※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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805 凱旋将軍の後悔

「公妃エリザベート殿を俺に欲しい。俺に下賜してもらいたい」

 

 ランスロットは口にしていた。

 しかし、すぐに後悔した。

 アーサーの表情が一瞬にして険しくなったからである。

 

「はああ──?」

 

 案の定、アーサーは内心に抱いた不機嫌さを隠す様子もなく、大きな声をあげた。

 

 しまったな……。

 これは逆に警戒をさせたかもしれない。

 ランスロットは自分の失態をはっきりと感じた。

 

 思い出したが、アーサーという男は、非常の能力の高い施政者でもあり、リーダーでもあるが、その実、子供のように未熟な情緒を示すときがある。

 能力と性格の成熟度の不均衡──。

 それがアーサーの本質でもある。

 

 長い付き合いでもあるランスロットは、アーサーのそういう一面を好ましいと思っていたし、補佐をしてやらなければとも感じている。

 だから、扱い方もわかっている。

 

 しかし、今回に関しては、悪手だったみたいだ。

 ランスロットは、一瞬にして後悔した。

  

 だが、ランスロットは、どうしても、エリザベートが欲しかったのだ──。

 

 それは、偽らないランスロットの本音であり、心の底から彼女を自分のものにしたいと思っている。

 

 このところ、ランスロット自身、どうしても自制の効かないところがあり、感情のままに動いてしまっている気がする。

 少し以前であれば、ランスロットは常に周りに気を使い、言いたいことと言わなければならないことを明確に区分して過ごすように気をつけていた。

 あまり波風立てずに周りと接するようにしていたし、戦場以外で感情的になったことなどない。

 温厚で善良というのが自分の評判だということも認識している。

 面白みのない男であるとも……。

 

 誰にでも褒められるいい子……。そのいい子がそのまま大人になった……。

 それが、ランスロットという自分だった。

 

 だが、不思議なのだが、カロリックの遠征に向かっている最中に、なにかがランスロットを変えた。

 感情や欲望を隠すことなく、欲しいものを自制することなく、やりたいことをやることに躊躇が一切なくなった──。

 そうすることに全くの抵抗がなくなったのだ。

 

 我が儘で、粗暴で、欲望に忠実──。

 およそ、ランスロットらしくはないが、実は、いい子だと言われ続けたランスロットがもっともなりたかったのは、そんな男だった。

 

 そして、そうなった。

 なにが切っ掛けだったのかは、さっぱりと思い出せない。

 本当にわからない。

 記憶も曖昧だ。

 特にカロリックの国境近くにいたときの行動についてまったく記憶にない。

 どうしても思い出せないのだ。

 

 おかしいとは思う。

 だが、その一面、記憶の欠如は、そんなに気にしてない。

 まあ、どうでもいいかと思う。

 

 ともかく、ランスロットは変わり、その変わった新しいランスロットのことを、自分自身で心の底から好ましいと思っている。

 悪童であるランスロットは、ある意味、ランスロットの隠していた願望の姿でもある。

 そのことだけは確かだ。

 だから、まあいいのだ……。

 

 いずれにしても、公妃エリザベートのことだ。

 

 彼女を初めて見たとき、ひと目で恋に落ちた。

 しかし、そのときには、すでにエリザベートはアーサーの婚約者であり、やがて、そのまま妻になった。

 だが、アーサーは、エリザベートが不満であり、最初から彼女に冷たかった。

 

 なにしろ、当時、アーサーが婚姻を結びたかったのは、エリザベートではなく、彼女の姉のマリアーヌだったのだ。

 その頃の、アーサーはまだタリオ公国の大公ではなく、その後継者候補にすぎず、ほかの後継者候補よりも優位な立場を手に入れるために、どうしても、神殿の後ろ盾を必要としていた。それで目をつけたのがローム神殿の教皇クレメンスの孫娘との婚姻であり、アーサーは最初はエリザベートの姉のマリアーヌとの婚姻を打診したのである。

 

 しかし、教皇クレメンスからの返答は、魔道能力の高いマリアーヌは、神殿の「聖女」候補であり、妹のエリザベートであれば……というものだった。

 マリアーヌは当時から高位魔道遣いで有名だったが、エリザベートは魔道能力のない「無能」であり、実家における扱いもいいものではなかった。

 そのエリザベートであればと、クレメンスは返答したのである。

 

