、行方不明になる……。
おそらく、そのルーベンがドピィだ。
いくつかの状況証拠から間違いないと思う……。
そして、そのルーベンが作った賊徒軍が襲撃したクロイツ領は、婚約者だったシャロンが嫁いだ侯爵家の領地である。
これは、おそらく偶然ではないのだろう……。
「は、はい……」
やっとエルフ兵が反応をした。
そして、縮地をするために、ケイラの手をひとりがぎゅっと握った。
*
「お兄ちゃん──」
ゲーレという里にある屋敷についたとき、元気そうなお兄ちゃんの姿にケイラは安堵した。
縮地で移動の途中で、里からの通信で、賊徒軍の一団に勝利したという情報には接していたが、やっぱり元気な姿を見るとほっとする。
ケイラを入口に接する扉で迎えてくれたお兄ちゃんに、ケイラは抱きついていた。
お兄ちゃんの匂い……。
お兄ちゃんの身体のぬくもり……。
お兄ちゃんの息遣い……。
幸せだ……。
そして、抱きつきながら広間のあちこちで気怠そうに座り込んでいる幾人かのエルフ族の女兵たちの姿に気がついた。
いや、女兵たちだけではなく、お兄ちゃんの冒険者仲間の女たちもいる。
エリカ、コゼ、シャングリア、スクルド……。
ガドニエルはいないみたいだ。
ほかにも知らない者もいる。肌の黒いエルフ族がふたり……。獣人族の娘。大柄の人間族の少女……。
多分、彼女たちもお兄ちゃんの女なのだろう。
さらに、人間族の童女も……。
ブルイネンはいない。
「みんなどうしたの? それと不肖の女王は?」
ケイラはお兄ちゃんに抱きつきながら訊ねた。
すると、お兄ちゃんが笑い声をあげた。
「ガドなら亜空間で寝ている。こいつらも同じだけど、まあ、抱き潰したというところかな」
お兄ちゃんが言った。
「抱き潰したって……」
ケイラたちが到着したのは夕方というところだが、少なくとも昼すぐまでは戦いの状況だったずだ。
それからこれだけの人数を抱き潰したのかと疑念に感じたが、よく考えれば、お兄ちゃんは、時間の経過のほとんどない亜空間に女を連れ込むという術を使える。
その能力を使って、女たちを抱いたのだろうと思った。
「……この子なんて、すごいわねえ」
ケイラは何気なく、すぐそばに寝ている人間族の童女を見て言った。
まだ年端もいかない少女だが、裸身に毛布だけを巻いて横になっている。
だが、毛布から出ている胸から上の肌と顔に、多分、お兄ちゃんの精液だと思う白濁液がたっぷりとのっている。
くらくらするような香しい匂いだ……。
ものすごく、幸せそうな寝顔でもある。
「ああ……。まあ、精液まみれにして欲しいというんでね……。ミウのお
お兄ちゃんが頭を掻く。
「お強請りねえ」
この童女はミウという名らしいが、この年齢で大した変態ぶりだ。人間族というのは、だいたいこんなものなんだろうか……?
ケイラも首を傾げた。
「それよりも、まずはガドと一緒に、奥にいるイザベラに挨拶をして欲しいけど、その前に享ちゃんの話を聞こうか。いや、だけど、やっぱり、最初はご褒美セックスかな。だから、まずは、グロリナたちか……。そして、最後に享ちゃんでいいか? 久しぶりに、仮想空間で遊ぼうか」
「仮想空間?」
なにか大切なことのような気がしたが、なぜか記憶から抜け落ちているみたいだ。ケイラは、お兄ちゃんの言う“仮想空間”という言葉が理解できなかった。
亜空間のことか……?
また、グロリナたちというのは、ケイラに同行した五人のエルフの女兵たちのことである。
「まあいいさ。ちょっと待ってくれ」
すると、お兄ちゃんが消滅した。
振り返ると、一緒にやって来た五人の護衛も消えている。
だが、再び出現した。
数瞬というところだ。
「ふうう……」
「ああ、英雄様ああ……」
「す、素敵でした……」
お兄ちゃんは元の姿だが、周りに再出現したエルフ族の女兵たちは、裸身に布を被っただけのあられもない姿だ。
明らかに「事後」である。
五人ともたっぷりと汗をかいていて、顔を赤らめて、なによりも、とても気持ちよさそうな顔だ。
「次は享ちゃんだ。さて、これをかけてもらおうかな」
すると、お兄ちゃんが眼鏡部分に色のついた眼鏡を取り出した。
ケイラは一応は受け取ったものの訝しんだ。
サングラス──?
そんな単語が頭に浮かぶ。
ケイラが前世で“享子”だった世界のときにあったものだ。
「なあに、これ? かけろということ、お兄ちゃん?」
ケイラはそのサングラスをかけながら、お兄ちゃんを見あげた。
「だって、顔がわからないように必要だろう。田中享子先生が働いている学校の生徒も乗車しているかもしれない電車だ。だけど、特殊な細工がしてあって、そのサングラスをしている限りに、顔バレはしない……。そして、もうひとつ……」
さらにワイヤレスのイヤホンを渡された。
いや、それがワイヤレスのイヤホンだという知識が浮かんだのは、突然のことだ。
受け取った瞬間に、田中享子だったときの記憶が蘇ったのだ。
「さて、出発……」
お兄ちゃんが楽しそうにくすくすと笑った。
次の瞬間……。
ケイラ……いや、享子は見知らぬ場所にいた。
駅のホーム?
そんな単語がまたもや頭に浮かぶ……。
「えっ?」
しかし、雑踏に賑やかさとともに、自分の格好に気がつき、享子ははっとした。