【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「──エルフ族の女王であるこのガドニエルを、お前ごとき下郎の奴隷にするだと──? 身の程をしれい──」
ガドニエルがラポルタを激怒して怒鳴りあげたのが聞こえた。
振り返った一郎は目を丸くしてしまった。
残念女王扱いしていたが、これでも、この大陸世界でもっとも権威のあるエルフ国の女王として、百年近く治政を担ってきたガドニエルというところか……。
かなりの迫力だ。
醸し出す殺気もすごい。
正直、一郎は唖然としてしまった。
「えっ、ガド?」
「誰、こいつ?」
エリカとコゼもびっくりしている。
ほかの女もだ。
「そもそも、わたしの心も身体も、エルフ女王国もなにもかも、ご主人様のものだ──。お前ごとき、有象無象が触れていいものではないわ──。それを言うに事欠いて、わたしを奴隷にするだと──。わたしを奴隷にして、玩具にして、調教して、雌犬にしていいのは、徹頭徹尾、ご主人様だけだ。この大馬鹿者め──」
さらにガドニエルの罵声が続く。
しかし、迫力と口調は凄まじいものの、心なしか、ちょっと言葉におかしな文言が混じってきたような……。
そもそも、エルフ女王国が一郎のものというのは、女王としてどうなのだろう……。まあ、好き勝手に協力してもらっているのは認めるが……。
「あれ? ガドが戻ってきたわ……」
コゼもぼそりと言った。
「お前が余計なことを言って、ご主人様がその気になったらどうする──。そもそも、あまりお役に立てなくて……。叱られてばかりで……。だめな雌犬で……。だから、いまも即座に否定してくれなくて……。それなのに、お前が……お前が……」
ガドニエルが小刻みに震えだした。
もしかしたら、ラポルタがガドニエルを共同で奴隷にすることを申し出たとき、即座に否定しなかったから、不安になったのか?
そういえば、まだはっきりとは拒絶はしていない。
しかし、それは一郎がガドニエルをラポルタに渡すなど、天地がひっくり返ってもあり得ないことであり、検討にすら値しないだけのことからなのだが、感受性の強い女王様だから、不安を覚えたのかもしれない。
これは、もしかして、一郎の態度がよくなかったか……?
一郎は、とりあえず、ガドニエルを宥めようと思った。
ふと見ると、うっすらと目に涙も溜めている。
一郎は嘆息した。
「ガド、あのなあ……」
そして、声をかけようとして気がついた。
ガドの右手が真っ白く光っている。
ぎょっとした。
手が光っているのではなく、光の球を帯びさせているのだ。大きさは人のこぶしよりもやや大きいくらいだろう。
だが、色も形状も、ガドニエルが最初にこの後宮をぶち抜いた衝撃波に近似している気がするのだ。
それで我に返った。
「お待ちください、ガドさん──」
スクルドも気がついたみたいだ。
慌てたように叫び声をあげる。
しかし、そのときには、すでにガドニエルは魔道の発射態勢に入っていた。
「わたしの怒りの鉄槌をしれえええ──」
ガドニエルの右手から衝撃波が飛び出す。
ばかな……。
さっき、みんなの攻撃が跳ね返されたのを見てないのか──。
「ガド──」
なにも考えずに、光線を腕から発射したガドニエルの前に出る。
跳ね返りの衝撃波がガドニエルを襲うはずだ──。
「スクルド──」
叫んだ。
すでに、粘性体の壁の発生態勢に移行したが、スクルドにもガドニエルの前に防護壁を展開してもらおうと思った。
しかし、この建物の壁を幾層にもぶち破るような魔道衝撃波の跳ね返りを防げるか──?
そもそも、間に合うか──?
