【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】 作:ドン・ドナシアン
「まだ、口を開くな。わたしが喋り終わるまで口をつぐんでいるのだ」
ベルズという巫女がいきなり噛みつくように言ったので、一郎は開きかけていた口を閉じた。
第二神殿にやってきた一郎に準備された面会のための一室だ。
一郎はひとりでこの部屋で待つように指示されていた。
一緒にやってきたエリカたち三人が同席することは許されなかった。
だから、三人はいま隣室で待機している。
そして、大して待たされることなく、ベルズはやってきた。
ただ、ベルズはひとりではなかった。
その背後には剣で武装した巫女が五人ほど並んでいる。
いずれも手練れだ。
一郎には彼女たちのステータスを急いで走り見てそう思った。
一方でベルズは武器らしいものは持っていない。
まあ、王都の筆頭巫女ほどの女性だ。
武器などなくても、魔道の力は強いに違いない。
そのベルズは、ベルズは髪の色と同じ真っ赤なショールを頭にかけていた。噂以上の美人だと一郎は思った。
「冒険者ふぜいと長話をするつもりはない。見ての通り、わたしにはわたしを守ってくれる者がついている。彼女たちは役に立つし、信用もできる。お前たちとは違う。だから、冒険者ごときにわたしを守ってもらう必要はない。お前たちに会うのはミランダ殿が頼むからだ。会わずして断れば、ミランダ殿の顔も立たんと思ってな。とにかく、答えは“否”だ。お前たちの申し出は必要ない」
これは大変な女だと一郎は思った。
気の強さが態度にも口調にも表れている。
王都でも有名な三人美人巫女のうち、ベルズは一番の気の強さでも有名だったが、実際には噂以上のようだ。
とりあえず、一郎は魔眼の力でステータスを覗いた。
“ベルズ
人間族、女
第2神殿筆頭巫女
年齢26歳
ジョブ
魔道遣い(レベル25)
生命力:50
攻撃力:10
魔道力:200(凍結)
経験人数:女3
淫乱レベル:S
快感値:300
状態
***”
やはりかなりレベルの高い魔道遣いでもあるというのはわかる。
ただ、ベルズのステータスには、なにかの異常状態であるというような兆候があった。魔道も凍結状態だ。
*ただ、いつもなら、“状態”という項目で垣間見ることのできるそれが、余程に強いなにかの力で隠されていて、一郎でも読むことができない。
いまの段階では、一郎にも、それがなにであるのかわからない。
魔眼の力だけでなく、淫魔力も遣えば、その正体が見抜けるかもしれないが……。
「しかし、あなたとウルズ殿を守るというのが俺の受けたクエストでありましてね。俺としても、あなた方を危険からお守りしなければ、クエスト達成ができないんですよ。冒険者にとって、与えられたクエスト実行の厳しさはお聞き及びとも思いますが……」
「黙れ──。それはそっちの勝手な都合であろう。だいたい、誰がわたしを守れなどという依頼を出したのだ──? いや、答えんでもいい。ともかく、頼みもせんのに、守ってもらう必要はない。わたしの護衛については間に合っているのだ」
「別に護衛をするつもりはないですよ。あなたがそれは必要ないとおっしゃるのであればね。ただ、あなたに振りかかっている危険は勝手に排除させてもらいます。それが俺たちのクエストでありまして……。ですが、せめて、どんな危険が迫っているのかくらいは教えて頂けませんか?」
「危険などない」
ベルズははっきりと言い放った。
しかし、一郎はわざとらしく笑い声をあげた。
「それは嘘でしょう。あなたがなにかを怯えているというのは丸わかりです。冒険者である俺と面会をすることを、あなたがかなり渋っていたというのはミランダから聞いています。結局のところ、応じてはくれましたが、いまのように五人の護衛付きであり、しかも、全員に一度に会うことは拒否して、俺の連れの三人は別室で待機するように言われました。あなたが、なにかを怯えているというのはよくわかるのですよ。もしかして、それは可哀想なスクルズ様にも関係があるのではないですかね」
「スクルズ? なぜ、スクルズの話がここに出てくるのだ?」
