※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

823 / 1059
823 独裁官の采配(さいはい)【南域】

「俺以下少数で王都に向かう。そのメンバーは……」

 

 ロウが語り出すのをエルザは半ば呆然と聞いていた。いまや会議室と化している浴場の中は文字通り、水を打ったように静かになっている。とにかく、このロウは他人を圧倒するなにかを持っていると思った。

 女扱いはともかく、それ以外のことで、ロウがどれほどの能力の持ち主なのかはわからない。しかし、おそらく、武術の腕であれば、ここにいる多くの女戦士よりもずっと下なのではないだろうか。

 もちろん、魔道もだ。

 天下無双の魔道遣いと称されているエルフ女王ガドニエルはもちろん、得体の知れない存在のスクルド、童女魔女のミウなどは、もしかして当代三傑の魔道遣いに数えられる人材かもしれない。どうやら、ロウもなんらかの術士のようではあるが、彼女たちよりも、彼が魔道に優れるということはないだろう。

 地位でもそうだ。

 エルザの知る限り、ロウにはなにもない。

 ハロンドールの王妃アネルザ、王太女イザベラ、そして、なによりも、ガドニエル女王──。この三人は、どんな国に行こうとも、最高権威者として扱われるような人々だ。

 エルザ自身だって、元のハロンドール王宮の第二王女であり、元公妃であり、それなりの地位と立場の背景を持つ。

 しかし、目の前のロウは、それらすべてのものを凌駕するものを持っている。自信のようななにかだ。とにかく、エルザは驚きを抱きながら見ていた。

 

「……まずは、俺、エリカ、コゼ。イット、ガド、そして、スクルドだ。クグルスにも協力してもらうぞ。移動はスカンダに頼む。風のように駆けて、あっという間に着くぞ。そうだよな、スカンダ?」

 

「あい、ごしゅじんさま。スカンダちゃんはがんばります」

 

 童女妖魔が嬉しそうに頷いた。

 名を呼ばれた女たちも、頷いたり、返事をしたりとそれぞれだ。

 

「スクルド、以前、俺とお前で、王宮の守りの結界を突破して、移動術で潜入したことがあったけど、その状況はいまも健在か?」

 

 ロウがスクルドを見る。

 すると、スクルドが柔和に微笑んだ。

 

「おそらく……。そもそも、あの王宮の結界は、王家の依頼でわたしが魔道を注いだものですから」

 

 スクルドの言葉に、エルザは首を捻った。

 ハロンドールの王都ハロルド宮の結界は、王宮魔導師に加えて、王都三神殿の代表者が定期的に魔道を注いで維持しているもののはずだ。その結界に、彼女が魔道を注いでいたということは……。

 だが、そこまで思念をすると、なぜか、急になにかが邪魔をして、考えをまとめられない。

 おかしな感覚に、エルザは小さく首を振った。

 

「ならば、王都に着いたら、そのまま王宮に突入する。出たとこ勝負のなにがあるのかわからない危険な策だけど、サキ、ミランダ、ベルズを助ける。ガド、エルフ女王のお前に、助力を求めて申し訳ないが、魔族相手であれば、今度こそ、お前の力が必要だ。頼むな」

 

「お、お任せください──。ご主人様のご命令なら、ガドはなんでもしますわ。ご主人様の犬ですから──。性奴隷の女王ですわ──。やりますわ──」

 

 ガドニエル女王だ。

 ロウに命令されたことについて、全身で悦びを表している。それにしても、エルフ女王というのは、神秘の覆いに隠された謎の存在として、ずっと畏怖と畏敬の対象だったが、これほどまでに陽気で可愛らしい女性とは露ほども知らなかった。

 

「お、お待ちください。やっぱり、親衛隊はご同行はかないませんか? 女王、並びに、英雄公のロウ殿をお守りするのが、わたしたちの役目です。離れるわけには……。ましてや、そのような危険な役目を女王陛下には……」

 

「黙りなさい、ブルイネン──。ご主人様のご命令なのですよ」

 

 相好を完全に崩していたガドニエル女王が表情を一変して険しくさせた。

 

「ああっ? お兄ちゃんの采配に、なにか不満があるの、ブルイネン?」

 

 続いて、ケイラ=ハイエルもブルイネンを睨んだ。

 どうでもいいが、ロウに接するときの顔とはまったく違う、凄まじいほどの殺気を満ち溢れさせている。

 あれが、本来のエルフ族の陰の王家とも称されたケイラ=ハイエルの本質なのだとは思うが……。

 

