※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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791 ワルム砦の大攻防戦(承前)

「勝手な連中です。ロウ様はもっと怒った方がよかったのでは」

 

 エリカが腹を立てている。

 一郎は苦笑した。

 

 賊徒たちが巣くっているワルム砦の山城を見上げる位置に構築させた急造の(やぐら)の上だ。

 そこに、一郎とエリカとガドニエルだけがいる。

 戦場を望む態勢だが、夜は明けておらず、一郎の視界には、ほとんどなにも見えない。

 だが、賊徒の山塞が正面の山肌にそびえているのはわかる。

 

「まあ、ご主人様はお怒りだったのですか? 気がつきませんでしたわ」

 

 すると、ガドニエルがはっとしたように口を開いた。

 この能天気なエルフ女王様は、一郎に意識を集中するあまり、周りが見えないところがある。

 さっきの軍議も、まるで聞いていないのは一郎も気がついていた。

 一郎のエルフ隊と、南王軍の指揮官となったジグとのあいだでどちらが主導権を握るかという攻防があったのだが、声を荒げるようなことはなかったので、ガドニエルも気にとめなかったのだろう。

 結局、一郎が折れるかたちになったのだが、会話の中でジグや周りの隊長たちは、一郎を王太女の任命した独裁官と認めつつも、一方であからさまに一郎の作戦への意見を軽んじていた。

 エリカはそれに腹を立てているのだ。

 

「いいから落ち着け。怒ることじゃないさ。俺は素人で向こうは立派な軍人殿だ。しかも、戦わないと言ってるわけじゃない。むしろ、自分たちの戦いだと主張しているだけじゃないか。怒るような要素がどこにある」

 

 一郎はなだめた。

 

「でも、ロウ様に失礼でした。そもそも、ジグって、ロウ様に命を助けられたのに」

 

 エリカはまだ憤慨している。

 

「ならば、大叔母様とも話し合ってしかるべき対処をします。今後こそ、お役に立ちますわ」

 

「いいから」

 

 一郎は苦笑のまま、エリカとガドニエルにそれぞれ手を伸ばして、ふたりのうなじにすっと指を這わせた。

 大事に思ってくれるのは嬉しいが、このところ、一郎の寵を競うつもりなのか、一郎のちょっとした言葉や態度に過激に反応して、何人かの女はなにかと暴発しやすい。伊達に一騎当千だけに、勝手に動かれるのは怖い。

 さっきの軍議に、享ちゃんは参加してしなかったが、ケイラ=ハイエルでもある彼女など、一郎がひと言呟くだけで、人間族の都市くらい、木っ端微塵に破壊しそうだ。迂闊なことも言えない。

 

 まあ、とりあえず、両横のふたりだ。

 一郎は、自分の指の動きに合わせたふたりの首の部分を子宮に近い強烈な性感帯のボルチオに直結させてしまう。

 一郎の新しい能力であり、性感帯を自在に動かす技だ。

 ふたりとも、一郎がすっかりと身体を開発済みだ。

 一気に絶頂するほどの快感を沸き起こさせる。

 

「ひゃん――」

 

「くふうっ」

 

 突然に子宮の底を弄られたにも等しい刺激を与えられたふたりが艶かしい声をあげて、その場にうずくまった。

 一郎は笑った。

 

「も、もう」

 

 エリカが真っ赤な顔をして立ちあがりながら、不満な声を出す。

 しかし、腰に力が入っておらず、しかも短いスカートの裾から、内腿から垂れる愛液が見える。

 実に嗜虐心を誘う。

 

「はああ……」

 

 一方でガドニエルの方はさっきの刺激だけで達してしまったらしく、まだ両手で股間を押さえて尻餅をついている。深く吐いた息も色っぽい。

 一郎は手を差し出して助け起こす。

 ふらふらと腰に力が入ってないガドニエルに、さらに悪戯を重ねたい衝動が起きたが、さすがにそれは自重する。

 いまは、戦の最中だ。

 

「ガドの出番はまだだ。エルフ親衛隊もな」

 

「は、はい」

 

