【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「取り引きだと?」
一郎はゆっくりと壁の大穴から部屋の中に入った。
部屋は大部屋と呼べるほどに広かったが、そこにあるのは横長のソファが一個だけだ。そして、その斜め奥の床に縦と横の長さが人の背丈ほどの一枚の絨毯──。
それだけだ。
いずれも、一郎たちから見て、奥側の壁に近い場所にある。
すかさず、エリカが一郎の前に出る。ガドニエル、そして、アネルザも一郎の後ろに続く。
「ロウ様、危ないですよ……」
一郎の歩みに合わせてぴったりと一郎のすぐ前を進むエリカがかすかに一郎に視線を向けてささやいた。
「いや、大丈夫だ……。取り引きをしたいそうだからな。話をしたいんだろう、ラポルタ──?」
一郎は部屋の奥のラポルタに大きく声をかける。
すると、いまだに股間を丸出しにしているラポルタの相好が崩れた。
「そのとおりです。やっぱり、あなたは理性的だ。いきなり、暴力を振るう野蛮なやからたちとは一線を画する」
ラポルタが嬉しそうに言った。
一郎は内心で舌打ちした。
とにかく、部屋を進みながらあちこちを観察する。
まずは、スクルド。
自分の拘束魔道を浴びて丸まってひっくり返っていたが、やっと解除して起きあがろうとしている。
問題なさそうだ。
また、最初に飛び込んだ、コゼとイットもすでに立ちあがっている。
ステータスを確認したが、三人とも、特に異常のようなものはない。あのおかしな透明の防護壁は、身体に危害を加えるようなものではなく、やはり単純に攻撃されたものを術者などに跳ね返す仕掛けなのだろう。
もしも、スクルドが本気の攻撃魔道を飛ばしていたら危なかったかもしれないが……。
「……ガド、あいつから魔道が飛んだら、すぐに防護結界を俺たちに張れ……」
一郎は小声で背後を進むガドニエルにささやく。
「わかりましたわ──。お任せください──」
すると、一郎に指示を受けるのが嬉しいのか、ガドニエルが喜色満々の口調で大きく返事をした。
声が大きいというのに……。
まあいいか……。
一郎は苦笑した。
すると、クグルスがひょいと隠れていた一郎の服の下から顔を出す。
「ねえ、あいつ、変だよ……」
クグルスが顔だけを一郎の服の下から出した状態で言った。ほんの聞こえるか聞こえないかの声だ。
「変って?」
改めてステータスを読む。
“真名消去(ラポルタ(仮称))
妖魔族、男
サキの元眷属
年齢 ***
ジョブ
妖魔(レベル30→80↑)
攻撃力:1500(素手)
特殊能力 変身術
状態
妖力吸収による一時的能力肥大状態
魔道反射具による防護
直接攻撃反射具による防護
微淫魔化による
接近することで読める情報がかなり多くなった。
だが、よくわからないものが多い。
まず、真名は読めない。手段はわからないが、おそらく、なんらかの方法で真名を他者が知られることがないようにしているのだろう。
魔族の持つ“真名”というものは、魔族という種族に対する呪いと誰かが言ったのを聞いた気がする。
真名を知られることで上級魔族という者たちは相手の支配下に陥ってしまい隷属してしまうという性質がある。
これを利用して、この世界では、人間族やエルフ族が、魔族や妖魔族と言われる存在を異空間に追放したのだと教えてもらった。
いずれにしても、このラポルタという呼び名そのものが仮称だ。
これは想像だが、こいつは、真名にしろ、呼び名にしろ、そういった他人が自分を呼ぶ呼称そのものを消去しているのだろう。そうやって、真名を消滅させたのかもしれない。
あとは、もっとわからない。
レベルはかなり高く、妖魔としては“レベル80”だ。
しかし、“妖力吸収による一時的能力肥大状態”──?
また、ごちゃごちゃと防護魔具も身につけているようだが、それはともかく、“微淫魔化”?
なんだ、それ?
ううん……。
「……なあ、微淫魔化って、なんだ、クグルス?」
一郎は小声で訊ねた。
「わっかんない。だけど、あいつが大量の淫気を吸って、それでちょっとおかしくなっているということはわかるね」
クグルスが言った。
そのときには、もうほとんど部屋の真ん中くらいまで来ていた。
あの特殊な防護壁のようなものは、すぐ目の前だ。透明でなにも見えないが、確かに一郎には、そこに何かがあるのを感じた。
「取り引きって、なんだ?」
一郎は言った。
いずれにしても、このおかしな防護壁をどうにかしないと、あいつにも、サキたちも近づけない。
なんとか、ならんのか……?