「い、いえ、そんな……。でも、エルフ族王家としては……」

 

「だまらっしゃい──。そこにいるポンコツが王家そのものよ──。そして、お兄ちゃんなの──。なにからなにまで、お兄ちゃんが正しいの──。エルフ王家はそれに従う──。そのことに疑念を持つんじゃないの、ブルイネン──」

 

 ケイラが癇癪を起こしたように怒鳴りあげる。

 

「そうです、ブルイネン──。徹頭徹尾、ご主人様です。お前はただ、ご主人様のご命令に従いなさい──」

 

 ガドニエル女王も声をあげた。

 

「そ、そんな乱暴な……」

 

 ブルイネンもたじたじになっている。

 すると、ロウが口を開いた。

 

「すまないとしか言えない、ブルイネン。ここは押して頼む。ハロンドールの王宮には少人数で潜入する──。その方針を変更するつもりはない。そして、今回の策には、この一連の王国の混沌を終わらせるというもうひとつの目的もあるんだ」

 

「それは理解しましたが……」

 

「だから、エルフ女王の旗は、イザベラの旗とともに、一緒に王都解放軍に掲げてもらいたいんだ。エルフ王家が最大の助力をしていると、世間に強調する。そのための親衛隊の参戦でもあるんだ」

 

「し、しかし、ロウ様……。親衛隊というのは片時も女王陛下とは離れないものであって……。も、もちろん、そもそも英雄公親衛隊であるので、ロウ殿をお守りするのが任務なのですが……」

 

「だから、陽動になるんじゃないか。ラポルタとかいうやつだって、エルフ女王の存在は驚異のはずだぞ。なにしろ当代無双の魔道遣いなんだ」

 

「で、でも――。とにかく、ロウ殿と女王陛下まで行かれるのに、わたしたちが別行動というのは……」

 

 だが、ブルイネンも頑なだ。

 

「ブルイネン――」

 

「お前、いい加減に――」

 

 ガドニエルとケイラが顔を真っ赤にして立ちあがりかける。

 しかし、それをロウが制した。

 

「仕方ないなあ……。とにかく、説明をさせてくれ、ブルイネン。納得するまで、丁寧に説明するから……」

 

 すると、ロウがにやりと微笑んだと思った。

 次の瞬間だ──。

 突然に、ロウが消滅した。

 

「あれっ?」

 

 エルザは思わず声をあげたが、エルザを除けば、ほかの女性たちは大してびっくりしていない。

 どうして──?

 そして、はっと気がついたが、いつの間にかブルイネンもいない。

 唖然として、周囲を見回す。

 

 だが、そのロウとブルイネンは、すぐに再び現れた。さっきまでロウが胡座をかいて座っていた浴場の床だ。

 ロウについては、姿勢まで同じである。

 また、離れていたはずのブルイネンも一緒にいる。

 しかし、ロウの胡座の上にうつ伏せに横たわっていて、完全に脱力している。なによりも、そのブルイネンの両腕にはしっかりとした縄掛けがしてあり、後手縛りに緊縛されてもいる。

 あの一瞬で?

 エルザにはわけがわからなかった。

 

「あらあら、こうなったか……」

 

「ロウ様、ちゃんと意見をお聞きになるのでは?」

 

 コゼとエリカだ。

 そのエリカの叱責ぎみの物言いに、ロウがちょっとばつが悪そうに頭を掻く。

 

「意見は聞いたさ。お互いにとことん話し合った。そうだよな、ブルイネン? ただ、ちょっとばかり、話し合いが過激になったのは認めるけど……」

 

 ロウが膝の上のブルイネンに声をかけるが反応がない。

 後ろ手に縛られた裸身を伏せたまま、はあはあと胸を喘がせるばかりである。両脚も閉じ合わせるのを忘れたように開いたままだ。

 また、意識はあるようだが、全身が水でびっしょりだ。

 いや、でも、ブルイネンはお湯の中にはいなかった……。湯の外にいたと思う。

 それに、湯で濡れているというよりは、汗びっしょりのようにも見えるが……。

 

「ブルイネン? 納得してくれたよなあ?」

 

 すると、ロウがいきなりブルイネンのお尻に指を挿し込んだ。

 エルザは仰天してしまった。

 

「はひいっ──。な、納得してます──。してますから、もう、苛めないで──」

 

