※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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 第4話   王宮の一番長い日
836 敵か、味方か


「誰だ、お前たちは──」

 

 隊長らしき男が大きな声をあげた。

 きらびやかな具足をつけている兵は全部で三十人ほどだ。三十人はすでに部屋の中に雪崩れ込んでおり、二列ほどの横隊になり、一郎たちを半円に取り囲む隊形になっている。

 声をあげた男は、その三十人に隠れるように後ろにいる。

 

 素早く、魔眼で全員のステータスを覗く。

 大した者はいない。

 

 これくらいの三十人であれば、エリカ、イット、コゼの三人のうちの誰かひとりだけでも対応できる。

 魔道遣いもいない。

 

「あれっ、まさか、王妃殿下──?」

 

 そして、やはり、声をあげたのは隊長だった。

 彼らは特別近衛兵とあり、どうやら、近衛兵のうち、特に王族の護衛にあたる者たちの一隊みたいだ。

 また、その特別近衛兵の隊長については、“宰相エルビンの家人”で“ルセ”とある。

 だが、確か、この王国の宰相はフォックスという上級貴族だったはずだ。

 交替したのか?

 まあ、どうでもいいが。

 

「その王妃アネルザだよ。お前たち、誰に向かって剣を向けているんだい──。剣を収めて、敬礼しないか──」

 

 アネルザが吠えるように言った。

 大した迫力だが、その下半身は一郎に完全に支配され、焦らし責めに苛まれた股間を貞操帯に封印されて、発散することのできない淫情の疼きに苦悶しているのだと思うとちょっと愉快だ。

 淫魔師としての血が、いままさにアネルザに悪戯してやれば、かなり面白いことになるのだがなあと騒ぐのだが、なんとか自重する。

 

「王妃殿下、監獄塔を脱走したあなたには捕縛命令が出ています。どうしてこんなところにいるのかわかりませんが、大人しく投降してください。あなたを捕らえます」

 

 ルセという名の隊長が冷たい視線を向けて言った。

 しかし、ほかの兵たちはざわめいている。

 

「ふん、ここは男子禁制の後宮だよ。王妃が後宮にいるのは当たり前だろう。お前たちこそ、どうしてここにいる。男が無断で立ち入れば、それだけで死罪ということが定められているのを知らないのかい」

 

 アネルザが怒鳴った。

 

「陛下をお護りするためです。不審な爆発音があり、後宮の壁が内側から破壊されておりました。陛下の許可はありませんが、臨時の措置として立ち入りをしました。我々は特別近衛兵であり、非常の場合の立ち入りを許可されています」

 

「だったら、不審なものなんてないよ。王妃アネルザの命令だ。すぐに退去しな」

 

「捕縛命令の出ている王妃殿下には命令権はありません。大人しくしてください」

 

 隊長が合図をした。

 剣を構えた近衛兵が突っ込んでくる気配を示した。

 一郎は前に出た。

 

「ロウ様」

 

「ご主人様──」

 

 エリカとコゼが阻むような仕草をしたが、それを制して、彼女たちの前に出る。

 一郎が一番前で、その後ろにエリカとコゼとイット、彼女たちの後ろにアネルザとガドニエルがいるかたちに変わる。

 

「まあ、話を先に聞いた方がいいぞ。ここにいるのは、全員が一騎当千の実力を持った女たちだ。お前ら全員を殺すのに数瞬もかからない。これだけの人数で対処できると思わないことだぞ、ルセ隊長」

 

 一郎は言った。

 名前を呼ばれたことで、隊長のルセがちょっとたじろぐ様子を示す。

 

「なぜ、俺の名を……。いや、どこかで……」

 

 一郎はにやりと微笑んだ。

 

「最初に言っておく。俺はお前たちを含めて、全王軍の指揮権を渡された独裁官のロウ=ボルグ・サタルスだ。独裁官として命令する。これより、お前たちは独裁官直属の近衛隊だ。直ちに俺の指揮下に入れ」

 

 声をあげる。

 

「独裁官? い、いや、それよりも、ロウ=ボルグだと? 大罪人ではないか。お前も捕縛する。いや、そこにいる全員をだ──」

 

 隊長のルセは怒鳴りまくる。

 だが、気がついたが、一郎がロウ=ボルグの名を出したとき、明らかに兵の動揺が大きくなったように思った。

 “英雄公”──。“天道様”──。“天道公”──。というささやき声も耳に入ってくる。

 しかし、英雄公という言葉はともかく、“天道様”というのはなんだ?

