【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
愉快なシーンではありません。エグいシーンから入ります。また、エロいシーンが登場しなくてすみません。私も心苦しいです……。
*
奥側の部屋のひとつにあったのは、無造作に放り投げられて、重ねられている人間の遺体だった。
二十人ほどだ。
ほとんどが若い少女の死体だったが、少年の死体も二人混ざっている。全員が全裸だ。
ただどれも惨たらしい鞭痕や火傷があり、手足を切断されているものもある。特に遺体の損壊は性器の周辺がひどく、傷痕もそこに集中している。さらに股間や肛門が裂けていたり、血のりだったようなもので黒く汚れていたりしたりもだ。
淫具のようなものを股間と尻に突っ込んだままのものもふたりほどあった。手枷や縄を手足につけられたままのものもある。
とにかく、惨たらしい。
また、死んでからしばらく経っているのか、腹が膨らんでいるものも幾らかある。
「これは……」
一郎は絶句してしまった
「うわあ……」
「ひええ……」
エリカとコゼも小さな呻き声のようなものをあげた。
「うう……」
イットも小さな声をあげる。
「……遺体安置場ですか……。壁に簡単な腐敗と防虫などの魔道陣が刻まれていますね……。防臭の魔道陣も……」
ガドニエルが静かに言った。
一郎は顔をあげた。
なるほど、四周の壁一面に幾気学的な紋様がある。
これがあるから、これでも比較的綺麗な身体で残っているのだろう。そうでなければ、悪臭と湧いた虫でもっと凄まじい有様だったかもしれない。
だから、遺体安置所か……。
「なんだい、これ……。知らない。知らないよ、後宮にこんな場所があるなんて……」
アネルザが呟いた。
見ると顔が蒼い。
だが、その目が大きく見開いた。
「この娘……、そして、こっちの娘も知っている。王家に仕えていた見習い侍女だ。貴族の娘だ……。男については多分、ルードルフが使っていた男娼奴隷だと思う。まあ、わたしもこっちにいたルードルフの性奴のことについては、知らないんだけどね」
そして、言った。
「貴族の娘と男娼?」
一郎はもう一度遺体に目をやった。
そう言われてみると、少年ふたりの首には、いわゆる「隷属の首輪」が嵌まっていたらしき傷が首に残っている。
それに対して、少女たちの遺体には、首輪痕や紋様のようなものはない。そして、ほとんどの少女の髪は長い。
この社会では長い髪は上級貴族の象徴のようなものだと耳にしたことがある。長い髪を維持するのは、それだけ金もかかって、一般庶民には難しいからだ。
つまりは、男娼はともかく、少女たちについては貴族令嬢を陵辱して殺し、それでここに集めて放り捨てているということなのか?
「もしかして、あの王が……?」
エリカだ。
一郎たちは、ずっとナタル森林にいたから、少し前までルードルフ王の蛮行については知らなかったが、戻ってきてみれば、呆れるほどにルードルフ王の悪評はすごいものだ。
そのひとつが美しい少女を王命で集めては、犯し殺しているという噂だった。
淫行に見境のない男だったが、残酷な王という印象はなかったので、一郎としては半信半疑だったのだが……。
「そうだとすれば……。いや、そうなんだろうね。サキがこんなことをするとは思えないし」
アネルザが嘆息した。
一郎はかなり衝撃を受けている様子のアネルザの腰に手をやって、ぐっと自分の身体に寄せてやる。
アネルザがちょっとだけ安心したようになった。
「ルードルフ王がやったものなのか、サキがやらせたものなのか……。それとも、あのラポルタがしたものなのかはわからない。訊いてみればいいかもしれないけどね。ただ、妖魔のサキは価値観が違うから、目的のために人を殺すことに躊躇するとは思えないが、こんな風に面白おかしく殺して遊ぶ性質ではない。これは間違いなく、陵辱して殺した痕跡だ」
