【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
闘争が始まった。
十数人が前から──。
その半分くらいの勢力が後ろ側からだ。
狭い廊下の前後で前でイット、後ろにコゼが飛び出して、妖魔兵たちと斬り合いを開始した。
「ロウ様、王妃様、わたしから離れないで──。スクルド、後ろを守って──。ガド、防護壁を──」
エリカが細剣を抜き直して叫ぶ。
戦っているのは、イットとコゼだ。
それに対して、一郎たちは中心で構えているかたちである。
イットにしても、コゼにしても、多人数の相手を圧倒している。どんどんと王兵に扮した妖魔族の兵は倒れていっている。
「いや、防護壁は無用だ──。進むぞ──。ガド、スクルド、コゼたちに当たらないように、衝撃波を飛ばせるか──?」
「任せてください」
「やりますわよ、ご主人様──」
スクルドとガドニエルが構える。
一郎は頷いた。
だが、思い出してちょっと苦笑する。
「でも、ガド、威力はかなり抑えろよ。蹴散らすだけが目的だ。さっきのあれを連発されたら、サキたちを見つける前に、この後宮が崩壊する」
「ご主人様、ひどいですわ。ガドはこれでも、無双の白魔道師の女王ガドニエルなのですよ」
「そうか。悪かったな」
一郎は言ったが、いま現在の印象としては、この女王様は魔道力は強いけど、何事につけ大雑把であり、繊細さに欠ける気がする。魔道戦闘巧者ということであれば、冒険者としてのクエストに何度も勝手についてきたスクルドの方が上な気がするのだが……。
まあいいか……。
「イット、コゼ、一度、伏せろ」
一郎の声でふたりがそれぞれにこっち側に跳躍して、敵と距離をとる。
「いけええ──」
叫んだ。
前後にガドニエルとスクルドの魔道が飛ぶ。
廊下一面の広さに展開する圧倒的な衝撃だ。
それぞれに、床に伏せたイットとコゼの背中のぎりぎりを通過して、妖魔たちにぶち当たった。
ガドニエルは真っ白の光の壁──。
スクルドは風の壁だ──。ただ、スクルド側は暴風の中に無数の小石が混ぜられていようであり、それが互いに当たって、小さな火花のようなものが見えた。
前後で暴風が収まる。
喧噪はなくなった。
ガドニエルの発射した衝撃波側は、遙か向こうまで妖魔兵が飛ばされ、何人かは壁に叩きつけられていた。しかも、熱によるものか半ば溶けかけている。さらに、衝撃波の向こう側にはまたもや穴か空いていて、建物そのものを突き抜けて外の景色が見えていた。妖魔兵の死骸の数が合わないので、大半はそのまま壁の外まで飛ばされたのだと思う。
一方で、スクルド側に至っては、もっと凄まじい。
廊下に膝から下だけが残る妖魔兵の脚だけがあり、周囲一帯に血と肉片のようなものが飛び散っている。おそらく、文字通り膝から上部分は全員が木っ端みじんに粉砕されたに違いない。
「こりゃあ、えげつないねえ……」
一郎の横のアネルザが蒼い顔をしている。
「すごいわね。でも、よくやったわ、ふたりとも」
エリカがちょっと力を抜く。
コゼとイットも戻る。
「本当。スクルドの魔道が背中を通り過ぎたときには、肝が冷えたかも」
「あ、あたしもです」
コゼとイットも息を吐いた。
そのとき、心なしかスクルドが怪訝な顔になった。
「少しおかしいかもしれません……。思ったよりも、魔道の威力が強くなったのかも……。ガドさんはどうでした?」
そして、スクルドがガドニエルを見る。
「威力ですか? うーん」
しかし、ガドニエルは首を捻っている。
「この女王様に、繊細な力加減のこと質問してもだめなんじゃない。だけど、いつもよりも身体が動くような気は、あたしもしますね」
コゼだ。
「そういえば……」
イットも頷く。
身体がよく動く? 魔道も威力が大きくなる?
