【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
唖然とする光景だった。
堅牢そのものだった砦の防壁がたった数個の石を下段から引き抜いただけで、これほどまでに全壊をしてしまったのだ。
すげえものを見た……。
本当にすげえ……。
二百人ほどの兵とともに、崩落した防壁の瓦礫の前にやってきたカリュートは、改めてドピィの知略と技量を思い知った。
こんなことができるのは、まさに天才の所業に違いなかった。
崩れてからそれなりの時間が過ぎているのに、いまだに、周辺にはもうもうと土煙が残っている。
ドピィの仕掛けた防壁の破壊がいかに凄まじかったということが、これひとつでわわかる。
「よし、五人ずつ組を作れ。石を避けながら、生きているのものがいれば報告しろ──」
カリュートは指示をした。
ドピィに命じられているのは、この巨大な瓦礫の中から、生き残っているエルフ族を連行することだ。
もっとも、カリュートには、ドピィには申し訳ないが、、こうやって崩落の現場を目の当たりにすると、とてもじゃないがこの防壁の崩壊に巻き込まれて、生き残る者がいるとは思えない。
全員即死だろう。
土埃の匂いとともに、激しい血の香りも瓦礫から漂っている。
「隊長、あれを──。なんか変ですよ」
そのとき突然に兵士が空を指さして叫んだ。
思わず視線を向けると、空中の一角がゆらゆらと風が揺れている感じがしていた。
「うわっ、なんだ、あれ──」
そして、次の瞬間、突然に空に男が出現した。
ちょうど、防壁が残っていたら、その頂上あたりだろう。いまは、防壁そのものが崩落しているので、なにもない空になっている。
そこに男が出現した。
「うわっ、なんだ、あれ──」
「魔道だ──」
「魔道で男が現れたぞ──」
気がついた兵士たちが仰天して騒ぎ出す。
魔道──?
この砦全体は、ドピィの指示で大量の魔道封じの魔石を埋めており、魔道効果は発揮しないはずだ──。
咄嗟に思ったが、同時に、防壁が崩落して壊れてしまえば、魔石同士の結界が崩れ、防壁に埋め込んだ魔道封じも効力も消失してしまう可能性があることを思い当たった。
あるいは、強い力を加えれば魔石そのものが崩れるかもしれない。
その隙を突かれたのかもしれない。
「武器をとれ──」
カリュートは慌てて叫んだ。
だが、男はそのまま、地面に向かって落下してきた。
呆気にとられていると、男は瓦礫に身体を叩きつけられる寸前に、身体を消失させてしまった。
「なんだああ?」
カリュートは声をあげた。
周辺の賊徒兵も呆然としている。
しかし、再び、男が出現した。
ほんのたったいま、落ちてきたこの男が消えた場所だ。
そして、今度は男だけではない。
美しいエルフ女性が一緒だ。
いや、ほかにも大勢いる。
十数人──?
いや、もっとだ──。
二十人くらいはいるだろう。
すべて、完全武装のエルフの女兵である。それが突如として、瓦礫の上に出現した。
「ロウ様──。たった、おひとりで、あんなことをされるなんて信じられません──」
男とともに出現したエルフ美女のひとりが怒鳴ったのが聞こえた。
「仕方ないだろう、エリカ。亜空間から出るのは、入り込んだ同じ場所からしか駄目なんだ。あのとき、とっさにお前たちと一緒に亜空間に逃げたのは防壁の上だったんだから、当然にあそこに出現するしかない」
「だとしても、そのまま落下するなんて」
「落下しなければ、地面に近づかないだろう。地面のすれすれでもう一度亜空間には入り直して、みんなの出現位置を調整した。うまくいったじゃないか」
男は気楽そうに笑っている。
それに比べて、エリカと呼ばれたエルフ美女は怒りの表情だ。だが、心から男を心配しているということもわかる。
だが、カリュートははっとした。
あの男はロウ……。
ドピィが必ず殺せと口にしていた男だ。
南王軍の事実上の指揮官だったはずだ……。
「制圧せよ──」
思考を巡らせているあいだに、力強い女の声が響いた。