ベルズが眉間に皺を寄せた。
いまだに世間に流れてはいないスクルズの醜聞だが、スクルズの百合の関係があるというほどの友人であり、同じように神官に仕える者であるベルズが、スクルズが大勢の男と野外で乱交したという事件は耳にしているに決まっている。
予想のとおり、スクルズの名を出すと、ベルズの顔に大きな動揺が走ったのがわかった。
「クエストの依頼主はスクルズ様です。自分に起こった不幸を友人のおふたりから救いたいという心根のようですね。それで監視されていながらも、ひそかにおふたりを守ることをミランダに依頼しました……。それに、このままでは、スクルズ殿は王軍に身柄を移されて、拷問の挙句に処刑されるでしょう。どうか、ご協力をお願いします」
一郎は頭を下げた。
「しょ、処刑──? な、なんでそんなことになるのだ? スクルズは気の弱い女だから、誰かに流されて破廉恥な行いをしてしまったというのはあるのだろうが、それで処刑というのは……。そもそも、なぜ、王軍が出てくるのだ? スクルズはなんの罪を犯したのだ?」
ベルズが声をあげた。
どうやら、ベルズはスクルズは夜の街で複数の男と性行為をしたということは聞いていたようだが、魔族の力である瘴気のこもった淫具を身に着けていたというのは知らないようだ。
「スクルズ殿は罪は犯していません。ただ、些か、不幸な状況にあるのは事実であり、放っておけば拷問死するか、拷問されたうえに処刑されるかのどちらかです。でも、スクルズ殿は誰かに脅迫されているのです」
「脅迫――?」
「おそらく、俺はベルズ殿やウルズ殿に関連することではないかと思うのです。つまりは、スクルズ殿は、ご自分のことではなく、あなたやウルズ殿を守るために犠牲になっているのですよ。あなた方を人質にされて、そのために破廉恥な行為を受け入れるしかなかったということです。それが今回の事件の真相です」
一郎ははっきりと言った。
もちろん、それははったりだ。
本当はこの第二神殿にやって来る前に、第三神殿で監禁状態になっているスクルズと面談をしたかった。
話ができないまでも、魔眼の力が及ぶほどに近づくことができれば、スクルズが、なぜ夜の道端で男と乱交をするということをやったのかという手掛かりがつかめると考えたのだ。
しかし、それは副ギルド長のミランダの力を使っても無理だった。
だから、スクルズが誰かの脅迫を受けて、破廉恥な行為を強要されたというのは、まったくの一郎の当て推量だ。
ただ、当たらずとも遠からずだと思う。
ミランダが今回のクエストの依頼を携えて、一郎たちが生活する屋敷にやってきたとき、ちょうどみんなで「プレイ」をしている最中だったので、ついついミランダには、作ったばかりの固形浣腸剤を試すことになったが、それが終わったあと、さらに詳しいことをミランダに話をさせた。
いや、ミランダがたまたまブレイの最中に来たのが悪かったのだ。
まあ、あのときは、ちょっとばかり、一郎も高揚してたし、そんなときにわざわざ、合わせたようにやってくるのは、ミランダにも責任があるだろう。
あとで、我に返ったミランダに叱られたのは、決して一郎だけのせいじゃない。
多分……。
とにかく、そのときに知ることができたほかの事実や、半日のあいだに集めることができた周辺情報を総合的に整理し、一郎がいまベルズにぶつけたことは間違いないと一郎は確信している。
それで、あとは三人の当事者たちと直接に会って話をすることが問題解決の早道だと判断した。その結果、ミランダのコネを使いまくり、とりあえず、面会の許可をえることができたのが、ベルズなのだ。
「ス、スクルズは、わたしを守るために、あんなことをやったというのか? そ、それにスクルズが死刑になるような罪とはなんなんだ?」
ベルズが目を丸くした。
「それに心当たりがないとは言わせませんよ、ベルズ殿。あなたがなにかの危険に陥っていることは確かでしょう? だからこそ、こんなに物々しい護衛をつけているのでしょう?」
一郎は言った。
その指摘もただの勘だったのだが、やはりそれも正しかったようだ。
ベルズは目に見えて動揺をした。
