※この作品はR-18です。

【2025.9.5コミック発売】異世界で淫魔師ハレム【完結】   作:ドン・ドナシアン

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853 独裁官のスピーチ

 エルビンと数名の者が大広間から連れ出されるのを一郎は待った。

 残っている者は完全な日和見なのだろうな。

 一郎を認めない者はもっと多いと思っていたが、五人にも満たなかったのはよかった。

 ルードルフ王は当然として、あのエルビンという宰相を名乗っていた男にも人望が乏しかったのに違いない。

 

 だが、ここが正念場だぞ──と思った。

 畳みかけなければならない。

 考える余裕を与えることなく、一気に押し進むのだ。

 

「独裁官として命じる──。まずは、女王陛下の軍に敵対するべく動いている王軍に対する命令を取り消す。前線への命令は即座に派遣するが、すべての王軍は新女王陛下に対して、直ちに武装解除をすること──。これより、女王陛下に手向かうのは、新たな王国と女王陛下に対する反逆とする──」

 

 一郎は演台から全員に対して言った。

 反対する者はない。

 当然だ。

 百人ほどの参集者の周りとあいだを武装した近衛兵が取り囲んでいる。この状況で反対できるわけがない。

 それに、もしも、反対する者がいれば、どんな理由であろうとも、捕らえて地下牢に放り込むようにラスカリーナには指示している。

 異議などさせるつもりは微塵もない。

 

「次に、過去四か月に捕縛された者、処刑されたもの、財の没収を受けた者──。これらはすべて、独裁官ロウの責任をもって再調査をする。その結果、罪に値しないと判断した者については、名誉を回復し、没収私財の保証を約束しよう──。新しい王宮は偽りは口にしない。約束は必ず守られる──」

 

 ざわめく者、顔を周囲を見合わせる者、それぞれだ。

 まあ、ここまでは、目の前にいる者たちにはあまり関係がない。

 彼らが気にしているのは、自分たちの立場がどうなるかということだろう。

 

「──ただし、王宮の高位高官でありながら、王宮、王都の混乱に責任を果たさず、王都民衆の苦しみを見捨てて、一族のみで王都から逃避した恥知らずの者たちについては、このときをもって、その職務を剥奪する。領土、爵位のある者については、その剥奪まではしないが、王都に残した私有財産、土地、建物などすべて、その罪により没収とする。その私財は、今回の一連の混乱によって不当に扱われた者たちへの救済に当てる。なお、現在の王宮人事については、そのままとする。当面、現在の職務を続行せよ」

 

 ほっと安堵の表情を見せる者がちらほら出てきた。

 ここにいる者の多くは、逃亡した高位高官たちに代わり、その職務を代行し、ルードルフの命令を受け、仕方なく仕事をしていた元々の下級官吏者たちが多い。

 王都から逃げ出した高位貴族たちが戻れば、職務をとりあげられて、再び下級官吏に落とされるか、下手をすれば、戻ってきた者たちから言いがかりをつけられて、貶められるのではないかと不安も抱いているはずだ。

 こいつらが使えるのか、使えないのかわからないが、少なくとも、逃亡して逃げた連中よりはましなのだろう。

 一郎は、原則として逃げた者は王宮には戻さないことを決めている。

 これについては、イザベラも、アネルザも同意をしている。

 

「さらに、あの園遊会とやらの罠で、前王ルードルフが人質として集めて、王宮内に不当に監禁していた令夫人、令嬢たちについてであるが、全員をこのときをもって解放する。監禁されていたあいだに受けた前王の蛮行への償いは、王家の私有財産をもってさせることを約束する。彼女たちの名誉を回復する最大限の努力をし、可能な限りの治療も受けさせる」

 

 一郎は言った。

 緊張している顔から、ほっとした顔に変わる者が多くなってきた。

 そして、意外にも拍手が鳴り始める。

 訝しんだが、どうやら煽動するように拍手し始めたのは、周りを取り巻いている近衛兵の連中みたいだ。

 それが呼び水となって、慌てたように貴族たちが拍手しだしたのだ。

 一郎は手をあげて静かにさせる。

 