この後宮になにかあるのか?
一郎にはなにも感じないが……。
「そう言われてみると、身体が熱いかも……」
エリカがぼそりと言った。
「あっ、それはわたしも感じますわ」
「そうねえ……」
スクルドとコゼが同意する。
「あ、あたしも……」
「わたしもですわ。ご主人様に抱きしめてもらっているような……」
イットも頷く。ガドニエルに至っては、おかしなことを言った。
「身体に不調が?」
慌てて、一郎は全員のステータスを瞬時に垣間見た。
しかし、特に毒などの異常は見つからなかった。それどころか、確かにステータスが平素よりも微増している。
どういうことなのだろう?
「当たり前だよ。これだけ、高密度の淫気が充満してんだ。お前ら、全員、ご主人様のおかげで、能力があがってんだろう──。淫気はご主人様の力も源であり、お前ら、性奴隷の力の餌なんだ。だから、調子がいいのは当たり前だ──」
一郎の胸の中に隠れていたクグルスがひょいと顔を出して言った。
「高密度の淫気?」
しかし、一郎はびっくりした。
だが、言われて、一郎も気がついた。確かに、淫気が……しかも、とてつもなく濃い淫気がここには充満している。
まるで、強い媚香の中にいるような感じだ。
女たちが身体が熱いと感じるのはそのせいだ。
「えっ?」
「淫気?」
「まあ」
エリカとコゼとスクルドだ。
ほかの者もびっくりしている。
「淫気って……。でも、なんで? 妖魔族が罠を張るなら、瘴気体を充満させて、自分たちの戦闘に有利にするのはわかるけど、淫気って……」
エリカが怪訝そうに言った。
一郎も同じことを思った。
スクルドやガドニエルたちのようなこの世界の通常の魔道遣いが魔道の力の元にするのは、あらゆる自然の中に溶け込んでいる「魔素」──。
そして、魔族、妖魔族が力のもとにするのが「瘴気」だ。ナタル森林における騒乱のときには、この瘴気を充満させようと企んだパリスがあちこちに「特異点」と呼ばれる瘴気の噴出口を作って、森林全体を魔族の世界にしようとしたのである。
これらに対して、淫魔師としての一郎、あるいは、淫魔族のクグルス、チャルタという存在が力のもとにするのが、まあ、人族たちが性行為のときに発するという「淫気」だ。
もっとも、これら三つは、実は同じものだという意見も耳にした気がするが……。
それはともかく、ならば、なぜ、ラポルタという妖魔族がここに淫気を充満させる必要がある。
いや、させたのではなく、そうなったのか?
「だけど、ここでどれだけ、えろえろをすれば、こんなになるのかなあ……? 普通に乱交続けたくらいじゃあ、こんなにはならないよ」
クグルスも首を捻っている。
「でも、ここに張り巡らされているものって、スクルド様の魔道の波に似てますわ」
すると、ガドニエルがぼそりと言った。
「スクルドの?」
エリカだ。
「わ、わたし? あれっ? まあ、そういえば……。あら、でも……。そうですか……? そう……でもあるの……ですか?」
スクルドも探知のようなことをしている気配になりながら、困惑した顔になっている。
「なんか、まだ白状してないことがあるんじゃないの、あんた?」
コゼがスクルドを見た。
「も、もう、ありませんわ──。ご主人様に、隠し事など──」
しかし、スクルドが慌てたように首を横に振った。
そのときだった。
さっき粉砕した前方向の空間がゆらりと揺れるのがわかった。ガドニエルが衝撃波で敵を撃滅した側だ。
「考えるのは後だ──。ところで、ここの連中が隠したがっているものの方向がわかったぞ。やはり、中央に向かう方向だ──」