「……いずれにしても、これ以上の話は外聞をはばかります。どうか、お人払いを……。それと、スクルズ殿の命がかかっていることを忘れないでください」
一郎は鋭い口調で言った。
スクルズが誰かに脅迫されて、あのような破廉恥な行為に及んだということは、一郎の推測にすぎないのだが、そうであると仮定をすれば、スクルズを脅した何者かは、なんらかのかたちで通常は神殿に閉じこもっているだけのスクルズに接触できる存在だと思う。
事実、半日かけて調べた限りの内容であるが、ほとんど全裸姿で夜の色町にやってくるということをしたスクルズは、それ以前の十日は、病という理由でずっと臥せっていたらしい。
少なくとも、その間、スクルズは誰にも面会をしていない。
つまりは、スクルズが誰かに脅迫されて、夜の街に半裸で連れ出されたとしても、それを実行したのは、神殿内部の者による行為としか考えられないのだ。無論、魔道力の強い者が外から魔道で跳躍をして侵入したということは考えられるが、神殿に限らず、王都の大抵の場所には、移動術などで外部から侵入できないように魔道避けが施されているのが普通だ。
実際、この第二神殿も外部から魔道によって入り込むのは不可能らしい。それだけでなく、クグルスのような魔族が入るのもできないようになっているようだ。クグルスは魔妖精であり、ほかの魔族とは異なり力の源は「瘴気」ではなく、「淫気」だ。それでも、魔族が封印された異界に身を置いているために、その身体には幾らかの瘴気を帯びているらしい。従って、神殿や王宮などの魔族警告の結界が張り巡らされているところで出現させれば、その瞬間にあちこちに警告が飛び交う仕掛けになっているようだ。
一郎もエリカからは、くれぐれも不用意にクグルスを出現させないようにと再三にわたって注意されている。
とにかく、スクルズを脅迫した何者かは、同じことをベルズにもできるということだ。
だから、ほかの者がいる状態では、あまり深い話をすることができない。
「ひ、人払い……? な、なんで……」
ベルズが険しい表情をした。
だが、その顔には困惑のようなものも浮かんでいる。
ベルズはなんらか心当たりがある。
一郎は確信した。
とにかく、眼の前のベルズについては、一郎の魔眼でも垣間見れないなにかの異常がステータスにある。それが読めれば、スクルズにしろ、ベルズにしろ、どういう手段で脅迫されているのかわかる気が手っ取り早く判明する気がする。
そのとき、置物のように静止していた五人の護衛のひとりが、ほんの少し身じろぎしたと思った。それはほとんどあるかないかの動きだったが、一郎は確かに自分の存在を主張するかのようにその護衛の女が動くのを見た。
「ふ、不要だ──。とにかく、話は終わりだ。もう、帰れ──。ミランダへの義理は果たしたはずだ」
次の瞬間、ベルズの表情が急に頑なになった。
一郎は、さっき反応のあった護衛のステータスに改めて注目した。
“ノルズ
人間族、女
年齢:25歳
ジョブ
戦士(レベル20)
魔道遣い(レベル15)
魔獣遣い(レベル40)
アサシン(レベル5)
生命力:50
攻撃力:450(暗器)
魔道力:200
経験人数:女3
淫乱レベル:B
快感値:300(通常)”
魔獣遣い?
さっきは気がつかなかったが、接したことのないジョブが異常に高い。
このノルズという女は怪しい。
そうであれば、すでにベルズは脅されている──?
だったら、いくら一郎が警告を発しても、一郎になにかを訴えることはできないし、一郎になにかを告げることもないだろう。
こうなったら、強硬手段だと思った。
一郎の魔眼は、一郎ももうひとつの能力である淫魔師としての力により強化されている──。
魔眼の力に淫魔師の力を足せば、注意深く封印されている“なにか”についても、一郎は読み取れるに違いないと思う。
ものは試しだ。
やってみて損はない……。
それに、一郎の勘はいま考えている方法により、一郎の淫魔力がベルズに繋がりを持つことになり、魔眼による透視が強化されることを告げている。
「……だったら、もう少しだけ知りたいことがあります」
一郎はさっと立ちあがった。
「な、なにを?」
ベルズが躊躇した表情を示したが、一郎は一瞬の隙も見せずにベルズの両肩を椅子に押さえつけていた。