 アーサーは、かなり荒れていたが、まだ立場が弱かったアーサーは、やはり、どうしてもクレメンスの後ろ盾が欲しくて、エリザベートとの婚姻を承諾した。

 つまりは、アーサーにとって、エリザベートとの婚姻は、最初から面白いものではなく、我慢ならないものだったのだ。

 

 だから、アーサーは徹底的に、エリザベートをとことん蔑み、冷たくあたった。

 ランスロットがひと目で恋に落ちたエリザベートを妻にしながら、愛すこともなく、妻として扱わず、ないがしろにしたのである。

 

 ランスロットは、目の前のアーサーの態度を見ながら、封印していたつもりだったそんな記憶と感情を思い出していた。

 

 それはともかく、いま、ランスロットは後悔している。

 

 目の前のアーサーは、エリザベートを欲しいとランスロットが口にしたことで、途端に不機嫌になった。

 こうなると、アーサーは頑固だ。

 アーサーは、利には非常に聡いが、感情は頑迷だ。

 気に入らないと感情が傾いてしまったら、もう、それがどんなに有益なことでも、受け入れることはない。

 

 例えば、さっきのロウ=ボルグという男のことだ。

 冷静に考えれば、短いあいだに、エルフ女王と昵懇になり、イザベラ王女と恋仲らしい彼と結びつくことに、タリオ公国として損などないと思う。むしろ、現段階では積極的に取り込むべきだ。

 利用するだけ利用し、都合が悪くなれば切り捨てればいい。所詮は一介の冒険者あがりであり、係累もほとんどない。

 

 また、実は、ランスロットのロウに対する印象は悪くない。

 女たらしだが、野心家ではない──。

 人を惹きつける不思議な魅力があり、味方にして頼もしいと思った。能力も高そうだった。

 

 考えようによっては、味方にして旨味が大きく、一方で係累がほとんどないことは、切り捨てやすいということであり、非常に扱いやすい立場の男だ。

 だが、アーサーはロウを絶対に受け入れない。

 感情が思考を否定するのである。

 理屈ではない。

 それがアーサーだ。

 

 そして、エリザベートのこともそうらしい。

 あれだけ大切にしないくせに、他人のものになるのは気に食わないようだ。いまもむっとした表情になった。

 

「ランスロット、エリザベートは、タリオが神殿の連中を昵懇に考えているという象徴だ。離縁はできん。役には立たない女だが、教皇の孫娘であるエリザベートが公妃ということが意味があるのだ」

 

 アーサーが言った。

 ランスロットは肩を竦めた。

 

「別に、それは俺に降嫁してもらっても変わるまい。そもそも、公妃というのも名ばかりでエリザベート殿の扱いはひどいものだ。それでも、教皇の姿勢に変化はないのに、公妃という立場でなくなったとしても、タリオ公国が彼女を大切にしているという意思さえ示せば、問題はないはずだ」

 

「いや、大公である俺の妻という立場と、お前の妻という立場ではまったく違う──。いや、お前のことをないがしろにしているわけじゃないぞ。俺はお前のことを無二の友人だと思っている。だが世間の目は違うということだ。わかってくれ、ランスロット。降嫁は諦めよ……。まあ、状況が変われば、あるいは……まあ、あるかもしれないが……」

 

 アーサーはランスロットに対して、まるで子供に言い聞かせるような物言いをする。

 もっともらしいことを口にしているつもりだろうが、実は、面白くないという自分の感情を正当化する理屈付けをしているだけだ。

 教皇クレメンスはもともと、同じ孫娘でも、聖女マリアーヌとその妹のエリザベートに対する扱いを明確に変えていた。

 エリザベートの不遇に文句のひとつも言わず静観しているのに、いまさら、ランスロットに降嫁させたくらいで、タリオ公国に対する後ろ盾をやめるとも思えない。

 

 まあ、いまのアーサーに、そう説得しても無駄だろうが……。

 長い付き合いだ。

 わかっている。

 ランスロットは嘆息した。

 

「わかった……。いや、わかりました、アーサー殿。戯れ言を口にしました。忘れてください」

 

 ランスロットは立ちあがった。

 そして、辞去の挨拶をする。

 

「おいおい、気を悪くしたのか? たかが女のことだろう。だったら、こうしよう。エリザベートを降嫁させるのは都合が悪いのだが、お前に相応しい相手を俺が準備する。それで……」

 

「いえ、エリザベート殿が欲しいなどというのは戯れ言ですよ。お忘れください。閣下こそ、俺の戯れ言で気分を悪くしないでいただければいいのですが」

 

 ランスロットは微笑みを浮かべ、アーサーに対して丁寧に頭をさげた。

 だが、内心に思っているのはエリザベートのことだけだ。

 そして、アーサーのさっきの言葉にも腹を立てている。

 

 ほかの女を準備するだと──?