「いずれにしても、悪しきものは正す。それが王家であってもだ。そして、正しきものを残す。この数か月の王都の混乱の中で、それでも、この王国が王国たり得たのは、ここにいる王都で苦難に耐えてくれた諸官たちのおかげであることを、俺は知っている──。もちろん、イザベラ女王陛下もだ──。君たちは誇っていい──。苦しい時期を耐えて、王宮と王都をよく守ってくれた。独裁官として感謝する──。新王宮は、あなた方への感謝を忘れない──。もう一度言う。新女王のイザベラ陛下は、あなた方に感謝している。たったいま終わった蛮行の舞台の王宮や王都で、残って踏ん張ってくれた者たちこそ誇りである──」

 

 とにかく、ここにいる者だ。ここからイザベラの治政の味方を作る。

 なぜ、彼らがあれだけの蛮行を繰り返したルードルフから逃げなかったのかなど知らない。

 真の責任感からとはまったく思わない。

 逃げる場所がなかったり、ルードルフが使ったらしい王家の宝具で偽物の忠誠心を受け付けられたり、まあいろいろだろう。

 しかし、ここにいる者をまずは味方につける。

 今日の主題はそれだ。

 また、ルードルフ王の治政は過去のものであり、イザベラの治政はまったく違う新しいものだと印象づける。

 いずれにしても、あのお姫様には味方が少ない。

 ルードルフ王よりもましだから、イザベラの治政を望むのではなく、心からイザベラという女王を歓迎しなければならないのだ。

 キシダインに日和って、長年にわたってイザベラを虐げた大貴族も、虐げられている少女を顧みず、なにもしなかった者も不要だ。

 この際、ここで捨てる。

 だからこその、イザベラの味方作りだ

 

 今度は近衛兵が先に動くことなく、一斉に歓声と拍手が鳴った。

 「天道様」という言葉も聞こえる。

 また、天道様?

 まあいいけど……。

 一郎は、再び手をあげる。

 広間が静まり、一郎に視線が集中する。

 

「古き時代は終わった──。新たな女王陛下の治政こそ、新しい時代の始まりである。その時代をあなた方と女王陛下と一緒に作るのだ──。約束しよう──。このときより、ハロンドール王国は新しい栄光ある時代を迎える。その栄光と富をあなた方と共有していく──。約束しよう──。新たな王宮は、あなた方を成功させる──。約束しよう──。女王陛下は、感謝をしているあなた方に、それに相応しい扱いをすることを──。約束しよう──。ハロンドール王国、ナタル森林王国──、そして、幸いを共有する全て者たちにとって、輝ける未来がやってくることを──」

 

 一段高い響きを声に響かせる。声も張りあげた。

 一郎は知っていた。

 人というのものは、群れを作らないときには、理性的で理知的であろうとするが、集団になると、その行動様式は単純化して感情的になる。

 だから、同じことをなるべく繰り返し、印象的にする。

 また、主題は単純に……。

 イザベラの時代が成功の時代であると思わせるだけ──。内容も不要だ。

 ただ繰り返す──。

 

「時代が変わる──。それを感じてくれ──。そして、共にやり遂げよう──。約束しよう──。イザベラ女王の治政は、成功と発展の革新の治政である。見守るのではない──。ともにやるのだ──。新しい女王陛下と諸官の時代を一緒に作るのだ──」

 

 声が響きがさらに大きくなるのがわかった。

 あらかじめ演説が佳境になったら、風魔道で声を大きくしてくれとガドニエルに頼んでいた。

 そのとおりやってくれたみたいだ。

 ちらりと視線を送る。

 ガドニエルが嬉しそうな笑顔になる。

 