手をそっと近づける。
「ロウ様──」
いまはほとんど真横のエリカが手を伸ばして、一郎を制そうとした。
だが、一郎はそれを静かに阻む。
手のひらを前に進めた。
見えない壁に当たった。
手に触れることで、魔眼で情報が入ってくる。これは魔道だけのものじゃない。よくよく見れば、あるかないかの極細の糸のようなものが縦横に張り巡らされている。それにさらに魔道結界を帯びさせているのだ。
だから、魔道耐性のあるイットも跳ね返されたのだろう。
「いかなる攻撃も跳ね返す特別な防護壁です。もうわかったと思いますが、攻撃はしない方がいいですよ。跳ね返るだけです。俺から攻撃することはありません。話し合いたけですから」
「話し合いねえ……。とりあえず、その粗末なものをしまえよ。鬱陶しい──」
一郎は吐き捨てた。
「ははは、これはお手厳しい。人間族のあなたよりは、立派だと思いますけどねえ。それとも、それだけの女傑を支配してハレムを作るくらいですから、もしかして、びっくりするくらいに大きいとか? いやいや、俺の方が大きそうですね。それとも、勃起させて比べっこでもしますか?」
ラポルタが大笑いする、
すると、クグルスがさっと一郎の胸から飛び出した。一郎のすぐ横を舞う。
「なにおう──。ご主人様のお道具は、お普通だけど立派だぞ──。そもそも、女を気持ちよくさせるのは性器の大きさなんて関係ないんだ──。ご主人様は、そりゃあ、そりゃあ、大きな大きな愛をお持ちなんだ。だから、みんなが慕うんだ──」
クグルスが怒鳴った。
すると、後ろのがドニエルがずいと前に出た気配がした。
「そのとおりです──。わたしたちのご主人様のお道具は、とてもご立派で、すごくって、とっても素敵で、とっても気持ちがよくって……」
「黙んなさい、ガド」
コゼがぴしゃりと叱った。
「ぷっ」
後ろでアネルザが吹いた。
それはともかく、すでに、全員が一郎のすぐ近くに集まっている。倒れていたイットもスクルドもだ。
「さっさとしまえよ。話を聞いてやるから」
一郎はそう言ってから、向こうに向かって淫魔術が飛ぶかどうか試してみた。
話し合いたいと言うのだから、勝手に話せばいい。
そのあいだに、色々と試せる……。
「ちっ」
一郎は内心で舌打ちした。
術が向こう側に飛ぶ感覚がやってこない。
無理だ。
もしも、淫魔力が浸透できるのであれば、壁の向こう側にいるサキ、ミランダ、ベルスたちを亜空間に回収することも可能と思うのだが……。
そのとき、一郎は、向こう側にある絨毯のある真上の天井部分に、人の顔の大きさくらいの灰色の球体があることに気がついた。
「気がつきましたか?」
ラポルタが手を振った。
絨毯が跳ね飛ばされて、その下に人が入れるような穴が出現した。しかし、同時に、天井の灰色の球体が穴のすぐそばまで一気に下降してきた。
「……た、頼むよ……。水を……。ラポルタ……。水……」
か細いがミランダの声──。
「ミランダ──」
「ミランダさん──」
「ミランダ──」
エリカ、スクルド、コゼが同時に声をあげた。
「水が欲しければ、自慰で千回達しろと言っているだろう──。何度言えばわかる、低能ドワフが──」
口調だけは慇懃だったラポルタが一転して、口汚く怒鳴った。
それはともかく、一郎はかっとなった。
自慰、千回だと──。
「だまんなさい──。その舌を斬り飛ばすわよ──」
叫んだのはエリカだ。
だが、戻ってきたのはラポルタの冷笑だ。
「どうやってですか、エリカ? なら、いくらでも、その防護壁を斬りつければいい。傷つくのはエリカの身体になりますけどね」
「ミランダ、大丈夫──? ベルズはいるの? そこにいるの?」
コゼだ。
だが、穴からは水が欲しいというミランダの声しか聞こえない。
どういう仕掛けかわからないが、穴の中には、ラポルタの声は聞こえるが、こちら側の声は聞こえないみたいだ。
ミランダたちの声については聞こえるのに……。
もしかして、この防護壁が一方通行ということか……?