現れたエルフ女兵たちはすでに動き始めている。
あちらこちらで、賊徒兵たちが吹き飛ばれている。
あの細い身体で剣だけで、大の男を三人、四人と同時に斬り飛ばすのだ。しかも、その光景があちらこちらで繰り広げられている。
カリュートは我に返った。
「組を作れ。数名でひとりに当たれ──。いや、銃だ。距離をとって、射殺しろ──」
カリュートは叫んだ。
「……そんな余裕あるわけないでしょう……」
気がつくと、目の前にエルフ女兵の女隊長がいた。
その女隊長の持つ剣が首に向かっている。
「がっ」
突然に視界が浮いた。
地面が見え、血を噴き出す首のない身体が倒れるのが見えた。その首で小さな爆発が起こって、首のない胴体が爆破に巻き込まれて地面に転がっていく。
カリュートは、それが自分の身体であることを悟った。
爆発が起きたのは、首を切断されて炸裂環が外れたからだろう。無理に外そうとすれば、首を引き千切るほどの爆破が内側に発生するのだ。
思念はそこまでだ。
頭が地面に叩きつけられ、視界は地面と同じになった。
そのカリュートの首の横をたくさんの具足がついた脚が走り抜けていく。
だが、喧噪はあっという間に通り過ぎ、少し静かになる。
なにも聞こえなくなり、突如として視界もなくなった。
そして、カリュートの思考も消失した。
*
「エリカ、道を開いてくれ……。ブルイネン、前だ──。俺を囲んで前を進め──。俺が進んだ位置まで、全員が近づける──。上だ、みんな──」
一郎は指示をした。
遠くにある斜面の上側に存在する賊徒の隊長らしき男の小さな影を一郎は捉えている。
一郎がそこまで辿り着ければ、この戦いは終わりだ。
終わらせてやろう……。
ミウに手を出した酬いはしっかりとくれてやる。
「お任せください。ロウ様には矢一本、銃の弾であっても近づけさせません。ただ前にお進みください」
エリカが一郎の前を裾払いするように歩き進んでいく。
そのあいだも、銃弾のようなものが何度も向かってくるが、エリカの剣が眼にも見えないくらいの速度で払われて、音が離れていく。
同じことが何度も起きているし、エリカだけでなく、数名のエルフ女兵が一郎の回りに張り付くように、エリカと同じようにしている。
まさかとは思うが、本当に銃弾を切断しているのか?
一郎は呆気にとられるとともに苦笑した。
まさに、一郎の女たちは、神がかりな強さだ……。
「ご主人様、二マイス先まで、魔道封じの結界が崩れてます──。縮地で一気に進めます──。結界も……」
一郎のすぐ後ろを歩くガドニエルだ。
“一マイス”というのは、一郎の前の世界の感覚では「約百メートル」だ。従って、二マイスは二百メートルに相当する。
目の前の斜面には、南王軍の最初の突撃のときにできた砲弾の爆破痕が無数にできている。
それだけ激しい砲弾だったのだろうが、その砲撃の衝撃でドピィが準備した魔道封じの魔石結界が崩れたのだろう。
「行け──。結界はいい──。とにかく、進み続ける」
一郎の言葉が終わるや否や、景色が一瞬にして変化して、二百メートル斜面を進み跳んだ。
「うわっ」
「エルフ女兵だ──」
「離れろ──」
「射て──。射て──」
さっきよりも大勢の賊徒の中に跳躍したことになり、周囲が一斉に慌ただしく動き出した。
「銃を持っている者を斬れ──。逃げる者を構うな──。ロウ様が進むのを援護するのだ──」
ブルイネンが怒鳴った。
女兵たちが動き出す。
一朗はただ斜面を進み続ける。
そのとき、大きな音がした。
戦場全体に張り巡らせている一郎の魔眼に、“大筒”を装備した十数名の賊徒兵の情報が入ってきた。
「全員、集まれ──」
離れすぎないように徹底しているが、二十名の女兵たちはさらに一郎との距離を縮めた。
凄まじい砲撃が一郎たちを包むときには、一郎はエリカやガドニエル、そして、二十名の新鋭隊ごと、再び亜空間に逃げ込んでいた。
*
「ちっ」
ドピィは舌打ちした。
おかしな術で防壁の崩落からロウが生き延びたのは、防壁の位置した瓦礫に、ロウとともに、エルフ族の女たちが突然に出現したことから理解した。