だが、やるだけだ。
ガドニエルに前から抱きつくようにして、衝撃波が戻ってくるはずの背中側にありったけの淫魔力を迸らせて粘性体の壁を拡げる。
「えっ、ご主人様?」
ガドニエルが驚いたような顔になったのがわかったが、それよりも一郎は襲ってくるはずの衝撃に備えた。
だが、やってこない。
その代わりに、ラポルタの悲鳴が聞こえた。
ガドニエルを抱きしめたまま振り返る。
「ひいっ、ひいいっ、ひっ。な、なにをする──。ひ、人質が死んでもいいのか──。し、死ぬぞ──」
ラポルタがソファから転げ落ちて喚き続けている。
驚愕することに、ガドニエルの放った光球は、あの特殊防護壁を突き破り、ラポルタの顔近くの後方の壁をぶち破って、手のひら大の穴を開けていたのだ。
一郎は目を丸くした。
「うわあっ」
「うそっ」
「えええ?」
エリカとコゼとスクルドだ。
信じられないという顔をしている。
「ひええ……」
「すっごいねえ……」
イットとアネルザも驚愕していた。
「うわあっ、やるううう──」
クグルスだけが陽気な声をあげた。
だが、一郎は我に返る。
粘性体を瞬時に消滅させて、ガドニエルを抱きしめていた手を離す。
さっき、ガドニエルが作った防護壁の穴に腕を突っ込む。
「ガド、いまのを連発して、防護壁を砕いてしまえ──。だが、そいつは殺すな──」
そして、叫んだ。
「ガド、ここよ──。ここに集中して──」
エリカが細剣を抜いて、ラポルタの身体に直撃する方向とはずれる場所を剣先で示す。
そして、すぐさま離れた。
すでに突入態勢だ。
「は、はい──」
ガドニエルが両手をかざして、機関銃のように光球を連打する、
とにかく、凄まじい──。
どんどんと、あの防護壁に穴が開いていく。
「わおっ、あの雌犬女王様すっごおおいいい。あの防護膜の魔道陣ごとぶち壊しているうう。やるううっ」
クグルスは、一郎のすぐそばを舞い踊りながら大はしゃぎだ。
「つまりは、圧倒的な力の差ということか……」
苦笑する。
それはともかく、懸命に淫魔力を飛ばす。
胴体はこちら側だが、腕だけは防護壁の向こうだ。
淫魔術は届くのか──?
「お、お前ら」
ラポルタが顔を真っ蒼にしたまま、やっと起きあがる。
そして、腹
「ははは、ざまあみろ──。これは、俺のせいじゃないぞ──。お前らが自分たちで仲間を殺したんだ。馬鹿たれたちめ──」
ラポルタが床に尻餅をついたまま高笑いした。
そのあいだも、ガドニエルによる衝撃球の連発が続いている。
「ガド、もういい──。突入──」
エリカの大声──。
「しゃあああ──」
いの一番にイットが空隙から向こう側に飛び込む。
コゼ、エリカと続く。
「ミランダ──。ベルズ──」
スクルドも飛び込んで魔道を穴に向かって飛ばす。
毒球を無効化しようというのだろう。
「無駄、無駄、無駄、無駄──。もう死んでいるよ──。あれは、即死の毒だ──」
ラポルタが狂ったように笑っている。
そのラポルタの周りの空間がほんの少しだけ揺れたような気がした。
「移動術で逃げるわよ──」
エリカが叫んで、細剣を投げた。
その剣がラポルタに突き刺さったかに見えたが、不自然な跳ね返りをして剣が下に落ちる。
防護魔具か──。
一郎は粘性体を飛ばして、ラポルタの片足と床を密着させた。
これで、ラポルタは移動術で逃亡することは不可能だ。
「なんだ、これは──?」
ラポルタが粘性体から足を抜こうとして、もがいている。
そのあいだに、イット、コゼ、エリカは完全にラポルタを囲む態勢になった。
「ちょっとでも、動いてごらん──。手当たり次第に、どこでも斬り飛ばすわよ──」
エリカだ。
すでに、さっきの細剣を拾って、その剣をラポルタに突きつけている。
「で、できんのか──? 俺を殺せば、サキ様が死ぬぜ」
しかし、ラポルタはまだ笑みを完全に崩すことなく言い返した。
だが、すでに追い詰められているのはわかった。
気丈そうな物言いとは裏腹に、身体が恐怖で小刻みに震えている。
「ガドは、アネルザとそこにいろ。よくやった。殊勲賞だぞ」
「あっ、はい」
一郎は防護膜の穴から腕を抜き、エリカたちが突入した大穴側に移動する。反対側に向かうためだ。
また、一郎に褒められたガドニエルが満面の笑みを浮かべたのがわかった。
可愛い女王様だ。
一郎は微笑んだ。
「スクルド、そいつの妖魔力を無効化しろ。全部、妖力を抜くんだ。できるか?」
駆けながら叫ぶ。
「お任せを」