そして、いきなりベルズの唇に一郎の唇を重ねると、強引に舌を入れ込んでベルズの唾液をすすった。
本当は愛液がいいのだが、汗や唾でも多少の代用はできる。
体液に直接に接すれば、ただ垣間見るだけのときとは比べものにならないくらいに、相手の能力などがはっきりとわかる。
ついでに、ベルズの口を通じて、一郎の唾液を送り込む。考えられるくらいに強烈な媚薬をベルズの口に抽入してやった。一郎に抱きすくめられているベルズが瞬時に力を失ったのを感じた。
なにかが迫った。
一郎は手を離してベルズから飛びのいた。
「無礼者め──」
大きな声がした。
さっきまで一郎がいた場所に斬撃が突き刺さった。
五人の護衛のうちのノルズという名の女護衛だ。ほかの者は呆気にとられていて、剣すら抜いていない。
ただ、すでに一郎はベルズたちのいる壁の反対側まで退がっている。
ノルズが剣を抜いたまま前に出てくる。ほかの女護衛が、やっと慌てたように剣を抜いた。
「動くなよ」
一郎は短銃を服の下から出して、真っ直ぐに銃口をノルズに向けた。すでに引き金を引けば弾が出るように準備が終わっている。この部屋に入る前に、腰の剣は取りあげられたが、別に身体検査までをされたわけじゃなかったので、短銃は隠し持ったままでいたのだ。
そのとき、外に通じる扉が勢いよく開いた。
「な、なに事ですか──? わっ、ロウ様?」
「ロウ──?」
飛び込んできたのは隣室に控えていたエリカとシャングリアだ。
「ご主人様」
続いて、コゼ──。
さらにほかの神官たちも雪崩れ込んできた。
「失礼しました。これで退散させていただきます。あなたを悩ませているものの正体はわかりました。必ず、危険を排除してみせます。俺を信用してください」
一郎は短銃を構えたまま、ベルズに言った。
エリカたちは当惑している。
それでも、一郎を守るように一郎の前に壁を作った。エリカとシャングリアは、武器を預けたままなので丸腰だ。ただ、コゼは一郎と同じように、暗器を身体に潜ませている。
一郎たちを剣を抜いたノルズという女を含む五人の女護衛が迫り、それを部屋の外からやってきた大勢の神官たちが取り囲んでいるというかたちになった。
「な、なんの騒ぎでもない。みんな、落ち着くがいい──。と、とにかく、全員、武器を収めよ──。この神殿で殺生騒ぎは許さん。ロウとやら、大人しくせよ」
必死の声がした。
ベルズだ。
一郎は微笑んだ。
ベルズの顔は赤い。
すでに一郎の唾液を飲んでしまい、それが身体に浸透してしまった証拠だ。
若い女である限り、一郎の淫魔師レベルの七十に達しない者は、すべて一郎の淫魔術から逃れることはできない。精液を股間に施せば、性奴隷して完全支配できるが、唾液や汗のような体液にだって、効果は低いがそれなりの支配効果はある。
一郎の唾液をすすってしまったベルズに、一郎に対して女としての心を焚きあがらせるくらいのことなら少しはできるのだ。
一郎は淫魔師の力を総動員して、ベルズの心が一郎に傾くように仕向けていた。
それでも怒りに震えていることには違いないが、ここで一郎を捕縛させたり、あるいは、殺してしまうことを躊躇うくらいには心を操作することはできるはずだ。
「大人しくしますよ。もうなにもしません。俺たちを退散させてください」
一郎は素早く言った。そして、短銃を懐にしまう。
「道を開けなさい──。さっさと出ていけ、ロウ──。二度とわたしにも、神殿にも近づいてはならん。いずれ、冒険者ギルドには話をつける」
ベルズが言った。
一郎はほっとした。
「寛大なご処置に感謝します。お邪魔しました」
殺到していた神殿の者たちを押し退けるように、急いで外に出る。
エリカたち三人が慌てて、それを追ってきた。
一郎は扉を出て行きながら、もう一度、ベルズのステータスを確かめた。唾液をすすったことで、さっきは見えなかったベルズの異常状態の内容を知ることができている。
“ベルズ
人間族、女
……
……
状態
魔瘴石(封印状態)の憑依”
魔瘴石の憑依──。
ベルズは体内に封印された魔瘴石を植え付けられている。
一郎にはそれがはっきりとわかった。
*