一郎は言った。
「ご主人様、せめて、ご遺体をきれいにしてさしあげてもいいですか。魔道で皆さんを元の状態に戻せます」
するとガドニエルが言った。
「えっ、そんなことができるの、ガド?」
コゼだ。
「できますわ──。でも、きれいにするだけです。生き返らすことまではできませんわ」
「十分です。よろしくお願いします、陛下」
一郎に腰を抱かれていたアネルザがガドニエルに向かって深々と頭をさげた。
「わかりました」
ガドニエルがにっこりと微笑む。
こうしていると清楚で優しげであり、そして、神秘的さえある美しさを持った完全なる女性だ。
まさに、この世界でもっとも権威のある施政者と言われているエルフ女王国の女王だと思う。
これが、ひとたび一郎と絡めば、実に残念な女になるのが不思議だ。
まあ、それが可愛いのではあるが……。
「エリカたちも手伝ってやってくれ」
一郎は声をかけた。
エリカとコゼとイットが遺体に向かった。ガドニエルの魔道できれいにしたものを整頓として並べ直し、拘束具や淫具などを身体から外すのである。
後で人をやって、彼女たちを収容することになると思うけど、とてもじゃないが、このままでは人を呼べない。
「アネルザ」
一郎は一緒に作業をしようとしていたアネルザに声をかけた。
「なんだい?」
アネルザがやってくる。
「言っておきたいことがある……。ルードルフ王は救えない。これが王の蛮行の結果でないとしても、もう王の悪評は世間に浸透しすぎている。王は死ななくてはならない。民衆の前で」
一郎ははっきりと言った。
アネルザは静かに頷いた。
「わかっている。これはわたしたちのやったことの結果でもある……。あのとき四人で集まって、ルードルフを糾弾して退位させようと、わたしたちは企てた。そのときの話の中で、ルードルフの悪評をわざと作って、あいつの評判を落とそうというものもあった。その結果がこの可哀想な遺体なのだろうねえ」
アネルザはちょっと意気消沈している感じだ。
「魔族に乗っ取られていた……。操られていた……。あるいは、王に化けていた魔族の仕業だった……。そういう物言いで、せめて命だけは助ける方法もあるかもしれないとも考えてみた。実際、そうなんだろうからね。しかし、どう考えても、ルードルフ王は死ななければならない。生かしてしまえば、民衆や貴族たちから、イザベラは女王として認められることはないだろう。兇王ルードルフの娘……。民衆はそういう濁った眼で新女王を見る。ましてや、その兇王を生かしてしまっては……」
「わかっている。王家の評判は最悪だ。さっきもわかった。あの近衛兵の者たちは、わたしの言葉などに耳さえも貸さなかった。意味のないものだった。兵の心を動かしたのは、お前の存在だった。お前が言ったから、あいつらは心を変えた。多分、あいつらからすれば、王妃も、兇王と一緒の存在なのだろうねえ……」
アネルザがまたもや嘆息する。
「イザベラの治政は、兇王の娘だという汚名から始まらなければならない。だけど、南方で反乱を見事に終結させ、そして、軍を率いて兇王に苦しめられている王都を解放する救世者として入ることで、いくらかは民衆の目も変わってくるとは思う。だけど、その後でルードルフ王を殺さなかったとしたら、作ろうとしているイザベラの王としての評判は地に落ちる。俺の子を妊娠してくれているあいつに、父殺しの苦悩を強いるのは心苦しいんだけどなあ」
一郎は言った。
だが、アネルザはからからと笑った。
「それひとつについては気に病むことはないさ。イザベラに限らず、アンもエルザも、あいつを父親などとは思ってないよ。お前が処刑させて殺させたからと言って、お前を恨みに思うことなどあり得ない。妻のわたし自身がとうの昔にあいつを見捨ててるんだからねえ。それについてだけは、一切、気に病むことはないさ。そもそも、これを強いたのはわたしなんだからね」