 そして、大歓声になった。巨大な拍手がそれに重なる。

 みんながいい顔をしている。

 よくわからないが、これからはいい時代になるかもしれない──。せめて、そんな気持ちになっただろうか。

 内容などあとで忘れてくれても、そんな感情だけ残ってくれればそれでいい。

 

「……最後に、新しい時代の象徴として、これまでの暦とともに、新しい暦を導入するものとする。新たな暦は旧時代の暦と併用して使用し、一年の始まりと終わりは同じとするが、一か月を三十日と定め、それを超えれば次の月に進む固定式となる。一年は十か月──。空の月々とは関係なく、規則的に月替わりをする。詳細は別に発表するが、これは新しい時代の象徴だ──。これからこの国はどんどんと富み、変わり、発展する──。それを期待するのではない──。ともに進むのだ──」

 

 一郎は手をあげた。

 背面にしていた大きなカーテンが一気に開かれる。これも魔道だ。

 巨大な窓から、丁度夕陽が差し込み赤い光りが一郎を背中から照らすのがわかった。

 あらかじめ夕陽を計算して、時間と演説台の場所を設定してもらったのだ。

 単純な演出だが、単純だからこそ効果がある。

 百人ほどの貴族たちと近衛兵たちが再び大歓声となった。

 一郎は万雷の拍手に包まれて、演説台を降りていった。

 

「なんか、凄かったです……」

 

「よくわからないけど、感動的でした」

 

 コゼとエリカが護衛として左右を固めてきながら、ささやいてきた。

 

「ありがとうよ。だけど、柄にもないことをして疲れた」

 

 一郎は演説台の後ろの控え室側の扉に向かいながら軽く肩を竦めてみせた。

 

「お疲れ様でしたわ、ご主人様」

 

「ガドも、魔道の補助をありがとう。本当はエルフ族の女王様に、裏方のようなことをさせて申し訳ないがね」

 

 後ろから声をかけてきてくれたガドニエルにも、一郎は笑いかけた。

 

「問題ありませんわ」

 

 ガドニエルが嬉しそうに言った。

 一郎たちは、まだ拍手と喚声が続いている大広間から控え室に入る。

 そこには、テーブルを囲むようにソファがあり、その一角にアネルザが座っていた。

 そばにはイットが立っている。

 一応は護衛として残ってもらっていたのだ。

 

 ほかにいるのは、シルキーが守っている通称“幽霊屋敷”から移動術で送りこんでもらった六人の侍女たちだ。

 すなわち、オタビア、ダリア、クアッタ、ユニク、セクト、デセルである。しかし、彼女たちはそれぞれ床に座り込んで、壁にもたれていた。

 一郎はその姿に苦笑した。

 とりあえず、アネルザと向かい合うように横長のソファを占領する。

 当然のように、その両側にコゼとガドニエルがぴったりとくっついて座ってきた。

 

「こらっ、お前ら、いい加減にしないかい──。ロウが戻ったよ──。茶の一杯くらい入れたらどうなんだい──」

 

 すると、アネルザがだらしなくしゃがみ込んだままの侍女たちを怒鳴りあげた。

 

「あっ、はい……。も、申しわけありません」

 

「で、でも、ちょっと腰が抜けてて……」

 

 侍女たちが気怠そうに言った。

 一郎は笑った。

 

「まあ、もう少し休ませてやってくれよ、アネルザ。久しぶりだったからなあ。俺もちょっと張り切って、亜空間でひとり一ノスずつ可愛がったんだが、それが悪かったのかもしれない。ちょっと体力を絞りすぎたらしい。亜空間から出しても、回復しきれなかったみたいでね」

 

 そして、言った。

 イザベラと南域に同行せずにこっちに残っていた侍女たちとは、数か月ぶりになる。

 彼女たちには、移動術で後宮の地下に送り込んでもらい、あのルードルフの支度を手伝ってもらったのだが、ラスカリーナを抱いた後でそこに合流をしたとき、一郎はひとりずつ亜空間に連れていって、しっかりと一対一で抱いたのだ。

 亜空間の中ではほとんど時間が経たないようにできるので、それでできたことなのだが、以前は現実側に戻れば、体力も戻らせることができたのに、なぜか完全には疲労が戻らず、こんな風になってしまったのだ。

 このところ、こういうことがよくある。

 一郎の精力がさらに強くなりすぎたのだろうか?