「苛めてはいないだろう。人聞きの悪い──」

 

 ロウが笑いながら、ブルイネンのお尻の穴の中に挿入した指をくねくねと動かす。

 

「あひいいっ、いやああ、もういくのはいやああ──。ゆ、許してください──。も、もういやですうう──」

 

「そうか? だけど、身体は欲しがってるみたいだぞ? ほらほら」

 

 ロウが愉しそうに指を動かす。

 

「ふふふ、ご主人様、悪い顔してるよ」

 

 クグルスがロウとブルイネンの回りを愉しそうに舞い始める。

 

「本当に、すごい淫気だ。どれだけ搾り取ったの? おれもご相伴しよっと」

 

 湯の中にいるチャルタとやらも笑い声をあげて、なにかを吸い込むような仕草をした。

 

「いぐううううっ──。し、従いますう──。親衛隊は英雄公──、独裁官殿のロウ殿に従いますうう──。んぐううう」

 

 一方で、ブルイネンについては、 あっという間に、エルザが唖然とするほどに、派手な声をあげて、その場で絶頂した。

 エルザは目を丸くした。

 もはや、完全にぐったりとなったブルイネンのお尻からやっとロウが指を抜く。

 

「こ、今度はガドがお掃除しますね」

 

 その指をガドニエル女王が手にをって、さっと自分の口に入れる。

 そして、ぺろぺろと舐め出す。

 そのあまりの淫靡さに、エルザは全身が熱くなってしまった。

 すると、ロウが急にこっちを見た。

 心臓がどきりとなる。

 

「エルザも興味津々かな? まあ、亜空間……、仮想空間の洗礼は落ち着いてからな。だけど、俺の女になったら自慰は禁止だぞ。勝手に発散するのはだめだ。しっかりと満足させてやるから、我慢できなくなったら遠慮なく来るんだ」

 

 ロウが笑った。

 エルザははっとした。

 いつの間にか、自分の片側の乳房を掴み、さらに股間に手を当てていたのだ。

 恥ずかしさで全身が真っ赤になる。

 

「わっ、わっ、わっ、ち、違うんです。これは違くって──」

 

「なにが違うんだ、淫乱女? だけど、いいぞ。性奴隷がすけべえなのは、ご主人様に都合がいいからな。ご主人様のお力の源の淫気がうんと搾り取れる。ご主人様の淫魔力のためのいい雌畜になれるぞ」

 

 クグルスが飛んできて、エルザに揶揄(からかい)いの言葉をかけてきた。

 

「め、雌畜?」

 

 声が裏返ってしまった。

 雌畜というのは、雌の家畜という意味だろう。家畜だなどと……。

 だが、なぜか、ロウであれば、家畜と呼ばれてもいいかと思ってしまった。エルザは、自分の中に浮かんだ思考を慌てて振り払う。

 

「エルザ、悪いけど、この南方のことは当面任せる。独裁官としての指示だ。エルフ師団から、しばらくのあいだ一個隊だけを抽出してエルザに付けてもらう。残してやれるのは、すまないけどそれしかない。享ちゃん、アーネスト殿に頼んでももらえるか?」

 

 ロウが言った。

 

「は、はい。もちろんです」

 

 エルザは慌てて返事をしたが、独裁官──?

 なにそれ?

 それはともかく、たったいまロウがエルザに命令を下したとき、心が熱くなるとともに、大きな愉悦を覚えた。

 “主”に命令される──。

 それがこんなにも嬉しいものなのかと、ちょっと感動した。

 さっきから、みんなが嬉しそうな表情になるのは、これなのかと納得もした。

 また、ロウはさっきから全員を呼び捨てにしはじめている。エルザに対してもだ。

 それもまた、心地いい。 

 

 しかし、“主”?

 あれ?

 どうして、自分はロウのことをそんな風に……?

 エルザは、自分の思考に気がつき、少しはっとなった。

 

「任せて、お兄ちゃん。あいつにはよく言っておくわ。エルフ王軍はお兄ちゃんの好きなようにしていいからね」

 

 ケイラが力強く応じたのが聞こえた。

 

「あっ、そうだ。ちょっと後々の話になるけど、エルザには使ってもらいたい人材がいる。政務にはまったくの素人だけど、役に立つのは請け合う。彼女を使って欲しい。エルザの腹心として鍛えて欲しいんだ」

 

 ロウだ。

 だが、その言葉にはちょっと当惑した。

 

「あのう、まったくの素人だけど、役に立つというのは?」

 

 意味がわからない。

 素人なら役に立つとは思えないし、その人物を腹心に?

