※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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799 ワルム砦の大攻防戦(決着)

 ドピィは怪訝に思った。

 

 あのロウたちの動きが変だ。

 

 ロウとエルフ隊の連中は、ドピィが投入した百人の銃士隊を罠によって火炎に包んで全滅させ、その勢いのまま、ここに突撃しようとする態勢だった。

 いや、実際、突入しかけていた。

 それが、突然に中断された。

 いまは、あの場所に留まり、完全に防護の態勢になっている。

 

 とにかく、あいつらはいままさに、目の前の山砦の最終陣地であるここに突撃する状況だったのである。

 だから、ドピィは、残る全勢力を最後の防護柵に投入したのだ。

 あの信じられないくらいに精強なエルフ隊を阻むのは、もはや数の力しかないからだ。

 あるいは、土の中に仕込んでいる爆裂砂である。

 爆風によって魔道封じの結界も崩れるので使い方が難しいが、ドピィは場合によっては味方ごと、ロウたちを爆殺するつもりあった。

 

 しかし、なぜか突如として、連中は突撃を中止して、あの場所に留まる態勢を作った。

 おかしな防護壁が突然に構築されたのも、あれも魔道だろう。

 あの一体から下の斜面については、ドピィが砲撃させて土を掘り返した状態になっているので、すでに結界が崩れているから、そんなことも可能だ。

 はっきりとは確認できないが、おそらく、エルフ族たちは、防護壁だけでなく、魔道による防護結界も構成したと思う。

 

 なぜだ──。

 なぜ、あの連中は攻撃をやめた──?

 

「ああ、痒いいい。ああっ、あああっ、ち、畜生──」

 

 そのとき、頭の上側の(やぐら)から、シャングリアが泣き叫ぶ声が聞こえてきた。

 視線を向けると、改めて大型の獣用の鎖と枷で拘束させたシャングリアは、媚薬の影響で真っ赤に充血した汗まみれの裸身を必死の様子で暴れさせている。

 しかし、陵辱を命じた賊徒兵たちは、前方側で百人隊が火炎に包まれて全滅させられたのを目の当たりにして、すっかりと怖じ気づいており、シャングリアへの陵辱を中断させてしまっている。

 その視線は唖然とした表情とともに、前側のロウたちに向けられている。

 ドピィは舌打ちした。

 

 だが、次の瞬間、ドピィははっとした。

 櫓で激しく悶えさせているシャングリアの白い裸身の向こう側の山中の森の中から、三筋の白い煙がたなびいているのが見えたのだ。

 

 白い煙──。

 あれは、人為的なものだ──。

 つまり、のろし……。

 

「ああ──、しまった──」

 

 ドピィは愕然とした。

 白い煙が流れている方向が、この戦いの初っ端に南王軍を蹴散らした砦の側面を抜けて砦の後方に抜ける山間道の方向だと気がついたからだ。

 

 あそこが弱点であることはわかっていた。

 だから、あえて弱点として残しておき、待ち伏せをさせ、早朝の攻撃隊を全滅させていた。

 そして、白いのろしが上がっているのは、まさにその方向だった。

 つまりは、そっちから、敵が接近しているという合図だろう。

 だから、それを確認したロウたちは、正面からの攻撃を中止したに違いない。

 

 いや、結局のところ、もしかしたら、白い煙を出して合図した一隊こそが本命で、そのためにロウたちは、正面から攻撃して、賊徒軍を正面側に誘い出したのかもしれない。

 実際、ドピィはいまや全勢力を正面側に配置する命令を下してしまっていた。後方に配置している兵など、ほとんどない。

 完全に油断していた。

 

 歯噛みした。

 

 だが、いまさら防護柵についた賊徒たちを転用できるか──?

