【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
陽動と見せかけた主攻正面のつもりだった側面からの攻撃が頓挫したという報告にジグは舌打ちした。
満を持しての森からの間道を抜けての攻撃だったが、賊徒たちの一斉射撃を受けてあっという間に全滅をさせられてしまったようだ。
賊徒たちが大量の銃を保持して、こちらをしっかりと待ち受けの態勢を作っているのはわかっていた。
だからこその奇襲だったが、いかんせん、五十名ほどの少人数でありすぎた。
だが、それ以上の人数で、足場が悪く傾斜が急な山の森の中を突き進むのは不可能だったのだ。
その五十名とは完全に連絡が途絶えており、すでにその方向からの賊徒たちの銃撃はやんでいる。
失敗したと思っていいだろう。
ジグは、エルフ王女とともに突然にやってきたロウという男に、たたき上げの軍人としての意地と誇りを見せつけたかったのだが、初っぱなからそれに失敗してしまったのを悟った。
しかし、手を緩めるわけにはいかない。
こうなれば、正面からの正攻法しかない。
ジグは賊徒の砦の正面に展開している南王軍の全軍に攻撃の合図をさせた。
まずは三千──。
喚声をあげて、南王軍の兵たちが突き進む。
兵たちは前面に、銃弾を防ぐことができる特殊な素材で編んだ盾を並べている。ジグが大量に準備させたものだ。
それだけでなく、砦の上面から射撃をしてくる賊徒たちに向かって弓を射る支援隊も編成させていた。
矢で頭をさげさせることで、味方の突進を容易にするのである。
朝もやを吹っ飛ばすかと思うほどの轟音が砦の城壁から轟く。
ジグの視界の映るだけでも十名ほどの南王軍の兵が一度に倒れるが、こちらの猛進は衰えない。
兵には、一度撃ったら、銃は再装填というものに時間がかかることを教えている。
また、樹木の陰から城壁の上から頭をあげて銃を構えている賊徒たちに向かう矢も射られだす。
ジグの事前の指示により、目標を集中させてる。
突破口として狙いをつけている一角に矢が集められていた。
矢の当たった賊徒たちが次々に城壁の上から落ちてもくる。
そのあいだも、銃弾に倒れながらも兵たちが突進していった。
そして、数箇所で城壁まで辿りついた。
「弱い。なんのことはない──」
ジグはどんどんと城壁に
意外にもろい──。
城壁の上では辿り着いた味方と賊徒のあいだに白兵戦が始まっている。
こうなれば、正規の調練を受けている南王軍の兵と、ただの賊徒とでは相手にはならない。
ここからでも味方が圧倒としているのがわかる。
やがて、城門が内側から大きく開かれた。
上から城壁を越えた兵たちが城門を開放したのである。
「いまぞ──。全軍、抜けよ──」
ジグは大声で叫んだ。
そのときだった。
「ジグ殿──。もろすぎる。罠かもしれんというロウの伝言だ。一度、城門の位置で前進をとめよということだ──」
大声がかけられた。
顔を向けると、女騎士のシャングリアだった。
馬上のまま、
「馬鹿な──。賊徒は後退していく。この場に乗じて、混戦を作る。さすれば、賊徒は味方に向かって銃を射てん。大量の銃が無用のものとなれば、賊徒など敵ではない──。いまのを見たであろう」
ジグは叫んだ。
そして、全軍に突進の指令を改めて出す。
それだけでなく、自らも城壁の向こうに進むために、馬の準備を指示した。
「ジグ殿──」
櫓の下でシャングリアが怒ったような声をあげた。
若くて美人ではあるが、その迫力にジグにたじろぎそうになる。
だが、懸命に腹に力を入れた。
「この戦いは南王軍のものと決めたはずであるぞ、シャングリア殿──。そう伝えるがいい。独裁官殿たちは、ただ見ておればいいとな」
ジグは怒鳴り返した。
もう構わない。
従者の連れてきた馬に飛び乗り、随行の隊とともに馬を駆けさせる。
南王軍全軍による雪崩のような突撃が開始されていた。
ジグは兵たちを追い抜きながら城壁の向こう側に駆け抜ける。
とにかく、逃亡していく賊徒たちのあいだに間隙をあけないことだ。
城壁の向こう側に無数の土塁が見えた。
土塁には賊徒の兵が張り付いているが、近いところから突進する南王軍の兵たちと斬り合いになっていた。
やはり、相手にはならない。
見る間に賊徒たちはやられていく。
「上に追い立てよ──。殺さずに、追い立てるのだ──」
ジグは叫びながら乗馬のまま進んでいく。
銃音は鳴らない。
さすがに、味方の賊徒たちと混戦になっている状況では、向こうも銃を撃てないのだ。
斜面の上側に低い土壁があり、その向こうには建物群も見える。
あれが賊徒たちの拠点の中心だろう。
いまや、南王軍は最初に突破した城壁の位置からもかなり進み、土塁群のある斜面の半分まで辿り着いている。
土塁から追い出された賊徒たちを追いたてるようにして進んでいく。
ジグは、さらに南王軍の残りにも突進の指令を出させた。
「ジグ副長、あれを──」
すると、一緒についてきていた従官がやや上側の側面の斜面を指さした。
「大筒か?」
ジグは眼をこらす。
これまで隠していたようだが、銃よりも遙かに口径の大きい火砲が顔を出していた。
十門ほどだろうか。
それが一斉に火を噴く。
凄まじい爆音とともに、黒煙が噴きあがる。
「大砲か──。こいつら、そんなものまで持っておるのか──」
ジグは驚いたが、ジグも平民あがりとはいえ、生粋の軍人である。
大筒とも、大砲とも呼ぶ火器のことは知識として知っていた。
あれは、音の派手さのわりには、それほどの損害を与えるものではない。火薬を使って大きな河原石を投げるようなものにすぎず、人間には大した被害は与えない。
近くの土塁で白煙が幾つか発生した。
「気にするでないわ──。最後のあがきよ──」
ついに賊徒の大将は、味方ごと討伐軍を攻撃することに決心したみたいだ。
だが、もう遅い──。
機はすでにこっちに傾いている。
「大筒など、音だけ──」
ジグは周りを鼓舞しようと声を放った。
しかし、大筒の砲弾の落ちた場所で爆発が発生し、周囲の者が血を噴き出して大勢倒れる。
賊徒兵も南王軍もない──。
砲弾の落ちた周りでは、身体の一部を失った兵が血だらけで転がる光景が展開していた。
「な、なんだ──?」
ジグはびっくりした。
大砲というのは爆発したりしない。
ただ、鉄の塊が落ちてくるだけのもののはずだ。
それなのに、この被害の大きさはなんだ──。
おそらく、さっきの大筒の一斉射撃で、味方も敵も、あわせて数百人の兵が倒されただろう。
ジグは砲弾が集中した混戦の先頭に目を向けた。
そこにあったのは、人間だったものと武具がぐちゃぐちゃに入り交じる地獄のような景色だった。
身体を引き千切られているのか──?
一体全体、どういう仕掛けで──?
すると、さらに轟音が側面から響くのが聞こえた。
あの大筒だ──。
今度はこっちに向かっている。
ジグを含んだ周囲が吹き飛ばされた。
そして、ジグは見た。
近傍で地面に到達するとともに爆発した大筒の弾が、炸裂とともに無数の金属の破片を周囲一帯に巻き散らされたのを──。
数個の金属片がジグの顔と胴体に高速で突き抜け、ジグの視界を掻き消した。
爆風に地面に飛ばされながら、ジグの意識は完全な無の中に包まれてしまった。
*
短いですね…。