 ちょっと苦笑した。

 

「お茶はわたしが入れます」

 

 エリカが茶器のある隅に向かおうとする。

 しかし、コゼが口を開いた。

 

「やめてよ。あんたの大雑把なお茶の入れ方じゃあ、美味しいものも台無しよ。イット、やって──。まだ、あんたの方がましだから」

 

「な、なんですってええ──。だったら、あんたがしなさいよ、コゼ──」

 

 エリカが真っ赤な顔をして怒鳴る。

 一郎はやめさせた。

 

「い、いえ、もう大丈夫です……。ええっと、イットちゃんよね。いいわ。わたしがします」

 

 侍女のひとりが立ちあがる。

 デセルだ。

 このイザベラの侍女たちは、一郎が性奴隷の刻みをすることで、様々な特殊能力が覚醒したが、デセルが目覚めたのは料理の才能だった。

 だから、彼女が作れば、どんな材料でも天下一品の料理になる。

 お茶も同様だ。

 

「愉しみだ。デセルの作ったものが、また味わえるんだな」

 

 一郎は言った。

 すると、デセルが頬を綻ばせた。

 

「わたしも嬉しいです。そして、さっきは愛して頂いてありがとうございます。屋敷ではみなさんもお待ちです。早く戻ってあげて欲しいです」

 

 デセルが頭をさげる。

 そして、茶器棚に向かう。

 それを機に、ほかの侍女もやっと立ちあがった。

 

「遠慮することない。そのままでもいいし、ソファにも座れ。どうせ身内だ。お互いに股ぐらどころか、尻の穴まで舐め合う仲なんだ。礼儀なんて捨てておけ」

 

「下品です、ロウ様──」

 

 すると、エリカがぴしゃりと叱ってきた。

 ロウはくすりと笑ってしまった。

 

「ここで聞いていたけど、素晴らしい演説だったよ。ロウにそんな才能まであるとは驚いたけどねえ」

 

 アネルザが言った。

 

「お前たちを調教するのと一緒だよ。相手をよく観察して、与えて欲しそうな言葉と物言いをぶつける。それだけさ。調教もちゃんとして欲しそうなのを選んでやっているからな」

 

「同じって……。わ、わたしたちが鞭を入れらたり、恥ずかしいことや、意地悪なことをされるのは、わたしたちがそうして欲しいからするって言うのかい」

 

 アネルザが真っ赤な顔になった。

 

「違うのか? マゾの王妃様?」

 

 一郎は亜空間からさっと乗馬鞭を出し、手を伸ばして鞭先でアネルザの顎をしゃくった。

 

「わっ──。な、なんだい、いきなり……」

 

 目に見えて動揺して顔を引っ込めたアネルザの姿に一郎は笑い、鞭を収容する。

 あのルードルフ王の言い草じゃないが、この虎のように気性の荒い王妃が一郎の鞭一本に、ここまで怯え、大人しくなるのが面白い。

 

「ま、まあいいさ……。それよりも、不思議なことを言っていたねえ。新しい暦だって? 一か月を三十日に固定するって?」

 

 アネルザだ。

 

「ああ、まあ、別にいまの暦を否定するわけじゃない。極論すれば、俺たちだけで使ってもいいんだ。せっかく得た権力だ。多少は我が儘を言ってもいいだろう?」

 

 一郎はうそぶいた。

 この世界の暦がわかりにくいというのは、ずっと以前から思っていたことだ。

 そろそろ、この世界に召喚されて三年くらいになるが、いまだに今日が何月何日なのかわからない。

 しかし、それは一郎だけじゃなく、一般民衆も同じ感覚のようなのだ。

 