一郎は断定した。
さっきは両側に妖魔兵が出現したが、いまは片側にしか出現してきていない。
普通に考えれば、阻みたい方向に、防護兵を出すのだろうから、敵が出現する方向を辿っていけば、もしかしたら、サキたちが監禁されている場所に到達するのかもしれない。
そして、またもや王兵にやつした妖魔族の兵が出現する。
人数は十数名──。
「今度は進む。イット、コゼ、また蹴散らしてくれ──。スクルドとガドは、いつでも魔道が撃てるように──」
一郎は歩き進んだ。
「はい──」
「はいっ」
「いつでも……」
争闘が再開される。
「ロウ様と王妃様は、わたしにぴったりとついて──」
エリカだ。
「クグルスもなにか感じたら、すぐに教えてくれ」
一郎は胸の服の中にいるクグルスに声をかけた。
「わかった──」
固まって進む。
その少し離れた前をコゼとイットが面白いように、敵を倒していく。
一郎は構わずに進む。
十数人をあっという間に蹴散らして、簡単に突破できた。
「その角に五人隠れてるぞ──」
一郎は魔眼で隠れている者を探知して叫んだ。
「しゃああ──」
イットが角を曲がって突っ込む。
騒乱があったのは一瞬だ。
一郎たちはそこに到着したときには、もう五人とも喉を切断されて死骸に変わっていた。
しかし、その目前には別の兵がすでにいた。
六人──。
コゼが出る。
彼らもすぐに倒される。
「アネルザ、そろそろ、中央付近かもな。地下に進む階段は──?」
一郎はアネルザを見る。
「あ、あっちだね」
アネルザが右に曲がる方を指さす。
「ガド、適当にこっち側一帯をぶち壊せ」
「了解です──」
ガドニエルが衝撃波を連発する。
最初のものよりもかなり手加減しているのはわかった。
それでも、空間を揺るがすようなものすごい振動が飛び出し、土煙と暴風が席巻した。
そして、それらが収まると、周囲の見渡しがよくなる。
壊された壁に埋まって、呻き声のようなものも聞こえる。これもまた妖魔兵だ。
「あれだよ──」
アネルザが離れた場所を指さした。
瓦礫で半分ほど入口が埋まっているが、確かに階下に降りる階段があった、
「邪魔なものを飛ばします──」
スクルドが風魔道で階段部にあった瓦礫を一気にどける。
「イット──」
エリカが叫ぶ。
「はい──」
イットが階段を駆けおりる。
続いてコゼ──。
ちょっと時間をおいてからエリカ、一郎はエリカのすぐ後方を進んだ。他の女たちもついてくる。
暗い──。
地下側には照明がなかった。
また、すでにイットは、さらに奥で誰かと戦っている気配だ。
「スクルド──」
エリカが振り返る。
「わかってます」
十数個の小さな光の玉が飛ぶ。
一気に明るさがやってきた。
「あんたら、うっとうしいわねえ──」
コゼが戦いを開始した気配も伝わる。イットはもっと遠くで戦っているのだろう。
地下に着いた。
一階部分と同じような回廊だ。
「ご主人様、また、壁を壊しますか──」
ガドニエルが後ろから叫んだ。
「待って──。ねえ、ご主人様──」
そのとき、クグルスが声をあげた。
「わかっている、クグルス。俺も見つけた……。それと、ガド、とりあえず不要だ。どこにいるのかわかった──」
一郎は言った。
まっすぐ奥にある突き当たりの壁──。
扉のようなものはないか、その向こうだ。
そこに、ステータスを確認できたのだ。
“****(ラポルタ)
妖魔族、男
年齢 ***
……妖魔 80
特殊能力 変身術
……
……”
壁の向こうにいる。
真名は読めない……。
男?
