【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「ロ、ロウ──」
ドピィは、その悲痛な叫びを聞きながら、眼下の斜面に目をやった。
編成された百人隊による一斉射撃だ。
いかに、エルフ族たちが武辺と眼の能力に優れていて、飛んでくる銃弾を切り落とせるほどの技があったとしても、百挺もの銃弾を避けられるわけがない。
案の定、銃弾の嵐を受けたロウと取り巻きのエルフ女たちは、まるで暴風にでも飛ばれたかのように、後ろに飛んでいった。
これで終わりだ。
「はははっ……。お前の隊長さんは死んだぜ。じゃあ、後はなにも気にすることなく、俺たちに犯されることだ。それよりも、尻を振り始めたじゃねえか。どうかしたか?」
櫓の上でげらげらと下品な笑い声がした。
女騎士のシャングリアを陵辱するために、女泣かせの痒み剤を使うと称していたので、さっそく効果が出始めたのだろう。
拷問で使わせたこともあるが、あれの効き目は凄まじいし、掻痒効果が発生するまでの時間も短い。
拷問のために特別に錬成させたものなのだ。
女を屈服させるには、最適の道具である。
「く、くううう、ふ、ふざけるなああ──。ああああああっ」
シャングリアの口はかちかちと鳴っていて、ふと視線を向けると、後ろに突き出すように拘束された白い尻をシャングリアは淫らにうねらせている。
とてもじっとしていられないのだろう。
いずれにしても、ロウを怒らせる小細工は無駄だったか……。
ドピィは、掃討を命じるために、もう一度戦場に視線を戻した。
そのとき、巨大などよめきの声が耳に入った。
「どうした……。うわっ」
ドピィも思わず声をあげた。
後ろに倒れたロウたちの身体がいきなり浮きあがったのだ。それだけでなく、奇妙に膨らんでまん丸くなっている。
それが空中に浮かんで、百人隊の頭上近くまで寄ってきた。
目を見張ったが、ドピィははっとした。
「しまった──。人形か──」
なんてことはない。
おかしな術で出現したり、消滅したりしているが、こっちが銃で待ち構えていることをわかっていて、自分たちの姿に似せた人形を代わりに出現させたのだ。
わかってしまえば、簡単な仕掛けだ。
それで銃をやり過ごしたのだ。
銃は一度撃てば、弾込めに時間がかかる。
それを狙ったのだろう。
次に現れるのが本物か……。
しかし、甘い──。
百挺の銃隊だが、百挺の全部を撃ったわけじゃない。少なくとも二十は残しているはずだ。それは徹底していた。また、弾込めだって、気が遠くなるほどに反復演練をさせている。
弾を撃ったところで安心して現れた次こそ、仕留める
それはいいが、なぜ、人形が上に……?
「次に本物が現れるぞ──。狙えええ──」
とにかく、ドピィは叫んだ。
声はなんとか届くだろう。
もうそれくらいの距離までロウたちは、ここまで近づいていたのだ。
そのとき、空中にあった複数の人形……いまや、丸く膨らみすぎて人間のかたちすらしていなかったが……。それがいきなり爆発した。
そして、百人隊を含めて四周に液体と黒い粉を撒き散らした。
「現れた──」
「出たぞ──」
「撃てえええ──」
一方で、やっぱり、ロウと女が出現した。
再び一斉射撃だ。
今度はさっきほどの数じゃないが、銃弾を受けてロウたちが後ろに飛ぶ。
先ほどと寸分違わぬ光景に、ドピィは違和感を覚えた。
「うわっ」
「まただ──」
「浮かんだ──」
またもや人形だった──。
丸く膨らんで巨大な玉のようになった人形たちが空中に浮かび、さらに、液体と黒い粉を撒き散らす。
「また、出た──」
「うわあっ」
「弾込め、急げえええええ」
さらにまた、ロウたちが出現する。
おそらく、今度も人形だ。
ドピィは確信した。
そして、はっとした。
「全員、武器をとって配置につけえええ──。非戦闘員もだ──。女も、子供も、武器を握れる者は全員が防護柵のあいだに入れ──」
ドピィは鐘を鳴り響かせた。
二度の一斉射撃で、百人隊は弾を撃ち尽くしている。
それがわかれば、今度こそ本物が現れて、賊徒兵を蹂躙する──。
あのエルフ女性の凄まじい突撃に、百人程度の賊徒が支えられるわけがない。
すぐに突破されるだろう。
砲撃も無駄だ──。
隠れられて終わりだ。
それとも、シャングリアへの陵辱に逆上して、砲撃を隠れずに突っ込んでくれるか……?