 冗談ではない。

 

 エリザベートに変わる女などいない。

 彼女が公妃であろうと、教皇の孫娘であろうと、あるいは、もしも、ただの平民の女であろうとも関係はない。

 エリザベートはエリザベートであり、ランスロットが恋をして、愛している唯一無二の女なのだ。

 

 軽々しくほかの女などと言って欲しくない──。

 しかし、ランスロットは、エリザベートを手に入れるために、にっこりと微笑み、差し出されたアーサーの手を握り、親しみを込めた握手を交わした。

 

 煮えかえっている自分の感情を心の中に隠して……。

 

 

 *

 

 

 ランスロットは、アーサーの私邸を辞去した足で、公邸──すなわち、大公城に馬で向かった。

 アーサーの私邸とはほとんど離れておらず、あっという間に敷地内に入ることができた。

 もちろん、ランスロットを止め立てする兵もいない。

 ランスロットは、その公邸敷地内の隅にある小さな建物の前にやってきた。公邸の敷地内であることが信じられないくらいに、ひっそりとしていて静かだ。

 エリザベートが暮らしている小さな平屋である。

 

「あっ、ラン様──。いらっしゃい。久しぶりだ。よくお帰りになった」

 

 入口に近いところで、薪割りをしていた獣人少女のギネビアが、ランスロットを認めて満面の笑みを浮かべた。

 エリザベートに仕える唯一の下女であり、この公邸の敷地内の隅に、エリザベートとギネビアは、ほとんどふたりだけで暮らしている。

 アーサーが軽んじているので、公妃というのに、この大公城内でのエリザベートの扱いはひどい。この敷地内の隅で、アーサーはギネビア以外の家人を与えず、ほとんど農婦と変わらぬ生活を強要しているのだ。

 それでいて、他人に渡すのは嫌だと言うのであるから、アーサーには失望しかない。

 

 いずれにしても、ここにランスロットがやって来たのは、アーサーがこれからどうするのかについて、ある程度の予想がつくからだ。

 ランスロットは、すでにアーサーに対して、エリザベートに興味があることを口にしてしまった。

 これまでは、エリザベートの生活の見舞いということで、たびたびここを訪問してはご機嫌伺いのようなことをしてきたが、これからはそうはいかないだろう。

 アーサーは、もうランスロットがエリザベートが、ここでふたりきりになるのを禁じるだろうし、おそらく、監視の兵も置く。

 

 アーサーは、そうする。

 

 だったら、まさに“とき”は、いましかないのである。

 

「ギネビア、薪割りか? 代わろう。水でも飲んで休むといい」

 

 ランスロットはギネビアに近づく。

 ギネビアが笑いながら首を横に振る。

 

「まさか、ラン様にそんなことはさせられない。それよりも、エリ様に会ってやって欲しい。戦場に行っていたのだよね。エリ様はずっと心配していた。顔を見せてあげてよ」

 

 ギネビアだ。

 前回ここにやってきたのは、カロリック侵攻の直前だった。

 侵攻作戦のことを口にするわけにもいかず、ランスロットはしばらく不在にするという説明だけをして、エリザベートにしばしの別れの挨拶をしたのだ。

 遠征が始まってからは、すぐにランスロットが遠征司令官であることが発表があったはずなので、エリザベートも目の前のギネビアももちろん耳にしたにのだろう。

 

「エリザベート様は中におられるのか? わかった。行こう。ところで、ギネビアも、せめて休憩でもしてくれ。これは土産だ」

 

 ランスロットは、自分の腰から細い筒状の水筒を外して渡すとともに、懐から小さな紙包みに入った焼き菓子を渡す。

 ここにやって来たときには、大なり小なり、なにかしらの土産を手渡すのが専らなので、ギネビアも躊躇することなく、それを受け取る。

 また、実際、薪割りのような力作業を手伝うことも日常だ。そのときには、水筒の水を分け合ったりすることもあるので、ギネビアも怪しむことなく、ランスロットから水筒を受け取って、すぐにその水をあおった。

 

「さあ、ラン様、早く中に。それとお菓子をありがとう」

 