しかし、それよりも……。
“サキ
妖魔族、女
一郎の眷属
……
……”
距離があるので、まだ読み取れるだけの情報に限界がある。
「罠に気をつけながら進んでくれ」
一郎の声で、イットとコゼが探知するような態勢になった。掩護はエリカとふたりの魔道遣い……。
だが、なにもない感じだ。
ゆっくりと回廊を進んでいく。
しかし、進んでいくと、どんどんとわかってくることも増えてきた。
“サキ
妖魔族、女
一郎の眷属
……
“胴体なし”
“妖力(封印)”
“視力なし”
“聴力(一時的封印)”
“舌(魔改造)”
“発情状態”
……。
……。
ラポルタという妖魔は、面白がって、サキを弄んでいるのか……。
一郎のサキを──。
かっと頭に血が昇る。
だが、だからこそ、冷静さが必要だと自分に言い聞かせる。
「壁の横に妖魔兵がまたいるぞ。二人ずつだ。とりあえず、まず倒してくれ」
一郎は進みながら言った。
イットとコゼは、相変わらず、少し距離をとった状態で前を進んでいたが、そのときには、回廊をほとんど壁の近くまで進み終わっていた。一郎の言葉で、同時に両側の回廊を曲がった奥に飛び進む。
あとは、もう一郎はそいつらについては気にしなかった。
左右に廊下が続く突き当たりの壁に辿り着く。
コゼとイットが待っていた。
すぐそばには、妖魔兵の死体がふたりずつ倒れている。
“ミランダ”
“ベルズ”
ふたりについても確認できた。
かなり弱っているが、生きてはいる。
「壁を壊してくれ。ゆっくりとな」
一郎は壁を前にしていった。
「スクルド、頼むわ。ロウ様たちは、さがってください……」
エリカが指示した。
スクルドが前に出る。
また、エリカ自身については、一郎たちの後方について、全体を警戒する態勢をとった。
壁が真っ赤になり、溶けるように大きな穴ができる。
いた──。
大きな部屋があり、そこに見知らぬ男がいた。
こいつがラポルタだ。
ただ、サキもミランダもベルズも姿は見えない。
いや、いる……。
ミランダとベルズは、ソファの奥にある絨毯の下だ。
もしかして、その絨毯の下方向に、まだ地下があるのか。
いや、そうだ。
間違いない……。
しかし、サキはどこだ……?
それはともかく、唖然としたのは、横長のソファーに座っているラポルタの格好だ。
ズボンと下着を足首までさげて、下半身を露出している。
さらに、股間は勃起までしている。
「奥にいる男がロウですか? 待ってましたよ」
ラポルタが笑った。
だが、そのとき、一気に頭に血が昇るのがわかった。
サキがどこにいるのかわかったのだ。
「貴様──。汚い尻をサキからどけろ──」
怒鳴りあげた。
サキはこいつの尻の下だ。
このラポルタはよりにもよって、首だけのサキの顔の上に、生尻を載せてソファに座っているのだ。
「このう──」
「しゃああ──」
コゼとイットが崩れた壁の大穴から入った。
「きゃああ」
「うわあっ」
だが、部屋の半分ほど進んだところで、ラポルタに到達することなく、見えない壁に飛ばされたみたいになって跳ね返ってきた。
「コゼさん、イットさん──。大丈夫ですか──。わたしにお任せを──」
スクルドが魔道を飛ばしたのがわかった。
「待て、撃つな──」
一郎には、ラポルタと一郎たちのあいだになにがあるのかをやっと悟った。咄嗟に叫んだが、そのときには透明の防護壁のようなものによって跳ね返った魔道がスクルドを襲っていた。
「きゃああああ」
スクルドが無数の糸に絡まれて身体を丸くした。
ラポルタに飛ばしたのが、この糸で無力化しようとするものであり、それがラポルタが準備したと思われる透明の防護壁に跳ね返ったということだろう。
さしずめ、すべての攻撃を攻撃者に跳ね返す特殊防護壁ということか……。
「ははは、慌てないでください。いま、いいところなんですから。俺のサキ様が一所懸命に、俺の尻を舐めてくれているんです……。ところで、取り引きといきませんか、ロウ?」
すると、ラポルタが言った。