「いや、これは俺がすることだ。お前でもないし、イザベラでもない。俺は王を殺させる。ただ、イザベラがしたというかたちにしなければ、それも意味はない。それが心苦しいだけさ」
「アンやエルザとは違う。イザベラは女王となる存在として育ってきた。問題はないよ。治政者としては未熟かもしれないけど、覚悟と矜恃だけは十分に持ってるんだ」
「わかってる……」
一郎は頷いた。
「それよりもありがとう、ロウ? 表に出ることを決心してくれて……。これもイザベラのためなんだろう?」
「なにがだ?」
「イザベラの女王としての評判だ。ここまでになってしまうと、もうルードルフはだめすぎる。イザベラはそのルードルフの実の娘だ。お前の言うとおりに、ルードルフの血を引いたもともとの後継者だったということだけで、新女王を糾弾する者もいるかもしれない。もうルードルフの王妃だったわたしでは力がないし……。だから、お前が出てくれることにしたんだろう? 本当はそんなこと望まないのはわかっているんだけど……」
「おっ、わかってくれているのか? 本当は俺はこうやって王位簒奪ごっこなんてしたくないんだ。屋敷に戻って、みんなといちゃいちゃしたい。お前たちを集めて、ただただ悪戯して愉しむだけで生きていたい。食い扶持くらい、十分に冒険者で稼げるしな」
「わかっているよ。いまやお前が英雄公だ。お前が夫であるというだけで、イザベラは治政がしやすくなる。感謝するよ」
「わかっているならいいさ。ルードルフ王の処刑後は、アネルザは表側からは引退するしかない。俺の屋敷に来い。王家王族の世界に俺を引きずり込んだ償いを身体でさせてやる。しっかりとな」
「お、お手柔らかに頼むよ」
ちょっとアネルザが怯えるような仕草をした。
一郎は笑った。
そのときだった。
エリカやガドニエルたちが集まってきた。
「終わりました」
エリカだ。
むごい状況だった遺体の山が美しい少年少女の姿になっている。傷ひとつないきれいな身体だ。
まるで生きているようでさえある。
一郎は人数分の毛布を亜空間から出した。
ひとりひとりにかけていく。
彼女たちは、あとで改めて収容することになるのだろう。
「さすがだな、ガド。ありがとう」
「あ、ありがとうございます──。わたしお役に立てましたか──」
一郎に褒められて、心の底から嬉しそうに飛び跳ねて、ガドニエルが一郎にくっついてきた。
やっぱり残念女王様か……。
一郎はガドニエルを片手で抱きつつ、頭を撫でてやりながら苦笑してしまった。
「本当にありがとうございます、陛下……」
アネルザが改めて頭をさげる。
「そんなにかしこまらなくていいのよ、王妃様。あたしたちも、最初は丁寧に接してたけど、すぐにそんな感じでなくなるし」
コゼだ。
「そうねえ……。いつの間にそうなったんだろう」
エリカも肩を竦めた。
「じゃあ、行こうか……。それじゃあ、またイットは先頭を頼む。今度はもう一段地下だ」
再び隊形を作り直して、廊下を進み始める。
奥の階段から三層目に向かう。
三層目の地下は、やはりひとつしかない廊下だった。一個の燭台で廊下が薄暗く照らされている。
そして、今度は牢のような部屋は両側にはない。ただ、突き当たりに鉄扉があった。
「いたな……」
一郎は魔眼でルードルフ王の存在を確認した。
衰弱しているようだが、死んでもいないし、病気のようなものの兆候はない。まあ、ステータスだけのことだが。
「……おっ、おおっ、おおおっ」
だが、しばらく進んで突き当たりの鉄扉が接近してくると、ルードルフ王の呻き声のようなものが耳に入ってきた。
また、一郎は魔眼でステータスを読んでいて。びっくりしてしまった。
「ちょっと待てよ──。あいつ──」
そして、思わず怒鳴り声をあげて、鉄扉に向かって駆け寄った。
*
今日も仕事でーす。