だったら、おそらく、向こうからの攻撃は防護壁を素通りするのかも……。
「いや、ベルズもいる……。しかし、衰弱している……」
一郎は言った。
防護壁越しだが、ステータスは読める。
ベルズはミランダとともに穴の中だ。
「……ところで、気をつけろよ。こっちの攻撃は通じないが、向こうの攻撃は通じるかもしれない」
全員に注意喚起する。
結局のところ、淫魔力が通過しないので、ミランダたちの身体の回復をさせることはできなかった。
どうしても、これを破る方法を見つけるしかない……。
「ほう、やっぱり、ロウは素晴らしいですね。なかなかの洞察力です。だったら、穴の上にある球体の正体はわかりますか?」
ラポルタがにやりと笑う。
一郎はラポルタを睨みつけた。
「……もしかして、毒の塊かなにかか?」
相手が手にしていないものには魔眼は発揮しないのだが、ただの勘だ。
すると、ラポルタが拍手をした。
「そのとおりです。これを穴の中に落とせば、一瞬で穴の中にいる者は即死します。そして、これは俺の魔道で宙に浮いているのです。もしも、俺になにかの危害を加えれば、ドワフ族と人間族の女たちは死にます。あなたは、とても自分の女を大切にする性質らしいし、死なせたくはありませんよねえ。まあ、その防護壁を破る方法はないでしょうけど」
「毒──?」
「えっ?」
エリカとコゼだ。
いまにも飛びかかろうとするような動きをしたが、すぐに構えるだけになった。
目の前に、透明の防護壁があることを思い出したのだろう。
「取り引きといきましょう……。それと、最初に言っておきますが、俺が取り引きを申し出るのは一度だけです。拒否すれば、俺はサキ様を連れてここを去り、二度とあなたたちとは会わない場所に逃げます。この離宮を手放すのは惜しいですが、あなた方全員と戦って、かなうとは思えませんし、実際に眷属たちも刃が立たなかった。戦わずして逃げます。もちろん、穴の中には毒の玉を放り投げます。ここだけじゃなくて、もうひとつの離宮も、王を隠している地下牢にも……」
「王もここにいるんだな? 死んではないということか」
「いますよ。結構元気ですよ。ずっと監禁場所で消沈していましたが、先日、餌を与えてからは、まあ、いきいきとしているかもしれません」
「あいつ、監禁されていたのかい?」
アネルザだ。
「このラポルタは、変身術の使い手らしい。もしかしたら、一連の王の蛮行はこいつの仕業だった可能性もある」
一郎は言った。
だが、ラポルタは首を横に振る。
「俺が王に化けていたのは、つい最近のことだけのことです。それまでのことについては、あの王自身の行動です。もっとも、ちょっとばかり性格を過激にしたのはしましたけどねえ。それについても、やったのは俺じゃない。サキ様と、サキ様と組んだタリオの魔道遣いです」
「タリオの魔道遣い?」
一郎は訝しんだ。
タリオだと──?
もしかして、また、アーサーが一枚噛んでいるのか?
「そんなことはいいでしょう。では、取り引きの話といきましょう」
ラポルタがソファから立ちあがって、下着とズボンを腰に引きあげた。
これまでラポルタが生尻を密着させて座っていた場所には、首から上だけのサキがいた。
涙と鼻水と涎で顔がものすごいことになっている。
そして、ラポルタが尻を上げた瞬間、サキの顔が悲痛なものになった。
「ああ、まだじゃ──。まだじゃぞ、愛しいラポルタ様──。もっと頑張る──。頑張るから、お前の……いや、愛しいラポルタ様の尻の穴を舐めさせてくれ──。なあ、時間制限はないと言ったであろう──。まだ、舐める──。舐めさせてくれえ──」
サキが絶叫した。
一郎は唖然となった。
「サキ──」
「サキってばああ──」
エリカとコゼが叫んだ。
だが、やはり、声は聞こえていないのだろう。サキが一郎たちに気がついた様子はない。
ひたすらに、“愛しいラポルタ様”と叫んでいる。
視覚も、そして、一時的に聴覚も遮断されているのはわかっている。サキには、一郎たちのことを知覚する手段がないのだ。
「大丈夫ですよ。また、舐めさせてあげますよ、サキ様。だんだんと上手になってきましたからね。しかし、ちょっと休みますか……」
すると、サキの口が閉じて、静かな寝息をかきだした。
眠らされたのか……。
「俺の要求は、このサキ様。そして、この離宮です。このふたつを頂ければ、すべてをお返しします。穴の中のふたりも……。もうひとつの離宮の人間族の女たちも……王も……。俺にはまったく必要のないものですから」