 ギネビアがにこにこと微笑みながら、ランスロットを扉に押しやる。

 

「休憩しろよ」

 

 ランスロットは大人しくギネビアに背中を押されながら、振り返って言った。

 

「わかった。わかった。その代わりに、ラン様はエリ様とゆっくりな」

 

 ギネビアの言葉に、ランスロットは大きく頷く。そして、休憩をして菓子を食べてくれと再び強調した。

 実は、さっきギネビアが飲んだ水筒の水にも、袋の中の菓子にも、強力な眠り薬が大量に溶かしてあるのだ。

 いま、水を口にしたのを確かめたから、もうすぐ眠ってしまうだろう。

 ましてや、その菓子など口にしようものなら、しばらくは目を覚ますこともできないと思う。

 

 ランスロットは、扉を開いて、ギネビアを外に置いたまま、ひとりだけで建物の中に入る。

 そして、しっかりと扉を閉めて、背中で内鍵を締めた。

 

「まあ、ランスロット様──。お久しぶりでございます」

 

 前回訪問したときには、畑仕事の格好をしていたエリザベートだが、今日は平服だ。

 奥でお茶を飲んで休息中だったようだ。

 ランスロットの姿を見て破顔し、そのまま小走りで駆け寄ってくる。

 

「お久しぶりですね、エリザベート様。たったいま戦場から戻ったばかりなのですよ」

 

 エリザベートが嬉しそうにやってくるのを認めつつ、ランスロットは腰の後ろに隠していた細紐を手に取って、それを背中側に隠す。

 

「無事にお帰りくださってありがとうございます」

 

 エリザベートは嬉しそうにランスロットの前に立った。

 そのエリザベートの右手に手を伸ばして、それをしっかりと掴む。

 

「えっ、ランスロット様?」

 

 いきなりランスロットに右手を掴まれて、エリザベートはびっくりしたようだ。困惑して硬直したままのエリザベートのもう一方の手首にも手を伸ばし、両手首をまとめてしまう。

 

「な、な、なにを──? ラ、ランスロット様──?」

 

 エリザベートが我に返って、ひっくり返った声をあげたときには、すでにランスロットはエリザベートの両手首を細紐で縛り終わっていた。

 

「エリザベート様、愛してます。初めてお会いしたときから、ずっとあなたを愛しています」

 

 ランスロットはエリザベートを横抱きに抱えた。

 そのまま、奥の寝室に向かう。

 

「ちょ、ちょっと、ランスロット様──。お、おろして……。ね、ねえ、ど、どうしたのですか──。わっ、わっ、わっ」

 

 身体の前のエリザベートが目を大きくしている。

 ほとんど抵抗はないが、これはあまりにも動顛していて、身体がうまく対応できないだけに違いない。

 ランスロットは構わずに、どんどんと寝室に向かう。

 

 あっという間に、寝室に着く。

 随分とここにも通ったが、さすがに主寝室に入るのは初めてだ。その寝台にエリザベートを横たえた。

 そのエリザベートに馬乗りになる。

 

「あなたをアーサーから奪います。愛しているんです」

 

 ランスロットは片手でエリザベートの縛っている両手首を頭の上で押さえつけ、空いている自分のもう一方の片手をエリザベートのスカートの中に入れて、下着に向かって手を伸ばす。

 

「あっ、ああっ、て、手を離して──。そ、そんなところはだめです──。ああっ、ラ、ランスロット様──」

 

 エリザベートが腰を捻って暴れる。

 だが、しっかりと押さえつけているランスロットから逃げられるわけがない。ランスロットの手は簡単にエリザベートの下着に届き、薄い布越しに亀裂を探して指を動かす。

 

「あああっ、いやあああ」

 

 エリザベートが身体をのけぞらせた。

 

 欲望のままに……。

 

 ランスロットは身体の中にある得体の知れないなにかに操られるように、エリザベートに自分自身の中で異常なまでに膨れあがっている欲望をぶつける。

 

 欲望のままの自分……。

 

 少し前にはあり得なかった自分だが、こんな自分も好ましいと思う……。

 いや、こんな自分が好ましい……。

 

 奪う──。

 

 エリザベートを……。

 

 愛しているのだ──。

 

 もう止まらない──。

 止めたくもない──。

 

 ランスロットはスカートの中の下着を無造作に掴むと、力一杯にそれを引き破った。

 

「ひゃああああ、いやああああ」

 

 エリザベートが悲鳴をあげた。

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