「じゃあ、三番勝負の最後の勝負だ。この勝負の勝者はご褒美に俺が犯してやるうえに、下の服を返してやる。負ければ、ミランダが戻るまでそのままですごせ」
一郎はただひとり椅子に座って、跪いて密着するように向かい合っているエリカとコゼに言った。
手には三人の女たちから取りあげた下着があり、また、エリカとシャングリアのスカート、そして、コゼのズボンは、それぞれに一郎の椅子の手摺りに引っ掛けてある。いずれも、この部屋にやってきてしばらくしてから脱ぐように命じたものだ。
エリカもコゼも、上半身はきちんとしているが、腰から下は、履物以外はなにも身に着けていないすっぽんぽんだ。
ふたりにやらせようとしているのは、向かい合ってお互いの股間を責め合い、どちらが先に相手をいかせることができるのかという勝負だ。
「ふふふ、負けないわよ、エリカ。ご主人様のお情けはあたしがもらうからね」
「こうなったら、もうどうでもいい……。とにかく、さっさと勝たせてもらって、服を返してもらうわ」
ふたりがかすかに上気した顔で言った。
ふたりとも、一度ずつシャングリアと勝負してかなり身体ができあがっている。ステータスを覗くことができる一郎にはそれがわかる。だが、ふたりを比べれば、余裕がないのはやっぱりエリカだろう。感じやすいエリカは、すでに快感値は四十台だ。それに比べれば、まだコゼは百以上の三桁を残している。
冒険者ギルドの個室の一室だ。
第二神殿のベルズの唇を奪うという騒動を起こして、いくらも時間が経たないうちに冒険者ギルドから派遣された者たちが、道を歩いていた一郎たちを取り囲むようにして、この冒険者ギルドに連れてきた。
その対応の素早さと情報の確かさは、さすがの冒険者ギルドと感嘆するしかなかった。
とにかく、一郎たちはそのまま拉致されて、冒険者ギルドの地下の一室に閉じ込められた。副ギルド長のミランダの指示だということだ。
ミランダが戻るまで、ここにいろという命令だった。
部屋には外から鍵を閉められた。
だが、当のミランダはなかなか現れなかった。
すでに、夜のとばりはおりて、外は完全な夜になっているはずだ。おそらく、もう四ノスは過ぎていると思う。
元の世界の時間感覚であれば、三時間半というところだ。
最初は大人しく待っていたのだが、ギルド職員たちが様子を覗くために部屋にやってくることがなさそうだと悟ると、一郎の悪戯心がむくりと頭をもたげてきた。
そこで、嫌がる三人の下半身を裸にして百合の勝負を命じたのだ。ふたりずつ足を開いて跪いて向かい合い、手で相手の股を責めるという単純なものであり、一位になれば一郎が犯すというご褒美があり、負ければ罰だと申し渡した。
意外にも三人は乗り気になり、こうして退屈凌ぎの百合勝負が始まった。
一郎たちが閉じ込められたのは、いつものロビーに面した部屋ではなく、人の気配の感じない地下だ。
それで三人とも、人が来そうにないということで、少し安心しているのかもしれない。
とにかく、一郎の申し渡したくだらない勝負を三人は受け入れた。
勝負の順番はくじで決め、最初はシャングリアとエリカになった。
一郎の予想では、身体が敏感なエリカの負けだった。なにしろ、エリカの股間にはいじればたちまちに大きな愉悦が迸るクリピアスまであるのだ。
だが、勝ったのは意外にもエリカだった。そういえば、エリカは一郎と出逢う前は、百合の性愛の性癖があり、女同士で愛し合うことには長けているのだ。エリカは的確にシャングリアの急所を探り当てて責め、あっという間にシャングリアは達してしまった。
二回戦はシャングリアが負け残ることになり、シャングリアとコゼの勝負になった。
この勝負は、一度達するとかなり不利になる。男の身体と異なり、女の身体は絶頂するほどに燃えあがると、簡単には身体の火照りは鎮まらない。エリカに昇天させられて、まだ昇天の余韻の残っていた股間をコゼに責められて、シャングリアは二度目の絶頂をした。
そして、いよいよ、勝者同士のエリカとコゼによる三回戦になったというところだ。
「始め──」
一郎は声をかけた。
エリカとコゼが相手の股間にさっと手を伸ばす。
「あっ、ううっ」
「はああっ、くううっ」