 この連中は、所詮は素人だ。

 勢いのあるときにはどこまでも戦意があがって勇猛にもなるが、ひと(たび)、心が防備にまわれば、まるで腰が入らなくなって弱くなる。

 頭領であるドピィは、誰よりもそれを知っていた。

 

「なんだ、あれは──?」

 

「赤と青──?」

 

 櫓や周囲でどよめきが起きた。

 斜面の中腹で防護の態勢をとったロウたちからも、のろしがあがったのだ。

 

 青と赤のそれぞれ三本ののろし……。

 

 あれが意味するものはわからないが、のろしというものは、離れている味方になにかの意思を伝える合図にほかならない。

 正面のロウたちエルフ隊以外に、この砦を攻めている勢力が存在するというなによりの証拠だ。

 

 不意に砦の後方で大きな爆発が連続で起こった。

 悲鳴や怒声の混じった騒乱も聞こえてきた。

 今朝、南王軍の一隊を蹴散らした後ろの側面だ──。

 なんの爆発かは不明だが、とにかく、あれだけの爆破衝撃であれば、間違いなく魔道の防護結界は崩壊している。

 おそらく、それが狙いの爆破に違いない。

 

「くそう……」

 

 対処の手段が思い浮かばない。

 次の瞬間、地響きのような騒乱が伝わってきた。

 エルフ族が──という声も聞こえてくる。

 

「うわっ」

 

「ぎゃあああ」

 

「ひぐっ」

 

 突然に砦の背中側から暴雨のように矢が襲いかかってきた。

 櫓の上の連中を含めて、周囲の賊徒兵たちが次々に射殺されていく。

 

「ぐあっ」

 

 肩に熱いものを感じて、ドピィはひっくり返った。

 矢が刺さっている。

 地面に転がって、飛んでくる矢を避けながら、ドピィは力任せに刺さっていた矢を引き抜く。

 血がどっと噴き出した。

 とにかく、櫓の柱の陰に隠れて小さくなる。

 

 そして、隠れながら、矢が飛んでくる後ろ側に目をやった。

 エルフ族だ──。

 斜面側からロウとともにあがってきていた女隊ではなく、ほとんどが男のエルフ族だ。

 数十人ではきかない──。

 視界に映るだけで百人以上はいる。

 おそらく、その数倍はいるのだろう。

 それが、砦の後方から襲撃をしてきている。

 すでに、山砦の頂上部は半分以上制圧されたといっていい。これも、ドピィが全勢力を前側に回してしまったからである。

 

 なんという迂闊な……。

 ドピィは自分に激怒してしまった。

 

「しゃああああ──」

 

 そのときだった.

 風のような“なにか”が通り過ぎたと思った。

 気がつくと、櫓に残っていた連中が絶叫しながら櫓から落とされていっている。

 顔をあげると、小柄な獣人族の娘が櫓にあがっていた。

 シャングリアを守るように、彼女に群がっていた男たちを長い爪で斬り割き続けている。

 

「シャングリア様──。いま助けます──」

 

「おお、イット──。た、たまらない──。た、頼む──。早く──。ああ、痒いいい──。早くうう」

 

「わ、わかってますけど、鎖が……」

 

 すでに上に射る男たちは排除されているが、シャングリアの拘束を解くのに苦労しているみたいだ。

 ドピィは櫓の下に隠れるかたちで、それを見ていた。

 そのあいだにも、背後から侵入したエルフ軍の数は、どんどんと数を増していた。

 前面に配置させた賊徒軍の主力にも、それが伝わったようだ。

 前からではなく、後ろからの凄まじいほどの矢の攻撃に、完全に混乱している。

 

「……アーネスト様──。もう一度、炸裂砂をばら撒いていただけませんか? そうすれば、さっきのように魔石で火をつけます。魔道封じの結界を崩壊させれば、魔道攻撃ができますわ。わたしも、ご主人様にいいところを見せなければ、おねだり競争で負けてしまいますから」

 

「……仰せのままに、スクルド殿」

 

 遠くからだが、そんな話し声が聞こえてきた。

 まるで緊張感のない会話だ。

 しかし、それは、背後からの新たな攻撃隊が一方的に優位な状態にあることを物語ってもいる。

 