 まあいいけど……。

 

「だから、無理だと言っているだろう。俺の後ろにいる女たちを本当に捕縛したければ、王軍の一個師団でも連れてこい。それでも無理だろうがな」

 

「問答無用だ。王妃殿下を含めて、抵抗するなら殺しても構わん。すでに処刑命令が出ているのだ。お前たち、行け──」

 

 ルセが叫ぶ。

 すぐに、前列の兵が突っ込んでくる。

 

「ロウ様、後ろに──」

 

 エリカが一郎を強引に背中に守ろうとした。

 

「いや、いい。ガド──。結界だ」

 

 だが、一郎はエリカを制して、ガドに向けて手をあげた。

 

「はい」

 

 瞬時に防護結界が展開して、前に出ようとした兵たちが静止したようになった。

 防護結界は、外側から通り抜けようとする者や攻撃具の動きを阻み、速度を緩慢にする。魔道が強ければ強いほど効果が大きくなるので、ガドニエルほどの魔道になると、矢や銃弾でものろのろとした動きになる。

 人間など静止しているようなものだ。

 実際に、一郎には突撃してくる兵は動いていないようにしか見えない。

 

「ぼ、防護結界──? なぜ、王宮内で魔道を? どうやって?」

 

 ルセがびっくりしている。おそらく、あいつの常識では、王宮内では定められている者以外は魔道が遣えないようになっているはずなのだろう。しかし、一郎はただの一度も、阻まれたのに接したことはない。スクルドをはじめとして、一郎の女たちは平気で王宮で魔道を駆使する。

 

「それだけの実力があるからだ。攻撃をやめさせよ──。無駄だ。それとも、全員が死にたいか──。最後通告だ。ここで全員が死ぬか、それとも、栄誉ある独裁官直属隊となるかだ。もう一度言う──。これは独裁官命令だ」

 

 一郎は叫んだ。

 

「隊長、一度、攻撃中止を……。いや、攻撃中止──。剣を引け──。後退しろ。全員だ──」

 

 そのとき、ルセの近くにいた近衛兵が突然に声をあげた。

 一郎は、すぐに、その男のステータスを読んだ。

 

 

 

“フランツ=バウア

 バウア家四男 特別近衛兵第三隊・副隊長”

 

 

 

 副隊長か。

 突撃をしようとしていた兵がすぐに後退する。

 結界に対して前に出ようとするときには動きが遅くなり、逆に向かうときには制御はない。それが防護結界の特徴だ。

 退くときには、簡単に戻っていく。

 

「バウア、なにを勝手に命令を与えておる──。お前はすでに隊長ではないのだぞ──」

 

 ルセが顔を真っ赤にしている。

 

「落ち着いてください、隊長。あのロウ殿の申すとおりです。無理です。全滅します」

 

「黙れ、黙れ、黙れ──。俺は隊長だ──。俺の指揮に従え──」

 

「いまの命令は取り消す──。隊長、後で処断しても構いません。だが、攻撃をしても、全員が死ぬだけです。それよりも、話を聞きましょう。彼らがどうしてここにいるのか。俺はそれが知りたい」

 

「黙れ、バウア──。後などない。いま処断してやる」

 

 ルセが剣を抜いた。

 だが、バウアは動かない。

 しかし、驚いたことに、バウアの周りの兵がバウアを守るかのように身体を入れてきた、

 ルセがたじろぐ感じになる。

 

「なにあれ、いきなり、仲間割れを始めたわ」

 

 コゼがぼそりと言った。

 

「そうだな」

 

 一郎は視線を前に向けたままで応じた。

 いずれにしても、この一隊は、隊長のルセよりも、副隊長のバウアという男の方に兵は従う感じだ。

 そういえば、さっき、隊長のルセがもう隊長でないと口にしていたので、もしかしたら、本来の隊長はバウアの方なのかもしれない。

 そんな感じだ。

 

「いい加減にしないかい──」

 

 アネルザが一喝した。

 近衛兵たちの視線がこっちに集まり直す。

 一郎は口を開いた。

 

「さっきも言ったが、俺はハロンドール新女王のイザベラ陛下より、この王国騒乱の事態に対処するため、独裁官の大権を与えられている。お前たちの指揮権は俺にあるのだ。とにかく、話を聞け──」

 

「新女王イザベラ──? ばかな。王太女殿下……、いや、謀反人イザベラにも、すでに処刑命令が出ている。討伐の対象だ」

 

 ルセだ。

 

「イザベラ陛下は、軍を率いて王都の外郭から前進中だ。知っていると思うがね。各領主貴族は続々と陛下に忠誠を誓って、参戦を申し出ている。女王陛下が王都に到着されるのも、ほんの数日のことだ。新陛下がここに到着されれば、今度はお前たちこそ謀反人だ」