ふたりの口から甘い声がこぼれ出す。それぞれの股間でここまで聞こえるねちゃねちゃという水音も響きだした。
「ふうっ、ロ、ロウ……。こ、これ……た、ただの縄じゃないのだな……」
そのとき、一郎の椅子の下で下半身裸のまま、床に横座りしているシャングリアがつらそうな声を出した。シャングリアの股間には、最下位の罰として、一郎が施した股縄が喰い込んでいるのだが、早くもその効果が発揮し始めたようだ。
「当然だ。罰なんだからな。お前の股間に喰い込んでいる縄には、たっぷりと媚薬が沁み込ませてある。まあ、愉しんでくれ」
一郎は笑った。
シャングリアの股間に喰い込ませた股縄に塗ったのは、怖ろしく強力な催淫剤だ。痒みで苦しめるような効果はないが、それを股間に塗ると凄まじい疼きが走り、一郎に犯してもらいたくてたまらなくなる。それを股間に喰い込ませてから、シャングリアの両腕は背中で水平に組ませて、腰の括れの後ろでしっかりと拘束した。
淫魔師の能力で媚薬程度は自由自在に身体から出すことができるのだ。
もちろん、縄にはいくつかの結び目を作っており、それがシャングリアの敏感な場所を刺激を与えるように施した。
早くもシャングリアは腰を悶えさせている。
「だ、だけど……これ……ちょっと……つらい……。ま、股が熱くて……」
シャングリアは媚薬の影響で、顔を火照らせ、すでにとろりと溶けたような表情をしている。その顔はぞくぞくするほどに色っぽい。
「……そうだな。確かに、それをしてほったらかしじゃあ可哀想だ。だが、罰は罰だしな。そうだ。その状態で腰を振って疼く場所を縄瘤で擦りつけろ。もしも、それで達することができたら、犯してやる」
一郎は言った。
「ほ、本当だな──。絶対だぞ──」
シャングリアが俄かに腰をあげて、跪く体勢になった。
次の瞬間、狂ったように腰を振り始めた。
一郎はほくそ笑んだ。
一生懸命に腰を動かしてはいるが、いくらなんでも簡単には縄瘤だけの刺激では、追い詰められるだけで昇天するほどには快感を集めることはできないはずだ。
だが、気の強い女騎士殿が、こうやって一郎だけに痴態を見せてくれるのは、本当に愛おしくなる。しかし、愛おしいともっと苛めたくなるのが一郎の性分だ。
一郎はひそかにシャングリアの身体に悪戯をした。
身体の感度を三倍くらいにあげるとともに、昇天しそうになると快感が止まるように身体に操りを与えたのだ。
これでシャングリアは、いきそうなのにいけないというもどかしさでもがき狂うことだろう。
シャングリアへの処置の終わった一郎は、視線と意識をエリカとコゼに戻した。
「あっ、くうっああっ」
「はあ、ああっ」
ふたりの喰い縛るような声が続いている。
さすがに大きな声を出さないようには気をつけているようだが、それでも漏れ出る声はいやらしく響いている。
「だ、だめ……」
音をあげるような声を最初に出したのはコゼだった。
快感値はすでに十数にまで下がっている。
それに比べてエリカは、まだ二十台だ。
逆転している。
一郎はさらにふたりの手管に注目した。
コゼの股間にある性感帯を示す赤いもやをしっかりと責めているエリカに対して、コゼの愛撫はいま少し的確性を欠く感じだ。それがふたりの明暗を分けているようだ。
これはエリカが勝ちそうだ。
一郎は意外なエリカの才能を垣間見た気がした。
「んふううっ」
しばらくするとコゼが身体を弓なりにして、がくがくと身体を震わせた。
達したのだ。
「よし、終わりだ。エリカの勝ちだ。こっちに来い、エリカ」
一郎は声をあげて、椅子からおりて、ズボンと下着を脱いだ。
その足元にエリカがやってきた。
一郎はその場にエリカを仰向けにすると、いきなり怒張をエリカの膣に捻じ込んだ。
「はううっ」
エリカが大きな声をあげた。
一郎は苦笑してしまった。
ここは幽霊屋敷と称されている一郎たちの家ではなく、一応はギルド職員がいつ来るかわからないギルド本部の地下だ。さすがに一郎もエリカの口を塞ぎたくなる。
しかし、もうエリカはそんなことを考えてはいられないだろう。
挿入しただけで、すでにエリカは快感を身体いっぱいに示して、身体を痙攣するように震わせ始めた。
精耐久度数が一気に一桁になる。