 すぐに、先に編みかごのついた矢が周囲や前面の防護隊側に注がれ始めた。

 飛翔しながら、黒い粉をまき散らしている。

 

 炸裂砂か──。

 

 ドピィは、この戦いにおける敗北を悟った。

 すでに勝敗は決している。

 

 後ろから迫るエルフ軍は、さらに数を増し、建物や樹木に身体を預けて、弓矢の猛射を続けている。

 防護柵の賊徒たちは、背中から矢を射かけられて大混乱である。逃亡しようとしているが、防護柵の存在がそれを阻んでいた。

 ものすごい勢いで、賊徒兵の屍体の山が大きくなっていく。

 

 そのときだった。

 櫓の柱の影に隠れていたドピィに、ひとつの建物が炎をあげて燃えあがっている光景が突き刺さった。

 

「シャロン──」

 

 それは、シャロンを横たわらせている建物の方向に違いなかった。

 その建物が燃えている──。

 

「ああ、シャロン──。シャロン──」

 

 ドピィは飛び出した。

 

 横腹と右膝に衝撃が走り、そこに火がつけられたように熱くなったが、ドピィは放置した。

 さらに飛んでくる矢を剣で払いながら、陣地のある地域から賊徒軍の住居地帯の建物軍の地域に駆け入る。

 

「建物に火をつけよ──。残っている者がいれば、すべて殺してよい」

 

「抵抗する者は容赦なく射殺せよ。ただし、武器を捨てた者は捨て置いていい」

 

 こちら側の住居地帯にも、エルフ軍の男兵が入り込んでいた。

 完全に制圧されている。

 こっちに残っている者はほとんどいないが、残っている者がいても、彼ら彼女たちは戦う手段のない者たちだけだ。

 抵抗する者などひとりもいない。

 

 その一方で建物という建物に容赦なく、火がかけられている。

 後方の住居地帯で火が上がるのを見れば、前面の賊徒兵たちの戦意は完全に消失するに違いない。

 もはや、その状態であるが……。

 

 そして、ドピィは目指してきた建物が完全に炎に包まれているのを見てしまった。

 燃えあがる建物の周りには、シャロンを看病させていた魔道遣いの女たちや、警護隊の連中が横たわっていた。

 全員が喉から血を流して絶命している。

 

「シャロン──」

 

 ドピィはなにも考えずに、炎の中に飛び込んだ。






 *

【アーネスト=ヘイミング】

 第一帝政時代のエルフ国の将軍のひとり。初代帝ロウ=サタルスのもっとも初期から諸将のひとりとして仕えた。
 ロウ帝の後宮官吏団(同項参照)のひとりであるスラーネスタ=ヘイミング(同項参照)は、アーネストの妹。

 記録で知られている彼の最初の軍歴は、ロウがハロンドール王国で台頭する切っ掛けとなった兇王ルードルフの蛮行に端を発する一連の戦いである。
 水晶軍(『水晶軍』とは当時のエルフ女王直轄軍の名称)第三将軍だったアーネストは、ロウがハロンドール王国の騒乱鎮圧のための軍をエルフ王国のガドニエル女王から借りた際、女王親衛隊だったブルイネンとともに、指揮下の五百名の魔導師隊を率いて参加した。

 即ち、ハロンドール北西部における辺境侯軍の制圧(『列州同盟』の項の「(2)成立前史」も参照)、クロイツの動乱の鎮圧、次いで、王都進駐であり、彼は……。
 …………。

 ボルティモア著『万世大辞典』より(ここに再録した引用文はすべてスクルズ記念国際図書館から許可を受けて初版本から抜粋して採録したものである。)

 *

 アーネストの初出は『699 もしかして、怒ってる?』、別動隊だったアーネスト隊のことは『706 クロノスの選択』に説明があります。
 記憶にない方が多いと思いますので、念のため…。
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