※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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794 ワルム砦の大攻防戦(防壁崩壊)

 もうもうと土煙が立っている。

 距離があるので、こちらの視界全体を阻むことはないが、だが、砦の前面を防護する石壁があった場所は、完全に土煙が覆っている。

 

 あらかじめ準備しておいた仕掛けのひとつであり、堅牢な石積みにみせかけておいて、実際には、人の頭ほどの数個の石を下段から引き抜けば、全部が崩れるようになっていたのだ。

 ドピィの緻密な計算による石積みだからなしえた特殊な仕掛けだった。

 

 もともと、その防壁で守らせていた賊徒兵は(おとり)だ。

 まともなやり方で、調練を受けた国軍の兵に、農民あがりの賊徒兵が相手になるとも思っていない。

 実際に戦いが始まると、数では互角以上であるが、案の定、あっという間に防壁は奪われ、南王軍の占拠する場所になった。

 しかし、罠を見抜かれることなく、そうやって防壁を占拠させることこそ、ドピィの狙いだったのだ。

 

 この時点で崩してやってもよかったが、南王軍がそのまま土塁群を越え、ドピィたちのいる砦の頂上に駆けあがろうと企て、防壁には留まらなかったことで、防壁を崩すことは一時的に保留した。また、なんといっても、シャロンを射った「あの男」がまだ後ろだった。

 

 この砦戦の緒戦だった山地の間道沿いの側面攻撃は、残念ながらエルフ族ではなかった。

 それは、襲撃してきた連中を皆殺しにしてから知った。

 ドピィは、舌打ちしたものだ。

 

 だから、ドピィはさらに機会を待つことにした。

 そして、大筒(おおづつ)で蹴散らし、南王軍の連中が慌てて、罠の仕掛けてある防壁に戻ったところで、隠していた兵に防壁を崩す「要石(かなめいし)」を一気に引き抜かせた。

 もちろん、あのエルフ族に守られているあの男……ロウが防壁に入ったことも確かめている。

 

「頭領、やりましたね。すげえや。本当にすげえや──」

 

 カリュートだ。

 四天王と呼ばれていたドピィの筆頭部下の中で、いつの間にか唯一の生き残りのようになっていた。

 

「おっ、なんだこれ──? うわっ」

 

 そのカリュートが近くに転がっていたものを見て、悲鳴のような声をあげた。

 少し離れた場所に転がしていたのは、手足を付け根から切断した全裸の男の身体だった。

 悲鳴がうるさかったので、声が出ないように喉も潰したが、一応はまだそいつ自身の血だまりの中で生きている。

 もっとも、もうそれほど長くもないだろう。

 なにせ、四肢を切断して止血をすることなく、そのまま地面に転がしているのだ。

 ほとんど虫の息と言っていい。

 

 一切の放置を命じているので、ドピィの身辺を遠巻きに警護させている兵たちも、完全に無視していたので、ドピィも存在を忘れかけていたが、カリュートは、ついさっき激怒したドピィが行った行動の結果を承知していなかったので驚いたようだ。

 カリュートは別の場所で指揮をしていたのだ。ここに来たのは、もちろん、ドピィが呼び出したためである。

 

「この男は、すぐに俺に報告すべきことを意図的に隠していた。それで罰を与えた」

 

 とりあえず、ドピィはそれだけを言った。

 説明しようとすると、怒りが改めて込みあがってくる。

 こいつは、自分の失態を単にドピィが激怒するだろうということだけで、時間伸ばしにして隠していた。

 その結果、すぐに対応すべきことができずに、それなりの時間を費やしてしまった。

 報告が遅れたために、それがさらに失態を拡大したのだ。

 それを知ったドピィは、責任者であるこいつを目の前に呼び出し、激怒のまま手足を切断させて放置させた

 防壁を崩して、あのロウごと南王軍の主力を石積みで潰したときの、ちょっとだけ前のことだ。

 

「そ、そうか。まあ、そうなんだな……。だ、だが、すげえよ、頭領。すげえものを見たぜ、南王軍が石積みの下だ。きっと巻き込まれた連中は生き残っちゃいねえさ。また、頭領の勝利だ。すげえよ。本当にすげえよ」

 

 カリュートがまるでおもねるように言った。

 実際、おもねっているのだろう。

 首に炸裂環を嵌めてやってから、この傍若無人の傾向のあったこの男は、こんな風なしゃべり方をすることが多くなった。

 いまも、ドピィが不機嫌なのを見越して、詳細を訊ねるのをやめたようだ。

 

 まあいい……。

 こっちについては、すでに別の部下に命令して、童女魔道遣いの行方を捜索させている。

 すでに砦の外に脱走しているか、あるいは、まだどこかに隠れているのかわからないが、相当に気合いを入れてやったので、すぐになんらかの報告があがるだろう。

 いずれにしても、それよりも、目の前の戦場のことだ。

 

「いや、まだだ。実際には巻き込まれて潰された者よりも、そうでない敵兵の方が多いぞ。もっとも、戦意は消えたかもしれないけどな」

 

 ドピィは、潰れた防壁の石積み近くにいた敵兵がわらわらと砦の反対方向に逃亡していくのを眺めながら言った。

 南王軍の戦闘の指揮官らしき男が賊徒群の砲弾で木っ端みじんになるのは確認しているし、ちょうどそのとき、エルフ族の女兵隊に守られていたロウやエルフ女王が崩れた防壁の上に立っていたのもドピィは見ていた。

 

 あの防壁の石積みの崩壊に巻き込まれて生き残っている可能性は低いが、もしも息があるなら、エルフ族を片っ端から捕獲させようと思っている。

 人間族とは異なり、エルフ族は大なり小なり魔道の使い手だ。

 シャロンを回復させられる白魔道術士を確保できるかもしれない。

 もっとも、シャロンに近づけるなら、確実に隷属をさせて危険を失わせてからでなければならないが……。

 まあ、瀕死で弱っているなら、いかに魔道力の強いエルフ族でも、隷属にはしやすいだろう。

 

「とにかく、カリュート、一隊を率いて、崩れた防壁から、生き残っているエルフ族を探して連れてくるんだ。息さえあれば、四肢が潰されていても、生きたまま連行するんだ。もちろん、魔道封じの処置は忘れるな。死にかけていても油断はするなよ」

 

 ドピィは言った。

 カリュートが真剣な表情で頷く。

 

「すぐにかかります。エルフ族をあの石段の下から探して連れてくるですね。わかりました……。ところで、人間族については? そっちは連れてこなくていいんですか」

 

「必要ない。逆に、もしも、息がある者がいれば、全員その場でとどめを差せ。いや……。ロウの屍体だけは殺してから持ってこい。首から上だけでいい」

 

 情報によれば、ロウという男は、イザベラ王太女の情夫らしい。

 だったら、死骸でもなにかの使い道があるかもしれん。

 

 カリュートが走り去っていった。






 投稿間隔が開くうえに、短くて申し訳ありません。
 そのうちに執筆速度を回復させたいですが、一度、倒れてから、どうにも調子が悪いです……。
(身体ではなくて、執筆感覚が)。
 とりあえずここまで。
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