【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「ふんっ」
ドピィは、ワルム砦のもっとも高い場所に構築させた
ワルム砦はもともと、五十年ほど前に、このクロイツ侯爵領に巣くっていた山賊の根城であり、南面を険しい山岳を背負った要害の場所にある。
その後、この砦は捨て置かれたが、ドピィはこの要害の価値に気がつき、密かに人手を使って、
この十年のあいだに、そうやって築いた隠し砦が十数個ある。
まだ、陽が昇るまでには一ノスほどある。
しかし、眼下の北面の丘陵のすそには、夜をおして、ガヤの城郭から進んできた南王軍がすでに展開を終え、その正面からじわじわと迫っている気配を醸し出していた。
向こうに多数のエルフ兵が加わっているのはわかっており、エルフ兵が得意とするのは、凄まじい破壊力を伴った魔道攻撃だ。
だが、ドピィは、この砦全体に魔道封じの魔石を大量に埋設させて、彼らがこの砦に向かって魔道攻撃するのをほぼ封じていた。
従って、集まった王太女軍が砦を攻め込むには、人間族たちの通常のやり方のように、武器を使って、魔道なしで攻め込むしかない。
「王太女軍は、朝になるのを待つことなく、やってくるようですね」
海側となる北側には、ワルム砦のある峡谷を側面に眺めるように街道が走っていて、その街道側は比較的開けている。
南側に回るのは不可能であり、軍を展開させるには、北側の街道側に展開して、遮二無二、砦に向かって力攻めするしかなく、実際、かつてここに巣くった山賊たちはそうやって討伐されたそうだ。
「童女の魔道遣いをさらったのが、余程に頭にきたのかもな。なにせ、あの軟弱な南王軍が夜に動いたのだからな」
ドピィは吐き捨てた。
横にいるのは、カリュートである。
この
騎馬隊を率いて前に出ることが多いドピィに対して、盗賊団の主力を動かすときには、このカリュートに指揮をさせることが
もっとも、いまのカリュートには、ドピィの手による炸裂薬を充満させた首輪を装着させており、重鎮どころか、ドピィが炸裂薬を反応させる道術符を使うことで、いつでも首を爆裂させることができる奴隷扱いだ。
領都を占拠していた賊徒団から、シャロンを奪われることを許してしまった罰であり、激怒したドピィは、カリュートにこの炸裂環を首に嵌めさせて、賊徒団の主力を領都から出発させ、ガヤの城郭を奪うことを命令していた。
あれから状況が変わり、シャロンは奪い返せたものの、瀕死の負傷の治療のために、このワルム砦に逃げ込むしかなくなり、カリュートたちには、ガヤに向かう前進の途中で伝令を出して、全軍をこのワルム砦に集結させた。
そのカリュートたちのほぼ全員が到着したのが一日前であり、それにより、この砦に一万に近い賊徒兵が集結したことになる。
そのカリュートが横だ。
いまだに炸裂環を装着させたままなのは、あのとき、このカリュートを脅迫するような手酷いことをしたためだ。
ドピィは、部下たちのことなど、これっぽっちも信頼も信用もしていなかったが、それでも注意深く、彼らの人心掌握については努力していた、
城郭を襲撃したときなどに、ある程度の略奪を許すのも、それをしないと、兵たちの不満が増幅して、それが頭領であるドピィの裏切りに発展することがあることがわかっているからである。
だが、シャロンが一時的に奪われたあのとき……。
ドピィは完全に心の平静を失い、このカリュートを殺してしまおうかとさえ思った。
カリュートも、あのときのドピィの怒りを肌で感じただろう。
だから、もはや、カリュートはドピィを裏切るだろう。一度殺されると思った以上、カリュートは同じ目に遭わないために、ドピィを殺すしかない。
それがわかっているから、ドピィはカリュートの首の炸裂環を外さないのである。
もっとも、カリュートは、それについて、まったく不満のような外面を示さないが……。
いずれにしても、この十日ほどの期間、なにもかもうまくいかない……。
領都に向かう南王軍の大軍を追い払ったのはいい……。
だが、女冒険者たちにシャロンを奪われ、そのシャロンを取り戻そうとして、ドピィの復讐のための戦いを支えてきた、騎馬隊が壊滅的な損害を受けた。