 なにしろ、この世界の暦は、一年が三百日というのは固定しているのに、一か月の日数を夜の空に浮かぶ月の数と出現の仕方で決定して、固定していないのだ。

 つまり、空に五個の月が全部出るか、あるいは、まったく出ないときに月替わりをするという感じだ。

 だから、一か月が五十日のときもあれば、百日も続くときもある。逆に珍しいが、数日で終わるときもある。

 極めて難解だ。

 しかも、これは神殿で天文を予想して定めているようだが、同じクロノス信仰でも、タリオ公国にあるローム神殿を頂点とするハロンドールを含む地域に拡がる神殿と、ガドニエルの支配するナタル森林に拡がる教会とは組織が違うので、これもまた暦が別々なのだ。

 それは、ナタル森林を旅して初めて知ったが、不便このうえない。

 ガドニエルの女王国とイザベラのハロンドール王国の同盟の邪魔でもある。

 この際、共有の暦を強引に作らせてもらおうと思った。

 まあ、別に理由もあるのだが……。

 

「もちろん、我が儘はいいさ。だけど、どうして、急に?」

 

 アネルザが訊ねてきた。

 

「急に思ったわけじゃない。享ちゃん……ケイラ=ハイエルには話したことはある。賛成してくれたぞ」

 

「大叔母様にですか? ああ、もちろん、ナタル森林でも採用します──。そりゃあ、もう──。古い暦を使ったら、女王の権限でどんどん捕縛させます──。もう絶対です」

 

 ガドニエルが息巻いた。

 

「そんなの、やめなさいよ、ガド。せめて、みんなの意見を聞いてね」

 

 エリカだ。

 

「強制する必要はないよ、ガド。そんなんじゃないんだ」

 

 一郎も言った。

 

「まあ、なんとなくだけど、あのケイラは、ロウの言うことならなんでも賛同しそうな雰囲気だったけどねえ……。だけど、覚悟はいいのかい? これは神殿界とひと悶着あるかもしれないよ。暦の設定は、あの連中の専管なんだ。これまで、どの王家でも手を出さなかった。神殿を敵にしたくないからねえ」

 

「そんな大袈裟なもんじゃないだろう、アネルザ。神殿の暦を変えるわけじゃないぞ。併用するだけだ」

 

「大袈裟じゃないんだけどねえ……。まあいいか。だけど、どうして、新しい暦なんて?」

 

「そりゃあ、毎年誕生日を祝いたいからだ」

 

 一郎は言った。

 

「誕生日?」

 

 アネルザが怪訝そうな表情になる。

 実は、この世界で暦が複雑なせいで、ここの世界には毎年誕生日を祝う風習がない。

 年齢は数えるが、日付の数え方が不定なので、同じ日が毎年来たり、来なかったりで、そもそも、生まれた日と同じ日付が特別な日という感覚がないのである。

 

「以前、コゼやエリカに、誕生日をしてもらってな。マーズに女体盛りしてもらったりして愉しかった。毎年やりたいと思ってな」

 

 一郎は笑った。

 

「にょ、女体盛り──? そんな理由で神殿と喧嘩をしようなんてのは、お前くらいだよ」

 

 アネルザが呆れた顔になった。

 

「だから、喧嘩などするつもりはないって……」

 

 一郎はさらに声をあげて笑う。

 すると、アネルザが嘆息した。

 

「まあいいさ……。とにかく、わたしにできるのは、もう全力で裏から支えることだけだ。よろしく頼む。この国と……。そして、イザベラと、アンと、エルザを……」

 

 深々とソファに腰掛けたまま頭をさげる。

 一郎はその頭をあげさせる。

 

「頭をさげる必要も、頼む必要もない。アネルザも、イザベラたちも、俺の女だ──。俺ができることは全部する。それは当然だし、俺がそうしたいから、そうするだけだ。頼まれるようなことじゃない」

 