しかし、崩落を発生させた後ならともかく、崩壊前にはあの防壁全体も、完璧に魔道封じの結界を魔石で包んでいたはずだ。
だが、まあ、エルフ族たちが人間族には及ぶべきもないほどに魔道に巧みなのは承知している。ましてや、ロウと一緒にいるのは、この世界で最高の魔道遣いとされているエルフ女王ガドニエルだ。
もともと、完璧な魔道封じの結界など難しいのだろう。
ドピィは気を引き締め直した。
失敗したなら、さらに、第二、第三の攻撃をたたみかけて殺すだけだ。
見たところ、南王軍全体は完全に戦意を失って、砦から離れる方向に逃げて言っている。
こっちに向かってくるのは、ロウの周りいる数十名のエルフ女兵だけだ。
だが、その強さは凄まじい。
数で圧倒している賊徒たちは、まったく歯が立たずに、次々に打ち倒されていっている。
ひとりひとり倒されるのではない。
エルフ族の女兵の剣や鉾のひと振りひと振りで、五人、十人と斬り飛ばされていっているのだ。
それがロウの周囲で一斉に起きていて、賊徒たちが恐れおののき始めているのもわかる。
その状況はあっという間に総隊長格のカリュートが斬り殺されたことからも顕著になっている。
「大筒を準備しろ──。一斉射撃だ──」
ドピィは指示した。
銃弾も、あのエルフ族たちはものともしていない。信じられないが、銃弾を剣で切り落としている気配だ。
糞ったれが……。
だったら、鉄の破片を撒き散らす新砲弾をありったけぶつけてやる。
それを喰らって、生き延びられるわけがない。
シャロンが味わっている苦痛を思い知れ──。
「いけええ──」
準備が整ったという報告に、ドピィは怒鳴り声で返した。
砲撃がロウが歩き進む場所に包み起きる。
だが、ドピィは再び舌打ちした。
砲撃があそこに辿り着く直前に、ロウたちが消えるのが辛うじて見えたのだ。
どういう魔道なのかわからないが、あれで防壁の崩落もやりすごしたのだろう。もしかして、別空間に一時的に避難する術か?
ドピィは、そんな魔道など聞いたことはないが、エルフ族ならば、人間族には知られていない魔道も数多くあるのかもしれない。
だが、どうするか……。
おそらく、砲撃をやめれば、ロウたちは姿を現して、同じことをしながらこっちに進んでくるのだろう。
そして、砲撃があれば、また隠れてやり過ごし、終われば、現れる……。
これを繰り返して、ここまで近づく気に違いない……。
だったら、冷静さを失わせてみるか……。
怒りで頭を沸騰させてやれば、亜空間に逃げ込みことなどせずに、猪のようになって暴走してくるかも……。
そこに銃弾と砲弾をぶつける……。
「おい、さっき負傷したのを捕まえた女騎士がいたな。連れてこい──。鎖で縛り付けたまま引きずってこい。具足を剥ぎ取った下着のままでいい──」
防壁を崩壊させる前に、騎馬隊の先頭で突っ込んできた女隊長を捕らえていた。馬から落馬して頭を打って動けなくなっていたのを捕らえていたのだ。
それを連れて来させた。
「くっ、殺せ──」
すぐに鉄の手枷と足枷を嵌められている女騎士がやってきた。手足に矢傷があるが、大した負傷ではない。
頭を打って気絶して、動けなくなっただけであり、さっきまで悪態をついていた。
また、武器や具足を剥ぎ取っているので、胸当てと腰を包む下着だけの肌も露わな姿だ。
連行してきた男の賊徒兵たちも好色そうな視線を向けている。
「お前はあのロウの女だったな」
ドピィは言った。
事前に集めた情報によれば、この女はシャングリアといい、やっぱり大勢いるロウの女のひとりだ。
「だったらなんだ──」
シャングリアがドピィを睨みつけた。
「ロウを怒らせる餌になってもらおうと思ってな……。よし、お前ら、櫓の上に、この女を連れて行け。そこで全員で代わる代わる犯してやれ。戦場全体に聞こえるように、よがり声をあげさせてやるんだ。媚薬もたっぷりと使え」
ドピィの命令に、シャングリアの怒鳴り声と男たちの歓声が響き渡った。