いずれにしても、こうなったら人の数で圧倒するしかない。
一万を越えている賊徒の全員で対処させる。
ドピィのいる砦の頂上の前には、最後の防護として、三重に防護柵が構築されている。
人の背丈よりもやや低いくらいの高さだが、その三重の防護柵の後ろの全部に、賊徒を入れて武器で守らせる。
これだけあれば、突破できまい。
それだけでなく、実は三重の防護柵の前面には、土の上面の下に大量の火薬砂を隠している。
強い衝撃か高熱を加えれば、地面全体が吹っ飛ぶ。
作動させれば、当然に魔道封じも崩壊するが、魔道防護の盾もある。だから、爆発で吹っ飛んだロウたちにとどめを刺すくらいは、賊徒兵にも可能だろう。
「ちいいいいくしょおおお──」
すると、がんと大きな音がして、次いで、男たちの悲鳴が櫓の上であがった。
ドピィは目を見張った。
シャングリアの片足が自由になっている。
びっくりすることに、木杭で固定されていた足首を櫓の床板ごと破壊している。
その足で蹴り飛ばされた賊徒の男たちが四人ほどまとめて櫓から落下してきた。
なんという怪力だ。
ドピィは半ば呆れてしまった。
だが、それどころじゃない。
「なにをしている。薬を嗅がせろ。もう一度、弛緩させるんだ」
ドピィの指示で櫓に残っていた男たちが、シャングリアの顔に、寄ってたかって薬液の染み込んでいた布を押し当てた。
そのあいだに、さらにふたり蹴り落とされたが、薬を嗅いだシャングリアはやっと静かになった。
気絶まではしていないようだが、今度こそぐったりとなった。
「大型の獣用の鎖を持ってこい。拘束しなおせ──」
ドピィは指示したが、櫓に残る賊徒たちも精魂尽きた感じになっている。ドピィは舌打ちして、もう一度同じことを怒鳴る。
慌てて、賊徒たちの数名が櫓から駆けていく、
一方で三度目の人形の爆発──。
またもや、黒い粉と液体を上から撒き散らしている。
四度目のロウたちの出現──。
今度も人形か……?
「シャングリア、もうすぐ、そこに行く──。待ってろ──」
ロウが怒鳴った。
賊徒たちが防護柵の後ろに配置についていく喧噪が激しくて聞こえにくいが、ロウの声はドピィには入ってきた。
本物だ──。
「ロウ──。た、助けてくれ──。こ、こい、こいつら、わたしに、痒み剤を……」
すると、シャングリアが喚き返したのが聞こえた。
弛緩剤で身体が痺れているために、大きな声にはなっていないが、ロウには届いたのだろう。
遠目だが、ロウが不敵に微笑むのがわかった。
「我慢しろ──。いまから、そこにいる賊徒の親玉を殺すから、それまで待つんだ──」
ロウが叫ぶ。
くそお……。
百人隊の弾込めはまだか……。
彼らが賢明に、再装填をしているのはわかっている。多分、もう少しだ。
ちょっとでも時間を……。
「ロウ──。お前の女のシャングリアは、しっかりと可愛がってやったぞ。すでに、俺の子を孕んでいるのかもな──」
ドピィは怒鳴った。
なんでもよかった。
ロウが激昂して、話に乗ってくれればいい。それで時間を稼げる。
「偉そうに口を開くな。俺の女に手を出して、酬いを受ける覚悟はあるんだろうな──。エリカ、いいぞ──」
横にいるエリカにロウが声をかけた。
エリカが構えていた弓を百人隊に向かって放つ。
矢先に長細いものが装着されているのが辛うじてわかった。
その矢が百人隊の中心にいる隊長を貫く。
そして……。
次の瞬間、轟音とともに百人隊で爆風と火炎が沸き起こった。
「しまった──。あの粉と液体は、炸裂薬と火炎油か──」
ドピィは歯噛みした。
迂闊だった。
炸裂薬というのは、火薬に似ているが、もっと引火と爆発を発生しやすくしている特殊な粉末だ。
人形にそれを充満させておいて、それを百人隊の上にばらまいたのだ。
火炎油も同様だ。
爆発で燃えあがり、百人の銃士隊が火だるまになっている。
阿鼻叫喚の光景だ。
「突撃にいいい──前ええええ」
その爆発と火炎の向こうでエルフ族の女隊長の声が響き渡った。