スクルドが魔道を飛ばしたのがわかった。
「ぐあああっ」
そのラポルタが苦悶の悲鳴をあげて丸くなる。
「ば、ばかな……。俺の妖力を停止させれば、サキ様が……。ああっ? サキ様? サキ様は──?」
少しのあいだ、全身をのたうたせていたラポルタが、ソファに向かって視線と片手を伸ばしたのがわかった。
だが、そこにはサキはいない。
ラポルタは唖然としている。
「サキ様──。どこだ──? どこにいった──? 俺のサキ様──。サキ様はどこだああ──」
絶叫している。
「なにが、お前のサキだ……。俺のサキだ」
一郎は亜空間から首から上だけになったサキを出して、腕に抱きかかえる。
まだ眠っているが、すぐに目覚めるだろう。
さっきの一瞬のあいだに、淫魔術で確保していた。
そして、亜空間にいさせた状態で、サキの命の繋がりをラポルタから一郎に変えることができることを確信して、すぐにそうしたのだ。
だから、スクルドにラポルタの魔道封じを命じた。
いまは、サキはラポルタとの繋がりは離れて、一郎と結び直している。
それにしても、ガドニエルが強引に防護膜に穴を開けることができた理由がわかった。
圧倒的な力の差がある場合は、いくら綿密に魔道陣を刻んで完璧とも思える処置をしても、すべては無意味なのだ。
だから、ガドニエルの魔道はラポルタの防護壁を無効化したし、一郎の淫魔術はラポルタの妖力を圧倒した。
所詮は、こいつは小者だったということだ。
「スクルド、頼む」
一郎は、ミランダとベルズについても亜空間から出した。
ラポルタの防護膜から腕を入れたとき、サキとともに、穴から回収していたのだ。
サキの処置を優先したために、まだ治療のようなものはなにもしていない。
「うう、ロウ……。ベルズ……、助かったよ……。ロウが来てくれたんだ……。みんなもだ……」
ふたりがスクルドの足もとに出現する。
改めてふたりの姿を見て、一郎の腹が煮えかえる。
ふたりが全裸であり、その全身に惨たらしい鞭痕や火傷の痕が惨たらしくついているだけでなく、両脚の膝から下は明らかに、ぐしゃぐしゃに骨が潰されていた。
赤紫に変色もしている。
また、ふたりとも、手の爪は全部ない。
ミランダについては、右手の方向がおかしい。
おそらく折れている。
拘束具や炸裂薬の入っている首輪のようなものは、亜空間に回収するときに取り払ったが、これでは逃げるどころか、この変態妖魔が怒鳴っていたような、自慰千回というのができるわけもない。
この妖魔男……。どうしてくれよう……。
「ああ、サキ様──。か、返せええ──。俺のサキ様だあ──」
ラポルタが一郎が腕に抱いているサキに手を伸ばそうと動いたのがわかった。
「動くなあ──」
イットが足でラポルタの身体を踏みつけて阻んだ。
「さあ、
一郎はラポルタの視線側に移動して一瞥する。
そして、エリカたちに目をやった。
「こいつを裸にしろ。いろいろと持っている。全部、引き剥がすんだ。魔道は封じたが、どうやら、この王家の宝物をたくさん取り出したみたいだ。下着はもちろん、尻の中にも棒を突っ込んで調べろ」
一郎は冷たく言った。
「王家の秘宝を尻の中に?」
いまだに防護膜の向こう側でガドニエルとともにいるアネルザが嫌な顔をしたのがちらりと見えた。
「や、やめろおお」
ラポルタが叫んだ。
だが、そのときには、エリカ、コゼ、イットの手が一斉にラポルタの服を剥がしにかかっている。
「尻穴を調べる役目はエリカに任せるわ」
「なによ、コゼ──。あんたがしなさいよ。嫌だったら」
「じゃあ、イットね。よろしくよ」
「ええ──?」
コゼ、エリカ、イットがラポルタの身ぐるみを剥がしながら言い争いをしている。
一郎は、眠っているサキを抱きかかえたまま、それを見守っていた。
また、ミランダとベルズについては、スクルドによる治療術による回復が開始されていた。
やがて、ラポルタが裸にされていくにつれ、だんだんと、姿が人間族らしいものから、四肢が毛深い魔族的な外観に変化していっていた。
妖力が完全に抜かれたことで、外観を変えていた力が消滅して、本来の姿に戻っていっているのだと思う。
整った髪だったが、それも肩の下まで伸びてぼうぼうになり、さらに頭には二本の角が現れてきた。
「ねえ、ねえ、こいつ見てよ──。これって──」
ラポルタからすべての衣類と魔道具が外され、最後に残っていた下着が腰から切り剥がされたとき、一郎の上を飛んでいたクグルスが突然に爆笑した。