いくらなんでも感じすぎだろう……。
思わず心の中で揶揄してしまう。
仰向けにしているエリカの両腿を両手で抱えるようにして、律動を開始した。
「あっ、ああっ」
エリカは怒張を突きおろされるたびに、吠えるような声をあげて、しかも淫らに腰を使い始めた。
ずぶずぶと粘膜の糸を引くような音が続く。
エリカが最初の快感の暴発を起こしたのは、それほどの数を律動させていないときだった。エリカは感極まった声とともに、全身を激しく突っ張らせた。
一郎は構わずに、腰を動かし続ける。
「ひいっ、ひっ、ロ、ロウ様……ああ、ロウ様──」
エリカが両手で一郎の背中にしがみついてきた。
「馬鹿、声を落とせ──。いくらなんでもでかい──」
今度はさすがに一郎も言った。
それくらいエリカの声が大きかったのだ。
「だ、だって……、ピ、ピアスにロウ様のが、え、当たると、き、気持ちよくて……。ああ、ああっ、ロ、ロウ様──エリカはい、一生懸命に──み、淫らに……ロウ様に──ああっ、気に入られるように──淫らになります──。ロウ様に──ああっ──気に入られるように──」
エリカが力強く一郎を抱きしめながら、感情を迸らせるように叫んだ。
「いまのままでいい……。淫らなエリカはもっと好きかもしれないがな……。いまのままで、俺は十分にエリカを気に入っている……」
一郎は腰を動かしながら、ささやくようにエリカに言った。
「んんんんっ──う、嬉しい──」
エリカがぶるぶると震えた。
二度目の昇天だ。
よくわからないが、一箇月ほど前の洗脳騒ぎの後から、エリカは一郎に対して怖ろしく積極的になった気もする。なにか思うところがあるのかもしれないし、心を操られたとはいえ、一郎を憎むような気持ちに縛られたことが余程にショックだったのかもしれない。
いずれにしても、あれからエリカは一郎との性行為に対して、本当に貪欲そうに思える。
考えてみれば、こんな場所で狂ったような性交に耽るなど、以前のエリカなら真っ先に反対しそうに思える。しかし、今日のエリカは一郎の申し渡しに反対しなかった。むしろ、積極的に参加して、こうやって一郎の愛をもらう立場を手に入れた。
「いく、いく、またいきます、ロウ様──」
エリカが再び感極まった声を出し始めた。
「おう、いけ。俺もそれに合わせて達してやる」
一郎はエリカに息つく余裕も与えないような勢いで腰を突き続けた。
さらに口を伸ばして、エリカの唇に舌を差し入れる。
エリカがむさぼるように一郎の舌に自分の舌を絡ませてきた。
「んはああっ」
ついに、三度目の絶頂にエリカが達した。
一郎もそのエリカにたっぷりと精を注ぎ込んだ。
ありったけの精を注ぎ込んだ一郎は、やっと心の冷静さが戻った気がした。
立て続けの三連続の絶頂にすっかりとエリカは脱力している。
とりあえず、一郎は呆けた様子で身じろぎしないエリカから一物を抜いた。
すると、さっとコゼがそこに這い寄ってきた。
「お、お掃除しますね……」
コゼが媚を売るような視線を送りながら、エリカの身体から出たばかりの一郎の性器を舐め出す。
そのコゼの股間に真っ赤な淫情の印が見える。
きっとコゼも一郎に犯してもらいたいのだろう。
だが勝負に勝った者だけと申し渡しているから、それも言い出せず、それで懸命な奉仕で満足しようとしているに違いない。
コゼもまた可愛い。
一郎は股間に吸いつくように舌を動かし続けるコゼの頭を撫ぜた。
「……んふうっ、だ、だめだ……い、いきそうなのに……いけない……も、もう少し……もう少しなのに……」
そのとき、横から悲痛な声がした。
シャングリアだ。
ずっと股縄を施された腰を動かし続けていたのだが、達しそうで達することのできない苦しさに泣き声のようなものをあげたのだ。
ふと見ると、すでに汗びっしょりで身体全体が火照りきって真っ赤だ。
快感値は、“1”と“2”をいったりきたりしている。
これは苦しいだろう。
「あ、あんた、なにやってんのよ?」
お掃除フェラを終えたコゼが、シャングリアの狂態に気がついて声をあげた。
「な、なにって……。こ、これで達すれば──ご、ご主人様が──お、お情けを……く、くれるのだ──だ、だけど、もう少しなのに──ああっ」