あの王太女軍の反撃によってだ……。
ドピィも死にそうになり、ドピィを庇ってシャロンが瀕死の重傷を受けた。
数ノス前に瀕死の状態から脱却して、小康状態になったが、いまだに意識は戻っていない。
この物見櫓からも見える小屋の寝台で横たわったままだ。
隷属の首輪で命令した下級魔女三人を使って看病をさせているが、意識が戻ればすぐに知らせるように言っている。
また、失敗といえば、王太女のところからさらわせた童女魔道遣いのこともだ。
隷属にしないままシャロンに近づけるわけにはいかないので、拷問をして隷属化しろと命令しているが、いまだに意地を張って、拒否しているらしい。
砦に連れてきてから半日以上がすぎているが、隷属に成功したという報告はまだないので、拷問は続けているのだろう。
これほどに時間がかかるのであったら、うまく騙してでもシャロンに治療術をかけさせることを追求するべきだった。
すでに拷問を施してしまった以上、もはや、懐柔の手段は遣えない。
あの童女が力の強い魔女であることはわかっているので、魔道封じを解除した途端に、こちらに牙を剥くに決まっている。
どうにも、うまくいかないとは、いまのドピィことだろう。
それとも、うまくいかなくなったのは、王太女のところに、エルフ女王を手懐けたとかいうロウという男が加わってからか?
あんな男にドピィがしてやられているとは、思いたくないが……。
「そろそろ、放ちます」
「いや、待て」
ドピィは制した。
放つとカリュートが言ったのは、賊徒兵たちが装備している銃のことである。
十年の時間を使って準備した細工と、集まってきた賊徒兵たちに、寝る間を与えずに準備させた土塁や木壁の遮蔽などの工事により、砦を攻めようとする王軍を蹴散らす準備はすっかりと整っている。
シャロンが寝ている小屋が見えるこの場所から離れる気のないドピィに代わり、全体の指揮はカリュートがするように言っている。
銃だけでなく、これまでに王軍にも、侯爵軍にも使わなかった兵器も、この数日で大量に集結させた。
カリュートが合図をすれば、その準備をした武器が一斉に火を噴くことになる。
「見え透いた動きだ。目立つ態度で忍び込む盗人はおらん。よく見ろ」
ドピィは正面で慌ただしく動く王太女軍ではなく、側面方向の斜面を指さした。
ただの闇だが、ドピィにはごくたまに、軍勢のようなものがうごめく気配と音を感じていた。
おそらく、正面を陽動にした側面からの潜入だ。
エルフ族の特徴は魔道だけではない。
森の民といわれる連中は、人間族では困難と考えるような森を平地のように平気で進んできたりする。
その能力を使って、この砦を奇襲する気に違いない。
「横の山側から……?」
カリュートにはわからないのかもしれない。
首を傾げている。
「銃を側面側に集めろ。俺が指示する場所にだ」
ドピィはカリュートに詳しい指示をした。
十年かけて準備したのだ。
この砦のことはおろか、領内中のことを知り抜いている。
砦の側面を少数で向かおうとしたとき、どこを通って、どこに辿りつくかなど、ドピィは容易に予想が立つ。
カリュートは半信半疑のような表情のまま、そっちの正面の下知のために櫓を降りていった。
それからしばらくすぎた。
突然に砦の一角で怒声のような喚声がした。ドピィの指示したままの場所方向だ。
ほとんど狂いがない。
数瞬後、そっちの方向に一斉に火の明かりが灯る。
まだ、夜に近かった場所が昼間のような明るくなる。これもまた、準備していたことだ。
夜闇を照らすことで、夜目に強いエルフ族の有利は消滅する。
「撃てええええ──」
沈黙していた砦に、離れた場所からのカリュートの大声が響く。
正面はまだ前には出てきてない。
やはり、ドピィの思った通りに、側面からエルフ兵が突入してきたみたいだ。
そして、その方向に向かって、賊徒兵が凄まじいほどの銃の連射が射撃を開始したのがわかった。
しばらくのご無沙汰でした。転職をして、いまだに執筆のリズムが作れません。
また、自宅のネット環境が整うまで、まだ半月以上かかります。
まだまだ、うまくいきません。投稿もしばらくは連続とはいかないと思います。ともあれ、これからもよろしくお願いします。