「そう言ってもらえるとありがたいよ。だけど、やっぱり頼む……。わたしにはもう表舞台には立てない。頼むだけだ」

 

 アネルザが再び頭をさげた。

 そのときだった。

 大広間との扉が開き、ラスカリーナが入ってきた。

 

「ご主人様、お疲れ様でした。全員が退出しました……。あっ、王妃殿下。女王陛下も……」

 

 ラスカリーナがアネルザとガドニエルを認めて、すぐに敬礼の姿勢になる。

 

「やめないか、ラスカリーナ。さっきも言っただろう。この男の前では対等だよ。同じ性奴隷さ」

 

 アネルザが笑った。

 

「は、はいっ、ありがとうございます」

 

 ラスカリーナが直立不動で返事をする。

 根っからの軍人なんだろうが、面白いな。

 それにしても、さっき最初に会ったときとはすっかりと別人だ。一郎の淫魔術による改変により、酒太りでたるんでいた身体はふた回りは細くなって、顔立ちも美しく変化している。

 なによりも、一郎が今後はスカートしかはくなと命令したら、どこからか探してきたらしく、さっそく身につけてきた。

 無垢な熟女か……。

 可愛いものだ。

 

「ちゃんとスカートだな。だが、ちょっと長いか? もっと短くてもいい」

 

 一郎は立ちあがると、腕を体側につけて真っ直ぐに立っているラスカリーナのスカートをひょいと(まく)って、股間ぎりぎりまであげてやった。

 

「ひっ、お、お戯れを……」

 

 ラスカリーナが真っ赤になる。

 それでも姿勢を崩さない。

 面白いな。

 

「そういえば、今日は貞操帯を装着しない代わりに、下着はつけるなと命令したんだったな? 言いつけを守っているか、ラスカリーナ?」

 

 さらに捲る。

 もう陰毛がちょっと見えるくらいだ。

 

「ま、守ってます。はいてません──。ス、スカートも短くします──。そ、それと貞操帯調教も愉しみにしております」

 

 ラスカリーナが軍人口調で言った。

 一郎は大笑いした。

 

「そういえば、もうひとりの新人はどうしたの? ナールだっけ。あの鉄仮面女」

 

 コゼだ。

 

「ナールはまだ隊の把握を……。わたしも、報告だけして、すぐに戻ろうと……」

 

 ラスカリーナが一郎にスカートをめくられたまま言った。

 

「そうか。じゃあ、意地悪して悪かったな」

 

 一郎はスカートを離してやる。

 ラスカリーナがほっとした表情になった。

 しかし、戻す直前に、ラスカリーナの股間からつっと愛液が内腿に滴っていたのを一郎はしっかりと見つけていた。

 だけど、一気に王軍は掌握してもらわないとならない。

 それをラスカリーナに頼んでいて、さすがにもう邪魔はよくないだろう。

 

「い、いえ……、ありがとうございます、ご主人様」

 

 なんに対するお礼だかわからない。

 まあいいか……。

 ラスカリーナがもう一度、敬礼をして出ていく。

 一郎は彼女を目で見送り、再び、コゼとガドニエルのあいだに座り直す。

 

「ロウ、そろそろ、屋敷に行っておくれ。わたしは、今晩は王宮に缶詰だ。明日の朝までに、片っ端に、お前が言ったことを独裁官令にして公布しておくよ。こらっ、お前たちも手伝うんだよ──。ちゃんと、ロウに抱いてもらったんだから、今日は徹夜だ──」

 

 アネルザが侍女たちに怒鳴った。

 

「はい」

 

「わかりました」

 

「承知してます」

 

 侍女たちが口々に返事をする。

 

「そうだなあ……。だけど、まだ、奴隷宮の彼女たちのこともあるしなあ……」

 

 一郎は迷った。

 サキのやらかしたことだ。

 あれについても責任をもって処置する必要があると思う。

 