 ガドニエルもなんとか立つ。

 ふと、視線を下に向けると、櫓を囲む親衛隊たちがちらちらとこっちに視線を向けたりしている。

 一郎はなんでもないというように軽く手を振った。

 ブルイネンが声をかけて、気を解くなと親衛隊たちに気合いを入れたのが聞こえた。

 つまりは、この櫓の下には、ブルイネンの率いるエルフ隊がいて、実はさらに、シャングリアが率いることになった五百の騎馬隊が大きく囲っている。

 シャングリアが率いているのは、もともとは南王軍の騎馬隊であるが、それ以外は、すべて一郎の女たちということになる。

 一応は、これが一郎が直接指揮する隊であり、主力の予備というかたちだ

 もっとも、それほどの数があるわけではない。

 

 ブルイネンの率いる一騎当千の三十名の女エルフの親衛隊のうち、十名はこのドピィたちとの砦戦には連れてこなかった。イザベラたちの護衛のために、ザナの城郭にある司令部に残しているのだ。

 

 そこに、イライジャとマーズとユイナを残している。

 ミウがさらわれたことで、急遽進発することになった賊徒討伐戦に、そのふたりも加わりたがっていたが、今回の戦いには、イザベラをガヤの城郭に残すことに決めたので、どうしても、向こうにも信頼のできる者たちを残す必要があったのだ。

 一郎としては、掌握したとはいえ、まだまだ南王軍の者たちを信用しきったわけではない。

 あそこに、まだまだ、ドピィとやらの息のかかった者たちが潜んでいるのは、白昼堂々とミウが軍営でさらわれてしまったことからもわかる。

 それなりの警備態勢をとる必要があり、それは南王軍には任せられない。

 

 また、この戦場には、享ちゃんもいなければ、スクルドもいない。

 このふたりには、別の役割を頼んでいた。

 

 いずれにしても、賊徒軍の連中がミウをさらっていったことで出動してきた討伐軍は、一郎たちエルフ隊のほかには、司令官のリー=ハックの処断の後に、新たな南王軍の司令官として任命された副官だったジグの率いる七千の隊である。

 

 ジグは、リー=ハックの暴走により瀕死の重傷に陥っていたが、スクルドの回復治療により完全回復をして、すぐに現場に復帰していた。

 だから、今回のワルム砦への出動についても、主力となる南王軍の実質的な指揮官は、ジグになる。

 

 しかし、名目上は、独裁官としての権限で、一郎がその上に立っている。

 だが、このワルム砦の麓に夜間の強行軍で展開したあとで、急遽行った軍議の中で、ジグは柔らかな物言いながらも、はっきりと、一郎の指示に従うことを拒否したのだ。

 南王軍のことは、南王軍に任せて欲しいと明言した。

 一郎のことも、認めてはいるものの、兵たちの生命に関することで、そう簡単には指揮を委ねることはできない。

 それだけは妥協できないと頑なであり、一郎たちエルフ軍は、基本的には戦の外側で待機をしてくれればいいと主張したのである。

 そのとき、ジグははっきりと一郎のことを“素人”と断言した。

 

 その態度に怒ったのは、軍議に同席していたブルイネンだ。

 また、横にいるエリカも激怒する態度を隠さなかった。

 いきなり仲間割れのようになりかけた場を、一郎がジグの要求を飲むことでしずめたのである。

 一郎は、当面の指揮はジグに任せることを宣言し、エルフ隊とシャングリアがあずかることになった五百の騎馬隊だけを率いて、この砦から少し離れた距離に櫓を組ませて、戦場を観察する態勢をとった。

 それがここだ。

 そして、ジグたちの本軍の天幕は別の場所だ。七千の南王軍はそのジグたちのいる指揮所の下置(げち)を受ける。一郎には報告しかこない。

 一郎が認めたのだが、エリカはいまだに腹の虫が収まっていないようだ。

 

「いいから見ろ、エリカ。俺の勘が教えてくれている。あれを突破するのは簡単じゃないぞ。南王軍の連中は、七千だけで攻撃を開始する気だが、享ちゃんの情報によれば、あそこにいる賊徒の勢力は一万だ。ジグ殿は賊徒の数は気にしてなかったみたいだけどね」

 

「は、はい」

 

 エリカが日の出前の夜闇に視線を向けるのがわかった。

 正面のワルム砦の山塞は、一郎たちが展開をしている街道沿いから望める堅牢そうな防壁の内側であり、さらに防壁の場所からずっと山側に奥まった位置から始まる土塁群なので、ここからは視界には入りにくいし、連中の装備している銃はおろか、強弓でもここまで届くことはない。

 

 一方で連中は魔道を封じる結界を完全に張り巡らしているので、こちらの魔道攻撃は封じられている。前回のゲーレ戦の上からの投石攻撃も、斜面を利用してしっかりと上空まで結界を届かせることで防護している。