 

「誰のことを言っているんだい、ロウ?」

 

 アネルザが口を挟んだ。

 

「ランだ。ミランダのところのね」

 

 ロウが言った。

 ランなら知っている。王都で多少なりとも一緒にいた時期があるのだ。確かに優秀な冒険者ギルドの職員だった。

 あのランをか……。

 

「ランかい。まあ、それもいいだろうけど、あいつはミランダが大切にしている部下じゃないのかい?」

 

 アネルザだ。

 

「心配するなよ、アネルザ。ミランダが渋れば、納得するまで説得するだけだ。なあ、ブルイネン?」

 

 いまだにロウの膝の上にいるブルイネンのお尻に、またもやロウが手を伸ばす素振りをした。

 

「ひいいっ、も、もう結構です──」

 

 ブルイネンが縄掛けをされたまま、慌てたようにロウの上から跳ねどいた。

 ロウが笑い声をあげる。

 

「それはともかく、イザベラは、すぐに、エルザを南方総督として任命する布告を発してくれ。イザベラ軍は、少なくとも旗だけでも、今夜にも移動を開始してもらうけど、その布告だけは、その前にするんだ」

 

 ロウがイザベラに視線を向ける。

 

「南方総督か……。それでいくのか? だが、ロウ、独裁官というのは、王太女に命令できる権限ではないぞ。わたしの権限の下にあるのだ。正確には、王の下だが」

 

 イザベラが苦笑している。

 

「固いことを言うなよ、イザベラ。それと、その布告は“王太女イザベラ”ではなく、“女王イザベラ”として出してもくれよ。ヴァジー、その辺もよろしくな」

 

「了解しました。女王陛下イザベラの名で布告を準備します」

 

 イザベラの女官長のヴァージニアが頷く。

 

「イザベラ軍、それと、女王不在だが女王親衛隊のついてはそれぞれの旗を揚げて、兇王ルードルフを糾弾する。だから、その覚悟として、イザベラには、王太女としてではなく、新女王として名乗りをしてもらう。独裁官としての指示だぞ」

 

「だ、か、ら、独裁官というのは、わたしに命令できる権限ではないと申しておるだろうが──。まあ……命令には従うが……」

 

 イザベラが渋々という顔で返事をした。

 

「あの、さっきから言っている独裁官というのはなんですか?」

 

 エルザは思わず訊ねた。

 

「そうだね。それはなんだい?」

 

 アネルザも続く。

 

「イザベラが俺に付与した異常事態に際する国家大権だよ。この国の政務権、軍事権、外交交渉権のすべてを俺が統括することになったんだ。その役職名が“独裁官”だ。イザベラの命令だ。しばらくのあいだよろしくな、アネルザとエルザ」

 

「なにが、わたしの命令だ。強引に名乗ったのではないか」

 

 イザベラが吐き捨てる。

 

「そりゃあ、なんだい。事実上の王じゃないのかい」

 

 一方で、アネルザは大笑いした。

 

「じゃあ、その独裁官としての指示だ。イザベラ新女王軍に従うのは南方軍の一部、これは体裁を整えるための少数でいい。それと親衛隊及びアーネスト殿の主力のエルフ女王軍──。さらに、イライジャ、ミウ、マーズ、ユイナも同行だ。もちろん、ヴァジーたちもだ」

 

「わかった」

 

「わかったわ」

 

 イザベラ、イライジャが返事をした。

 

「うん」

 

「わかりました」

 

 続いて、ミウにマーズ。

 ほかの者も頷いている。

 

「享ちゃんは、今回はそっちに同行してくれ。アーネスト殿とイザベラの橋渡しと、そして、スクルドがいない分、こいつが敷設してきたハロンドール国内の移動術のゲート施設を掌握して、王軍が展開している王都周域の外縁の砦までの移動の助力をして欲しいんだ。頼めるか? とにかく、国王打倒軍はもっとも早い手段で、王軍防衛隊と接触したいんだ」

 

「任せて、お兄ちゃん」

 

「後ほど、ゲートについては申し送りますわ、ケイラ様」

 

 スクルドだ。

 