「いや、今日は随分と長い一日だった。たった一日で、お前はこの国から事実上の王権を簒奪したんだ。奴隷宮からの解放については、元王妃であるわたしの仕事だ。責任を持ってやっておくよ。明日、報告する。でも、お前については、屋敷に戻っておくれ。アンも待っているだろうし、おマアやほかの女たちもだ。サキとのこともあるだろう? ミランダやベルズもだ」

 

 アネルザが言った。

 

「そうだなあ……」

 

 一郎は息を吐いた。

 確かに疲れたかもしれない。

 女を抱く分には、いくら亜空間で数日間にも思える時間を抱き続けてもまったく疲労感はないのに、ルードルフを堕とすのも、貴族たちを集めた大会議を主催したのも疲れた。

 

「じゃあ、帰るか……。だけど、とりあえず、アネルザたちの護衛は残すか……」

 

 一郎は女たちを見回す。

 すると、両側からコゼとガドニエルががっしりと一郎の腕にしがみついた。ひと晩だけのことなのだが、二人とも、一郎から離れるつもりはないみたいだ。

 エリカが呆れたように息を吐くのが聞こえた。

 

「……護衛はわたしが残ります。悪いけど、イットもね」

 

 そのエリカだ。

 

「はい、わかりました」

 

 イットも頷く。

 

「じゃあ、そうさせてもらうよ、アネルザ、そして、みんな……。デセルのお茶を愉しんだら、いったん、家に帰るとするか──」

 

 一郎は言った。

 

「お待たせしました」

 

 ちょうど、そのときデセルをはじめ侍女たちが一郎たちにお茶を運んでくる。彼女たち自身のものもあるみたいだ。

 

「じゃあ、乾杯だな──。全員、詰め込んで座ろう」

 

 一郎はお茶を目線にあげ、お道化(どけ)た感じ口調でそう言ってから、温かいものを口に入れた。

 

 

 

 

(第4話『王宮の一番長い一日』終わり、第5話『クロノスの帰宅』に続く)






 *

【ロウ=サタルス】

「ロウの帝政の開始についての議論」

 第一帝国の帝政の開始の時期は、一般には、ロウの皇帝就任と女王たちが治めていた各国を帝国に併合することを発表した新暦4年とするのが通説であるが、歴史学者のあいだでは、「新暦四年の勅令」は、すでに成立していたロウの事実上の皇帝としての立場を表明したにすぎず、実際の帝政はそれ以前に始まっていたのだという意見も少なくない。
 確かに、新暦4年のロウの皇帝就任については、エルニア国(恵月国)の皇主のスイギョクからの皇位継承を受けてのものであるものの、その当時、ロウはすでにハロンドール王国の事実上の王位にあり、また、ナタル大森林王国の女王ガドニエル、デセオ公国の大公イザヤもロウへの忠誠を誓っている状況であったのは間違いない(カロリック地区は、すでにハロンドールの占領下にあった。)。

 つまりは、それ以前に分散していた各国の主権は、新暦4年の時点ではすでにロウに集中していたのだという議論である。
 そして、帝歴4年をもって帝国の始まりとする通説に代わるものとして、彼らが主張しているのがハロンドール王都の混沌時期に独裁官として就任したロウが開始させた新たな暦の開始をもって、事実上の帝国開始とすべきであるという意見である。
 ……これに対し……(略)。


 いずれにしても、それ以前は神殿が独占していた暦法に代わって、簡易な新暦が導入されたことは、暦法が異なっていたナタル大森林王国とハロンドール王国の流通を活発にし、様々な分野における人の相互交流を促して、これにより、両国の事実上の合併が進んだのは間違いない。
 もっとも、このロウの新暦導入は、古い体制との軋轢も生むことにもなり、特に神殿界は激しく反撥して、ついには翌年の「新暦2年の変」における教皇の実施したロウへの破門宣告に繋がっていくことになるのである。

 ボルティモア著『万世大辞典』より(ここに再録した引用文はすべてスクルズ記念国際図書館から許可を受けて初版本から抜粋して採録したものである。)
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