 同じ手を使っても、斜面の手前で投石が落ちて、奥まで届かない。

 魔道の使えない戦場ということで、一郎としては、エルフ隊を最初から投入する気も実はなかったのだ。

 

 とにかく、砦には一万を遙かに超える賊徒が完璧な防御陣を作っているが、それを攻撃しようとする南王軍は七千だ。

 まずは、七千が限界だったのだ。

 しかし、それだけでも、王太女であるイザベラの「命令」に反応できたのは、ジグという平民あがりの副長の手腕があったからこそのことであるようだ。

 

 もともと、ガヤの城郭に集結していた南王軍の態勢は、領都から北進して迫る賊徒軍の攻撃に対応するものであり、それが急遽、城郭への攻勢をとりやめ、ガヤからそれほど離れていない「ワルム峡谷」という場所にある山塞に集結をし始めた彼らへの対処は明確には決められていなかった。

 このクロイツ侯爵領を占拠してしまった賊徒を退治するために派遣された南王軍であるから、最終的には賊徒を撃滅して、領域を回復するのが責務であるものの、司令官だったリー=ハック一派の無法があり、また、領都に向かって進軍した南王軍の大敗があり、賊徒征伐要領の方針はまったくというほど進んでいなかったというのが現状だったようだ。

 

 その状況が一変したのは、リー=ハックの陰謀により、少人数で賊徒軍の包囲を受けることになったイザベラたちについて、一郎が連れてきたエルフ隊による救援が成功したことによる。

 賊徒軍の無敵の象徴らしかった騎馬隊は、一郎の粘性体の術に騎馬の脚をとめられ、エルフ族の親衛隊の一斉射撃によりほぼ全滅していた。

 賊徒の長であるドピィという男だけは、準備していたらしい移動術の護符で逃亡したが、残った賊徒軍は完膚なきまでに叩きのめしている。

 

 ゲーレの里に集結していたのは、賊徒軍ばかりでなく、周辺農村の暴徒たちもいたが、彼らの中でリーダーシップ的な行動をとろうとする者は容赦なく射殺させていた。

 率いる者のいなくなった暴徒など、ただの烏合の衆でしかなく、大部分の農民たちはそれぞれに逃亡していった。

 一郎は、ああいう暴徒というものは、まとめようとする意志を持った者がいなければ、まとまるものではないということを知識として知っていた。

 おそらく、彼らが群れを作るにはしばらくは難しいだろう。

 今後、彼ら反乱を起こした農民たちをどう扱うかは、まあ、これからの課題だとは思うが……。

 

 いずれにせよ、ワルム峡谷に逃げ込んだらしいドピィという賊徒の長をどうするかは、あのときまでは、まだ方針が完全に定まっていたわけではなかった。

 一郎自身、イザベラの救援に成功し、南王軍の司令官のリー=ハックを処断し、軍権をイザベラに奪わせたあとは、賊徒のことは深く考えていなかったといっていい。

 むしろ、賊徒征伐を後に回して、把握した南王軍を王都に向けさせ、イザベラの王権奪取を先にすべきかとも思っていたくらいだ。

 

 もしも、ドピィとやらが、一郎の女に手を出すことさえなければ、これほどの怒りを彼に抱くこともなかったかもしれない。

 だが、イザベラたちの命を奪おうとしただけでなく、今度はミウを白昼堂々とさらい、一郎から奪おうという企みを起こした。

 

 絶対に許すつもりはない。

 

 一郎は、自分がこれほどに怒りやすい性質をと思わなかったが、ミウの誘拐に協力したと考えられる人間をすぐに特定し、拷問も厭わずに口を割らせ、ミウがさらわれた先が、ワルム峡谷の賊徒の山塞の中だと承知すると、コゼとイットに救出を頼むととももに、リー=ハックの後を継いで、遠征している南王軍の指揮官の立場にある副長のジグに、直ちにワルム砦に南王軍を出陣させるように指示した。

 一応は、王太女のイザベラの名前を借りたが、ジグに最重要の緊急命令だと怒鳴るように告げたときには、まだ、イザベラには了解はもらってはいなかった。

 

 それ程に激情もしていた。

 それに、コゼとイットならば連中の砦の中に侵入することに成功するとしても、砦全体を魔道封じの魔石で埋め尽くして、魔道が遣えない状態になっている賊徒の山塞内から、ミウを連れて逃亡することができるとは思えなかったのだ。