 

 一郎は応じた。

 実際、イザベラたちが王都の西側の外郭の砦に到達したのは認識している。行動は昨晩から始めたので、すでに今朝には王都防衛軍が入っている外郭の砦に向かって、王都進行軍の展開くらいはしたと思う。

 もっとも、まだ、あの南方からの王太女勢力が全員移動し終わるまでには至らず、ましてや、檄を飛ばして王太女に加わるように通信を送った各領主たちの動向までは知らない。

 まあ、続々と集まっているというのははったりだ。

 

「ハロンドール王はルードルフ陛下だ。謀反人イザベラは、すでに王族からも籍を抜かれている。ましてや、新女王などでは……」

 

「あと数日のことだ。お前たちは本当に、ルードルフ王に大義があると思うのか? あの兇王に忠誠を尽くして、罪人として処刑されたいのか。しかし、いま、俺に従えば、最初に新女王に忠誠を誓った兵たちとして、大いなる栄誉と、さらに褒賞が与えられる。この独裁官ロウが約束する」

 

「黙れ、黙れ、黙れ──。話を聞く必要などない。目の前にいるのはすでに処刑命令が出ている大罪人だ──。すぐに、攻撃せよ──」

 

「無駄だと言っているだろう、ルセ。そもそも、ここにいるエルフ女王陛下の結界ひとつ越えられないお前たちが、どうやって俺たちを捕縛するんだ。このガドニエル陛下がその気になれば、お前ら全員が消し炭に変わるのに一瞬だぞ」

 

「えっ、ガドニエル女王陛下?──」

 

 ルセが素っ頓狂な声を出した。

 ほかの者も驚いている。

 ざわめきが拡大する。

 

 だが、一郎はちょっとだけ違和感があった。

 アネルザの名を出し、さらにガドニエルの名を出せば、兵たちが驚いたり、たじろいだりするのは予想していた。

 いまも、ガドニエル女王の名にびっくりしている。

 しかし、なぜか、それよりも、兵たちの関心は一郎に向いている気がするのだ。

 相変わらず、“天道様”という声も聞こえる。

 天道様って?

 

「なんか、ご主人様を見てませんか? 王妃殿下やガドよりも、ご主人様の方が注目されてません?」

 

 コゼも気がついたみたいだ。

 

「まあ、聞く耳を持ってくれるのはありがたいけどね」

 

 一郎は肩を竦めた。

 そして、近衛兵たちに向かって、再び口を開く。

 

「当代随一の魔道遣いのガドニエル女王だ。お前ら全員を骨まで残らないように焼け焦がすくらい、息をするよりも簡単になさるぞ。なあ、ガド?」

 

 ガドニエルに声をかける。

 

「当たり前です、ご主人様──」

 

 すると、ガドニエルが大きく息を吸う気配を示した。

 

「待て、まだ早い」

 

 慌てて一郎はガドニエルをとめた。

 

「問答無用だと言っているだろう──。我々、近衛は王命に従うのみだ」

 

 ルセだ。

 

「ルードルフはもうすぐ王でなくなる。あのスクルズ様を残酷に殺して死体を辱め、多くの婦女子を欲望のまま犯し殺し、そして、重税で王都の民衆に塗炭の苦しみを与えている王を名乗る男に殉じたいのか?」

 

 ルードルフが本当にどれだけのことをしたのかは知らない。

 あのラポルタはおそらくルードルフにやつしていたのだろうし、サキだって、大抵のことはしたと思う。

 そもそも、スクルズなど、スクルドとしてちゃんと生きていて、相変わらず、毎日毎日一郎に抱かれて悦んでいる。

 すでに、神官のことなど、すっかりと忘れている気配すらある。

 だが、この際、その罪も背負ってもらおう。

 

「黙れ、黙れと言っているだろう──」

 

 ルセががなりたてる。

 

「いま、この俺に従えば、未来が待っているんだぞ。よく考えろ──。お前たちは、俺たちの敵になって、ここで全員が死ぬことを選ぶのか? それとも輝かしい未来を掴むために、味方になるのか?」

 

 一郎は言った。






 *

【フランツ=バウア】

 ……第一帝時代における一級歴史史料として知られる『コゼ日記』によれば、、フランツ=バウアは、最初の出会いにおいて、ロウ皇帝を殺す「敵」として現れたとある。
 しかし、その後、彼は生涯を通じて、偉大な皇帝であるロウの忠実な「味方」として、皇帝と絡み続けることになる……。

 ボルティモア著『万世大辞典』より(ここに再録した引用文はすべてスクルズ記念国際図書館から許可を受けて初版本から抜粋して採録したものである。)
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