シャングリアが懸命に腰を動かしながら言った。
すでに涙目だ。
「な、なんですって──。な、なんで最下位のあんたがお情けをもらえるのよ──。狡いわよ」
するとコゼが抗議の声をあげた。
「し、知らん……。ロウ……がそう……言った……のだ……」
シャングリアは腰を動かし続ける。
だが、一郎が淫魔の力で身体に細工をしているので達することはできない。一郎は可哀想になり、絶頂を止めている縛りを解いてやった。
「いぐううっ」
その瞬間、三倍の感度にあげられているシャングリアは激しく股縄で達して、後ろに倒れた。
「た、達した──。ロウ、わたしは達したぞ」
シャングリアがなにかを成し遂げたかのような嬉しそうな顔を一郎に向けた。
「そうだな。達したな」
一郎も喜悦を満面に浮かべているシャングリアにそう言うしかなかった。
「ず、狡いです、ご主人様──、ふ、不公平です。最下位のシャングリアにお情けがあるなら、あたしにもください」
すると、コゼが声をあげた。
ふと見ると、頬を大きく膨らませている。
「わかった。わかった。順番に犯すから心配するな。まずは、コゼからな」
一郎は仕方なく言った。
そのとき、布で隠している右腕の紋章に小さな疼きを覚えた。
クグルスだ。
この部屋にやってきてすぐに呼び出し、魔界に一度戻っていたクグルスが一郎に出現の合図を送っているようだ。
「ちょっと、待ってくれ」
一郎はコゼたちにそう声をかけてから、布の下の紋章を指で擦った。
「クグルスだよ──。わおっ──。やっぱり、えっちなことしてる。すっごい淫気──。いただきまーす」
一郎の目の前に出現した魔妖精のクグルスが嬉しそうな声をあげて、ぶるぶると身体を震わせ出した。男女の性行為のときに発する淫らなエネルギーは、淫魔である魔妖精のクグルスの大好物だ。クグルスは部屋にたちこめていた一郎たちの発した淫気にすっかりと堪能しているようだ。
それから、ちなみに、“えっち”という言葉は、この世界の言葉ではない。ただ、一郎が元の世界の言葉だと教えたところ、言葉の響きがいいと、クグルスは最近、その言葉を好んで使っている。
「それよりも、さっき調べてくれと頼んだことはわかったのか、クグルス?」
一郎は声をかけた。
「うん。人間に憑依した魔瘴石の外し方だね? わかったよ」
クグルスが応じた。
クグルスには、人間に憑依した魔瘴石をどうやって外したらいいのか、仲間の魔妖精の中に知っている者がいないか調べてもらっていたのだ。
「わ、わかったの、クグルス?」
エリカだ。
激しい性交の疲れで床に寝そべったままだったが、下半身丸出しの姿でこっちまで這ってくる。
一郎はエリカに下着とスカート放った。
エリカはそれをのそのそと身に着け始める。
「うん、わかったよ。人間に憑依した魔瘴石を外す方法は簡単に言えばふたつ──。それ以外の方法ではたとえ、憑依をさせた術遣いであっても外すことはできないらしいよ。つまりは、ひとつ目は、憑依されている者が生命を失うことだって──。魔瘴石に憑依されるというのは、身体を瘴気に支配されるということらしいよ。だから、死ねば支配から逃れられる。ほら──。いつかウーズ遣いのオーヌを殺したとき、オーヌが死ぬことで魔瘴石が外に弾け飛んだよねえ。憑依されている者が死ねば、あんな風になるんだって」
クグルスは言った。
一郎は首を横に振った。
憑依されている人間が命を失えば、魔瘴石は壊れてしまうことは知っている。オーヌのときもそうだったし、魔瘴石を身体に入れて力を得た魔獣も、魔獣が死ぬと同時に、体内の魔瘴石が砕ける。そうやって特異点を封印するのだ。
しかし、スクルズやベルズにはその方法は遣えない。
だから、クグルスに調べてもらったのだ。
「……もうひとつは?」
一郎は訊ねた。
「もうひとつの方法は、魔瘴石を上回る力で憑依している相手に別の支配を刻んでしまうことだよ。別の支配をしてしまえば、魔瘴石は憑りついている者を支配することができなくなり、憑依が剥がれるのさ。つまりは、ご主人様だよ──。どうやら、ご主人様向きの方法のようだね」
クグルスが一郎の前を飛びながら愉快そうに笑った。