 あのふたりの能力であっても、入ることはできたとしても、ミウを連れての脱出は無理だと判断している。

 魔道が遣えない状況では、ミウなどただの童女にすぎない。

 そのミウを連れての脱出はできない。

 

 彼女たちを助けるには、外から山塞を攻めて、三人が脱出できる状況を作るしかない。

 だから、ただちに南王軍を山塞に向かわせたのだ。

 

 しかし、その出動が深更(しんこう)になったために、こうやって夜更けの前に山塞まで辿り着けたのが、七千に留まったということだ。

 ジグによれば、二日以内には、この三倍を山塞への攻撃のために集められるという。

 むしろ、二日待って欲しいと言われた。

 しかし、ならばエルフ隊のみで攻撃すると主張すると、その七千で攻撃するとジグは言った。

 二日もコゼたちを待たせるわけにはいかないので、一郎としては、そう言うことを見越して、軍議でああ口にした。

 だが、本当はエルフ隊のみの三十人程度でなんとかかなるとは思ってなかったし、一万の賊徒の山塞だ。七千では足りないのはわかっていた。

 卑怯なことだろうか。

 まあ、ジグも数が乏しくても、山塞を攻略できる秘策があったようではあるが……。

 

「動いたな」

 

 夜目の効かない一郎には、夜闇に包まれた賊徒の砦は、漆黒の山肌にしか見えないが、魔眼を効かすことで、数千の銃を向けている賊徒が土塁に潜んで、こっちに備えているのがわかっていた。

 そして、山塞の側方を南王軍の一隊が潜入するように進んでいくのが、魔眼で感知できたのだ。

 

「えっ?」

 

 エリカが首を傾げた。夜目が効くエルフ族エリカだが、あの森の中の隊の動きまではわからないみたいだ。

 まだまだ、夜が山塞を包んでいる。

 

「そう……なのですか?」

 

 ガドニエルだ。一生懸命に戦場を凝視している。

 

「さすがのジグ殿だね。森の中をまるでエルフのように、のぼっている。おそらく、精鋭を向けたのだろうね」

 

 一郎は言った。

 遠目だが、一郎の魔眼には、数百人の一隊が山塞の側面の間道を進んでいるのが見えている。

 

「……怒りを覚えると、なぜか知らないが、相手の弱点のようなものが頭に浮かぶ……。不思議だけどね……。勘と言っていいのかわからない。でも、なぜか閃くようなものがあるんだ」

 

 一郎は山塞を含む夜闇を見つめながら呟くように言った。

 

「ロウ様の指図は絶対です。いままで間違ったこととありません」

 

 エリカがはっきりと言った。

 一郎は口元を緩めた。

 

「まあ、俺はその閃きのようなものを勘と言っている……。それはともかく、その勘が教えてくれている。この戦いは人が大勢死ぬ」

 

「大勢死ぬ?」

 

 ガドニエルも一郎に視線を向ける。

 

「敵も……味方も……。大勢死ぬ……。死んだ後にしか、勝利はない。だから、南王軍をけしかけた。でも、ちょっときついものがあるな……。死ぬとわかっている場所に、味方が進むのを放っておくのは……」

 

 一郎は大きく息を吐いて、両手で櫓の欄干(らんかん)を掴んだ。

 戦場で人が死ぬ。

 なんとも、当たり前のことなのだが……。

 命の取り合いも初めてではない……。

 だが、死ぬと知っている策に味方をけしかけるのは、平静さではいられない。

 一郎の“勘”がそれが必要だと頭に教えてはいるが……。

 

「ロウ様?」

 

 エリカが心配そうに一郎の手を掴んだ。

 

「ご主人様、ガドを――。ガドをお使いください。なにか憂うことがおありなら、どうかガドをいじめて……ご調教ください。あ、あのう……、ガドはいつでも、お情けを……」

 

 ガドニエルは言った。

 また、場違いなことを……。

 一郎はまたもや苦笑した。

 

「ガドの出番はまだだと言っただろう」

 

 一郎はガドニエルが伸ばした手も握り返す。

 そのとき、山塞の奥側の一角で凄まじいほどの銃声がとどろき始めた。

 

「始まったね」

 

 一郎は言った。







 *

 長くご無沙汰して申し訳ありません。いろいろありました。久々の投稿です。
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