ラポルタが言った。
「サキとこの離宮?」
「ええ──。ただ条件として、破ることのできない盟約を結んでもらいますよ。あなたは魔道遣いでも、魔族でもありませんが、盟約を結ぶ力があることはわかってます。ロウの全力をあげて、この離宮で俺とサキ様が存在することを守ることを約束してください──。それが条件です」
ラポルタの顔からにやつきが消えて、真剣な顔になる。
「盟約とは……魔道契約のことですか?」
スクルドだ。
「呼び方は種族によって様々でしょう。しかし、本質はひとつ。魂と魂の契約であり、一度結べば、お互いに破ることはできないという魂の約束のことです。それをこの場で結んでもらいます。拒否すれば、俺はここから去り、サキ様も戻りませんし、そのうえに、あなたの大切にしている女がふたりも死ぬ。それはさすがに損な選択だと思いますがねえ」
再び、ラポルタがげらげらと笑い出した。
随分と感情の起伏が激しい男だと思った。これが
「どうします? 俺にはこの離宮が必要なのですが、あなたが拒絶するなら諦めます。さっきも言いましたが、勝てるとは思ってないのです……。そもそも、さっきのサキ様を見たでしょう。すでに、身も心も俺に向いているんです。諦めましょうよ。たくさんお持ちの愛人のひとりじゃないですか。だけど、俺にとっては唯一なんです」
「俺にとっても、すべての女が唯一だよ」
「詭弁ですね。それで、返事は?」
ラポルタが一郎を睨む。
一郎は嘆息した。
「わかった……。サキを含めて全員を置いていけ。それで許してやる。命を助けてやるよ。盟約とやらを結んでやろう」
一郎は言った。
「それは、俺の望むことではないようです。じゃあ、決裂ということでいいですよね」
ラポルタがすっと手を穴の上に球体に向ける。
「待て──」
一郎ははじめて焦ってしまった。
「ならば、盟約です……。それに、教えておきますが、俺が死ねば、このサキ様はすぐに死にます。サキ様の胴体を回復するのは、いかなる方法でも不可能です。サキ様は、俺と一心同体であり、サキ様には俺が必要なんです。そういうようなものにしました。もはや、どうしようもない。だったら諦めるしかないでしょうに」
「方法がない?」
はったりだろう。
あるいは、このラポルタの能力で無理なだけとか……。
サキが復活できないということなど信じない──。
「そうです──。では盟約を……」
「ちょっと、待てよ……」
「なにを待つんです……。あっ、そうだ。ついでに、後ろのエルフ女王ももらいましょうか。あっ、いえ、エルフ女王は、俺とロウの共同の性奴隷ということでいいです。一緒に使いましょうよ」
「はああ? ガドをだと──」
いきなり、なにを言い出したのだ、こいつは?
しかし、急に有頂天になって、喜びだした。
「そうだ──。そうすればいいんだ。それでこの離宮の状態の保持の問題も解決する──。まあ、そのエルフ女王の身体と心はロウがもらえばいいですよ。俺が興味あるのは、女王の持っている基盤です。クリスタル石──、魔石ですよ。大量の魔石が定期的に欲しい。これも条件に加えます──。エルフ女王を俺とロウの共同の奴隷にするんです……。これはいい──」
なぜかラポルタは大はしゃぎだ。
「ガドをなあ……」
一郎は呆れた。
馬鹿じゃないか、こいつ。
しかし、やはり、相当の興奮状態だ。
一見冷静に見えるが、実際にはかなり危険な精神状態だ。
下手に刺激すると、なにをするかわからない気もする。
「それで、返事は? 俺はすぐに返事が欲しい。ドワフと人間族の女を殺しますよ──」
ラポルタが球体に手を向けたまま、笑いながらべらべらと言った。
なんという下衆……。
だが、どうするか……。
くそう……。
どうすればいい……。
なにか、策は……。
一郎は懸命に思考を巡らせた。
ほかの女たちも、じっと一郎の判断を待っているのがわかる。
そのときだった。
「……いま、なんと申した、
低くて毅然とした声が響いた。
一郎は思わず振り返った。
ガドニエルだ。
見たこともないような険しい顔をしている。
「ナタル森林の番人にして、三世界で随一の白魔導師と称され、世界でもっとも古き種族のエルフ族の女王であるこのガドニエルを、お前ごとき下郎の奴隷にするだと──? 身の程をしれい──」
ガドニエルがラポルタを怒鳴りあげた。
一郎は目を丸くした。
「えっ、ガド?」
「誰、こいつ?」
エリカとコゼも呆気にとられたような声を出した。