「ただ、王軍防衛隊と接触しても、とりあえず戦端を開く必要はないぞ。エルフ隊で防護結界を敷いてもらって、その内側で膠着状態を保持すればいいから。あとは女王の名で貴族たちに参戦の檄を飛ばす。やることはそれだけだ。悪戯に戦うな。実際の決戦は、俺たち潜入組なんだから。こっちでけりを付ける」

 

「戦わないのに、軍を進めるのか?」

 

 イザベラが疑念を発した。

 

「あくまでも表向きには、王都を開放したのはイザベラ軍とそれに協力したエルフ女王軍という体裁にしたいからね。だけど、先に王宮を落とす。そうすれば、王軍の防衛隊など勝手に瓦解する。それから、斉整と王都に入ればいい。解放者として」

 

 ロウが微笑んで全員を見回す。

 

「なるほど、わたしの役割は理解した。とりあえず、国王糾弾の旗を掲げるということだな。そして、貴族たちも取り込む。わかった──。だが、わたしの名で貴族たちが集まるだろうか?」

 

「集まるさ。そのためのエルフ女王軍だ。女王の名で、協力しなければ、各領主に入るクリスタル石をすべて遮断すると言ってやれ。クリスタル外交だ。あれがなければ、各領土の日常は停止してしまうんだ。従うしかない。なあ、享ちゃん?」

 

「すべてお兄ちゃんの言うとおりにする。ラザニエルがぐずぐず言ったら、また、水晶宮に戻って説教してやるわ。あいつ、変に真面目なのよねえ。極悪非道の闇魔女とまで言われていたくせに……」

 

「おっと、享ちゃん、それは御法度だ」

 

「あっ、そうだったわ。ごめんね、お兄ちゃん」

 

 ケイラが慌てたように口をつぐんだ。

 なんだったのだろう?

 エルザは首を傾げた。

 

「チャルタもイザベラ軍側だ。お前は膠着状態になったあと、敵陣に娼婦としてでも入り込め。徹底的に敵軍の男の精を喰いまくって骨抜きにしろ。危険のない範囲でな」

 

「おっ、おれはそっち? まあ、陰険、陰湿、嫌み女のラポルタの泣きべそも見たかったけど、まあいいや。了解だよ、ご主人様」

 

「そして、最後にアネルザ……」

 

 すると、ロウがアネルザに視線を向けた。

 

「ん?」

 

「王妃には、俺たち潜入組に入ってもらう。大切な役割がある……」

 

「わかっているよ……。事実上のハロンドール王家の最期だ。引導を渡すのは王妃のわたしでないとね……。王家の誰かが行かないと話にならないのはわかっている。ロウたちがサキたちを救出した後に、王宮内の者や軍を大人しくさせるのにも、わたしがいくらか使えるだろうさ。もちろん、一緒に行くよ。戦いの役には立たないけどね」

 

「アネルザのことは守る。心配するな」

 

 ロウがアネルザを見た。

 とても、柔和な微笑みだ。そして、優しげである。

 横から見ているエルザがどきりとするほど……。

 

「ありがとう。万事任せるよ……。とにかく、この国を頼む。王家を救ってくれ。この通りだよ」

 

 アネルザが小さく頭をさげた。

 

「そうだな。任されよう……。ところで、ちょっと来い、アネルザ」

 

 すると、ロウがアネルザを手招きした。

 アネルザが苦笑のような表情を浮かべて、湯の中を進んで、ロウの方向に向かっていく。

 

「やれやれ、そろそろ、お仕置きかい? 実はいつ、それが始まるんだろうとびくびくしていたんだよ。この一連の混乱のすべての原因はわたしだ。うんと叱っておくれ」

 

 アネルザが笑いながら、ロウの前に胡座を掻いて座った。

 すると、そのアネルザに手を伸ばして、いきなりロウが抱きしめた。

 アネルザが目を丸くした。

 

「そうじゃない……。まずは感謝だ。そもそも、この騒動の発端が、国王が出した捕縛命令から俺を守ってくれるためだというのは知っている。ありがとう、アネルザ」

 

 ロウがぎゅっとアネルザを抱きしめる。

 

「あっ、ロ、ロウ──」

 

 狼狽した感じになったアネルザが顔を真っ赤にし。そして、おずおずした感じでロウの背中に腕を回して抱きしめ返す。

 

「あ、ありがとうと言ってくれるのかい?」

 

「もちろんだ、アネルザ。まずは感謝しかない」

 

 さらに、ロウがアネルザを強く引き寄せたのがわかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。